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フジのクーデターを背後から支援した元週刊文春編集長が証言「独裁者を倒した日枝久氏が独裁者になるまで」

プレジデントオンライン / 2025年1月30日 15時15分

日枝久相談役。会社のために「独裁者」を引きずりおろしたはずだったのに……。(第35回高松宮殿下記念世界文化賞の記者会見に出席した、日本美術協会会長でフジサンケイグループ相談役の日枝久氏=2024年11月18日、東京都港区のオークラ東京) - 写真=時事通信フォト

10時間超のロングラン会見にも出なかったフジテレビ相談役の日枝久氏の動向が注目される。その昔、「会社をよくしたい」との思いで、クーデターを決起した首謀者の1人が日枝氏。そのクーデターを援護射撃した『週刊文春』の当時の担当デスクだった木俣正剛氏が、日枝氏の変貌ぶりを辿る――。

■フジサンケイのクーデターを後押しした文春

中居正広とフジテレビ問題が、あっというまにスポンサー離れにまで拡大し、フジテレビの崩壊が近づいたと私は予測しています。たかだか週刊誌の元編集長が「何を偉そうに」と思われるのを覚悟の上で、私とフジの古い関係から話を始めます。

1990年初頭まで、フジは鹿内家の三代続く絶対的な独裁でワンマン経営の弊害が目立つ状態になっていました。その弊害を打破するため、日枝久氏(当時・フジテレビ社長・現・取締役相談役)と羽佐間重彰産経新聞社長を中心にクーデター計画が練られました。その計画の一翼を担ったのが、週刊文春でした。

フジのクーデターグループは真剣に会社の将来と独裁の弊害を憂う集団であり、危険を冒して、社内の機密を我々に教え、文春のキャンペーンで三代目の独裁者鹿内宏明氏を追い詰めると、トドメのクーデターを起こす役員会前日には、都内の文春に近いホテルの一室にクーデター派の役員全員を集め、文春に、誰が集まっているかの報告まできていました。

そしてクーデターが終わった瞬間、そのやりとりのすべてが2日後に発売された文春に掲載されたのです。デジタル化していない時代の週刊誌には、信じがたいスピードと正確さで、新聞やテレビをも圧倒しました。記事を書いたのは島田真(現・文藝春秋取締役)でデスクは木俣というコンビは、実は、あのジャニーズ裁判と同じメンバーです。

このクーデターには、産経のOB司馬遼太郎氏も共感し、翌日に、産経新聞の幹部に、「おめでとう。産経もよくなりますね」というファクスを送り、続いて、「ほんとうによかったですね。ハザマ(羽佐間重彰)という人、めりはりのきいたいい記者会見をしています。『新聞の代表者として不適任』という表現は、決定的かつ総括的で、じつによかったですね」と書いてこられたのを、私も見せていただきました。

その後も、フジテレビ愛に満ちたメンバーとは、ある時期まで頻繁に交流していただけに、その会社が一年半も社外の人間によって傷つけられた社員を放置し、被害女性に「受けた傷は一生消えないし、元の人生は戻ってこない。お金を払ったらすべてがなかったことになる世の中にはなってほしくありません」と週刊文春に証言させてしまう会社になったかと思うと、あのときの、メンバーの情熱は残らなかったのかと、悔しくなります。

■クーデター後の20年間は黄金期だったが…

クーデター直後のフジの20年間は黄金期といっていいほど、熱気にあふれていました。「夢で逢えたら」「たけし・逸見の平成教育委員会」「料理の鉄人」「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」「ダウンタウンのごっつええ感じ」など、お笑い第3世代を中心とする番組が若い世代から人気を集め、高視聴率を記録。90年代後半に「SMAP×SMAP」「めちゃ2イケてるッ!」「奇跡体験!アンビリバボー」「発掘!あるある大事典」が、いずれも高視聴率を記録しました。

ドラマは、「東京ラブストーリー」を皮切りに視聴率30%を超えるドラマが1999年までの10年間で12本。さらに「踊る大捜査線」や、アニメでは「ちびまる子ちゃん」「幽☆遊☆白書」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が人気を博しました。2000年代にはいっても、「HERO」「人にやさしく」などSMAPのドラマがいずれも高視聴率を記録し、2004年に日テレを抜き10年ぶりにトップに返り咲きました。

「トリビアの泉」「脳内エステ IQサプリ」「クイズ!ヘキサゴン」「VS嵐」などの新番組が人気を博し、ドラマも、「電車男」「のだめカンタービレ」「プロポーズ大作戦」「ラスト・フレンズ」「花ざかりの君たちへ」「BOSS」と大ヒット。

2004〜2010年まで7年連続で視聴率ナンバーワンでしたが、今は見る影もありません。民放キー局5社の中で第4位がすっかり定位置になってしまっています。直近では、日本テレビが視聴率ナンバーワンで、5年連続です。

■凋落させたのは日枝独裁体制

なぜ、こんな状態になったのか。それは日枝久社長がグループ全体の経営権を強め、鹿内家を上回る独裁体制を敷き、イエスマンばかりを登用するだけでなく、昭和な社風や伝統を守り続けようとしたことにあります。例えば、今回の被害女性は女子アナといわれていますが、日枝氏は、河田町時代(1997年から本社をお台場に)から毎年、正月明けに女子アナを引き連れて、社内を練り歩くのが趣味で、面接で好みの女性(女子アナ)を毎年1人選んで入れていたという噂があるくらいの「女子アナ重視」体質でした。

