まるで正義のヒーロー気取り…「フジ会見」をおもちゃにしたクレーマー記者がこれから払う“大きすぎる代償”
プレジデントオンライン / 2025年2月5日 7時15分
■記者会見がエンタメ化している
『女性セブン』『週刊文春』の報道に端を発した、中居正広さんによる女性トラブルが尾を引いている。中居さんは芸能界引退を発表したが、社員の関与が疑われているフジテレビの姿勢に疑問が相次ぎ、ついにはフジによる「やり直し会見」での一部記者の態度に波及した。
筆者はネットメディア編集者として、あらゆる謝罪会見での質疑応答や、それをめぐるSNSの反応を見てきたが、ここまで話題となった会見は珍しい。なぜ盛り上がったか、背景を考えてみると、「会見のエンタメ化」が高まった結末に思える。
■10時間半のほとんどが「カオス」だったフジの会見
フジによる最初の会見は、取材陣を限定することで、極めてクローズドに開催された。しかし、それに批判が相次いで、開かれた形での会見を実施。その様子はフジが、看板の「月9」ドラマを休止してまで、事実上の生中継(被害女性らのプライバシーを守るために10分遅れで放送)が行われた。
その長さ、なんと10時間半。「炎上ウォッチャー」を自称している筆者は、当然ながらリアルタイムで全編を見たが、会長・社長の辞任以外、ほとんど新情報が出ることはなかった。そもそも、日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会が設置され、そちらでの調査結果が出る3月末になるまで、フジテレビは新たな情報を出しようがない。いくら質問されても、ほとんどの返答が「結果待ち」となることは予想できた。
新情報が現れない一方で、一部記者の質問姿勢に注目が集まった。なかなか質問そのものに入らず、長々と持論や叱咤激励を行う者もいれば、指名されてもいないのに延々とヤジを飛ばす者、文春などの報道では「被害女性」の素性が明かされていないにもかかわらず、ネット上でウワサされている人物であるという前提のもとで質問する者など、「カオス」としか言えない場面が、10時間半のほとんどを占めた。
■「記者会見は生放送」が当たり前になった
会見を最初から最後まで見て、感じたことは「記者会見のエンタメ化」が、行くところまで行ってしまったなとの印象だ。これまでもYouTubeなどネット配信される会見では、「質問と称する要求」が飛びかっていた。
しかし今回、フジテレビが「月9ドラマ」も飛ばしてまで、全編中継したことにより、図らずも現代日本のジャーナリズムが抱える問題点が、ネットを見ない層にも伝わったと言えるだろう。
なぜ、こうした事態になったのか。その背景には「会見中継の一般化」と「メディアへの参入障壁の低下」がありそうだ。これらが掛け合わさった結果、記者会見がエンタメ化したと、私は考えている。
「一般化」から見てみると、テレビ全盛期の記者会見は、最初から最後まで全編中継されることが少なかった。ちょうど生放送番組とタイミングが合えば、その部分だけは流されるが、随時CMが挟まるうえに、番組枠も限られる。結果として、頭を下げる場面や、弁明する発言のように、音楽でいう「サビ」の部分だけが、ニュース番組で流されるのが定番だった。
それが、ライブ配信が普及して以降、注目の会見は始めから終わりまで、リアルタイムで中継されることが一般的になった。2019年の吉本興業「闇営業」問題や、2023年の旧ジャニーズ事務所の性加害問題、中古車販売業「ビッグモーター」の保険金不正請求問題などを、ネット配信で見た人も多いだろう。
■誰でも記者を名乗れ、配信できるように
そこに重なるのが、「参入障壁の低下」だ。ネットを主戦場とするビデオジャーナリズムの動きは、民主党政権による行政改革で会見オープン化が図られたことで加速し、東日本大震災と福島第一原発事故で定着した。
一方で2010年代前半における会見のリアルタイム化は、資本力や技術力、もしくは「それを上回る熱意」を持つ、一部の人物のみに限られた。しかし2010年代後半に入り、在野ビデオジャーナリストの主戦場が、USTREAMからYouTubeへ移るとともに、簡素な機材でもライブ配信が容易になった。
そうした環境の変化によって、「一億総(自称)ビデオジャーナリスト」の時代が訪れた。注目されるごとに収益が増えていく、いわゆる「アテンションエコノミー」を追い風に、さらなるインパクトを求めるYouTuberも増えて、「迷惑系」と呼ばれる新勢力も参入した。
