なぜフジは女性アナの接待禁止を即決できないのか…会見「女性を差し出す」発言で露呈した世界ドン引きの悪習
プレジデントオンライン / 2025年1月30日 19時15分
■フジテレビに問われたのは「女性の人権を守る姿勢」
『女性セブン』と『週刊文春』の報道に端を発した中居正広・フジテレビ問題。最初の記者会見でフジテレビは、動画撮影と配信を許さず、質問者を少数の記者クラブ加盟社に限定するという報道機関にあるまじきことをして批判を浴び、大手企業のスポンサー撤退が相次ぐ事態が起きた。それでは、フリー記者も入れてオープンに行った二度目の記者会見により、危機は打開できたのだろうか。
結論から言うと、会見前から指摘されていたコーポレートガバナンスの問題が、かなりお寒い状況にあることが印象づけられる結果となった。この問題は英語メディアをはじめ、世界中で報道済みだ。フジテレビがしっかり人権に配慮する企業だという確証が得られない限り、逃げたスポンサーは戻ってこないだろう。
そのための重要なポイントの1つは、フジテレビに女性の人権を守る姿勢があると確認できるかどうかだ。中居氏が被害女性に「手を上げる等の暴力」ではない(中居氏の声明)、どんな加害行為をしたのか。両者の間で示談が成立し、守秘義務が結ばれていることもあり、詳細は不明だ。ただ、フジテレビが被害を受けた後の女性にどのように接してきたのか、元々こうした問題が起きないよう、どんな配慮をしていたかということについては、会見で説明可能なはずだった。
■港社長の「女性に刺激を与えない」という言葉のチョイス
しかし会見の結果、フジテレビの経営陣には女性の人権に配慮する意識が希薄であることがはっきりわかってしまった。27日付で辞任した港浩一社長は「女性の心身の状態を最優先にした」などと語ったが、被害に遭った女性に「刺激を与えないように」という、違和感のある表現を何度も繰り返した。
「刺激を与えない」とは一体何を言いたいのだろう。こうした場合「ショックを与えない」「心理的なダメージを避ける」といった表現を使うのが普通だ。被害者がまるで、取り扱い注意の危険な存在であるかのような、リスペクトに欠ける言い方だ。被害者の心情に寄り添おうという思考回路が欠落しているように見える。
被害女性をこのように、自分たちにとってのリスク要因のように見なすことは、今回の問題が中居氏の「女性トラブル」と呼ばれていることと相通じるものがある。実際は、中居氏が女性に対して加害行為をしたと思われるのに、つまりトラブルを起こした主体は中居氏の方なのに、まるで女性がトラブルの元であるかのようにも取れる表現だ。原因と結果を転倒したこうした言い回しに、XなどのSNSでは多くの批判が集まっている。
■「女性への配慮で中居氏の番組を中止しなかった」という詭弁
港氏は会見中、「刺激を与えない」「刺激にならない」といった表現を多用していた。被害女性に「刺激を与えないように」するため、その機会が数回あったにもかかわらず、中居氏のレギュラー番組を中止せず、単発の番組でも新しく起用を続けた……。女性に「刺激を与えないように」、フジテレビ編成幹部の関与があったかどうかヒアリングをせず、編成幹部と中居氏だけに聞いて、関与はなかったと結論づけた、といった具合だ。
28日のテレビ朝日の「モーニングショー」で亀井正貴弁護士も指摘していたが、これらはむしろ、女性側に接触することで事が大きくならないよう、フジテレビ側が保身を図ったようにしか見えない。番組では、これでフジテレビにはきちんとしたガバナンス体制がないことがよくわかったと指摘されていた。付け加えると、なぜそうした体制が構築されていないかと言うと、人権を守ろうという意識が薄いからだろう。
被害女性のことを考えて中居氏の番組出演を中止しなかったという理由づけも、かなり違和感がある。PTSDの症状として、加害者の姿を見てフラッシュバックが起きることはよく知られている。ジャニーズ問題でも、被害を告発した男性たちが、フラッシュバックがもたらすつらい状況について語っていた。
■女性はテレビに出続ける中居氏を見たくなかったのでは?
