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習近平の大号令で「未完成タワマン」が動き出す…誰も買わない新築物件が大量に生み出される中国の特殊事情

プレジデントオンライン / 2025年2月12日 8時15分

2024年12月31日、中国・北京の人民大会堂で、功労賞を受賞した退任幹部・団体の代表者と握手する習近平国家主席(中央)。 - 写真=EPA/時事通信フォト

不動産不況が深刻化する中国で、いま異変が起きている。未完成のまま長年放置された高層ビルやタワマンなどで、工事を再開する動きが目立つ。ジャーナリストの高口康太さんは「中国政府が大号令をかけた結果だ。中国では不況なのに新築物件が次々と完成し、住宅在庫が増え続けている悪循環に陥っている」という――。

※本稿は、梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)より一部を抜粋、加筆・編集したものです。

■不況なのに新築物件が次々と完成

中国不動産市場の下落が止まらない。

中国国家統計局は1月17日、2024年の不動産関連統計を発表した。新築住宅の販売面積は前年比14.1%減の8億1450万平米、販売額は17.6%減の8兆4864億元となった。ピークだった2021年は販売面積が15億6532万平米、販売額が16兆2730億元だったので、ほぼ半減した計算となる。

ずらりと前年比マイナスが並ぶ不動産統計だが、ほぼ唯一大きく伸びている数字がある。それが在庫だ。住宅在庫は16.2%増の3億9088万平米。2021年の2億2761万平米から7割ほど増えている。

不動産不況ならば、まず新規投資をしぼって在庫を減らすのが当然の選択肢だ。ところが今の中国は違う。不況なのに新築物件が次々と完成し、在庫となっているのだ。いったい何が起きているのか。

■高さ世界一の未完成建築

不動産不況が始まる前から建設が続いていた物件が完成して在庫になっているというなら、まだ話はわかる。ところが長年、野ざらしにされていた未完成建築の工事が再開されるという不可解な現象が起きている。

高銀金融117
中国の天津市郊外にある超高層ビル・高銀金融117。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

私が目撃したのは天津市郊外の高級高層マンション団地だ。その中央には高さ597メートル、なんと世界一の高さの未完成ビルがそびえ立つ。その名は高銀金融117。周囲には多数の高層マンションや戸建て住宅からなる一大高級住宅地が造成されている。隣にはポロ競技場(馬に乗って行う球技)まである。そのクラブハウスはヨーロッパの宮殿のようなデザインで、豪華そのもの。競技場利用の会員権は年当時で30万ドルだったというからまさに貴族の遊びだ。

高銀金融117は建設開始から7年後の2015年にディベロッパーの高銀地産公司が資金難で破綻、工事がストップしてしまった。その後、野ざらしとされてきた。ちゃんと壁を作った主塔部はいいが、隣にある付設ビルは柱がむき出しのまま。長年、風雨にさらされてきたので、いたるところにサビが浮いている。

高銀金融117付設ビルのむき出しの躯体
高銀金融117。柱が錆びているのがわかる。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

周囲の高層マンションはというと、落ち着いた外装、広い歩道、緑豊かな庭園など、高級感が漂う。ただ、建設中断期間が長かったためか、建物の隙間から雑草が顔を出すなど、早くも廃墟感が漂い始めていた。

これら長年放置されていたマンションの工事が再開されていた。近隣にあった食堂で話を聞くと、2022年秋から建設が再開されたという。今さらこのゴーストタウンを完成させてどうしようというのか? その裏側には中国不動産業界の苦境が隠されていた。

高銀金融117
建設工事が止まり、有名な未完成建築になった。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

■予約販売がもたらす社会不安

建設途中で工事がストップした不動産のことを尻尾が潰れた蛇になぞらえて「爛尾楼(ランウェイロウ)」と呼ぶ。実はこうしたランウェイロウはさほど珍しいものではなく、中国各地に存在してきた。

ランウェイロウ
完成しても人がいない。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

ランウェイロウがしばしば社会問題になる背景として、不動産の予約販売制が挙げられる。中国では、不動産の建設中に販売契約が完了するのが一般的で、契約してから完成までには平均1~2年がかかるとされる。

つまり、購入者にとっては建設中の段階で住宅ローンの返済がはじまってしまう。したがって、もし不動産会社の資金繰りが行き詰まる、資材が高騰するなどのアクシデントによって建設工事がストップすれば、住宅ローンは支払わなければならないのに、物件は引き渡されないという悪夢のような状況に陥る。

最古のランウェイロウの一つと言われている重慶市の瀛丹大厦(インダンダーシャー)はその典型だ。1999年の着工から四半世紀も未完成のまま放置されている。購入者たちは長年抗議を続けてきたが、なんと2020年になってようやく購入代金が返済されて決着した。この20年で物価が大きく上昇したことを考えれば大損である。

予約販売は購入者にとってはリスクだが、ディベロッパーにとっては速やかに資金回収ができる、ありがたい制度だ。少ない資本で大きな建設プロジェクトを実施できたり、あるいはいち早く次のプロジェクトに着手できたりとメリットが大きかった……少なくとも、これまでは。

その状況は2021年に始まった不動産危機によって終わりを告げた。それまで好調だった予約販売の件数が急激に減ったため、ディベロッパーのキャッシュフローも激減したのだ。すなわち、不動産会社には新たに現金は入ってこないのに、過去に予約販売で売却済みのマンションを完成させるための債務ばかりが残り、現金が出ていくだけの状態になる。そのため資金不足で工事が中止になるマンションが増えていった。

■「工事を完成させよ」の大号令

公式な統計はないものの、中国における未完成マンションは2000万戸に上るとも推計されている。未完成物件のために住宅ローンの支払いをするのは嫌だと、2022年には支払い拒否ブームまで起きる騒ぎとなった。また、ランウェイロウになるというリスクは住宅の買い控えにつながる。

こうした混乱を受け、中国政府は未完成物件の工事を再開するよう、大号令を下した。放置しておけば大きな経済損失を受ける人民が続出し、社会不安につながりかねない。それを防止しようというわけだ。住民を救うという意味でこの政策は「正しい」。だが、その「正しい」対策がめぐりめぐって、野ざらしにされていたマンションの工事再開につながり、住宅在庫を爆増させている。

未完成物件
需要がないのに新築マンションが次々と生まれている。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)
梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)
梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

ただ、未完成マンションの工事を再開しても、新たに欲しがる人がいるのだろうか。たとえば高銀金融117近隣のマンションは路線バスも少なく、近所にはスーパーもない陸の孤島に立地する。購入者にとっては未完成のままよりは完成してもらったほうがいいに決まっているが、今さら完成するぐらいならお金を返して欲しいというのが本音だろう。そもそも、この不便な場所にマンションを買った人々は自分が住むためというよりも、投資目的で値上がりを期待していたのだから。

未完成建築が完売している物件ならばいいが、今の不動産不況では売れ残りがある物件が多い。完成すればするだけ住宅在庫が増えてしまう。作りかけの住宅の建設を中止する。その物件のオーナーには金銭で補償するか、同じ価値の別のマンションを提供するという、思い切った策が必要なのではないか。

現在の「未完成物件を完成させよ!」という「正しい」政策が、不動産不況の終わりを見えなくしているわけだ。

高銀金融117
天津市の高級高層マンション団地。出典=『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)

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