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「テイラー・スウィフト効果」はもう意味をもたず…アメリカのZ世代がセレブの政治に疑問を向けるワケ

プレジデントオンライン / 2025年2月8日 8時15分

2024年9月11日、パラグアイ・アスンシオン:スマートフォンとモニターに表示されたテイラー・スウィフトのインスタグラムのカマラ・ハリスを支持する投稿。 - 写真=©Andre M. Chang/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

ドナルド・トランプ米大統領の再選が示すアメリカの変化とは何か。国際政治学者の三牧聖子さんは「BLM運動以降のアメリカでの抗議活動や社会運動は、『リーダーレス』であることをますます打ち出すようになっている」という――。

※本稿は、三牧聖子・竹田ダニエル『アメリカの未解決問題』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■アメリカではポップカルチャー政治はオワコン

【竹田】日本メディアはいまだに2020年的ポップカルチャー政治にしがみついていますよね。雑誌では政治に声を上げるセレブ特集が組まれ、テイラー・スウィフトが民主党支持を表すクッキーを焼いたことがすごく持ち上げられた。「Fuck Trump(くたばれ、トランプ)」のピンバッジをつけている人がクールだとか。でも今のアメリカはそんな生半可なことやってる場合じゃないだろう、と。

人権運動家のマララ・ユスフザイやアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)も問題になっています。AOCは学生運動への姿勢はまともですが、彼女は、イスラエルの防空システム「アイアン・ドーム」への資金提供法案をめぐって議会の場で泣きながら抗議しつつ「賛成」票を投じたのです。その一貫性のなさには批判が集まっています。マララ・ユスフザイはヒラリー・クリントンのイベントに登壇したり、ヒラリーと共同でミュージカルをプロデュースしたりして批判され、話題になりました。マララはその後、「私はパレスチナ支持です」とわざわざ声明文を出す羽目に。

【三牧】ヒラリー・クリントンの本性は、ガザ危機を通じて明らかになってきましたね。抗議デモに参加する学生を、「テロリスト擁護者」としてしか見ていない。イスラエルの「テロとの戦い」がどれだけパレスチナ人の犠牲を生み出してきたかもまったく語っていません。

■資本主義に乗って資本主義を批判する矛盾

【三牧】2021年、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動が盛り上がっていたとき、世界中のセレブが集結してファッションを競う祭典であるメット・ガラで、AOCが「TAX THE RICH(金持ちに課税しろ)」という文字の入った服を着て登場し、女性たちからの羨望を集めていた。そのときすでにダニエルさんは問題提起を始めていましたよね。

「そういうファッションとしての抗議はもうたくさん。会場の外では活動家たちが人種平等と警察改革を求めるデモを展開している。Z世代は、メット・ガラという資本主義のイベントに完全に乗っかって資本主義を批判することの矛盾に気づかず、してやったという気になっているAOCも含めてセレブらを冷めた目で見ている」と。こうしたダニエルさんの主張が、共感とともに批判も集めていた。「ファッションとしての抗議だって、やらないよりはいいじゃないか」と。

【竹田】あのとき私、炎上しましたよ。「日本人にとっては、こういう女性がいること自体がかっこいいし希望なんだから、バカにしないでください。私たちの気持ちを踏みにじらないでください」って。政治家と権力者に対してはもっと抗議してもっと求めるべきだと思うし、主義主張の矛盾やパフォーマンス的なムーブには批判的であってよいと思うのですが。

■「リーダーレス」とは「リーダーフル」である

【三牧】「私の気持ちを踏みにじった」という話になってしまうのは、実に残念ですね。もちろん自分の気持ちも大事ですが、社会運動へのかかわりは、「自分以外の人のこと」について考えることから始まるのではないでしょうか。「私の尊厳が傷つくから、私のやり方について批判的なことは言わないでください」と言われてしまうと、話が噛み合わず、社会問題の解決やよりよい社会の実現に向けて共に進むことは難しくなってしまいますよね。

【竹田】2020年のアメリカもそんな感じでした。その後議論が成熟した結果、当時の動きは所詮パフォーマティブ・アクティビズムだった、それでは意味がないという気づきを得たアクティビストたちが常に学び、方向転換していることで、社会運動は徐々に前進していると言われています。

