「金正恩の最新兵器」がロシアの誤爆で鉄クズに…捕虜になった北朝鮮兵士が収容先で漏らした"意外な要求"
プレジデントオンライン / 2025年2月5日 7時15分
2024年12月20日に撮影され、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が21日に発表した写真。北朝鮮の金正恩委員長が松川郡に完成したばかりの地域工業工場を視察している。 - 写真=KCNA VIA KNS/AFP PHOTO/時事通信フォト
■多大な犠牲を出しても突き進む北朝鮮軍の奇異な戦術
ニューヨーク・タイムズ紙は、クルスク地域で戦闘を展開する北朝鮮軍の実態について、ウクライナ軍兵士らの証言をもとに詳細な分析を報じている。
同紙によると北朝鮮軍の戦闘手法は、現代戦の常識からかけ離れているという。彼らは最新の装備に頼らず、第二次世界大戦さながらの徒歩による突撃戦法を主体としている。40人を超える大規模な部隊を一斉に投入しているが、これはドローンの標的になった場合、大量の死傷者を生むため現代戦では不利とされる。
さらに北朝鮮兵は、敵の重火器や地雷による激しい攻撃を受けても、決して後退せずに前進を続けるという。敵のドローンに対しては、意図的に囮の兵士を差し出し、別の兵士が撃墜する原始的な手法で対処している。
こうした独特の戦術を持つ北朝鮮軍はまた、ロシア軍との連携においても深刻な問題を抱えている。言語の壁に加え、訓練方法や軍事文化の違いにより、実質的に独立した戦闘部隊として行動せざるを得ない状況が続く。
前アメリカ国防総省国際安全保障担当次官補のセレステ・A・ウォランダー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、「(北朝鮮とロシアの)両軍は、共同訓練や作戦の経験がない上、ロシアの軍事文化には他国部隊の能力や規範を軽視する傾向があり、それが問題をより深刻にしています」との分析を示した。
対策として北朝鮮のグループ内に通訳・通信担当者の配置を始めたものの、ウクライナ軍のアンドリー指揮官は「こうした対策は、戦場では実効性がない」と指摘している。即時の意思疎通が求められる戦場において、通訳を挟んだコミュニケーションには限界があるとの指摘だ。
■ロシア軍が金正恩の最新兵器を破壊
高い言語障壁により、ついには友軍であるロシア軍に誤爆を受ける事態が発生した。米フォーブス誌は、ロシア軍が北朝鮮軍の最新鋭防空システムを誤って破壊したと報じている。
現場となったロシア西部クルスク州では、北朝鮮の第11軍団約1万2000人がロシア軍の作戦支援にあたっている。この部隊は、独自開発した防空車両を配備していた。車両の基本設計は、ロシア製の短距離防空ミサイルシステム「Tor(トール)」を踏襲したものだ。
フォーブス誌の報道によると1月10日頃、ロシアのドローン部隊がこの防空車両を敵の装備と誤認。攻撃を加えて破壊したという。同誌は、「ロシアの無人偵察機が北朝鮮の車両を発見し、攻撃して破壊した」と言及。「カスタマイズされた北朝鮮の『Tor』は非常に珍しいため、ロシア軍自身は自国のものだとは認識していなかったようだ」と分析している。
ロシア軍は当初、西側製のレーダーシステムを破壊したとの成果を主張していた。だが、実際に破壊したのは北朝鮮版のTor地対空ミサイル(SAM)システムだった可能性が極めて高いという。
ポーランドの軍事分析家はソーシャルメディアのXで、「自国のシステムを基に開発された装備を攻撃するという皮肉な結果となった」と指摘。誤爆の理由については、クルスクのロシア軍ドローン部隊に対し、「この珍しい北朝鮮のシステムの配備について事前の通知がなかったのではないか」との見解を明らかにした。
ロシア軍との意思疎通がままならず、足の引っ張り合いを演じている実態を鮮明に物語る一件だ。
■「最後の1発は自決用に」北朝鮮兵士に徹底された教育
北朝鮮兵はまた、コミュニケーション以外でも独特な側面を持っている。捕虜となることは国家への裏切りであると洗脳され、万一の場合には自爆するよう指示されているようだ。
英インディペンデント紙によると、ウクライナ特殊作戦部隊はクルスク地域での戦闘後、戦死した北朝鮮兵士たちの遺体を調査した。この最中に、生存者を1人発見。しかし、救助しようとウクライナ軍が近づいた瞬間、その兵士は手榴弾を起爆させ、自ら命を絶ったという。