■硬直化のもう一つの理由はコネ入社

そして、社内の硬直化を招いたもうひとつの原因は、コネ入社が異様に多いことで、それも日枝氏の指示によるものだとボヤく人事担当者がいました。

たとえばジャニーズ事務所の副社長でメリー喜多川の長女、あの藤島ジュリー景子氏も役員秘書室に勤務していました。安倍首相の甥にあたる岸信夫元防衛大臣(引退)の次男・岸信千代、加藤勝信財務大臣の娘など、大物がズラリと並びます。ほかにも、大物財界人の親族、広告代理店やスポンサー筋の関係者、そして、悪口を書きそうな大手出版社/週刊誌の幹部の親族も入社しています。

すべてがコネ入社かどうかは証明できませんが、人事担当者が、上からの指示での採用が多いと言っていたことは事実です。

何しろクーデターを起こした1992年時点で55歳、2024年にようやく取締役相談役となりましたが、87歳の現在まだ取締役という肩書がつく以上、役員会に出席するわけです。これだけ長く権力の座にいた人間は、相談役になっても実際の権勢は同様だというのが私の取材の経験則です。

フジテレビ・やり直し記者会見の様子
写真=編集部撮影

視聴率は落ち、社内の士気も落ちているのに、日枝体制が続いたのは、テレビ事業以外の収入が多く、経営基盤が強いため、給料が他局に比べても高かったことが大きいとされています。例えばある資料によると、フジ社員の平均年収は1621万円、視聴率が高い日本テレビの社員の平均年収は1296万円。これだけ差があれば、仕事が面白くなくても、経営陣は安泰で、組合からのつきあげなどもありません。

逆にいえば、給料を下げず、番組の制作費を減らしてゆけば、番組の人気は落ちても、経営陣は安泰ということになります。2010年以降の日枝体制は、まさにそういう形であり、日枝氏の意向に逆らう人間は左遷か子会社へ。そして、意に沿うゴマスリだけが出世する構造になりました。しかも、フジテレビの場合、コンテンツにこだわりのある重鎮が多く、いつまでも、彼らがヒットさせた作品と似たような番組しか認めない雰囲気が存在しました。月9(月曜9時)のトレンディードラマはたしかにヒットしましたが、2010年以降は、もはや恋愛ドラマに若者がほとんど興味をもたないのに、ずっと恋愛ものを続けていました。

■「俺がいなくちゃ、このグループはもたない」

「笑っていいとも」、「オレたちひょうきん族」の流れをくんで、吉本興業との関係を深くし、無名の芸人による学芸会なみの番組も目立つようになりました。

当時クーデター劇を演出した一人で、私が今も「同志」として敬愛するフジの幹部がいます。彼は、そのことで何度も日枝氏に引退を直言したそうですが、本人は「俺がいなくちゃ、このグループはもたない」の一点張りで、まったく引退を承知しません。

自分がクーデターを起こしただけに、自分にもクーデターを起こしそうな人物は徹底的に警戒し、干してゆきました。

会社を立て直すには、社員の勇気が必要とされている。
写真=編集部撮影
会社を立て直すには、社員の勇気が必要とされている。 - 写真=編集部撮影

私自身、文藝春秋という会社を常務で自ら辞めました。「文春砲」と呼ばれる会社の社長が社内の女性に隠し子を生ませ、それなのに会長になろうとしたので、それでは会社がもたないと諫言(かんげん)するためです。ネット時代ですから、検索すれば全容はわかるので、興味のある人は読んでください。

会社を辞めたあと、フジの幹部たちが私に送別会を開いてくれました。彼らの口から出た言葉が耳から離れません。「あなたには社長の可能性があったのに、その可能性を諦めて、現社長の会長昇格を潰したのは爽やかでした。残念ながら、私たちにはその勇気がなく、まだ会社にすがって生きています」と。

もちろん、フジの役員クラスの給料と文春の給料では、全然ちがいますから、高給を選択するのは家族のことを考えれば当然です。しかし、フジテレビは国から放送の権利を与えられた数少ない企業であり、報道の中立や、経営の透明さを要求される企業です。

今度の一連の騒動を見ていて、社員全員、そのガバナンスのなさ、社員を守る危機管理意識のなさはよくわかったはずです。他人事と考えず、国民の知る権利を満たす存在としてのフジテレビの社員であることを自覚して、経営のあり方、番組づくりの問題点、セクハラやパワハラなどの改善点を訴え、第三者委員会に厳しい意見を伝えるべきですし、経営陣に対しても文句をいう義務があると私は考えます。

最後に、会見直前に週刊文春が「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」というのは誤報であったということを、デジタルで小さく掲載し、1月30日発売の号でも編集長からとして小さくお詫びを掲載しています。私は、こういう誤りは姑息な手段ではなく、きちんと謝罪し、なぜ間違えたのか検証記事も掲載すべきだと考えます。

それが読者の信頼を取り戻す道であり、また、社員が同席していたかどうかは、フジが抱える大きな問題の一部でしかないことを理解してもらうためにも、それが大事な手段だと思うからです。

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木俣 正剛(きまた・せいごう)
元週刊文春編集長
1955年生まれ。編集者。元週刊文春編集長。元文藝春秋編集長。大阪キリスト教短期大学客員教授。OCC教育テック上席研究員。

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(元週刊文春編集長 木俣 正剛)

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