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ネトフリに実力派俳優が出演する理由は「お金」だけではない…テレビドラマに起きている深刻な幼稚化

プレジデントオンライン / 2025年2月8日 7時15分

画像=Netflix「阿修羅のごとく」公式サイトより

TVerでの配信が好調なことから、各局でドラマの制作本数は増加傾向にある。ライターの吉田潮さんは「最近のテレビドラマには安易な設定のものや、登場人物の感情の揺れを極端に省いたものが散見される。力のある俳優たちが配信系のドラマに流れる傾向は今後も続くだろう」という――。

■「これぞ良質なドラマ」と感心したネトフリ作品

怒りの表現として、モノを投げる人がいる。決して褒められる行為ではないが、人様に向けて投げるのではなく、やり場のない怒りをこめて、ぶん投げるだけ。その勢いや衝撃でモノが壊れたり、周囲が汚れたりもするが、理性で止められないほどの瞬間的な強い怒りが伝わる。普段から温厚で穏やかな人や、感情を人前で出さない奥ゆかしい人が、怒りを露わにする表現として非常に有効である。

何の話かって、向田邦子脚本を是枝裕和監督が令和の時代に色鮮やかに蘇らせた「阿修羅のごとく」(Netflix)だ。この「投げる」の変格活用を用いていて、奥が深いなと思ったから。オープニングも実に象徴的である。宮沢りえ・尾野真千子・蒼井優・広瀬すずの4姉妹が「投げる」(すずだけは“殴る”)姿がスローモーションで映し出される。

劇中でも、秘めた怒りや、露わにしたら逆に自分が惨めになるような怒りを「投げる」ことで表現。向田脚本では投げていたが、是枝作品では投げないことで怒りの本質と矛先を再確認させ、人物の特性を引き出してもいた。

セリフで説明できるような怒りではないからこその「投げる」。女優たちが内なる感情を丁寧にじっくり演じることができる作品は、人物や背景に奥行きと余韻が生まれるんだよなぁと改めて噛みしめた。

で、ここからが本題。最近のテレビドラマはどうか、という話。ここ数年ずっと感じていることがあるので、4つの特徴をまとめてみようと思う。キーワードは「時短」。何事にも時短と効率を求めるせっかちな人を取り込む魂胆なのかなと。

■ヒロインが婚約者に逃げられる話ばかり

特徴その1 不幸のどん底スタートの安易さ

同じような始まり方の作品が定期的(周期的?)に制作されると、「なんかの宗教?」「テレビ局の中に経験者が多いの?」と思ってしまう。それが「結婚式直前の破談・ドタキャン・逃亡or駆け落ち」である。

ネタ的には、最も古い記憶で言うならば、ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』なんだけど、花嫁をかっさらうっつう名場面が有名ね。でも、あれは結末であって、冒頭ではない。しかも主人公がかっさらうほう。

昨今のドラマでは「ヒロインが新郎や婚約者に逃げられる」ところから始まる。つまり不幸のどん底(以下、茶化して「ずんどこ」と呼ぶ)スタートだ。幸福感に満ちた華やかでめでたい席から一転、というのは落差が激しくて、興味をひくからね。

チャペルで結婚式
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

たとえば、「忘却のサチコ」(テレ東・2017)は、ヒロインの高畑充希が結婚式当日に新郎に逃げられ、食べることで忘れようとする作品だ。グルメモノにしては角度のついた作品で、これはヒロインの心情変化と成長を見届けることができた。

ただ、「ユーチューバーに娘はやらん!」(テレ東・2022)では、ヒロインの佐々木希が結婚式の最中に新郎(細田善彦)を連れ去られ(新郎が交際していた男性に)、ソロ結婚式を挙げる羽目に陥るものの、結果的にはテレビマン(金子ノブアキ)とYouTuber(戸塚純貴)に好かれる展開で、共感は薄かった。

■怒りや悲しみが置き去りに

最近では「あのクズを殴ってやりたいんだ」(TBS・2024)がその類い。奈緒が演じるヒロインも結婚式当日に新郎(宮崎秋人)に逃げられる。新郎の浮気も発覚、怒りの鉄拳を浴びせようとするも、すっ転んで鼻血を出す始末。奈緒ほどの実力を持つ女優であっても、コントのような始まりに「そりゃないわぁ」と引いてしまった。

