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「台湾侵攻は倫理的に正しい」習近平主席の内的心理を読み解くと見える「アメリカに対する異常なまでの恐れ」

プレジデントオンライン / 2025年2月6日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

中国共産党の習近平主席は、将来的な台湾への侵攻を明言している。台湾を併合する狙いとは何か。政府文書や専門書をもとに国際情勢をYouTubeで解説している社會部部長さんの著書『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』(サンマーク出版)より、一部を紹介する――。

■沖縄は「太平洋の要石」

沖縄は中国沿岸部に最も近い米軍基地が並ぶ非常に重要な島々です。中国にとって九州から与那国島の中で特に重要な出口が、大隅海峡と宮古海峡です。大隅海峡は、すべての主要港と北米を結ぶ最短経路上に位置し、常に膨大な通行量を擁します。宮古海峡は主に上海以北の港とオーストラリアを結ぶ船が通り、中国に鉄鉱石をはじめとした重要な天然資源をもたらします。

アメリカは沖縄を「太平洋の要石」と呼んで非常に重視しています。アメリカは第二次世界大戦末期に日本本土決戦の前哨(ぜんしょう)基地として沖縄を攻略し、以降は米領に組み込みました。返還後もここには、アジア最大の米空軍基地である嘉手納基地をはじめとした在日米軍基地の7割が集中します。沖縄が「要石」である理由は、特に戦後の紛争地であった朝鮮半島、中国本土、ベトナムなどに近すぎず遠すぎないからです。

バシー海峡・沖縄
出所=『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』

つまり、航空機を戦場に飛ばせるほど近くても、敵国が反撃してこられない程度には遠い、ちょうど良い場所にあるのです。中国人はアメリカの爆撃機がベトナム戦争のときに沖縄から出撃したことをよく覚えています。沖縄は第一列島線の中でも、中国にとって特に大きな恐怖対象なのです。

■中国が尖閣諸島にこだわる理由

中国が尖閣諸島を欲しがる理由にも、潜水艦が大きく関わっています。東シナ海の海底図を見ると、中国の海岸の南西には大陸棚が広がっており、水深は概ね100m未満しかありません。この大陸棚を越えると水深が一気に増す沖縄トラフがあります。さらに進むと、宮古海峡の中でも深いところに位置する回廊があり、ここを抜けると太平洋に出られます。

台湾有事の際、中国の潜水艦は宮古海峡を出て、沖縄の南の海域で来援してくる米軍艦艇を攻撃しなければなりません。そのためには、宮古海峡の通行を安全にする必要があります。しかし、現状として、中国から宮古海峡までの航路上には尖閣諸島があり、ここは日本の支配下にあります。そこで、中国は宮古海峡までの道を安全にするため、尖閣諸島を奪わなければなりません。中国はこのために尖閣諸島沖と宮古海峡に艦船を送り、日本に圧力を加えています。

また、中国は長期的・潜在的には沖縄から米軍が撤退することを望んでいます。沖縄にも黒潮が流れていて潜水艦探知は簡単ではありませんが、今のところ日米は技術・経験で優(まさ)っていて、中国の潜水艦をほぼすべて探知・追跡できているようです。しかし、中国は年々潜水艦の能力を向上させてきているため、注意が必要です。

■温暖化で北極海に航路ができる

ちなみに、第一列島線上ではないものの、対馬海峡と津軽海峡は今後重要性が増すと考えられます。なぜなら、今後数十年で、ここの通行量が一気に増大する可能性があるからです。

北極海航路とは、温暖化で北極海の氷が解けることによって夏に開通するといわれている新しい航路です。かつて北極海には一年中氷が漂っていたので、船はここを通ることができませんでした。しかし、近年は温暖化が進んだことで氷がかなり薄くなりつつあり、温暖化がこのまま進めば、数十年以内に普通の船でも夏だけ通れるようになるといわれています。

北極海航路
出所=『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』

北極海航路になぜ注目が集まっているかというと、この航路が中国からヨーロッパまでの距離を短縮するからです。今のところ、中国とヨーロッパを結ぶ最短経路はスエズ運河を通過する航路で、およそ40日かかります。一方で、北極海航路を使えばおよそ30日まで短縮できます。

北極海航路が開通すると、中国・ヨーロッパ間の船は必ず対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡のいずれかを通ることになります。

■いずれは北海道も標的に?

