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展開が早すぎる…「婚約破棄から90秒で新恋人が現れる」中国発のスマホドラマが「ドル箱動画」になったワケ

プレジデントオンライン / 2025年2月6日 10時15分

ショートドラマ「ReelShort」のダウンロード画面 - 写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト

スマートフォンで見る中国発の「ショートドラマ」がアメリカや日本でも人気だ。1話あたり1~2分。日本の「昼ドラ」を彷彿とさせる内容で、展開が早く、視聴者を飽きさせない工夫が光る。Netflixほど重すぎず、TikTokより気軽に楽しめるショートドラマがいま、大金を生む市場へと成長している――。

■昼ドラマの緊迫感を1話2分に詰め込んだ

中国で数分程度の短編動画「ショートドラマ」が、50億ドル(約7800億円)規模の産業に成長している。現在ではショート動画専用のアプリが配布されており、アメリカでも人気を博している。中国・北京のCOLグループが運営する動画配信アプリ「ReelShort(リールショート)」では、1話2分という超短編形式のドラマを多数配信している。

視聴者を虜にする仕掛けのひとつが、過激な展開の連発だ。英エコノミスト誌は、ReelShortの代表作のひとつ『Never Divorce a Secret Billionaire Heiress(億万長者の秘密の相続人とは離婚してはいけない)』を取り上げている。

全55話のこのドラマでは、冒頭わずか30秒以内に、主人公の女性が夫の愛人の命を救うため輸血を強制されるシーンに突入。その後の数話で、計わずか10分の間に、結婚の強制、相続権争い、複数回の不倫など、「濃い」味付けのストーリーが矢継ぎ早に展開する。

米ワシントン・ポスト紙によると、嫁姑問題を描く作品ジャンルも人気だという。手強い姑と健気な若い妻の対立を描いた、いわゆる「昼ドラ」の緊迫感が売りだ。

■嫌がらせをする姑、マザコン夫、そして復讐…

ある作品では姑が、成人した息子をベタベタに甘やかす一方、息子の妻には冷たく接する。料理の基本がなっていないと叱ったり、電気代が嵩みすぎると嫁を責めたりする展開は、もはやこのジャンルの定番だ。

別の作品は、さらに過激な描写が続く。とくに成人している息子の体を洗ったり、歯を磨いたりするシーンが描かれる。子離れできない姑の姿に、90年代の日本のドラマを想起する方もいるだろう。異常な状況に嫌悪感を覚えた主人公の嫁は、復讐を決意。姑の本性を夫に告発するか、あるいは夫との離縁を迎えるか、という究極の二択を迫られる。

ショートドラマの一部は中国国内版TikTokの抖音(ドウイン)やBilibili(ビリビリ)などの動画配信プラットフォームで配信され、視聴者の強い支持を得ている。過激な家族関係を描く作品の大ヒットが続き、ショートドラマは配信各社にとって新たな収益の柱へと成長した。

■エレベーターの待ち時間があれば観られる

ショートドラマの配信事業は、アメリカでも高い収益を上げている。アメリカ版では現地の脚本家や俳優を起用し、中国版ストーリーをアレンジ。これが成功につながった。中国国営の中国通信社によると、2024年8月時点の中国の主なショートドラマ配信アプリの合計として、アメリカ市場で1億5100万ドル(現在のレートで約236億円)を売り上げている。

人気の秘密は3点ある。第1に、従来のテレビドラマと比べ、視聴に要するエネルギーが圧倒的に少ない。1時間ほどを割いて1話を視聴する従来のドラマと異なり、1~2分あれば完結できるため、現代の生活スタイルによくマッチしている。米テッククランチと提携する中国テックメディア「テックノード」は、短編ドラマは特に、通勤や移動時間のすきま時間での視聴に適していると指摘する。数分単位で区切られた短いエピソードを、空き時間に応じて好きな話数だけ視聴できるためだ。

アプリ「ReelShort」を展開するクレイジーメープルスタジオのジョーイ・ジア最高経営責任者も、チャンネル・ニュース・アジアの取材に、「昼食時やエレベーター待ちの間などで視聴されています」と説明する。新型コロナウイルスのパンデミックで映画館が閉鎖される中、手軽に視聴できる娯楽コンテンツとして人気が広がったという。

「ReelShort」公式サイトより
「ReelShort」公式サイトより

■映画とSNSの間という立ち位置

人気の理由の2点目は、クオリティの高さだ。映画並みの品質にはほど遠いが、「そこそこ観られる」程度の仕上がり。この絶妙なラインが人々を虜にしている。

TikTokを開けば、素人が踊るダンス動画や、赤の他人がカメラに向かって日常を語る動画であふれている。そのような「素人感」はある意味でTikTokの味でもあったのだが、今や飽きられはじめた。その空白にマッチしたのが、低予算だがきちんとした筋書きのあるショートドラマというわけだ。

