中尾ミエ◎、キムタク○、さんま×…中居正広引退で見えた「示談金返せ」並みにひどい二次加害コメント
プレジデントオンライン / 2025年1月31日 18時15分
■フジテレビ会見でも焦点になった性犯罪の「二次加害」とは?
2025年1月27日、10時間にもおよぶフジテレビの記者会見が開かれた。中盤で注目を浴びたのは、フリーランスのルポライターが20分以上にわたり、中居正広氏と被害者女性の間に起きたことについて両者の認識が「一致か不一致か、はっきり言うべきだ」と経営陣に迫った場面。そのあと、別のフリージャーナリストが、中居氏とフジの関わる「トラブル」の詳細や、被害女性との同意・不同意について踏み込みすぎると「二次加害」につながりかねないと指摘した。
会見では、以下の点が被害女性の特定につながり「二次加害」を引き起こしかねないとして、言及を避けるようにフジテレビ側から要請、もし言ってしまった場合は、10分遅れの中継ではカットされた。
・中居氏から被害を受けた女性は(元)フジテレビ社員か否
・社員だった場合、アナウンサーか
・彼女は中居氏と同じ番組に出演していたか
だが、被害者の氏名や所属が秘匿されていても「二次加害」が起こることはある。そもそも、昨今よく耳にする「二次加害」(セカンドレイプ)とは何だろう?
■中居引退発表時、男性タレントが次々に「残念コメント」を投稿
会見に先立つ23日、中居正広氏の引退発表前後から、男性タレントらによる不用意なコメントがテレビ・ラジオやSNSにあふれた。「(中居氏は)いい人」「正義の暴走」「集中攻撃」といったものだ。
俳優の要潤はXで、中居氏について「人格者でスター」「加害者も被害者も救済を受けられる社会に」とエールを送った。
「その言葉ぜんぶが被害者への二次加害でしかないよ」「要潤、ヤバいな。何で加害者が救われないといけないんだよ」など、即座に炎上状態となり、要潤は投稿を削除して「感情だけで突っ走ってしまいました」とコメントした(むしろ良心的な対応を見せたともいえるだろう)。
■加害者をかばうコメントをなぜ公に発信してしまうのか?
他にも、明石家さんまは「中居は我々にとっては戦友やからね」、笑福亭鶴瓶は「相談してくれたらよかったのに」、放送作家の鈴木おさむが「(金スマの)視聴率へのこだわりは、僕が32年間やってきたすべての番組で間違いなくナンバー1」、落語家の立川志らくは「中居君の問題について『悪意には罪悪感があるから止まるが正義にはそれがないから暴走する』」「中居君は仕事を失った」、キックボクサーの那須川天心は「みんなして1人の人を叩いて集中攻撃して」「もっと自分を生きようよ」などと発言している。
音楽家の渋谷慶一郎にいたっては「示談金も守秘義務も踏み倒されて引退という私刑」という強い言葉で気持ちを表明。タレントの山里亮太は「いろんな話がバーッて出てきて、攻撃することで、こうやって、人が人生を終わらせられるっていうのは、すごく怖い」、お笑いタレントのエハラマサヒロは「合法的に人から全て奪える週刊誌。すごいぜ!」、古市憲寿などは「本当なら今頃は、『中居正広の土曜日な会』(……) #土曜日な会 をつけて今までの感想を投稿してくれたら」とXで中居ファンに向けて投稿の呼びかけまでしていた。
中居氏は芸能界を引退しただけで、亡くなったわけではない。追悼ではないのだから、励ましや引退を惜しむ言葉は、LINEや電話で本人に直接伝えればいい。なぜ公に向かって発信してしまうのだろう。
■「あんないい人が」は加害者への連帯、被害者への侮辱
二次加害とは、加害行為(一次加害)が表面化した際に、被害者が周囲から非難を受けて二次的に傷つけられることを意味する。
中居氏問題での著名人コメントの、どんな点が二次加害にあたるのか、かいつまんで解説しよう。
善人の彼に危害を加えられるなんて、被害者にもきっと落ち度があったのだろう、という印象を与える。
加害者(権力者)の優れた人格を強調することは、連帯を示し、仲間がたくさんいる、という表明になる。その結果、被害者の立場はますます弱くなる。
■当事者が謝罪した事実があるのに「真相はわからない」
被害者や報道が原因で中居氏が引退したかのように書くのは、他責だ。また、中居ファンのネガティブな感情を被害者に向けさせかねず、扇動の意味も持つ。
騒動が大きくなったのは、中居氏とフジの初動が悪かったためだ。そもそもの発端となった出来事をしなければよかったのだし、発覚後も誠実に対応していれば現在の事態には至っていないだろう。
芸能人はイメージや好感度を「商品」とする職業で、だからこそ得られる名声や報酬も大きい。中居氏はその価値を自ら傷つけたのだから、これまで通りの仕事ができなくなっても仕方ないのではないか。
中居氏の「トラブルがあったことは事実」「相手様に対しても心より謝罪申し上げます」という発表、彼の代理人弁護士のコメント、フジテレビやカンテレの会見、いずれを見ても、何らかの落ち度が中居氏とフジテレビにあったことは明らかだ。それでもなお「真相はわからない」と、繰り返すのは、あたかも「真実は別にある」かのように暗示し、事実を曲げようとする態度である。
■「示談」を盾に被害者を責めるのは、筋違いだ
多くの弁護士が指摘しているが、解決金等の支払いは、あくまでも、被害者が民事上の損害賠償請求をしないといった限定的な解決を意味する(示談の内容はケースバイケース)。出来事そのものが消せるわけではなく、倫理的責任は残る。
性犯罪は2017年から非親告罪となり、刑事告訴もありえる。また2023年7月13日には性犯罪に関する法律が再度改正されており、今回のケースは2023年6月発生ということだが、トラブル発生の日時によっては扱いがさらに変わる。
被害者が自ら名乗りもあげず、中居氏の名前も出さず、詳細も話していないのだから、この件において解決金は十分に効力を発揮しているといえるだろう。
■元SMAPの5名は二次加害に加担せず、沈黙を貫く
もし解決金の支払い時に秘密保持契約が結ばれていたとしても、締結以前に被害者が他に相談している可能性はある。またフジテレビ社内で対応していた案件なので、他の人から漏れた可能性もある。
なお、欧米ではワインスタイン事件(ハリウッドの映画プロデューサーが複数の女優たちに性加害をしていた)を受けて、性被害における秘密保持契約を禁止にする動きが始まっている。なぜなら犯罪の隠匿そのものにつながりかねないからだ。
性加害についての言及そのものを非難している。それについて話されると何か困ったことでもあるのだろうか?
