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「文春の訂正」でも、「フジ社長の辞任」でもACジャパンのまま…離れたスポンサーがフジテレビを許す絶対条件

プレジデントオンライン / 2025年1月30日 7時15分

フジテレビ本社屋(2025年1月27日)=東京・台場 - 撮影=石塚雅人

中居正広氏の女性トラブルをめぐり、フジテレビは2度目の会見を開いた。スポンサーは戻らず、CMの差し替え・差し止めが続いている。元MBS毎日放送のプロデューサーで、同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授は「フジテレビが“再生したこと”を示さなければ、スポンサーは戻ってこない。現場の社員が結束して日枝氏を引きずり下ろすぐらいのことをしないと生き残る道はないだろう」という――。
 

■最後かつ最大のチャンスを逃した

フジテレビは27日、元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルをめぐり、2度目の記者会見を開いた。閉鎖的な会見と猛批判を浴びた最初の会見から10日、今回は参加者を限定せず、映像撮影も可能なフルオープン形式で行われた。しかし大失敗を経てのやり直し会見ということであれば、非常に中途半端な内容だったと言わざるを得ない。

いくら質問数を無制限にしようが、多くの参加者を受け入れようが、会見の勝負は最初の30分。記者からの質問はなく、経営陣のみが話せるこの30分間をどう使うかが、フジテレビの今後を左右する“最後にして最大のチャンス”だと考えていた。

ところが、フジテレビはこのチャンスを逃してしまう。むしろ30分という短い時間で、フジテレビが抱える根本的な問題を露呈する形になってしまったのだ。そのきっかけとなった発言や行動は3つある。

まず、取締役相談役の日枝久氏の不在が挙げられる。日枝氏は、フジ・メディア・ホールディングスの金光修社長が「企業風土の礎をつくっているということに関しては間違いない」と発言するほど大きな影響力を持つ人物。その日枝氏を会見に出席するよう説得できず、中途半端な物言いに終始したため、視聴者に「何かを隠しているのではないか」という印象を与えてしまった。

その時点でマイナスからのスタートである。23日~24日の2度にわたりフジテレビ労働組合が意見書で日枝氏の出席を求めていたが、結果的にその要求をスルーする形となり、経営陣と現場の乖離が明るみになった。

■「視聴者」へのメッセージが不足していた

次が、被害者となった女性に関しての発言だ。当初はホームページに社員Aの関与を否定するコメントを出していたが、会見で「女性が当該社員に対して嫌悪感を示したことがあった」と明言した。大事な30分の中でこう言い切るのは相当なこと。面談の際には言っていないが、それ以外では何かがあったと匂わせている時点で、フジテレビのガバナンスがしっかり機能していないとわかる。

そして3つ目が、視聴者へのメッセージ不足だ。テレビ界において、これだけ大きな騒ぎになったのは極めて稀なこと。テレビっ子だった私でも、62年の人生で初めて体験する騒動だ。確かに冒頭でフジテレビの会長・嘉納修治氏(当時)と社長・港浩一氏(当時)は「視聴者の皆様」という単語を使い「申し訳ございませんでした」と頭を下げた。しかし一番の顧客である視聴者に対して、もっとお詫びやメッセージを発信する必要があった。

私は会見前に各メディアで「第三者委員会を隠れ蓑にしてはいけない」と発言してきた。懸念していた通り、第三者委員会の説明に長い時間を費やしてしまったことが非常にもったいない。

■バブルで人も組織も止まっている

こうした中途半端な会見を生み出す原因となった、フジテレビが抱える一番の“膿”。それが、時代錯誤に伴う傲慢さだ。フジテレビはバブル時代で人も組織も止まってしまっているのだ。

フジテレビはバブル全盛期の80年代に「楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに掲げた。当時はテレビ界で2番手3番手、あるいはもう少し下という立ち位置だったからこそ、あのようなスローガンを打ち出せたのだと思う。自分たちが楽しかったらいい、面白かったらいい。そうして生み出したバラエティ番組やテレビドラマが視聴者の求めるものと一致して、黄金時代を築いた。飛ぶ鳥を落とす勢いで、フジテレビが多くの流行をつくり出していたといっても過言ではない。

しかしトップランナーになってから、意識が変わってしまった。それまでは視聴者と伴走していたが、自分たちが楽しかったらいいんだと突き進んでいるうちに、視聴者を置き去りにしていた。一緒に楽しんでいる視聴者はすでにいなかったのだ。コンプライアンスうんぬんではなく、今まで笑えていたものが笑えなくなっているという現実に、経営陣は気づいていない。