また、航路上にある北海道も同様に重要性を増すと思われます。ある中国高官は北海道の釧路に関して「将来は南のシンガポール、北の釧路といわれるような魅力がある」と発言し、駐日大使を2016年に釧路に派遣したことがあります。ただ、ここには日本・韓国・アメリカの海軍がすぐ近くに常駐しているため、中国が支配することは現実的ではないでしょう。

まとめ

中国軍は、米軍によって第一列島線の中に閉じ込められており、長期的にはこれを突破する目標を持っている。
マラッカ海峡は中国にとって最も重要な海峡であり、ここが閉鎖される危険(マラッカ・ジレンマ)を抱えている。この損失を最小限にするため陸路への転換を試みているが、依存から抜け出せてはいない。

南シナ海は広い割に陸地が少なく、空母を用いて制空権を確保する必要がある。
沖縄は中国本土に最も近い位置に米軍基地を擁する最前線の島々。特に宮古海峡と尖閣諸島は中国から太平洋への出口にあり、中国はここから米軍を追い出したい潜在意識を持っている。

■中国はなぜ台湾が欲しいのか

第一列島線を突破する上で、台湾には他のどの島をも上回る戦略的価値があります。中国沿岸部全体の中で、台湾はほぼ真ん中に位置していて、小さな島を除く陸地の中で最も中国本土に近い陸地です。また、沿岸部の北半分の港から出る船は多くが台湾海峡を通って南シナ海に進みます。中国にとっての台湾は、アメリカにとってのキューバのようなものです。

台湾・高雄市の空撮写真
写真=iStock.com/shih-wei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shih-wei

台湾は台湾海峡とルソン海峡という2つの大きな航路に面します。もし台湾が外国勢力の手に渡るようなことがあれば、中国はさらに脆弱な状況に陥ります。だからこそ、現状、アメリカや日本が台湾を守るためにさまざまな支援を施していることは、アメリカ人や日本人が思う以上に、中国を刺激するのです。

逆に、中国が台湾を自らの手に収めれば、第一列島線を一気に破ることができます。台湾は太平洋に直接面しているため、その東岸に海軍基地を設ければ、中国海軍は太平洋に安全に出られるようになります。現状では中国は、バシー海峡と宮古海峡から米軍に見つからずに出ることに腐心しています。

台湾侵攻の過程
出所=『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』

■「台湾侵攻は倫理的に正しい」

しかし、台湾が手に入ってしまえば、そもそもそのような悩みすら不要になります。アメリカから見れば、これは海の万里の長城の真ん中に大きな穴が開き、遊牧民が雪崩れ込んでくるようなものです。そうなれば、米中の勢力圏の境界は一気に第二列島線(伊豆諸島、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニア)まで後退し、第一列島線内の米軍駐留基地(沖縄、フィリピンなど)を守ることがますます難しくなります。

社會部部長『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』(サンマーク出版)
社會部部長『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』(サンマーク出版)

「中国の夢」を唱え、習近平氏の考えにも影響を与えているといわれる劉明福大佐は、「統一は平和よりも尊い」、つまり、「台湾を武力統一することは倫理的にも問題ない行いだ」と主張します。アメリカ人は「『平和的解決』『平和的統一』だけが許され、武力を行使してはならない」と言いがちです。

しかし劉氏からすれば、「中国以外のいかなる国、とりわけアメリカにはそのようなことを説教する資格はない」ということです。なぜなら、アメリカには南北戦争という武力を行使して国を統一した歴史があるからです。南北戦争の際には、奴隷制を廃止したい北部の人々に対し、奴隷制を維持したい南部の人々が独立を宣言し、「アメリカ連合国(南部連合)」なる国の成立を表明しました。

■「分かれること久しければ必ず合し…」

これに対し、北部の人々は平和的解決は最初から捨てて、武力による統一を目指しました。「統一は平和よりも尊い」からです。劉氏に言わせれば、台湾は中国版の南部連合であり、北の大陸を占める中国はかつてのアメリカ(北軍)と同じことをしているだけなのです。三国の史実を描いた明時代の小説『三国志演義』の冒頭にはこう綴(つづ)られています。

そもそも天下の大勢は、分かれること久しければ必ず合し、合すること久しければ必ず分かれるもの。

中国は分裂と統一を何千年も繰り返してきました。2049年で中国は成立から100周年を迎えます。中国としては、それまでに国を「必ず合さ」なければならないのです。

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社會部部長(しゃかいぶぶちょう)
YouTubeチャンネル「社會部部長」。一切の素性を隠したままわずか30本ほどの動画で33万人登録、3000万回再生を達成した今最も注目される歴史・地政学解説チャンネル。

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(社會部部長)

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