中居氏の姿をテレビで見続けることによって、被害女性の回復が遅れ、フジテレビは何も対処しないと絶望感を持ち、生きる意欲を失ってしまうことだってありうるのに、経営陣は全くそうした危惧を抱かなかったということだ。「女性のケアを最優先に」と言うのは口先だけで、実は女性のケアを軽視してきたことを、経営陣は自ら証明してしまった。
これらを通じて浮かび上がってくるのが、女性の心情や意思を軽視しているフジテレビの企業体質なのではないだろうか。そもそも今回の問題が起きた背景に、女性アナウンサーや女性社員を接待の場にわざわざ同席させることを、フジテレビが行っていたことがあると言われている。
これはとても社会的な裾野の広い問題で、テレビ業界に限らずさまざまな業界で、20~30年前ぐらいまではそうしたことがよくあったという話を聞く。しかし現在は、国内でもコンプライアンスのきちんとした企業ではありえないし、国際標準だと明白に女性への差別的な行為だと見られるだろう。
■接待は「人脈を築くため」なら、男性アナも連れて行くべき
しかし、港氏と共に登壇したフジテレビ副会長の遠藤龍之介氏や、現在関西テレビ社長で、フジテレビの専務だった大多亮氏がそれぞれ別の会見で、芸能プロダクションやタレントなど社外の取引先との場に、女性アナウンサーや女性社員を同席させることはあったと認めている。参加することによって女性も人脈が築けるので、互いにとってウィンウィンの関係だといった言い訳も話していた。そうであるなら、なぜ男性アナウンサーにはそうした機会を与えないのか。男性アナウンサーの中でも接待に連れて行かれたと発信している人もいるが、女性アナウンサーばかりを接待に連れて行く合理的な根拠はどこにあるのか。
接待に連れて行くにあたって、女性の意思を十分確認していればいいのではないか、といったことも会見で話していた。しかし上司から言われるとなかなか断われないのが現実だ。言われた本人は、業務の一環と捉えるのが普通だろう。
何より、自分は接待の席には行きたくない、そうした形ではなく、知識とスキルを身に付けて自分の能力を高めることによってキャリアを積んでいきたい、という女性はどうなるのだろう。参加を拒否することで人脈を築く機会が得られず、不利益を受けるとしたら、それはおかしいのではないか。なぜ女性にだけそんな選択をさせるのか。フジテレビは一体何を女性社員に期待しているのか、彼女たちのキャリア育成をどう考えているのか疑問だ。
■「女性を会合に『差し出す』際、年上の女性を同伴させる」
一番の問題は、こうした接待の場に同席させることで、女性たちがさまざまなハラスメントを受けるリスクが生じることを、全く考慮していないことだ。接待される側は元々、優越的地位にある男性であり、彼らよりずっと年齢的にも若い女性との間で、明らかに権力勾配がある。もし何らかのハラスメントを受けても、女性は通報もできず、泣き寝入りするしかない立場に追い込まれる可能性がある。
側にいる男性たちが十分注意すればいい、とも以前に遠藤副会長は話していたが、現実的ではない。隣にいてずっと見張っていることなど不可能だ。つまり、当の女性自身と現場に丸投げで対応を任せるという無責任な態度だ。安全配慮義務違反にもつながるのではないだろうか。
また今回の会見でも、遠藤氏は、「最初から女性を1人で会合に差し出すのは少のうございまして、男性社員もしくは年上の女性社員が同伴していくというケースが多いのではないかと思います」という発言をしている。「差し出す」というまるでモノのような表現もそうだが、カジュアルにではなく、かなり計画的に接待まがいのことをさせているような印象だ。遠藤氏はフジテレビのコンプライアンス担当だということなので、後は推して知るべしということだろう。
■「若い女性が来れば、男性はみな喜ぶ」と思っている男性たち
今回の記者会見が開かれる前、大株主であるダルトン・インベストメンツが2度にわたり、フジテレビへの要請文を送っていた。その中で2回とも「憤り」「激怒」(outrage)という強い表現を使っていたことが注目された。