スポンサーやタレントの方ばかりを向き、視聴者に意識を向けてこなかった。今でも「自分たちがつくるものを楽しんでくれたらいいんだよ」と言わんばかりの、昔のやり方や体質を引きずり続けている。

■最大の失敗は「日枝氏の残留」

その様子は、会見でも垣間見ることができた。例えば、港氏だ。特に印象的だったのが、会見の冒頭でペーパーを持つ港氏の手が震えていたこと。港氏はフジテレビ黄金期に敏腕ディレクター、プロデューサーとして数々のバラエティ番組を手がけ、社長になった人。

フジテレビの体質を体現するかのように勢いのある時は強気で進むけれど、状況が一変して危機に立たされると企業のトップとしてうまく対応ができない。事の大きさを今になって感じていたようで、港氏の焦り具合からは、社長というよりもプロデューサー・港浩一としての横顔が見て取れた。

撮影=石塚雅人
フジテレビジョンの港浩一社長(当時)=東京・台場のフジテレビ - 撮影=石塚雅人

今回のフジテレビ最大の失敗は、日枝氏が残留すること。しかも、先に述べたように会見の場にも現れなかった。会見では「なぜ日枝氏がいないのか?」などと名前がたびたび挙がり、進退についての質問も相次いだ。辞任すると明言しないまでも、日枝氏はなぜ会見に出席して自分の言葉で説明できなかったのか。組織にとって大きなマイナスになると分かっていながら、日枝氏が欠席を選択したのであれば「あなたは自分の保身で逃げたのですね」と思われても仕方がない。

■日枝氏が辞任したところで意味がなくなった

社長交代についても、清水新社長にはいい印象を受けた。しかし日枝氏が雲隠れしたことによって、新人事もかすんでしまった。役員の刷新も中途半端で、日枝氏が裏で糸を引いているのではないかという憶測が生まれる。また会見中に日枝氏の名前が連呼されたことで、テレビ界のことをよく知らない人、ひいては視聴者が日枝氏の名前だけインプットし、「日枝イコール悪」のようなイメージを抱く事態となった。結果的に、余計に問題を長引かせる原因をつくってしまったということだ。

今回のように、会見に出席せず、かつ残留するという選択は愚策としか言いようがない。日枝氏が残留する選択をしたのであれば、会見に出席するのはマスト。そのうえで外部からメディアに精通した経営者を召喚しなければならなかった。

撮影=石塚雅人
フジテレビの会見(2025年1月27日)=東京・台場 - 撮影=石塚雅人

とはいえ今から辞任を発表しても、もう遅い。膿を出すには適したタイミングがある。1月27日が辞任する役員の中に名を連ねる最後のチャンスだった。27日の会見をもって完全に信頼を失い、これから日枝氏が辞任したとしても意味がなくなるほどの混乱を招いてしまったのだ。

■“現場の結束”がフジテレビ再生への道

「週刊文春」が記事の一部を訂正したが、だからと言ってスポンサーが戻ってくることはないと考えている。今回明らかになったフジテレビが抱える諸問題が解決したわけではないからだ。

もはや、現場の社員が結束して日枝氏を引きずり下ろすぐらいのことをしないと、フジテレビが生き残る道はないだろう。スポンサーも、そこまでしないと戻ってこない。

日本人の場合は特に「壊してしまえ!」というよりも、なるべく穏便に元の状態に戻したいと望む傾向にある。多くの企業は今もなお、フジテレビにスポンサーとして再びCM出稿したいと望んでいるのではないだろうか。各社そのタイミングを見計らっている状態だ。しかし、いくら「社長と会長が変わりました」と言っても、日枝氏が残っているとなれば堂々巡りである。

日枝氏が自ら辞任することはないだろう。だからこそ、現場が行動を起こす必要がある。先日の社員説明会で感情を露わにした若手がいたが、そうした人を中心に現場の社員でストライキを起こし、日枝氏を引きずり下ろす様をスポンサーや視聴者に見せてはどうか。それによりフジテレビ再生を示すことができ、信頼の回復やスポンサーの復帰につながるはずだ。

■「最悪の事態」は何が起こるかわからない

その前に1つアドバイスをするならば、現場の人たちにも視聴者を一番に考えてほしい。まずは大切な視聴者に対して「いい会社に生まれ変わり、これまでにない素晴らしい番組を提供する」と理解を求めたうえで、ストライキから始めるべきだと考える。

ストライキだけでなく、何らかのアクションを起こす時は「子どもがいじめられている」「会社名を言うのが恥ずかしい」「納得できない」と主張する前に、視聴者への意識を絶対に忘れないでいただきたい。

