「フジテレビのラスボス」がマスコミの命運を握っている…「11年前の朝日新聞にそっくり」フジ騒動がたどる末路
プレジデントオンライン / 2025年2月1日 17時15分
■フジテレビ問題で「オールドメディア」は総崩れ
フジテレビが解体的危機に陥っている。港浩一社長(72)が引責辞任を表明しても、世論の批判は終息する気配がない。港氏は何の実権も握っていない「名ばかり社長」だったことは衆目一致しているからだ。
フジテレビの最高権力者は、約40年間にわたって君臨してきた日枝久相談役(87)である。港氏をはじめ歴代社長ら経営陣は日枝氏の手駒に過ぎない。いずれも日枝氏によって取り立てられた「日枝チルドレン」である。
日枝氏は社長や会長として約30年間もフジを率い、相談役に退いた後も人事権を掌握して社長を目まぐるしく交代させ、院政を確立した。社長以下が総退陣したところで日枝氏が引退しない限り、フジテレビは変わらない。新たな「傀儡政権」に引き継がれるだけだ。
日枝氏は森喜朗元首相や安倍晋三元首相ら自民党の大物政治家と親密な関係を築いてきた。政財官界に絶大な影響力を持つテレビ業界のドンだ。新聞業界のドンだった読売新聞の渡辺恒雄氏が他界した今、マスコミ界の最後のドンといっていい。
その日枝氏の引退を求める声がフジテレビ社内からも公然とあがっている。日枝氏の去就が最大の焦点に浮上しているのは、フジだけではなく、落ち目のオールドメディア全体の将来を大きく左右するからだ。
■「フジテレビは悪くはない」の声に疑問
日枝氏の去就とマスコミ業界に与える影響を分析する前に、混迷を深めるフジテレビ騒動の核心をまずは簡潔に示しておこう。『週刊文春』が第一報の重要部分を訂正して「フジテレビは悪くはない」という声がネットにみられるが、そんなことはない。フジテレビのどこに問題があるのか、改めて整理しておく必要がある。
発端はフジの被害女性が2023年6月、同局のバラエティ番組で共演した中居正広氏(52)の自宅での飲み会に誘われ、性被害を受けた疑惑だ。被害女性はその直後に上司に報告したものの、フジは中居氏から聞き取り調査さえ行わず、何事もなかったように中居氏のレギュラー番組を継続した。
被害女性は上司、編成制作局長、大多亮専務(66)を経て港浩一社長(72)にも報告されたが、「当事者2人の間で起きたきわめてセンシティブな問題」(港氏)としてコンプライアンス部署には共有せず、フジは組織的にこの疑惑をもみ消したのである。ここがフジテレビ騒動の最大のポイントだ。
『週刊文春』の同年末の報道で松本人志氏(61)の性加害疑惑が浮上した後、フジテレビは松本氏の出演を取りやめたものの、中居氏の性加害疑惑は伏せ続け、松本氏と中居氏が共演するバラエティ番組「まつもtoなかい」を「だれかtoなかい」に衣替えして中居氏の起用を続けた。
■「文春の訂正」に揺れるネット世論
被害女性は性被害を受けた直後に体調を崩して入院し、ほどなく退社した。何人かの弁護士に相談したものの、相手が大物芸能人の中居氏であり、背後にフジテレビが存在していることから、代理人を引き受けることを次々に断られたという。ようやく依頼を受けてくれる弁護士と出会い、中居氏と解決金約9000万円で合意したと昨年末の『女性セブン』が報じ、問題が表面化した。
被害女性を直接取材した『週刊文春』が昨年末に始めたキャンペーンが追い討ちをかけた。
第一報では、中居氏や松本氏が出演するバラエティ番組を数多く手掛けてきた大物プロデューサーであるフジテレビの編成局幹部A氏が被害女性を中居氏の自宅での大人数の飲み会に誘いながら、自らを含む他の参加者はドタキャンし、二人だけの密会をお膳立てしたと報じた。
これに対し、フジテレビは社員の関与を全面否定するコメントを昨年末に公式サイトに掲載した。文春は1月末になって被害女性を誘ったのはA氏ではなく中居氏自身だったと訂正したが、その前月に中居氏の自宅であったバーベキューパーティーにA氏が被害女性を引き連れて参加していたことは事実だとし、問題の飲み会はその延長線の出来事だとして「A氏が関与していたことは間違いない」としている。
■フジのガバナンス不全は明らかな事実
『週刊文春』の第一報の詰めが甘く、訂正に至るプロセスにも疑問は残る。
