佐藤優「トランプが世界に一定の平和をもたらす」ロシア・ウクライナ戦争は停戦に向けて急展開へ秘策
プレジデントオンライン / 2025年2月6日 8時15分
※本稿は、佐藤優『いまと未来を読み解く!新 地政学入門』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■トランプ政権カムバック
2024年11月の大統領選で、カムバックを果たした共和党のドナルド・トランプ大統領。ロシア・ウクライナ戦争とガザ紛争の停戦に向けた彼の動きが今注目されています。果たして、この2つの戦いを解決するための秘策を、彼は持っているのでしょうか?
![イラスト=『いまと未来を読み解く!新 地政学入門』(Gakken)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/1200wm/img_f1c8c85ee769086dc4e93a9dbf44aec6408155.jpg)
2024年11月、民主党のカマラ・ハリス候補を破って、ドナルド・トランプは大統領に返り咲きました。トランプの帰還により、「ロシア・ウクライナ戦争」と「ガザ紛争」に大きな動きがあると予想されます。
ロシア・ウクライナ戦争に関しては、選挙中に「自分が当選すれば24時間以内に戦争を終わらせる」とトランプは豪語していましたが、おそらく彼により停戦が早まるでしょう。ガザ紛争に関しては、バイデンの休戦要請を拒否してきたイスラエル首相のネタニヤフも、友好関係にあるトランプの声には耳を傾けるかもしれません。
民主党のバイデンのように西側的な民主主義の理念を他国に押し付けることをせず、トランプは自国の利益を第一に考えるアメリカ・ファーストを実行するでしょう。現実的な利益に基づく「取引(ディール)」を軸とするトランプの姿勢は、世界に一定の平和(恒久的ではないかもしれませんが)をもたらす可能性が高いです。
■二国間交渉を重視するトランプ外交
トランプはNATO(北大西洋条約機構)やWTO(世界貿易機関)などの多国間同盟よりも2国間での直接的な外交を好みます。自国の利益を優先するトランプの姿勢は、ロシアや中国、北朝鮮などの強権(独裁)主義国家との親和性が極めて高いのです。
■トランプの勝因
2024年11月5日に行われたアメリカ大統領選挙において、共和党のドナルド・トランプが民主党のカマラ・ハリスに勝利しました。大接戦になると予想されていましたが、蓋を開けてみればトランプの圧勝でした。
トランプの勝因はいくつか挙げられます。バイデン政権下ではインフレによって日に日に物価が高くなり中産階級以下の生活が苦しくなっており、また、中国からの生産物の大量流入によって米国内の工場地帯で多くの失業者が出ていました。トランプは、これら経済的な問題を解決する能力があると見なされたのです。
さらに、不法移民が米国内に多数流入したことで下層労働者の仕事が奪われてしまったという現状も、かねてから移民を抑制すると主張していたトランプにとって追い風になりました。
また、従来、トランプは有色人種の有権者からの支持を得ることができていないと考えられていましたが、今回の選挙では一例としてウィスコンシン州における黒人票の獲得率が前回選挙の時よりも14%も上昇、ネバダ州やアリゾナ州のような激戦区でもヒスパニック系有権者からの支持を伸ばすことに成功するなど、非白人票を多く獲得できたことも勝因といえます。
![イラスト=『いまと未来を読み解く!新 地政学入門』(Gakken)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1200wm/img_b04647c146c87e5be4d88549b14e15f5647656.jpg)
■Keypoint トランプの強権政治でアメリカの分断化は進むのか
トランプの勝利によって、富裕層と下層労働者階級、民主党支持層と共和党支持層など、社会のさまざまな局面で「分断」が加速することが懸念されています。このまま分断化が進めば、南北戦争以来の内戦に近い状態に陥るかもしれません。トランプ政権がこれを乗り越えることができるのか、それとも分断がさらに深刻化し、回復不能な状況になってしまうのか。予断を許さない状況が続きます。
■ディール外交で早まる和平への道
上でも述べたように、トランプの当選でロシア・ウクライナ戦争は停戦に向けて急展開を迎えると思われます。
![佐藤優『いまと未来を読み解く!新 地政学入門』(Gakken)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1200wm/img_41f57918821f63441f5c5d369ca6d4a6290601.jpg)
トランプは国際協調を無視して、単独で得意な取引(ディール)を用いて、第一次政権下でも友好関係にあったプーチン大統領と直接対話を行いつつ、ゼレンスキーを説得するかもしれません。その場合、ウクライナは、今後長期間NATO加盟を認められず、ロシアに占領された領土の割譲も条件に含まれる可能性があります。これに対してゼレンスキーは「早期終結ならウクライナが大幅な妥協を強いられる」と、トランプに対して警戒感をあらわにしています。
一方、トランプは中東の安定化のために、ガザ紛争で凍結されていたイスラエルとサウジアラビアとの国交正常化を促進するために動くと思われます。もちろん、喫緊の課題はガザ紛争を終わらせることですが、こちらはイスラエルによるハマスの無力化によって早晩実現するでしょう。
また、自国優先の立場から、日本や韓国など同盟国への軍事費の増額を迫る可能性があります。
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■Keypoint イスラエルとサウジの歴史的和平
アラブ諸国は近年、イスラエルに接近し、2020年にアラブ首長国連邦などが国交を正常化しました。そこで優先されたのは、パレスチナ国家樹立の「大義」よりも安全保障や経済面での実利でした。そうした流れは中東の盟主サウジアラビアにも波及し、イスラエルとの国交正常化に向けた動きが始まりました。しかし、2023年10月に勃発したガザ紛争で交渉は振り出しに戻ってしまいました。バイデン政権がなし得なかったサウジ・イスラエルの国交樹立を、トランプが実現させたら、中東の対立の構図を根底から変える「歴史的和平」となるでしょう。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で国策捜査の裏側を綴り、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)
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