【三牧】BLM運動以降のアメリカでの抗議活動は、公民権運動におけるキング牧師のようなカリスマがいるわけではなく、「リーダーレス」であることをますます打ち出すようになっています。それはつまり、「リーダーフル」でもあり、みんなが主体性を持って運動していくということでもある。日本でも、そうした視点を育てていく必要がある。

2020年6月1日、トランプ大統領が群衆の退散を命じた前後の「ブラック・ライブズ・マター」抗議デモ
2020年6月1日、トランプ大統領が群衆の退散を命じた前後の「ブラック・ライブズ・マター」抗議デモ(写真=Kurtkaiser/CC-Zero/Wikimedia Commons)

■批判とキャンセル・カルチャーは異なる行為

【竹田】真っ当な批判とキャンセル・カルチャーを混同している人が多いんですよね。

【三牧】マララさんのように、虐げられてきた女性の解放という社会的大義を公に訴えてきた人が、この局面でパレスチナ人の虐殺をほとんど肯定しているクリントンとコラボするというのは、やはり問題ですよね。「女性の権利」を訴えているのに、イスラエル、それを軍事的に支えるアメリカに抑圧され、殺されているパレスチナ人女性のことはまったく視野に入っていない。

【竹田】政治家などの公人、マララさんのように自ら代弁者として行動している影響力のある人に対して批判的なまなざしを向け、多くを求めるというのは、民主主義国家の国民としての基本姿勢ですよね。それなのに、第二次世界大戦中の大本営発表を鵜吞みにするみたいな感覚がいまだにあるのか、権力者への冷静な目線が欠けているというか。

■結局は構造の問題である

【三牧】人間、正解に行き着くまでには、時間がかかることは多々あります。今回のガザ危機に際してのサンダースはその端的な例です。彼は当初、イスラエルの自衛権を主張してその軍事行使を正当化するような主張を展開し、支持者からも批判を受けました。

そうした批判、そしてパレスチナ人の犠牲が甚大になるにつれ、自らの過ちに気づいたのでしょう、ほどなく「自衛」では到底正当化できないガザでの軍事行動に率直に反対するようになった。権力者への批判を「キャンセル・カルチャー」として一律に封じようとするのは不当です。心ある政治家は市民の批判に応えて、ちゃんと行動を修正するのです。

三牧聖子・竹田ダニエル『アメリカの未解決問題』(集英社新書)
三牧聖子・竹田ダニエル『アメリカの未解決問題』(集英社新書)

【竹田】「キャンセル・カルチャー」という言葉が、日本で変に根づいてしまっていますね。「ポリコレ」「多様性」と同じような響きで、「時代にちょっとついていけないだけで失脚させられる」とか。

アメリカでは、映画監督のウディ・アレンのようにキャンセルされた人でもまだちゃっかり力を持ち続けているし、性的暴行で告発されたアーミー・ハマーなどの俳優も徐々にハリウッドに復帰しつつある。キャンセル・カルチャーなどというものは存在しなかった、結局は構造の問題なのだ、というところまで議論が成熟しているのですが、日本ではそのような権力構造に対する議論はあまり見かけません。

【三牧】政治の動きを真面目に追っていれば、「かつては支持していたけど、もうこの人は支持できない」ということはいくらでもある。むしろ、腐敗しきっている自民党についてはもっと評価の修正、つまり「手のひら返し」が行われるべきではないでしょうか。

(2024年5月収録後、加筆修正)

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三牧 聖子(みまき・せいこ)
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授
1981年生まれ。専門はアメリカ政治外交史、国際関係。東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科博士過程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。著書に『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)、『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(共著、集英社新書)、共訳・解説書に『リベラリズム 失われた歴史と現在』(青土社)など。

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竹田 ダニエル(たけだ・だにえる)
ジャーナリスト、研究者
1997年生まれ。米国・カリフォルニア出身、在住。カリフォルニア大学バークレー校研究員。著書に『世界と私のA to Z 』(講談社文庫)、『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』(集英社)など。

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(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授 三牧 聖子、ジャーナリスト、研究者 竹田 ダニエル)

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