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認知症のトリガーは「老化」と「生活習慣病」だけではない…65歳以上に発症リスクが急上昇する"意外な原因"

プレジデントオンライン / 2025年2月10日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Popartic

ボケずに長生きするにはどうすればいいのか。免疫に詳しい大阪大学の宮坂昌之名誉教授は「認知症の代表例はアルツハイマー病だが、原因は解明されていない。ただ、最近わかってきたことがある。“ウイルス感染が発症リスクを上げる”ということだ。なかには10倍以上発症リスクを上げる病気もある」という――。

※本稿は、『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

■65歳以上の5人に1人は認知症

アルツハイマー病は免疫力低下によって起きるのでしょうか。

これに関しては話が複雑です。まず認知症について説明しましょう。

認知症というのは医学的には「病名」ではありません。脳の機能が低下したために、物事を認識する力、記憶力、判断力などが障害を受けて、日常生活に支障をきたすようになった「状態」のことです。

認知症は、最近どんどん増加しています。内閣府ホームページによると、日本の認知症患者の数は2012年ですでに450万人を超えて高齢者人口の約15%という割合だったのですが、2025年には約700万人となり、65歳以上の5人にひとりとなるといわれています。健康長寿社会の大きな敵です。

認知症は大きく分けて、血管型(=血管性認知症)とアルツハイマー型があります。

前者は、気づかないほど小さな出血や梗塞が脳の血管の所々で起こることによるもので、日本の認知症の2割ぐらいは血管型といわれています。その原因は主に生活習慣病で、特に糖尿病、高血圧、脂質異常症が大きなリスクファクターです。

■“血管型”は防ぐことができる

ということは、血管型は生活習慣の改善でかなり防げる可能性があるということです。

生活習慣病の根底には慢性炎症があるのですから、血管性認知症の原因に慢性炎症が関わっていると考えられます。生活習慣を改善し、慢性炎症を抑えることが血管性認知症の予防や進行を止めるために大事です。

一方、全体の6割以上を占めるといわれているのがアルツハイマー病による認知症、すなわちアルツハイマー型認知症です。原因不明です。

わかっているのは、アルツハイマー病の患者ではアミロイドベータというタンパク質が脳に沈着してアミロイド斑あるいは老人斑が増えていることですが、何がきっかけとしてこのようになるのかは不明です。この状態になると、周囲の神経細胞が死に始め、神経細胞が減って、記憶力や判断力の低下が起こると考えられています。

■ウイルス性脳炎で発症リスクは10倍以上に

ウイルス感染があると、あとになってからアルツハイマー病、血管性認知症やパーキンソン病などの神経系疾患の発症リスクが増加するというデータがあることが最近わかってきました※1(図表1)。

ウイルス感染とアルツハイマー病などの神経系疾患発症リスク
出所=『あなたの健康は免疫でできている』

フィンランドとイギリスのふたつのバイオバンク(FinnGenとUKB)のデータを解析して得られた結果です。

そのデータの一部を抽出して図に示します(図中の「ハザード比」とはそれぞれの病気が起きるリスクを示す。1は変わらない、1より大きいとリスクが上がる、たとえば2だとリスクが2倍上がることを示す)。

これまで、ウイルス性脳炎を起こすと、あとになってアルツハイマー病を発症するリスクが10倍以上高くなることが報告されていましたが、今回の報告でもこれが確認されました(FinnGenのデータではリスクが約30倍、UKBのデータでは約20倍)。

■炎症があると認知機能がさらに低下する

さらに、インフルエンザにかかって肺炎を起こした人は、アルツハイマー病、ALS、認知症、パーキンソン病、血管性認知症になるリスクが約2倍から数倍増えていました。

また、帯状疱疹になった場合も、種々の神経系疾患の発症リスクが有意に高くなっていました。

これに加えて、すでにアルツハイマー病になっている人では炎症があると認知機能の低下がさらに進みやすくなることがわかっています。たとえば、炎症性サイトカインが血液中で増えているアルツハイマー型患者の認知機能は、炎症のないアルツハイマー型患者に比べて低下の度合いが大きく、逆に炎症性サイトカインが低い患者では、経過観察期間中に認知機能の低下がほとんど見られなかったそうです。

■インフルエンザの予防接種は有効か

これらのことから、ワクチンが存在する感染症については中高年の人たちはワクチン接種をして感染リスクを下げておくことが必要です。そのことをはっきりと示すデータがアメリカから出ています。

これは2009年から19年の約10年間に65歳以上で6年以上認知症の症状がなかった集団から約93万例のインフルエンザワクチン接種有りと無しのペアを偏りがないように選び(平均73.7歳、56.9%女性)、その後のアルツハイマー病の発症頻度を比較したものです。