他方、問題の飲み会そのものにA氏が関与していないとしても、人気番組に誰を起用するかという人事権を握るA氏が中居氏の自宅でのバーベキューパーティーに被害女性を引き連れて参加し、中居氏が彼女を個別に自宅に誘い出す環境をお膳立てしたという外形的事実は動かし難い。
フジテレビが第三者委員会の調査を待たずに早々と社員の関与を全面否定したのは「疑惑の火消しを図った」との批判は免れない。
被害女性が文春の取材に対し、芸能人の接待要員としてA氏に「上納」された被害者は自分以外にもいると証言したことで、「中居氏の性加害疑惑」は「フジテレビによる女性アナ上納接待疑惑」へ発展した。その後、同様の週刊誌報道が相次ぎ、疑惑の中心は中居氏からフジテレビへ移った。
同じくバラエティ部門出身で、とんねるずを担当したことが知られる港社長がこれまで女子アナを接待要員として扱ってきたことも相次いで報じられた。港社長の誕生会に女性アナが投入されたことも発覚したのである。
■異質な企業風土を根絶するには
女性アナなどの女性社員を接待要員として扱う企業風土を醸成してきたのは港社長自身であり、彼はそれで大物芸能人をフジに抱き込んでバラエティ部門の視聴率を稼ぎ、社内での影響力を拡大して社長へ登り詰めた。こうした芸能人接待は港氏からA氏に受け継がれてエスカレートしていった可能性が高い。港社長がA氏の関与を強く否定し、中居氏の性加害疑惑そのものをもみ消したのは、自己保身のためと思えてならない。
中居氏の性加害疑惑のもみ消しに加えて、フジテレビ騒動のもうひとつの核心は女性社員を接待要員として扱ってきた人権軽視の企業風土である。
それを主導した人物が出世して社長になったこと自体がこの会社の歪みを物語っている。フジテレビ経営陣からは「女性アナの上納・性接待」は言語道断としても、女性アナを宴席に同席させること自体は問題ないとの認識が示された。ここにこの会社を覆う人権意識の希薄が見て取れる。それは弱い立場にある者を小馬鹿にして笑いを誘う近年のフジのバラエティ番組に散見される演出に如実に現れていたといえるだろう。
このような企業風土を根絶するには、港社長やA氏の過去の悪行は第三者委員会によって徹底的に暴かれ、白日の下に晒されなければならない。
■「10時間半の会見」でも、「文春の訂正」でも免責されない
フジテレビのガバナンスは完全に崩壊していた。港社長が1月17日に行った最初の記者会見は、記者クラブ加盟社以外を締め出し、映像の撮影を禁じる密室会見となった。港社長は日枝氏に辞意を伝えたが、猛反対され、社長にとどまることになったと報じられている。
こうして行われた密室会見は、弁護士を入れた調査を実施する方針を表明するだけに終わり、火に油を注いだ。世論の批判は沸騰し、フジの大株主である米投資ファンドが会見のやり直しを要求。テレビCMを引き上げるスポンサーが続出して75社を超え、フジは四面楚歌になった。
中居氏が有料会員サイトで芸能界引退を一方的に表明しても、映像の撮影を許可した二回目の10時間半に及ぶ記者会見で港社長と嘉納修治会長が辞任を表明しても、『週刊文春』が第一報の重要部分を訂正しても、フジテレビが免責されるわけではない。
今や中居氏の性加害や編成局幹部A氏の関与の有無よりも、港社長らフジ経営陣による性加害疑惑のもみ消しや女性アナを接待要員として扱ってきた人権軽視の企業風土がスキャンダルの核心となったのだ。
■問われる日枝氏の責任
港社長は二回目の記者会見で、自らの誕生会をはじめ社内の会食に女性アナを参加させていたことを認め、「今となっては気の進まない人もいたと思う」と反省の弁を述べるしかなかった。
一方、中居氏を調査することなく番組起用を続けたことについては「女性のプライバシー保護を最優先した」「誰にも知られず仕事に復帰したいという女性の意思を尊重した」と繰り返し、女性を盾に自らの性被害もみ消しを正当化する姿勢を示し続けた。
これではフジテレビの再生はありえない。
疑惑のフェーズは明らかに変わった。最も問われているのは、フジテレビの人権軽視の企業風土であり、隠蔽体質であり、ガバナンスの崩壊である。
そのような企業風土を体現してきた人物を重用して社長に引き上げ、企業ガバナンスを崩壊させた最大の責任は、「独裁者」として40年も君臨してきた日枝氏にある。日枝氏が経営責任が問われて引退し独裁体制が終焉しない限り、フジの闇は消えず、信頼回復はありえない。
■視聴率を最優先する社風
日枝氏はなぜ、ここまで権勢を誇るに至ったのか。