チャンネル・ニュース・アジアによると、エンタメ業界の関係者からは、従来型のSNSコンテンツときちんと差別化できているとして評価する声が上がっているという。

ハリウッドの制作会社エンビークリエイティブのマイク・バネル・クリエイティブディレクターは、同メディアに、「人々は今、過剰に消費している動画にやや飽きています。スクロールするたびに同じようなコンテンツが表示されるのですから」と指摘する。さらに、「業界は、より質の高いコンテンツを求める方向に向かっています」と述べ、ショート動画の将来性を強調している。

■1分間で3度驚かせる…視聴者を飽きさせない仕組み

人気を支える3点目の理由は、濃密な展開だ。ワシントン・ポスト紙は、1話1分半程度の超短編ドラマ『Snatched a Billionaire to Be My Husband(億万長者をつかまえて夫にした)」』の例を挙げる。

Grace Wayne『Snatched a Billionaire to be My Husband』(New Leaf Publishing Inc.)
Grace Wayne『Snatched a Billionaire to be My Husband』(New Leaf Publishing Inc.)

主人公は、婚約を破棄され、直後に父親が亡くなるという不幸のまっただ中にある女性。彼女がバーへふと立ち寄り、元婚約者の叔父である町一番の金持ちと出会ってキスを交わすまでが、最初の90秒で描かれる。

イギリスの名門・ケント大学で中国のエンターテインメント業界を研究するオスカー・ジョウ氏によると、脚本家には「1分間に3つのプロット上のひねりを入れる」ことが求められているという。ショートドラマの主なターゲット層は、ロマンスとファンタジーを求める層だ。より具体的には、多忙に暮らしている中年のアメリカ人女性に設定されている。彼女たちのハートを掴んで離さないよう、目まぐるしい展開を1分半に詰め込んでいる。

■スマホの縦画面がもたらした制作コスト削減

ショートドラマは、どのように収益を上げているのか。香港の英字日刊紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、「フリーミアム」形式のビジネスモデルが主流となっている。10話程度の基本コンテンツを無料提供し、気に入ったユーザーには有料でそれ以降の話数を視聴してもらうしくみだ。視聴者は1話ごとの購入か、シリーズ全体の一括購入かを選択できる。

料金は1話4元(約85円)未満が一般的で、多くは1元(約21円)程度に設定されている。一方、100話以上あるシリーズ全体を購入すると、100元(約2100円)ほどに達することもある。Netflixならば全作品見放題の月額料金に匹敵する金額であり、単体作品としては割高だ。

その一方で、制作費は徹底して抑制されている。ワシントン・ポスト紙によると、Netflixの歴史ドラマ『ザ・クラウン』が1話あたり1400万ドル(約22億円)を投じるのに対し、ReelShortの作品はシリーズ全話合計での制作費を30万ドル(約4700万円)未満に抑えている。ロサンゼルスの映画学校の卒業生などを起用して、コストを最適化しているという。

アイリッシュ・タイムズ紙は、スマホの縦型の画面に合わせて制作されており、このフォーマットも予算の削減に有利だと分析している。背景を最小限に抑え、セット費用を大幅に削減できるためだ。

電車の中でスマホを見ている人々
写真=iStock.com/NanoStockk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NanoStockk

■「ストーリー展開が粗雑」という辛口評価も

こうした極端な低予算を、濃厚なプロットでカバーしようという戦略だ。こってりした味付けに、好き嫌いが分かれるかもしれない。エコノミスト誌は、ReelShortの動画はストーリーが粗削りであると指摘している。

たった30秒間で相続争いから不倫までが詰め込まれている構成に触れ、「ストーリー展開は粗雑で、ついて行くことはほとんど不可能。演技については、大げさと言ったとしても、これでも寛大すぎる表現だろう」と酷評している。

それでも多くの視聴者たちが、バスの待ち時間に、トイレのすきま時間にと、ついついアプリを開き夢中になっている。

「ReelShort」のアプリがインストールされたスマホ
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

モバイルアプリ分析企業のセンサータワーによると、2023年12月には、AppleのApp Storeで100万回のダウンロードと500万ドル(約70億8000万円)の売り上げを記録。Google Play Storeでも300万回のダウンロードと300万ドル(約46億8000万円)の売り上げを達成した。両ストアで常にエンターテインメントアプリの上位15位以内にランクインし、11月にはダウンロード数でTikTokを一時的に上回る勢いを見せている。

■Netflix、TikTokの弱点を補い“新領域”を拓く

中国の動画クリエイター支援企業OSTで短編ドラマ脚本部門責任者を務めるチャン・ヤン氏は、アイリッシュ・タイムズ紙に対し、「忙しいスケジュールの中で、一度に一つのことに集中できるようにしています」と語る。

「地下鉄に乗る時間やコーヒーを飲む時間の2、3分で見ることができます。面白いと思えば、続きを見る。視聴者が細切れの時間を使って見られることが利点になっています」

Netflix作品を本気で見始めると、ものによっては1シーズンで10時間以上を注ぎ込むことになる。本腰を入れるには精神的な負担が大きい。かといってTikTokを開いても、濃密で心動かされる動画には出会いにくい。ショートドラマはこうした不満に応え、両方の世界のいいとこ取りをして成功を収めた。手持ち無沙汰な数分間を、「ほどほど」の熱量で楽しめる。そんな手軽さが受けており、今後もその勢いは続きそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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