その結果、65歳以上の集団ではインフルエンザワクチン接種の回数が増えるに連れてアルツハイマー病の発症頻度が下がっていました※2(図表2)。

インフルエンザワクチンの接種回数とアルツハイマー病の発症頻度
出所=『あなたの健康は免疫でできている』

■「炎症予防」がボケない近道

つまり、インフルエンザワクチン接種はアルツハイマー病の発症防止に有効であったということです(おそらくワクチン接種がインフルエンザ発症リスクを下げ、あるいは重症化リスクを下げ、このために二次的にアルツハイマー病の発症リスクが下がったと考えられます)。

インフルエンザワクチンの摂取がアルツハイマー病の発症リスクを下げるしくみ
出所=『あなたの健康は免疫でできている』

以上、ウイルス疾患などが原因で炎症が続くと、アルツハイマー病の悪化につながります。しかし、免疫力の低下そのものがアルツハイマー病の発症を起こしているのではないようです。

アルツハイマー病の原因は不明ですが、炎症の存在自体が発症のきっかけとなったり、認知症の症状の進行を進めたりするようなので、慢性炎症を抑えることが大事です。食べすぎ、飲みすぎは避けて、定期的に運動することを心がけましょう。

■タンパク質が脳内で沈着している

アルツハイマー病は抗体で治療することができるのでしょうか。

アルツハイマー病の原因はいまだに不明です。前に触れたように、わかっているのはアルツハイマー病患者の脳ではアミロイドベータというタンパク質が沈着していることで、このことから最近はアミロイドベータ沈着が病気の原因かもしれないと考えられ始めています。

アミロイドベータは健康な人の脳でも作られていますが、通常は脳に蓄積されずに脳外に排出されます。ところがアルツハイマー病患者ではなぜかアミロイドベータ同士がお互いにくっついて凝集体を作り、これが神経細胞(ニューロン)にからみついて脳からうまく排出されなくなります。

この過程で神経細胞が死に始め、脳が次第に萎縮してきて、認知症が進行していきます。

■年間300万円の治療薬

このことから最近、アミロイドベータの凝集体形成を抗体投与によって阻害する試みが行われています。アミロイドベータが凝集体を作る前あるいはその過程で抗体を作用させ、これによってアミロイドベータの凝集体形成を抑えて(脳内沈着を抑えて)脳外に排出させてしまおうというものです(図表4)。

アルツハイマー病の抗体医療とは?
出所=『あなたの健康は免疫でできている』

日本のエーザイとアメリカのバイオジェンという会社が開発したレカネマブというモノクローナル抗体がこの目的で使われています。2週間に1回、静脈内投与します。

会社からの発表によると、第三相臨床試験(くすりの有効性・安全性を調べる臨床試験の最終段階)においてレカネマブ投与によりアルツハイマー病患者の認知機能の低下進行を有意に抑えられたとのことです。

最近、日本でも使用が認可され、医療保険が適用されるようになりました。しかし、レカネマブの薬価は高く、1年間の治療費が300万円ぐらいになります(保険適用後の自己負担額は3割負担で約10万円となります)。

■“魔法の薬”といえるのか

現時点では、いったん抗体投与を始めた時にいつまで続ける必要があるのか、あるいはいつやめたらいいのかに関する臨床データがないので、多くの人が治療を開始した場合には国全体の医療費高騰につながる可能性があります。

宮坂昌之『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)
宮坂昌之『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)

これに加えて、もうひとつの懸念は副作用です。

抗体投与を受けた人たちの一部で脳の萎縮が見られています。

また、アミロイドベータは血管壁にも沈着するためか、レカネマブ投与によって血管壁がもろくなって微小出血が見られた例も報告されています。

たとえ認知症の進行が抑えられたとしても、脳神経系の機能に影響するような副作用が出るのであれば、これは慎重に考える必要があります。

テレビ、新聞、雑誌などではアルツハイマー病に対する魔法の薬が出たかのようにしばしば報道されていますが、まだそこまではいえません。今後の結果を待ちたいと思います。

【参考文献】
※1 Levine KS etal, Neuron, 111(7):1086, 2023
※2 Bukhbinder AS etal, J Alzheimers Dis, 88:1061, 2022

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宮坂 昌之(みやさか・まさゆき)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授
1947年、長野県生まれ。京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所を経て、大阪大学医学部教授、同大学大学院医学系研究科教授を歴任。著書に『ウイルスはそこにいる』(共著・講談社現代新書)などがある。

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(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授 宮坂 昌之)

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