私はこの「憤り」といった表現を使った中に、そうとは言っていないものの、こうして女性を接待に使うということへの怒りも込められているように感じている。「若い女性の接待は、男性なら共通して喜ぶはずだ」と思っている日本の男性は多いようだ。でもこうした考えは国際標準に外れた恥ずべきものだと、アメリカの男性たちが露骨に顔をしかめて、軽蔑する表情になるところを見たことがある。
英語の文化の中でビジネスをしている世界で取引相手と会食する場合、その基本的な目的は、相手がどんな人物で、ビジネスをする上で信頼できるかどうかを知ることであり、何度か会いながらそれを確認していくことになる。そもそも男女混合チームであることが多いが、例え相手が男性だけのチームであったとしても、そこで突然業務とは全く関係ない若い女性を接待目的で連れてきたら、「自分たちはそんな人間だと思われているのか」と侮辱的に感じるだろう。女性を介在させなければならないのは、1人の人間として自信がなく、弱さの表れだと思われる可能性もある。
■接待に女性アナを連れて行かないテレビ局もある
実際Xでは、東北地方の地方局で既に30年前、スポンサー等との飲み会に女性アナウンサーを連れて行くのは一切禁止だと社内に告示があったという体験談が投稿されていた。また元TBSアナウンサーの小島慶子氏は1995年から2010年まで同社に在籍したが、接待要員として動員する習慣はなかったとSmart FLASHの記事で話している。
女性を伴う接待などしなくても、取引はできるのだ。
会見の際、「今後一切女性アナウンサーや女性社員を接待に同席させることはやめる」と、今この場で言えないか尋ねたが、第三者委員会の調査が終わった後ルールを作ることを検討するという。
なぜ即答できないのだろうか。不思議に思ったのは、フジテレビにとって、なぜ接待とはそんなに大事なことなのかということだ。もちろん人気出演者をブッキングするため、顔つなぎが必要なことはわかる。でもそんなふうに、既に視聴者にとって顔なじみになった大物ばかり中心にして番組を作っていたら、これまでにない発想に基づく斬新で実験的な企画も、新しいスターも生まれず、若手制作陣にとってやりがいのある環境であるとは言えないのではないか。
そんなことでは国際的に競争力のある企画が生み出せるとは思えないし、フジテレビの視聴率などにおける長期低落傾向とも無関係ではないように思える。
■「女性管理職を増やす」と言いながら接待文化を続けるのか
民放連会長でもある遠藤氏は別の会見で、テレビ局に女性の幹部が少ないことに言及して、数を増やすだけでなく、意思決定に携わる女性を増やすことが必要だと話していた。しかし、この当然の方針と、女性に接待役を求める文化が矛盾していることには気がつかない。そこでは、接待される立場にある、つまり組織の上層部にいるのは当然男性だという想定に基づく。女性を男性の接待役とすることは、女性は男性の下にいるという意識の固定化につながることが、全くわかっていないのだ。
これらの全てが、女性の人権や尊厳を軽視する方向にベクトルが向いている。経営陣にこんな認識しかないフジテレビに対して、スポンサー企業や株主は人権デューデリジェンスの一環として、是正を強く求めるべきだ。
ただフジテレビに限らず、NHKをはじめとする日本のテレビ番組自体が、実はこのように女性を接待役にするような意識や慣習を反映している。
多くの番組で、熟年男性の司会者と、若手の女性のアシスタントの組み合わせが常態化している。知名度とキャリアのある男性司会者は固定化したままで、女性アシスタントだけ回転ドアのように、数年おきに交代し、年齢が上がると出演機会が減っていく。アシスタントとして話す内容も、AIキャスターが読み上げればすむようなものが多く、場を仕切ったり質問やコメントをしたりする場面はほとんど与えられない。
■男性がメインキャスターで女子がサブという扱いが多い日本
「こうした女性アナウンサーの扱い自体、視聴者の接待役をさせているようだ」という指摘をXで見かけた。そうであるなら、テレビ局は視聴者像まで、男性がメインだと見なしているということだ。現在は外で働く女性の方が多い時代なのに、こうした女性の扱われ方を女性視聴者がどう思うか、考えたこともないのだろうか。女性視聴者も、まるで接待役の女性のように、男性に同意しながらニコニコとテレビを見ていればいい、と考えているかのようだ。