一方で、中居氏と同じ元SMAPのメンバーの対応はというと、キムタク(木村拓哉)は沈黙を守り、草彅剛、稲垣吾郎、香取慎吾は「言葉にならない」、オートレーサーの森且行は、「驚いております。コメントは控えさせていただきます」にとどめた。出来事を矮小化したり、被害者女性をおとしめたりするような発言は一切見られない。
また、中尾ミエは情報番組で中居氏の行動について「ありえない」「先輩たちの事例に学んでいない」と断言し、二次加害コメントのあふれる中、Xでは「こういう(真っ当な)意見を聞くと安心する」といった意見が見られた。
著名人による二次加害コメントは男性によるものが多かったが、女性なら被害者の気持ちに寄り添って二次加害をしない、というわけでもない。一部の熱心な中居ファンによる誹謗中傷もネットにはあふれた。
■フジテレビ社員だった女性のSNSに、1万件以上の誹謗中傷
被害者と推定されている女性のインスタグラムには中居氏引退当日だけでざっと1万件以上の誹謗中傷コメントが寄せられた。「中居くんを引退に追い込んで満足ですか?」「示談金返せ」など、正視に耐えない言葉が並ぶ。
その一方で「二次加害しないで」「中居くんのやったことは悪いこと」「書き込まないで」とSNS上で呼びかける中居正広ファン、元SMAPファンも多い。
中居氏はその心あるファンに応えるためにも「二次加害しないように」といま一度呼びかけるべきではないか。引退メッセージで「全責任には自分にある」と書きつつ、文末の「さようなら……」で未練を暗示したことが、二次加害の呼び水となってはいないか。
■性加害に限って出てくる、加害者擁護のナゾ
交通事故や傷害事件では、「加害者はいい人」「示談金が払われたのだから言及するな」などといわないのに、性被害やセクハラ、痴漢犯罪などでは、特に男性からの擁護(二次加害)が起こりやすい。性的な領域で起こることは秘め事であってほしい、不本意なことも受け入れてほしい、という気持ちがどこかにあるのかもしれない。
ここには被害と加害の非対称性もあるだろう。例えば「レイプは魂の殺人」とも言われるように、被害者は確かに深い傷を受けているが、加害者は同じ行為を「これくらい」と小さく見積もる。だから加害者は被害を「ないもの」にしたがるのだ。
例えば、「和解とは 示談とは 守秘義務とは」とXに投稿したお笑い芸人の楽しんごは、かつて自身の暴行事件を週刊誌に報じられているし、「文春は、これで『してやったり』なのかね」と書き込んだ作家の乙武洋匡は、5人の女性との不倫を過去に取り上げられている。
加害をする側にとっては、被害というのは見えにくいものなのだ。そこに仕事や立場、著名かどうか、性別の違いなどが加わると、権力差はいっそう大きくなり、加害が透明化されやすくなる。
■もし相談を受けたら、被害者の心身の傷に寄り添う
あなたも職場や家族の前で、身近な人からハラスメント、痴漢被害、つきまといなどの相談を聞いた際に、この記事で取り上げたリアクションをしてしまうことはないか、ぜひ考えてみてほしい。
「○○さん(加害者)はいい人だよ」
「○○さん(加害者)がそんなことをするはずない」
「勘違いじゃない?」
「悪気はないよ。気にしないほうがいい」
「そんな場所にいった○○さん(被害者)も悪い」
「○○さん(被害者)ってそんなモテる(性的魅力を露わにする)タイプじゃないよね?」
これらの言い方はすべてNGだ。勇気を出して話してくれた相手は、おそらく二度とあなたに相談しないだろう。「この人にいっても無駄だ」と深く心に刻みつけられるからだ。
このようなケースでは、共感的に話を聞き、会社や学校などであれば組織のしかるべき窓口へつなぎ、危険度の高いときには警察や医療機関にも連絡することが重要だ。また、相談者の許可なく噂話を広めないことも心に留めておきたい。
■2025年を、日本の「二次加害予防」元年にできないか
フジテレビのCMは約70社が停止、その中でもキリンホールディングスはいち早く「なぜ出稿停止したのか」の理由をはっきりと表明し、この件は人権問題だと指摘している。
「セカンドレイプ(二次加害)」という言葉は、松本人志の性加害疑惑発覚後、2023年12月の「ワイドナショー」でもタレントの指原莉乃が用いて、被害者バッシングのひどさをたしなめていた。しかしその後、彼女は「ワイドナショー」に出ていない。
この1年間あまり、性加害に関するセカンドレイプがはびこり、それをやめるように指摘する声が上がってはかき消されてきた。2025年を、日本にとっての「二次加害予防」元年にすべきではないだろうか。
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ライター・コラムニスト
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。
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(ライター・コラムニスト 藤井 セイラ)
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