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「ドラマの衣装合わせで下着を脱がされ…」芸能界にあふれるひどすぎるハラスメント被害の実態

プレジデントオンライン / 2025年2月10日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ppengcreative

テレビで放送される映像など華やかな表舞台だけを見ていると、舞台裏で起きているハラスメントには気づかない。芸能従事者やメディア関係者にアンケートを実施した森崎めぐみさんは「パワハラや深刻な性被害を含むセクハラの実態が寄せられた。私が芸能界で仕事をしてきた実感からも納得できる内容だった」という――。

※本稿は森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■芸能界におけるハラスメントの温床とは何か

芸能界、文化芸術、メディアで働く人へのアンケート(2022年)の回答を分析する過程で、具体的なハラスメントの種類や発生場所、行為者の属性などに規則性が見られることがわかり、全体の構造の中で、どの現場でどういった被害が起こりやすいのか、おおよその分布が把握できるようになってきました。いわゆる「温床」と言われるシチュエーションが想像できるようになってきたのです。いわばハラスメントマップが描けるようになってきました。

被害が起きているハラスメントの種類は次のとおりでした(複数回答、411名)。

1)パワー・ハラスメント 383名(93.2%)
2)セクシュアル・ハラスメント 302名(73.5%)
3)モラル・ハラスメント 256名(62.3%)
4)セカンド・ハラスメント(二次被害) 143名(34.8%)
5)アカデミック・ハラスメント 85名(20.7%)
6)マタニティ・ハラスメント 75名(18.2%)
7)カスタマー・ハラスメント 74名(18.0%)

いずれもあまりにも甚大な数字で驚くばかりです。一方で現場にいる身としての肌感覚では納得のいく数字で、この程度は起こっているだろうと感じます。やはりデータになると客観的に考えられると実感します。

■「ドラマの衣装合わせで下着を脱がされた」など被害の声

自由記述に寄せられた被害事例には次のようなものがあります。

パワハラの声

「『わきまえろ!』と暴言を吐かれた」
「撮影現場で四六時中、怒号や怒声が鳴り響く」
「演出家にカバンで殴られた」
「2、30人の受講生がいる前で、平手打ちをされた」
「グループLINEで『使えないやつ』と言われた」
「電話で『クズ、役立たず』などの暴言を吐かれた」
「髪の毛をつかまれて部屋中を引きずり回された」

セクハラの声

「ドラマの衣装合わせで、仕切りをつけてもらえず下着を見られたくなくて恥ずかしがっていたら、『女優の○○さんは堂々と人目を気にせず脱いでいた。女優はそうでないと』と言われ、下着を脱ぎ裸を数人に見られた」
「脱ぐ演出を強要された」
「仕事で激しい絡み(ラブシーン)が多く、彼女にトラウマを植え付けてしまった。(絡みがしたくて)役者をやっていたのではない」
「合宿先で無理矢理セックスをされた」

■弱い立場の俳優がキスを強いられ、レイプされたケースも

モラハラの声

「友達家族との連絡を禁止」
「『お前と芝居をやりたいと思っている人はいない』と否定される」
「稽古場でみんなの前で演出家が特定の俳優のパフォーマンスを徹底的に罵倒し、精神的に追い詰めて降板に至らしめた」

マタハラの声

「妻の妊娠のため、公演の参加回数を減らしたい、次回公演を休みたい、と申し出たら拒否された」
「面倒くさいから妊娠しないでね、と言われた」

優越性のあるハラスメントの声

「ノーギャラでの脚本執筆依頼」
「大学のゼミの担当教員によるアカハラ」
「展覧会キュレーターによるセクハラ」
「演出家にマッサージを頼まれてホテルの個室や自宅に行かなければいけなかった」
「演劇の現場で、演出家に高圧的な態度を取られ精神的に追い込まれた。その後、約3年にわたりフラッシュバックが起き不安定な精神状態が続いている。しかも出演料が支払われなかった」
「酒席の死角でディレクターに抱きつかれキスを強要された。無名俳優だから手を出しても問題にされないだろうと見下されているようでした」
「フリーランスの立場なのだから『仕事が欲しいなら従え』とレイプされた」

どれも壮絶な内容で目を疑う読者もいらっしゃると思いますが、日頃受ける相談内容や見聞きしていることから考えると、事実かどうか疑う余地はありません。

■頼れる相談先がないから、ハラスメントが減らない

ハラスメントが減らないことの大きな要因として、相談先がないことが非常に大きいと考えられます。

ハラスメントを受けたとき誰に相談したかを質問すると(複数回答、251名)、ほとんどが家族・友人・知人(65.7%)、所属先・現場の関係者(50.2%)でした。専門家(医師カウンセラーなど13.1%、弁護士・社会保険労務士8.0%)、第三者機関である自治体などの相談機関(6.4%)や、労働組合や所属する団体(6.4%)、警察(4.4%)に相談した人は限られています。解決につながりやすい、加害者が所属する会社などの相談窓口に行った人も5.6%と非常に少ないです。

