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だから私はふるさと納税もキャッシュレスもやらない…人気作家が「あえて今、現金主義」を貫くワケ

プレジデントオンライン / 2025年2月8日 9時15分

「ふるさと納税はしていません」と言う作家の林望さん 出典=『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』(朝日新書)

世間の風潮はなぜ、キャッシュレス化に向かうのか。『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』(朝日新書)を上梓した作家の林望さんは「できるだけ人件費をカットしたい銀行がアプリ決済などを勧めている。要は、銀行自体が儲けるためにしていることだ」という――。

■ふるさと納税はやりません

宝くじは買いますが、ふるさと納税はしていません。

ふるさと納税は2008年から始まった制度で、総務省の資料によると、2022年度のふるさと納税寄附額は約9654億円、納税寄附件数は約5184万件、利用者数は約891万人とのことです。

確定申告をすることで、所得控除が受けられるため、結果的に自己負担額2000円で牛肉や豚肉、くだものなど、日本各地の美味(おい)しいものが食べられるのですから、人気があるのもわかります。

もちろん、返礼品は食べ物だけではありません。各地のユニークなものがもらえたり、サービスを受けたりすることができます。本書をお読みになっている方の中にも、ふるさと納税経験者がいらっしゃるかもしれませんね。

しかし、私は最初に書いたように、ふるさと納税はしません。

過疎地なので税金があまり入ってこない。しかし、自分のふるさとだから、なんとかふるさと応援のためにお金を送りたい。自分がいま住んでいる所ではなく、ふるさとに送りたい……それが、2008年当時の総務大臣だった菅義偉(すがよしひで)さんが、基本的にやりたかったことだと聞いています。

■ふるさと納税で一番儲かるのは誰か

ところが、返礼品のほうが大きく取り上げられてしまい、本末が転倒してしまった。

それで、ふるさと納税で商売する輩が出てきた。結局、一番儲かるのは業者でしょう。それでなければ事業が成立するわけがない。そこにおいてこのやりかたは間違っていると思います。こういう人の善意ですることにつけこんで、儲け仕事にしようという業者があるということ自体、有るまじきことと私は考えます。だからしません。

たとえば、今、能登(のと)にお金を送りたい。そう思ったら、義援金として寄付すればいいだけのことです。見返りを期待しないで。それが正しいでしょう?

郵便局に行けば、どこに振り込めばいいか、どこが義援金を必要としているか、詳しい情報もわかります。

たとえば、ふるさと納税で10000円払って3000円の物が来た場合、3000円の物を10000円で買ったのと一緒です。逆に相手にしてみたら、せっかく10000円貰えるところを3000円損したことになります。

だから、そんなことはしないで、始めからちゃんと目的を決めて寄付にすればいいわけです。日赤とかそういうところへの寄付だったら、ちゃんと税制上も控除にもなります。そういうふうに、もっとまともなことのために金は使ったほうがいいと思います。

ふるさと納税するくらいだったら、地元のお店から直接買ったほうがいい、と私はそのように確信的に思っています。

■銀行も信用していません

私は銀行もけしからんと思っています。

先日、定期預金を解約するためある銀行へ行った際にこんなことがありました。

それはちょうど昼過ぎの繁忙時間でしたが、窓口が7つあるのに、開いているのはたった2つだけ。1つが普通預金、もう1つが定期預金に対応していたのですが、私が並んでいた定期預金のほうの列が、こまったことに、全く進まないのです。

じっと観察していると、一人のご高齢の婦人の対応に手間取っているようなのだけれど、さすがに1時間ほど経って「いくらなんでも待たせすぎだから、もう一つの窓口を開けて対応してもらえませんか?」と銀行の案内係のような人に伝えたのでした。

しかし、彼は「申し訳ありません。少々込み合っておりまして、順番にご案内しておりますので、いましばらくお待ちくださいますか」なんて決り文句を繰り返すだけで、窓口のほうにはいっこうに伝達する様子もなく、待てど暮せど誰も出てきはしない。

それで結局、定期の解約をするのに2時間近く待ちました。これはもう定期解約の客などはできるだけ嫌がらせて解約を諦(あきら)めさせようという腹なのではないか、と私は疑いました。それで、こんなふうに、お客をいたずらに待たせて、待つのが嫌ならば「こちらの新しいカードになさいませ」というように誘導しようとしているのではないか……と思わず疑ったほどです。