日枝氏は1961年にフジテレビに入社し、当初は報道畑を歩んだ。労働組合を結成したことで報道から外され、一時は閑職に追いやられていたという。しかしオーナー族の鹿内春雄氏に抜擢され、80年に42歳で編成局長に就任。「楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに掲げ、82~93年に12年連続でフジの視聴率三冠王を達成した。
88年に春雄氏が他界すると社長に就任し、春雄氏の後継だった婿養子の宏明氏を追放して社内を掌握。2001年に会長となり、05年にはライブドアを率いるの堀江貴文氏のフジテレビ買収を阻止して権力基盤を固めた。04~10年にも視聴率三冠王を達成し、視聴率を最重視する社風を築き上げたのである。
中居氏の性加害疑惑をもみ消した当時の港社長や大多亮専務はいずれも日枝独裁体制のもとで出世を重ねた。港社長は「おニャン子ブーム」を仕掛け、とんねるずと親密な関係を築いてバラエティ部門をフジの中核に押し上げた。
大多専務は「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」を手掛けてトレンディードラマを確立した。港社長の後継に指名された清水賢治氏は「ちびまる子ちゃん」「ドラゴンボール」などアニメ部門をリードした。いずれも視聴率を最優先する日枝独裁体制のもとで引き上げられたのである。
■「女性アナのタレント化」の嚆矢
日枝氏は2017年に相談役に退いた後も会長や社長ら役員人事だけでなく、局長人事まで掌握し、会社上層部を日枝チルドレンで固めた。
さらに歴代社長を短期間で交代させ、有力な後継者の誕生を防ぎ、独裁体制を維持した。港社長の在任は22年6月から2年半で終了。前任の金光修氏は1年、その前任の遠藤龍之介氏とさらにその前任の宮内正喜氏は2年である。今回のスキャンダルで港社長のクビを切ることは日枝氏にとって何の抵抗もなかったに違いない。
フジテレビの役員はすべて日枝氏に指名されてきた。彼らはみんな日枝氏の手駒に過ぎない。
日枝体制でテレビ界の盟主に躍り出たフジテレビが「女性アナのタレント化」をテレビ業界全体に押し広げ、大物芸能人に政治経済を含む時事問題を軽いノリで語らせて視聴率を稼ぐバラエティ番組の全盛期を作り上げた。その実働部隊の中心にいたのは港社長や編成局幹部A氏であり、番組に起用されて国民的スターの地位を築いたのが松本氏や中居氏であった。
今回の一連の疑惑は中居氏個人のスキャンダルではなく、日枝氏がフジテレビに君臨した過去30~40年間にテレビ業界に積もりに積もった膿が噴き出したとみるべきである。
■11年前の朝日新聞と同じ道をたどる
新聞業界は一足先、朝日新聞社長が辞任に追い込まれた2014年の騒動(福島第一原発事故の調査報道の取り消し、過去の慰安婦報道の取り消し、池上コラムの掲載拒否)を機に業界全体の部数がバケツの底が抜けたように激減し、凋落した。昨年末に最後のドンである読売新聞の渡辺氏が他界したことで、新聞業界はますます影響力を失っていくだろう。
次はテレビ業界の番だ。2024年は選挙の世界でもユーチューブをはじめSNSの影響力が拡大し、テレビはオールドメディアとして社会から見放されつつあることが露呈した。そして24年末から25年にかけてフジテレビ騒動が勃発し、テレビ業界のドンである日枝氏の去就に世論の関心が集中している。
日枝氏は自らを除く経営陣を総入れ替えしてでも自らの影響力を残すつもりかもしれない。しかしその意に反して世論の批判で退場に追い込まれれば、むしろそれを機にダムが決壊したかのように、テレビ業界全体の凋落に拍車がかかるのではないか。
フジテレビをはじめテレビ業界全体は過去の膿を出し切り、信頼を取り戻して再生することができるのか。メディア界の行方を大きく分ける岐路にある。
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ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。
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(ジャーナリスト 鮫島 浩)
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