■飯の種である「チャンネル登録者」しか見ていない
プレーヤーの多様化によって、会見を「新たな情報を手に入れる場」ではなく、「爪痕を残すことで存在感を示す場」と位置づける人々も増えていった。彼ら彼女らが見ている先は、不特定多数の「情報を知りたい人々」ではなく、「自分に利益を与えてくれるチャンネル登録者やサブスク会員」だ。
特定の顧客に対するパフォーマンスの場として、公であるはずの会見を用いる。それが、フジ会見がカオス化した背景にある、大きな要因ではないかと筆者は見ている。
■「登壇者は悪者に違いない」という先入観
質問した人間が爪痕を残しているかは本来問題ではない。重視されるべきは、カギとなる発言を引き出せるかどうかだ。しかし、エンタメ化した会見で、その評価軸になるのは、相手からの「キャッチーな返答」だ。
会見によっては、十分に情報公開がされている、もしくは情報を出しようもないため、「ゼロ回答」となることも珍しくない。そんな時でも、「自分の質問によって、相手が動揺する様子」を用意できれば、ファンに対して顔向けできる。たとえ突拍子もない質問で、回答のしようもない内容であっても、答えに窮しているように見せられれば、支持者は「何か隠している。そこを突いた記者はスゴイ」と喝采する。
こうした構図の下地にあるのは、「圧倒的ヒールである登壇者は、たたかれてしかるべきだ」との正義感だ。ここ数年の謝罪会見に対して、視聴者は「必ずツッコミどころがあるはず」という先入観を持っている。
認識が定着した転換点は、理化学研究所のSTAP細胞疑惑、兵庫県議の「号泣」、そして作曲家のゴーストライター問題といった記者会見が相次いだ、2014年だったと考えている。それ以前にも「ささやき女将」(船場吉兆・2007年)、「私は寝てない」(雪印乳業・2000年)など、後年まで「ネタ」にされる謝罪会見はあったが、より視聴者の視線が鋭くなったのは、このタイミングだとみている。
■「予定調和」を乱すために躍起になっている
その後、東京都の豊洲市場移転問題(2017年ごろ)をめぐる小池百合子知事の会見などから、テレビも「同時中継」を行う機会が増えたと記憶している。これは謝罪ではないものの、前都政からの不祥事として「築地か豊洲か」の二者択一で描かれていたため、まさにエンタメ的に認識していた人も多いのではないか。
かくして会見は、エンタメ化した。その背景には、視聴者と取材者の利害が一致した「共犯関係」があるように感じられる。視聴者は「会見をもっと面白くしてほしい」、取材者は「よりセンセーショナルな言動を引き出さなくてはならない」といった意識を持ち、当初想定されていた「予定調和」を乱すべく、血道を上げている。
■エンタメ化の終着点は「閉ざされた記者会見」への回帰
当然ながら、本来の意図を離れた「会見報道」は、開催する側には望まれない。メディア側の人間からすれば残念だが、おそらく今後は、取材者を限定した「クローズドな会見」に回帰していくだろう。せっかく手に入れた情報アクセスの権利を、メディア側が雑に扱ったのだから仕方ない側面はある。
しかし、エンタメ的に楽しんだ視聴者も、その先ずっと支持してくれるとは限らない。熱が高ければ高いほど、ひとたび飽きてしまえば、一気に離れていく。とは言っても、よりセンセーショナルな見せ方をできるかのチキンレースでは、どこかで限界が訪れる。そこに残るのは、オワコン(終わったコンテンツ)と化した取材者と、閉ざされた会見場のみだ。
なにより、コンテンツとして消費されてしまえば、その後には教訓も何も残らない。本来であれば、今回のフジ会見は「企業コンプライアンスの教材」として学べるはずだが、映像として目立った「記者の不規則発言」にフォーカスされてしまえば、焦点がブレてしまう。こうしたエンタメ化による弊害を考える上でも、エポックメイキングとなった会見と言えるだろう。
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ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)
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