もし現場による革命が失敗に終わってしまったら、一体どうなるのか。おそらく総務省が出てくる案件になるだろう。テレビ局は放送の免許をもらって運営しているので、仮に免許を返納するにしても一朝一夕には絶対にできない。自分たちで改善できない場合は、国が介入に動き出す可能性があると考えていい。

最悪の事態になれば、身売りも考えられる。他局のものになるのか、他局とチャンネルを共有することになるのか、はたまた放送免許停止になるのか。現時点では何が起こるのか本当にわからない。

何度も言うが、社員が立ち上がるのが最後のチャンス。現場の社員のみなさんは、フジテレビ愛にあふれていると感じる。自分の会社を愛するのは素晴らしいことで、それが革命の大きなパワーになるだろう。

■「膿」を出すには、人の入れ替わりしかない

しかし、これではまだ溜まった膿を出し切れるとはいえない。フジテレビが経営体制を一新し、信頼を回復するにはどうしたらいいのだろうか。それはやはり、人が入れ替わるということに尽きる。

それには2つの選択肢がある。1つ目が、現場の若手の中から強いリーダーシップを持つ人が経営に携わるケースだ。膿を出し切るという意味では、半分は日枝氏を引きずり下ろすことで達成し、半分はそこから組織を再構築することで達成する。ただし膿を出して、そのまま終わりではダメ。日枝氏に代わる人たちが出てきて、そしてまたその下の人たちが育っていかないと意味がない。

それには野球の大谷選手のようなスーパースター、あるいはそれに準ずるリーダーシップを取れる人が必要となる。どんな時代であれ、どのジャンルであれ、偉大なリーダーが新たな道へと組織を導いてきた。ここで伝えたいのは、必ずしも最初から大谷選手である必要はなく、やがて大谷選手になればいいということ。むしろ新しいトップとなる人材は「この人知ってる!」ではなく「この人誰だろう?」という段階からスタートしてもいいと考えている。

2つ目が、経営陣を総入れ替えするケース。メディアではないところから経営陣を召喚し、社内に外の血を取り入れるのだ。

理想は、メディアに精通している人。メディアの人たちと普段から仕事をともにしている、例えば一般企業のベテラン宣伝広報担当者あたりが適任だと考える。メディアのことを何も知らない人が来た場合、現場の人たちから反発が生まれる可能性があるからだ。

膿を出し切らなければ、フジテレビ再生への道はない。現場で働く社員が、最後の希望だ。

撮影=石塚雅人
フジテレビ本社屋(2025年1月27日)=東京・台場 - 撮影=石塚雅人

一方で、週刊文春が訂正したからといって、中居氏のトラブルにフジテレビ社員が関わっていたかどうかは、いまだ確実な情報がない。今は報道する側も受け手側も過熱気味になっており、憶測で情報を発信することはより混乱を増幅させてしまうだろう。まずは、3月末に報告される第三者委員会の調査結果を沈着冷静に待つことが強く求められる。

■「メディアの常識は世間の非常識」

フジテレビ再生、さらにはテレビ界全体の改善につながるであろう提案をしたい。メディア以外の場所に研修に行く制度をつくってはどうだろう。一般社会の人たちが持つ常識を肌感覚でつかむためだ。

私自身がMBS毎日放送から女子大に職場を変えた人間である。メディアの世界を半歩出たことによって、俯瞰できるものがたくさんあった。メディアの常識が一般の非常識。メディアにいた時の価値観や常識が覆され、頭をガツンと殴られたようなショックを受けたことがある。

そこで、社内の会議室で研修するのではなく、メディアとは関係のない一般企業で1年ほど学ぶ長期の研修制度を設けるといいのではないかと考えた。今クールの日曜劇場でも、官僚が派遣制度で私立高校に出向するドラマが放送されている。研修からメディアに戻ってきたら、発信するものが変わってくるだろう。ニュースだけでなくドラマやバラエティにおいても、世間が「何か違う」と感じている部分がわかるようになるのではないだろうか。

写真=時事通信フォト
フジサンケイグループの代表で、フジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役でもある日枝久氏 - 写真=時事通信フォト

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影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト
早稲田大学政治経済学部卒、関西学院大学大学院文学研究科博士課程中退毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。専門は「メディアエンターテインメント論」。朝日放送(ABC)ラジオ番組審議会委員長 /スポーツチャンネルGAORA番組審議会副委員長 日本笑い学会理事/「影山貴彦のテレビ燦々」(毎日新聞)等コラム連載。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」「テレビのゆくえ」「おっさん力」など。

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(同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト 影山 貴彦 構成=山本 ヨウコ)

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