相談しなかった理由は(複数回答、255名)、相談しても解決しないと思った(66.7%)や、相談することで人間関係や仕事に支障が出ることを恐れていたり(63.5%)、不利益をこうむる恐れをもつ人が約半数(47.8%)いました。そもそも相談先がわからなかったり(36.5%)、被害による精神的ショックから話せる状態になかった人(25.9%)や、証拠がないから諦めた(21.6%)といった人も多いです。

被害が多いわりに相談できていないことが非常にアンバランスで、解決の糸口がなかなか見えない実態が明らかになりました。

【図表1】「ハラスメントを受けたとき誰に相談しましたか」の回答(複数回答可)
出典=一般社団法人日本芸能従事者協会「芸能・芸術・メディア業界のハラスメント実態調査アンケート2022」
【図表2】「相談しなかった理由は?」の回答(複数回答可)
出典=一般社団法人日本芸能従事者協会「芸能・芸術・メディア業界のハラスメント実態調査アンケート2022」

■「こういう業界だからというイメージを払拭すべき」という意見

では、どうしたらよいのか。回答(複数回答、416名)にはハラスメント防止対策や解決方法の提案として、ハラスメント研修(67.3%)や相談窓口の周知(64.2%)、契約書の明示(56.5%)などがありました。他にも発注側に相談できる窓口を設置する案(38.0%)やアンケート調査の実施(28.8%)を求めています。

たとえば、「抜き打ち調査や個別の聞き取りをする」「こういう業界だからという内外のイメージを払拭する」「規則や労働基準を明確に決めておく」「加害者の氏名の公表」「アンガーマネジメント講習の実施」「メディアを横断的に監査する仕組みを作る」「加害者の報酬の減給や解雇」「加害者に病的症状がある場合は加療を義務にする」などの意見もありました。

被害者への支援として希望されていることには(複数回答、415名)、秘密が守られる相談窓口(81.2%)や、相談による不利益や報復を受けないルール作り(79.0%)、調査機関の設置(68.4%)などの声が多いです。

また、カウンセリング料金の保証(61.4%)や、被害に対する補償(医療機関の受診・休職)を求める声が多く(59.8%)、休業補償(48.4%)や、復職の保証(46.0%)も求められています。

重篤な被害でメンタルを病み、自死された方もいることから当然の要望と思います。

寝室の女性
写真=iStock.com/pocketlight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pocketlight

■多くの芸能人はハラスメント防止措置の対象外だった

芸能界のハラスメントの調査結果は非常にセンセーショナルで、公開すると大きな話題になりました。その後、芸能界にハラスメント事件が起こるたびに、新聞などで引用されました。

先にも述べたように、かつてフリーランスは男女雇用機会均等法に定めるハラスメント防止措置の対象外とされました(2024年11月施行のフリーランス法で防止措置の対象になった)。ILO(国際労働機関)は「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶に関する条約」を採択したものの、日本は条約が求める国内法にハラスメント行為の禁止規定を作らなかったことで条約を批准できていません。

森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)
森崎めぐみ『芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)

2019年の国会では衆議院と参議院ともに附帯決議がつけられ、フリーランスと就活生、教育実習生は労働者に準じて保護されることが望ましいと記載されるにとどまりました。

多くの方が勇気をもって回答してくださったアンケートを政府に手渡して「こんなに困っている人がいるんです。どうかお願いします」と平身低頭に頼みましたが、壁を乗り越えることはできず、労働者ではなくフリーランスであることを理由に、ハラスメント防止措置の対象にはなりませんでした。こんなに言いづらいことをアンケートに告白してくださった回答者に申し訳ない思いでいっぱいで、一人一人に会って謝りたい気持ちでした。

その後、こういったアンケートは少しずつ増えていきました。米国の#MeTooのようにいきなり大きな運動にはなりませんでしたが、当事者たちの心を動かすことはできたのではないかと感じています。

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森崎 めぐみ(もりさき・めぐみ)
俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事
映画『人間交差点』で主演デビュー。キネマ旬報「がんばれ!日本映画スクリーンを彩る若手女優たち」に選出。テレビ『相棒』、舞台『必殺!』など多数出演。代表作は映画『CHARON』。2021年に全国芸能従事者労災保険センターを設立。文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」委員。著書に『芸能界を変える――たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)がある。

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(俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事 森崎 めぐみ)

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