衝撃的な行為だが、兵士個人の判断ではなく、北朝鮮当局の指示によるものであることが判明している。ロイター通信の報道によれば、韓国の与党「国民の力」所属で国会情報委員会委員を務めるイ・ソングォン議員は、戦死した北朝鮮兵士の遺品から発見されたメモの分析結果を共有。メモに記された内容から、敵軍に身柄を確保されそうになった場合、自爆や自殺をするよう北朝鮮当局に指示されていることが裏付けられたという。捕虜になることを避け、敵軍の交渉材料とされないための指示とみられる。
さらに、2022年に亡命した元兵士であり、北朝鮮軍の内部事情に詳しいキム氏は、同記事のなかで、次のように証言している。「軍内では捕虜になることが最大の裏切り行為とされています。そのため、『最後の1発は必ず自決用に残しておけ』という教育が徹底されているのです」
■ソーセージだけは手放さなかった
自決命令の理由について、韓国のシンクタンクであるアサン政策研究院の防衛アナリスト、ヤン・ウク氏は、次のような見解を示す。兵士たちの自決は、単に金正恩体制への忠誠を示すためだけではない。捕虜として生き残れば、本国に残された家族への過酷な処罰が待っている。そのため、多くの兵士が家族を守るための最後の選択として、自決を迫られているという。
こうした事例から浮かび上がるのは、個人の意志を剥奪され、まるで金正恩政権に忠誠を誓う機械のように仕立てられた北朝鮮兵の姿だ。もっとも、厳しい立場に置かれた北朝鮮兵たちは、ときに人間味ある一面を見せることもあるようだ。英テレグラフ紙がその一例を報じている。
ウクライナ軍の精鋭部隊である第95空挺強襲旅団は1月11日に実施された作戦で、北朝鮮兵2名の身柄を確保した。塹壕で発見された一人目の兵士は、頭部と腕に負傷を負っていたという。同旅団の兵士は、捕虜として捉えた際のエピソードを語る。
「手榴弾とナイフ、ソーセージを所持していた北朝鮮兵に、全てを地面に置くよう命じました。ですが、彼は『これは食料だ』とばかりに、ソーセージだけは決して手放そうとしなかったのです。仕方がないので、そのまま持たせておくことにしました」
食糧難が常態化している北朝鮮で生まれ育ったこの兵士は、食料だけは無駄にできなかったようだ。
■「韓国のロマンス映画を見せてほしい」
徐々に人間性を取り戻したという別の北朝鮮兵の話も報じられている。コールサイン「デッド」を名乗るウクライナ軍空挺兵は、テレグラフ紙に対し、「道路への連行中、(捕らえた捕虜が)突然走り出して、コンクリートの柱に頭から突っ込んでいったのです」と振り返る。
自決用の武器を所持していなかったことから、頭を打ち付けて命を絶とうとしたようだ。衝突で意識を失った兵士だが、時間をかけて手厚い治療を施し食事を与えると、次第に落ち着きを取り戻していった。
その後の顛末について、パブロと名乗る別のウクライナ軍兵士は、「韓国のロマンス映画を見せてほしいと頼まれました」と明かす。一時は自害を試みたが、徐々に余裕が出てきたようだ。取り調べでは、2人とも「ロシアでの軍事訓練のため」という説明を受けており、実戦参加の可能性については知らされていなかったことも判明した。
ロシア軍からは、北朝鮮出身であることを隠すための偽の身分証を支給されていたという。ロシアと北朝鮮は双方とも、北朝鮮兵のウクライナ派兵を公式に認めていない。
ウクライナ侵攻の初期には、訓練と偽って戦場に連れて行かれたというロシア兵らの話が報じられた。北朝鮮兵らも同様に、実戦とは聞かされず、突如前線に送られているようだ。
■ロシア兵より充実した装備
一方で、当初は言語障壁などからロシア軍の足手まといになるとみられていた北朝鮮兵らの戦闘能力が、意外にもウクライナの脅威になっているとの報告も出ている。
理由の1点目は、想定外に充実した装備だ。ウクライナ特殊部隊第8連隊第1大隊の隊員ブラド氏は、ワシントン・ポスト紙の取材に対し、皮肉を込めてこう語る。「ロシアは北朝鮮兵に対して『お客様第一(best for the guest)』の態度を取っているかのようです。自国の兵士たちが粗末な装備で戦っているというのに、北朝鮮兵には高性能の装備を惜しみなく与えているのです」
ウクライナ特殊部隊が死亡した北朝鮮兵を検査したところ、最新のロシア製アサルトライフル2丁に加え、ウクライナ製のナイフ、防弾チョッキ、応急手当キット、軍事ID、シャベルなどを所持していることが明らかになった。また、北朝鮮兵は防寒対策も整えており、雪に溶け込むための白い迷彩服を着用していたという。
北朝鮮兵を侮れない理由の2つ目に、戦術面での著しい進歩が挙げられる。戦線への投入直後、大規模な集団で行動していた北朝鮮軍は、ウクライナ軍のドローン攻撃で大きな損害を受けた。しかし、それを教訓として素早く戦術を変更。ワシントン・ポスト紙は、今では高度な戦闘準備態勢と卓越した射撃技術を持つ精鋭部隊へと変貌を遂げたと評価している。