もちろん、結婚式ドタキャンは今に始まったことではない。すっかり忘れていたが、NHKの朝ドラ「私の青空」(2000年)でも、物語の冒頭ではないが「セックス・アンド・ザ・シティ」でも、逃げられたり、ドタキャンされていたっけ。

「幸せな門出のはずが不幸のずんどこ」は、ヒロインに同情や共感を集める迅速な仕掛けとしては優れているとは思うが、その後の描き方次第では安易な仕掛け倒れに終わる。怒りや悲しみが置き去りで、ヒロインにとって都合のいい方向へ向かいすぎると、「不幸のずんどこ詐欺」と言われても仕方ない。

■あり得ない幸運の連続

特徴その2 「ひょん」多発、あり得ない幸運とご都合主義

特徴その1と少しかぶるのだが、結婚式ドタキャンではないものの、恋人や夫の裏切りに遭ったヒロインが「ひょん」なことから人的もしくは経済的に恵まれるご都合主義がよく見られる。いや、ドラマって大概そういうもんだけどさ。

たとえば、「夕暮れに、手をつなぐ」(2023・TBS)では、幼馴染の婚約者を追って上京したヒロイン(広瀬すず)が、彼に手ひどくフラれる。が、上京後すぐにぶつかった男性と同じ音楽を聴いていたという奇跡。その男性の下宿先が資産家で芸術家の女性で、家も仕事も紹介してくれる幸運。

ついでに、ヒロインを捨てた母親は世界的デザイナーで、ヒロインにも服飾デザインの才能があるという偶然。宮崎から出てきた女性が家も仕事も都合よく手にするが、物語の主菜はとにかく恋なので、ありえない奇跡と幸運がさらーっと流されていく。

また、「プロミス・シンデレラ」(2021・TBS)では、二階堂ふみが演じたヒロインが夫に離婚を求められるところから始まる。パートの仕事はクビになり、ひったくりに全財産30万をとられ、公園で野宿生活。少々やりすぎのずんどこだが、ひょんなことから生意気な男子高校生に売られた喧嘩を買う。

その子は偶然にも高級老舗旅館の息子、挑発に乗ったらちゃっかり大豪邸に住み込みの仲居の仕事をゲット。しかもその兄はヒロインの初恋の相手っつう偶然。

ということで、「ずんどこからのひょん」ではヒロインたちが抱えたであろう怒りや悲しみが、奇跡や幸運の連続でうすーくかるーく縮小される印象がある。ご都合主義は、テンポのよい展開に見える反面、ヒロインの人格や感情が深掘りされにくくなるデメリットもあるのではないか。

ストリーミングサービスで番組を選んでいる手元
写真=iStock.com/Nanci Santos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nanci Santos

■朝ドラ史上最もやっかいな兄

特徴その3 傍迷惑な人物をぶっこんで緩急つける

「なぜそんなことをするのか」と常識を疑う言動の人物がいると、物語には勢いがつく。ただ、あまりに理解不能な行動だと、脳内は疑問符でぎゅうぎゅうに。

まずは、朝ドラ史上最もやっかいな兄が登場した「ちむどんどん」(NHK・2022)。

貧しい家庭に育ったヒロイン(黒島結菜)が沖縄から上京した途端、路頭に迷うが、同郷の名士や善人に救われて難を逃れる。諸悪の根源は竜星涼が演じたヒロインの兄、通称クズニーニー。ヒロインの足を引っ張りまくり、他人様を巻き込んで、金銭トラブルを次から次へと運んでくる最凶の兄。

傍迷惑な兄を甘やかして許す親にもおおいに問題があった。ヒロインの幸運を最凶の兄がぶち壊す、これが意外と物語に緩急をつけた、といってもいいだろう。

「真夏のシンデレラ」(2023・フジ)は、男女8人の夏の恋模様を描くドラマだったが、森七菜が演じるヒロインは滅私が過ぎたし、みんな若いのになんだか昭和っぽい。偽善臭を感じる友情。そこに空気を読まない&口の悪い男性(萩原利久)を投入して、不調和と幼さのスパイスをまぶした。