しかし、海外のテレビではこのような男女ペアはもう、ほとんど見かけない。男女が対等の立場にあったり、キャリアのある女性がメインのキャスターになるのは当たり前で、司会も解説もコメントも、全て女性だけで回していることも普通に見かける。日本のような女性アナウンサーの使い方をしていたら確実に、女性蔑視的だという声が、男性も含めた視聴者から上がるだろう。
■一般企業でも女性は男性を接待するものだと見なされてきた
先に書いたが、この問題は裾野が広い。会食の場やテレビの中だけでなく、日本社会では、同じ組織内の男性にお酒をついだり、お茶くみをするのは女性の役割と目されてきた。さすがにこれらはもうなくなってきたが、男性に花や贈り物を渡す際、当然のように女性にそれをさせることは今もよく行われる。そうやってさまざまな場面で、女性は男性を接待するものだと見なされてきた。
だから今回の問題は、被害者が女性ということもあるけれども、多くの女性にとってはひとごととは言えないものだ。日常生活の中で出会うさまざまな場面……愛嬌を振りまくよう一方的に求められたり、断れない状況に追い込まれて危険な目に遭ったり、被害を受けても放置され、なかったことにされるような過去の経験とつながっているからだ。
■会見では「女性記者を当ててください!」という要求も
そのためフジテレビの会見でも、おそらく多くの女性記者がそうした問題意識の下、質問しようとしていたのではないだろうか。しかし驚くべきことに、会見が始まった最初の1時間半、女性の声は全く聴かれることがなかった。壇上に上がったフジテレビの経営陣5人及び、男性司会者が当てたそれまでの質問者も、全員が男性だったのだ。
この問題の根本は女性の人権であるのに、そこにいる女性は皆無視され、それを語るのは男性だけ、という皮肉な状況。実は日本の公の場で、日常的に起きている光景でもある。
特にメディア業界では、大手メディアもネットメディアもYouTuberもフリージャーナリストの世界でも、結局男性たちが支配的な立場にあり、強い発信力を持っている。今回も会見前にフジテレビ本社前で並んで待っている時から、男性の姿が多く、女性の姿はかなり少なかった。
だから当てられる質問者も男性が多くなるのは自然なことではある。ただ、今回の問題では特に、女性の声を聴く聞く必要があると思う人が、会場内にはほとんどいないように見える様子は、異様でもあった。
フロアから女性記者が「女性を当ててください」と声を上げて、やっと当たる女性が少し出てきた。アメリカなどの英語圏では、ジャーナリズムに限らずさまざまな場面で、いろいろな属性の人たちの声をバランスよく取り上げるのが当然になっているのと比べ、本当に別世界だ。
■高齢男性ばかりの経営陣に欠けている視点が露呈した
しかし少なくともフジテレビ側は、もし今回の会見の重要ポイントが女性の人権を守る姿勢をはっきり示すことだとわかっていたなら、女性記者の質問をむしろ優先的に受けるべきではなかったのだろうか。せっかく会見をテレビ放送・配信したのなら、そうやって高齢男性の経営陣が自分たちに欠けていた視点を知り、そこから謙虚に学んでいる様子を流した方が賢かった。
午後4時に始まり、10時間以上も続いた会見で、「まだ質問をしていない人」として深夜近くになってようやく当てられた中には、女性記者が多かったように思う。
会見では、経営陣が前に言ったことを否定するなど、矛盾点が目立ったが、「被害女性にヒアリングをして声を聴かなくてもよい」「女性記者の質問は後回しでいい」ということがフジテレビの基本姿勢だとするなら、その点は一貫していて、ブレていなかった。たぶん被害女性のヒアリングや女性記者の質問によって、経営幹部側が「刺激を与えられたくなかった」ということなのかもしれない。
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アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。
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(アカデミック・ジャーナリスト 柴田 優呼)
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