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4人に1人が「性的関係の強要」「ホテルや自室への呼び出し」を経験…芸能界「衝撃のアンケート結果」

プレジデントオンライン / 2025年2月9日 7時15分

418件の回答、出典=一般社団法人日本芸能従事者協会「芸能・芸術・メディア業界のハラスメント実態調査アンケート2022」

フジテレビの問題だけでなく、芸能界ではセクハラを含むハラスメントが多い。現役の俳優として活動しつつ、一般社団法人日本芸能従事者協会を設立し、芸能界の働き方改革を進めてきた森崎めぐみさんは「2022年にハラスメントについてのアンケートを行ったところ、性的関係を強いられたと答えた人が418人中106人もいるなど、驚くべき実態が見えてきた」という――。

※本稿は森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■フリーランスが多い芸能界ではハラスメント対策が進まなかった

芸能業界のハラスメントは、長い間、顕在化しませんでした。決してハラスメントがなかったのではありません。可視化するためのハードルが高かったのだと思います。ハラスメントと一口にいっても、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)、パワー・ハラスメント(パワハラ)、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)、モラル・ハラスメント(モラハラ)、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)など、さまざまな種類があります。

セクハラについては、1999年に改正男女雇用機会均等法が施行され、事業主に対するセクハラ防止措置が義務化されました。

職場におけるパワハラについては、2019年に労働施策総合推進法が改正され、2020年に大企業の事業主にハラスメントの防止措置が義務づけられました。そのときは努力義務だった中小事業主も、2022年には義務化されました。そのため研修や相談窓口の設置が進んでいきました。

一方、企業で雇われる人が少ない芸能業界は取り残されていきました。さらにインターネットやSNSが普及すると、芸能人がSNSの公式アカウントを持つようになり、誹謗中傷によるハラスメントが頻発して、いっそう深刻になっていきました。

■ハラスメントの実態を明らかにするためアンケートを始めた

被害があるからルールを作らなければならない。しかし、そのためには、政府や国民の誰もが立法の必要性に納得する必要があります。どう見ても法律が必要だと思うほど事例がたくさんなければならないのです。それを数字と事例で表現しなければならない。

逆に言うと、これまでデータがなかったから、法律に守られなかったと言っても過言ではありません。私はアンケートの重要さに目覚めました。

いくら俳優として表現力があって、セリフや役柄を見事に演じても、ここでは意味がありません。今は数字と事例で表現しなければならない、そう腹をくくってアンケートに取り組み始めました。

■仕事上の守秘義務があるので、アンケートも行われなかった

これまで日本の芸能界についてのアンケート調査はほとんどありませんでした。芸能人は仕事上の守秘義務を課されるケースが多く、アンケートがあっても回答することに気後れする空気がありました。そのせいで実態が顕在化するのがいっそう困難になったのかもしれません。

ところが近年インターネットが進んだことで、紙の回答用紙を回収したりファックスや郵便でやり取りをしたりしなくても、気軽に調査ができるようになりました。プライバシーを気にする芸能人でも、個人情報が追跡できない設定のオンラインなら、クリックして回答を選んでもらうだけで、データ収集が簡単にできます。

このようなメリットのあるインターネットのアンケートならば、タブー視されて答えづらいであろうハラスメントの調査が実現可能になると判断しました。

【図表2】ハラスメント実態調査アンケートの回答者業種
418件の回答、出典=一般社団法人日本芸能従事者協会「芸能・芸術・メディア業界のハラスメント実態調査アンケート2022」

■芸能界に色濃く残るパワハラを6つの分類に当てはめた

2018年に厚生労働省は、パワハラを含んだハラスメントを明確に定義しました。大きな特徴はパワハラを6類型に分類していることです。これは世界に例のない分類方法でした。

芸能分野にはパワハラは色濃く残っています。独特な徒弟制度が残っているため、技術を継承する場合などに優越的な関係が生まれやすく、指導中に勢い余って手が出たり暴力が発生してしまうこともあるでしょう。長時間労働をさせられて疲れていたら、イライラして怒鳴ってしまうこともあるでしょう。

したがって、私が代表をつとめる日本芸能従事者協会が2022年に実施したアンケートには、相当数の回答があるだろうと予想していましたが、一方でなかなか答えづらい気持ちを察して、答えやすいように6類型のそれぞれに該当する具体例を、芸能分野にありそうな内容を質問に入れ込んで、イエスかノーで直感的に答えられるようにしました。

パワハラの類型は6つあります。

第1類型:身体的な攻撃[暴行・傷害等]
第2類型:精神的な攻撃[脅迫・名誉毀損(きそん)・侮辱・酷い暴言][性的なうわさを流された]
第3類型:過大な要求[不要・遂行不可能なことの強制][身体的な危険を伴うことをさせられた][脱いだら仕事が増えると言われた][同意なくヌードを撮られた]
第4類型:人間関係からの切り離し[無視]
第5類型:過小な要求[「男のくせに」「女には仕事を任せられない」などと言われた]
第6類型:個の侵害[酒席でお酌・デュエットなどの強要][仕切りがないところで着替えをさせられた][性的指向や性自認を話題にされた・からかわれた][トイレがなく野外での排泄(はいせつ)を余儀なくされた]