銀行の窓口
写真=iStock.com/olga zaporozhskaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olga zaporozhskaya

■「便利さ」をしきりにアピールする銀行

この銀行では、現在、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードといった機能をあわせ備えたナンバーレス・キャッシュカードをしきりと推奨しています。これは、その口座の情報を、すべて所定のアプリで管理する仕組みになっているといい、しかも、そのキャッシュレス決済でポイントも貯まれば、NISAなどの運用資産もこれでできます、というような「便利さ」をしきりにアピールしているのです。

そうして、「スマホを読み取り機にかざすだけで、支払いが完了するタッチ決済ができて便利です」「タッチ決済はお待たせしません」という点も強くアピールしています。

しかし、冷静に考えてみるとかなり怖いことです。そういうことが他人に悪用される恐れが決してないと言えるのかどうか……いや、たしかに便利は便利かもしれないけれど、それ以前に、いちいちアプリなどを入れたりして、あれこれとやらなくてはならないというのは、私のように、そういう煩雑(はんざつ)な手続きを苦手としている、とくに高齢者たちにとっては、非常にやりにくいところがあります。

だからといって、それを誰か他の人にやってもらったりすると、悪用する人が決してないとも言えないにちがいない。だから、そういうシステムを「当然のこと」として、なんでもそちらへ誘導しようとしている、社会全体の風潮そのものが、もう私には親しみがもてません。

■銀行協会は史上最高の大黒字

それにつけても、銀行内の窓口の様子を見ていても「どうしてお客の数に比して、こんなに銀行員が少ないのだ?」と感じるわけです。

ははーん分かった、要するに、銀行は人件費を節約したいし、待つのが嫌ならオンラインにしたらどうだと誘導しているのであろう!

結局のところ、よくよく考えてみれば、それもこれも、銀行が人件費をできるだけカットしたい、そしてお客にアプリ決済などを勧めて、要は銀行が儲けるためにしていることに相違ないのです。

2023年は銀行協会は史上最高の大黒字だったというニュースを見ました。

それも、しかしひどい話です。

よろしいか、なにしろ私どもユーザーから預った貯金には事実上利子など付けず、それでいて、自分の金をATMで引き出すだけで、一年分の利子の何十倍もの手数料をとっているのですからそりゃ儲かったでしょう。そのうえ、もっと儲けるためには銀行員を減らせばいい。で、支店も減らせば経費がかからないし、手続きなども全部オンラインにしていけば、それはもちろん銀行は儲かるでしょう。

ATM
写真=iStock.com/Brostock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brostock

■キャッシュレスに伏在するリスク

もとはもっと数多くの都市銀行がありましたが、平成時代に銀行の大合併が行われて、いくつかの大銀行に収束したのが現在の姿ですが、どうもそのもともとのシステムの銀行間の不整合がどこかに残っているらしく、ために突然システムダウンするというようなことが現実にいくらも起こっています。

林望『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』(朝日新書)
林望『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』(朝日新書)

そしてそういう不手際で顧客に多大の迷惑をかけておいても、なんの補償もしないという、このあこぎなる体質には、はなはだあきれ果てるばかりです。それゆえ、銀行の言いなりになって、すべての取引をオンラインだけにしていたとしたら、もしそのシステムがダウンしたり、あるいは外国の黒い組織からハッキングされたりしたら、当座に必要な現金を出すのも入れるのもできなくなってしまう。

キャッシュレスという現今の風潮の背後には、そういうのっぴきならないリスクが伏在しているのだということを、まずもってよく認識していなくてはなりますまい。人間のやることはミスの絶無ということはどうしたって保(ほ)しがたい。

人間はあやまりを犯す存在なのです。あるいは、悪意で人の口座から金を盗みとったり、組織のシステムに入り込んで悪さをしたりする組織的犯罪だって、世界中にいくらも発生しているではありませんか。

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林 望(はやし・のぞむ)
作家・書誌学者
1949年、東京生まれ。作家。国文学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国文学。著書に『イギリスはおいしい』『節約の王道』『「時間」の作法』など多数。『謹訳 源氏物語』は源氏物語の完全現代語訳、全10巻既刊9巻。

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(作家・書誌学者 林 望)

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