■進化する北朝鮮軍を侮れない
北朝鮮軍の急速な進化は、緻密な分析に基づいていた。ウクライナ軍が押収した作戦文書には「現代戦ではリアルタイムの偵察とドローン攻撃が常用手段となっている。大きな損失を避けるためには、戦闘チームを2~3人の小規模ユニットに分散させることが不可欠だ」との記述が残されていた。
最後に、戦闘意欲が低いと言われるロシア軍に対し、「将軍様」への忠誠を誓う北朝鮮兵の熱量は高い。米シンクタンクの大西洋評議会によると、実戦で北朝鮮軍と対峙したウクライナ軍将兵たちは、その戦闘能力の高さに舌を巻いているという。
ウクライナ軍のヤロスラフ・チェプルニー報道官中佐は、米政治専門メディア「ポリティコ」の取材でこう評価している。「彼らは若く、意欲的で、体力に溢れ、何より勇敢です。小火器の扱いに長け、規律も徹底している。歩兵に求められる資質を、余すところなく備えているのです」
■ロシア支援は名ばかりの口実…同床異夢の北朝鮮
もっとも、ウクライナで共闘する北朝鮮とロシアは、同床異夢の状態だ。大西洋評議会の分析によれば、北朝鮮はウクライナへの戦争参加について、表向きはロシア支援という大義名分を掲げつつも、その実は自国の軍事力を飛躍的に強化する絶好の機会と捉えられている可能性が高い。
背景には、北朝鮮軍の深刻な課題がある。130万人という世界最大級の現役兵力を誇る北朝鮮軍だが、実戦経験の不足が致命的な弱点とされてきた。そのため、ウクライナでの実戦は、戦術の近代化を進める機会となっているのだ。
太平洋評議会は、軍事支援の見返りとして北朝鮮が、二重の利益を享受していると分析する。一つは破格の報酬だ。韓国の情報機関が明らかにしたところによると、ロシアは北朝鮮の兵士1人あたり月額2000ドル(約31万円)という、北朝鮮の水準からすれば破格の給与を支払っているという。その大半は金正恩政権に搾取されているとみられている。
もうひとつの利益に、軍事技術の獲得がある。北朝鮮は部隊派遣の見返りとして、防空システム、潜水艦、ミサイル技術といった最新の軍事技術をロシアから得ているとされる。
この協力関係は、北朝鮮の武器開発にも新たな展望を開いている。自国製の武器がロシア軍によって使用される様子を直接観察できることで、品質向上のための具体的なデータが得られる上、現代の戦場に適した生産体制の確立も可能になる。加えて、実戦を経験した兵士たちが帰国後、その知見を教官として伝える体制も整備されつつある。
■「本格的な実戦経験を積んだ」という指摘も
太平洋評議会は、こうした北朝鮮の着実な軍事力強化に対し、国際社会からは深刻な懸念が示されていると指摘する。アメリカの政府高官らは「北朝鮮の周辺国に対する軍事的脅威が格段に高まる」と警戒を強めている。最新技術が投入される現代戦を経験し、ドローン戦術に対しても対応力を付けることで、北朝鮮軍の実戦能力が急速に向上する可能性が危惧されている。
ウクライナ軍事情報機関のアンドリー・ユソフ報道官は、「数十年ぶりに本格的な実戦経験を積んでいる北朝鮮軍の存在は、ウクライナや欧州だけでなく、世界の安全保障における重大な懸念材料となっている」と警鐘を鳴らしている。
一連の報道から浮かび上がるのは、ウクライナ戦争を北朝鮮が、軍事力を向上させる機会として利用している現実だ。
表向きはロシアへの軍事支援という形を取りながら、北朝鮮は実戦経験と最新の軍事技術を着実に手に入れてゆくとみられる。金正恩氏への忠誠を誓う兵士らの学習能力の高さは侮れない。当初は古めかしい人海戦術で大きな損害を被りながらも、現代戦に適応すべく戦術を柔軟に進化させ、今や精鋭部隊としての評価を確立しつつある。
アジアへの影響も憂慮される。ウクライナ戦争を通じて北朝鮮が得た軍事力が、将来的に近隣諸国の安全保障の実態を大きく変える可能性は少なからず存在する。実戦経験を積んだ精鋭部隊の存在は、北朝鮮の軍事的脅威を一歩強めることになりかねない。
国際社会は、ロシアと北朝鮮の憂慮すべき軍事協力に対し、より効果的な対抗措置を講じる必要がある。ロシアに対する経済制裁の実効性を疑問視する声もあるなか、より実効的な安全保障戦略が求められている。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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