これらの言葉を自分で書くとなると躊躇しそうな内容ばかりですが、○か×かチェックするだけで答えられる形式にしたところ、418人のうち最大83.0%の方からイエスの回答が得られました。

■ハラスメント加害者で一番多いのは「監督・演出家・スタッフ」

2022年に実施したアンケートでは、回答者の職業の属性を分野別に整理しています。

森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)
森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)

そこには2つの試みがあります。

1つ目は、それまでの調査で芸術と芸能の境が曖昧で答えづらい方がいるため、両方を併記するようにしたこと。2つ目は、芸能界に隣接するメディア業界にハラスメントの加害者と被害者が交錯したケースが多く見受けられたことから、メディア業界の方も対象にしたこと。

その結果、各業界においてハラスメント行為が多いのは次のような職業の方々だったと回答されました(複数回答、417名)。

1 監督・演出家・スタッフ 246名(59.0%)
2 上司・先輩・マネージャー 245名(58.5%)
3 同僚・後輩・同業者 160名(38.4%)
4 プロデューサー・キュレーター 104名(24.9%)
5 発注者・取引先・クライアント 102名(24.5%)
6 経営者 50名(12.0%)
7 取材対象者・監修者・著者等 4名(8.2%)
8 評論家 20名(4.8%)
9 スポンサー 15名(3.6%)
10 コレクター 6名(1.4%)

以上の回答は、たとえば映画、演劇、音楽、テレビ番組、ドラマ、美術、文筆、出版、舞踊、コマーシャル、新聞などの多種多様な分野から寄せられました。このような回答は、受注形態が複雑化した業界の構造を感じさせる結果でもあります。

【図表3】「誰からのハラスメントでしたか」の回答(複数回答可)
417件の回答、出典=一般社団法人日本芸能従事者協会「芸能・芸術・メディア業界のハラスメント実態調査アンケート2022」

■具体的なハラスメント被害、セクハラも50%以上の人が経験

被害内容はセンシティブな内容を含むので回答しやすい質問にしました。具体的な被害をハラスメント類型別に質問した結果は、多い順に次のとおりです(複数回答、417名)。

1)精神的な攻撃[脅迫・名誉毀損・侮辱・酷い暴言] 346名(83.0%)
2)容姿・年齢・身体的特徴について話題にした・からかわれた 238名(57.1%)
3)過大な要求[不要・遂行不可能なことの強制] 233名(55.9%)
4)性経験・性生活の質問・卑猥(ひわい)な話や冗談 211名(50.6%)
5)人間関係からの切り離し[隔離・仲間外し・無視等] 207名(49.6%)
6)プライベートへの詮索・過度な立ち入り 201名(48.2%)
7)不必要に身体に触られた 148名(35.5%)
8)過小な要求[職能・経験・能力とかけ離れた仕事をさせた・仕事を外した] 132名(31.7%)
9)食事や交際をしつこく求められた 120名(28.8%)
10)経済的な嫌がらせ 118名(28.3%)

11)「男のくせに」「女には仕事を任せられない」などと言われた 117名(28.1%)
12)身体的な攻撃[暴行・傷害等] 111名(26.6%)
13)性的関係の強要 106名(25.4%)
14)酒席でお酌・デュエットなどの強要 102名(24.5%)
15)ホテルの部屋や自室・酒場に呼ばれた 99名(23.7%)
16)性的なうわさを流された 69名(16.5%)
17)身体的な危険を伴うことをさせられた 69名(16.5%)
18)性的指向や性自認を話題にされた・からかわれた 62名(14.9%)
19)仕切りがないところで着替えをさせられた 54名(12.9%)
20)出先・住居等までつけまわされた[ストーカー行為] 47名(11.3%)

21)レイプ[同意のないセックス]をされた 46名(11.0%)
22)脱いだら仕事が増えると言われた 40名(9.6%)
23)性器・自慰行為を見せられた 31名(7.4%)
24)産休・育休・介護休暇の取得を拒否・嫌がらせ 29名(7.0%)
25)ヌード写真を見せられた 24名(5.8%)
26)同意なく露出の高い衣服を着せられた 21名(5.0%)
27)妊娠を告げたら仕事を切られた 18名(4.3%)
28)トイレのない場所での野外での排泄を余儀なくされた 17名(4.1%)
29)同意なくヌードを撮られた 9名(2.2%)

ホテルの寝室
写真=iStock.com/igoriss
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/igoriss

これらは非常に言いづらい内容です。多くの方がよく答えてくださったと感動しました。

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森崎 めぐみ(もりさき・めぐみ)
俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事
映画『人間交差点』で主演デビュー。キネマ旬報「がんばれ!日本映画スクリーンを彩る若手女優たち」に選出。テレビ『相棒』、舞台『必殺!』など多数出演。代表作は映画『CHARON』。2021年に全国芸能従事者労災保険センターを設立。文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」委員。著書に『芸能界を変える――たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)がある。

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(俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事 森崎 めぐみ)

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