■「大沢たかお」がやらかした

また、「#家族募集します」(2021・TBS)はワケありなシングル親子が助け合うシェアハウスが舞台だが、空気を読まない図々しいシングルマザー(岸井ゆきの)の登場で、空気が変わる。現実だったら総スカン喰らうような人物が入ると、物語は動いていくし、視聴者は立腹しながらもつい目で追ってしまうという継続効果もある。

残念ながら、突飛な言動があまりに理解不能だと、視聴が続かないケースもある。

「ONEDAY」(2023・フジ)では主人公のひとりのシェフ(大沢たかお)がやらかした。自分の店に入ってきた不審者が華麗に調理台を飛び越えたのを見て、自分も飛び越えようとする。結果、秘伝のデミグラスソースが入った寸胴を自ら倒す。

厨房で煮立つ鍋
写真=iStock.com/Photo_Concepts
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Photo_Concepts

いや、なんで不審者と競った? クリスマスディナー用のデミグラスソースがなくなるトラブルはレストランにとって大惨事。事の始まりとしてはわかるが、あまりにずさんというか雑。

破天荒とか天真爛漫ではない、ただの傍迷惑な言動が物語をかき回すことで、「振り回される人への同情」が生まれたり、「予想外」「テンポのいい」展開に見えたりもする。「言外に匂わせる」「無言の間合いや語尾の変化で想像させる」などの役者の技量を蔑ろにしても、雑な言動で先を急ぐことができるわけだ。

■なぜかすぐにキレる若者

特徴その4 易怒性が高い割に、怒りの鎮火は爆速

現実の世界では中高年のほうが怒りっぽい。町中で怒りを露わにしている人はたいていが中高年か年寄り。ところが、昨今のドラマでは若者が怒りっぽいのだ。

いや、怒るってとても大切なことだし、理不尽な目に遭ったり、納得のいかないことに対しては反論するべきだ。自分の怒りに鈍感になってはいけない、飲み込んで作り笑いをしなくていい、ということを、名作ドラマ「虎に翼」(2024・NHK)や「エルピス」(2022・カンテレ)は教えてくれた。

ただ、易怒性たけーなと思う若者が、ぷんすか怒る割にすぐに冷めて丸く収まる姿を見ると、怒りの本質がわからなくなる。そう感じる作品が増えたように思う。

「アイのない恋人たち」(2024・テレ朝)は30代の男女7人が繰り広げる恋愛モノだったが、登場人物がみんな怒りっぽい。まだそんなに親しくないのに、妙に喧嘩腰でつっかかる。自己評価が低いという設定にしては攻撃的で好戦的。すぐに絶交宣言しては仲直りする。令和の流行りなのでしょうか。

一時期話題になった、今の朝ドラ「おむすび」でも、ヒロインが「大っ嫌い!」とぶんむくれてその場を去る場面が2回くらいあったと記憶している。

■「感じる」ドラマより「胸のすく」復讐劇

怒りの表現には、発火点や熟成期間、爆発のきっかけ、延焼やくすぶりの根深さなど、背景や過程の描写が必要だと私は考えているのだけれど、そこを丁寧に描かずにあっという間に鎮火してしまうので、怒りに説得力がない気がする。

冒頭で書いた「阿修羅のごとく」はある意味「怒り」がテーマであり、背景や過程の描写が実に丁寧だ。四姉妹とその母(松坂慶子)、長女の不倫相手の妻(夏川結衣)や次女の夫の不倫相手(瀧内公美)ら、女たちがそれぞれの立場で怒りを表現。寛容のフリをした烈火の怒り、とろ火で燃やし続ける嫉妬の怒り、痛快な仕返しで溜飲を下げる怒りなど、バラエティに富んだ怒りを堪能できる。

でも、今は時短の時代。ワビサビや心の機微でじわじわ「感じる」ドラマよりも、展開が速くて単純に「胸のすく」復讐劇が異様に増えた。

時短ドラマが増えた背景には予算の問題も見え隠れするが、演じる側のモチベーションは下がってしまうだろうな。実力と経験と矜持のある役者が、テレビから配信系にどんどんシフトしていることは寂しいが、合点もいく。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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