荒野にポツンと「巨大幽霊タワマン」が現れる…中国内陸部に無数にある「限界分譲マンション」の知られざる実態
プレジデントオンライン / 2025年2月12日 8時15分
※本稿は、梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)より一部を抜粋、加筆・編集したものです。
■中国・中西部に乱立する「誰も欲しがらない住宅」
前回の記事では不便な陸の孤島にある高層マンションが不動産バブルと経済対策でどう翻弄されているかを描いた。取りあげた高銀金融117は天津市という大都市に立地しているが、実は中国の中西部には誰も欲しがらない住宅が乱立している。
俗に「新城」(ニュータウン)と呼ばれるが、開発コストの安い僻地に巨大団地が作られるブームが2010年代半ばから続いたためだ。とてつもなく不便な場所にあるが、ほとんどの購入者はついの住処(すみか)にするつもりはなく、しばらく寝かしておいて後は転売すればいいぐらいに考えているので気にならないのだとか。
「新城」は僻地にあるために外国人が中国に出張、旅行してもほとんど見かけることはない。それどころか、中国人であっても実際に見た人は少数だろう。中国各地に無数に作られているのにあまり知られていない「新城」、それを確かめるため貴州省貴陽市へと向かった。
■大都市より深刻な地方の不景気
到着すると、垢抜けない土臭さが漂ってきた。といっても、開発が進んでいないというわけではない。ビルも道路も立派だが、やる気のなさそうな働き手、道端に広がる露店など、田舎臭さが一目瞭然だった。
公園には上半身裸で青空賭け麻雀を楽しむ中年男性の姿が見られた。シャツをまくり上げてお腹を出す、いわゆる「北京ビキニ」のおじさんもいっぱいだ。
大都市では、街の文化的イメージを損ねるとして取り締まり対象となったこともあり、かなり数は減ったのだが、貴陽市ではまだまだ健在である。
![貴州省貴陽市](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/a/1200wm/img_8aadfa851110c962dde6c9da9226562d586876.jpg)
変わらぬ土臭さに加えて感じられたのが景気の悪さだ。北京市や上海市と比べると、繁華街でもシャッターを下ろしている店が多く、明らかに空気感が違う。
「景気は悪いです。不動産価格も下がっています。私も2021年にマンションを購入したばかりですが、もう1割以上は下がりました」
貴陽市のベンチャー企業で働くWさん(30代、男性)は嘆いた。もともと上海市の民間企業で働いていたが、移住してきたのだという。向こうでは手が出なかったマンションが安価で手に入ることも魅力の一つだ。ところが購入するやいなや、不動産危機が始まった。
「貴陽の不動産価格が上がり始めたのは2010年代に入ってから。中国の中でも遅いほうなので、まだまだ上昇余地がある。だから不動産価格は絶対に下がらない、上昇神話は続く……と言われていたのですが。自宅として購入し今のところ売却予定はないので困っているわけではないのですが、投資用に購入した知人は大変です」
■荒野の巨大幽霊タワマン
さて、貴陽市にも近年、多くのマンションが建設されている。今回の目的地となったのが「西南上城」という、碧桂園が建設した巨大高層マンション団地だ。
観山湖区という、つい10年ほど前に農村から市街地に行政区画が変更されたばかりの地域にある。とてつもなく不便な陸の孤島に、誰も欲しがらないマンションを作っている……その典型例というわけだ。
そういう場所だから現地にたどり着くのも一苦労である。市中心部のホテルから1時間ほど路線バスにゆられて終点へ。そこには貴陽西南国際商貿城という巨大な展示場がある。
本来は中国内外のバイヤーを招いて貴州省の地元製品を売りつける場所のようだが、コロナの影響なのかほとんどが閉店していた。というわけで、バスの乗客はどんどん降りていき、ついには私一人となった。降りてからさらに徒歩20分。ようやく目的地にたどり着いた。
そのスケールはひたすらに巨大だった。片側4車線の立派な道路が荒れ地を貫き、その脇には20階近い高層マンションが50棟ほども並んでいる。敷地は塀に囲まれた、いわゆるゲーテッドマンションだ。
![碧桂園が建設した巨大高層マンション団地](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1200wm/img_72a1a1cd13512621d7d1da56a23ee9a7581698.jpg)
こうしたタイプは中国では「小区」、あるいは高級感がある場合には「花園」と呼ばれ、新しいマンションのほとんどがこの形式を採用している。西南上城は歩行者の出入り口に顔認証ゲート、車用にはナンバープレート認証ゲートが設置されているほか、フライトアテンダントのような制服を着た女性スタッフや男性警備員の姿まで見かけた。田舎でこれほど警戒する必要があるのか不思議だが、防犯上は安心できそうだ。
■生活に必要なものは何でも揃う、はずだった…
中国メディアの報道によると、西南上城は2016年から建設が始まり、2021年に完成したという。最後に作られた部分は廊下や駐車場の内装がケチられていたとのことで、不動産危機でディベロッパーの資金が消える直前、滑り込みセーフでの完成だったようだ。
![西南上城](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/1200wm/img_98b31df13464171429ee8c635f0694e9597779.jpg)
販売当時は「敷地内に学校やスターバックスが! 豪華な商店街もスポーツジムも完備! すべてがそろっている」がうたい文句だったが、多くが実現していないのだとか。
「別にスタバは要らないですけど、困るのは学校です」
住民の女性によると、名門校の分校が誘致されるという約束だったが、実際にできたのは中学(日本の中学・高校に相当)だけ。小学校がない。不便な場所に建てる代わりに、必要なものは全部そろえるから安心してご購入ください……という約束が反故にされるとなると、確かにしんどい。
ただ、不動産危機がなかったとしても、約束がすべて守られることはなかったのではないか。商業施設や教育施設を運営できるだけの消費者がいないからだ。
![西南上城](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/1200wm/img_370756101636f963711a95c133ff8bf7569739.jpg)
■中国の限界住宅が高層化する理由
団地には商店街が設けられているが、テナントは半分以上が空いている。「テナント募集」の貼り紙が貼られたガラス窓ごしに中をのぞいてみると、什器やゴミが残されたまま、まるで夜逃げしたかのような店舗が多い。
まだ営業しているレストランがあったので、従業員に話を聞いてみた。「大きな団地だけど、ほとんど人がいないからお客さんは来ません」と困っている様子。
確かにこの巨大団地には人が少ない。窓を見てもカーテンがかかっていない部屋ばかりで、生活の気配を感じるのはせいぜい3割ぐらいか。夜になって明かりがついた部屋を数えれば、はっきりわかるだろう。日が落ちるのを待った。
果たして夜になると、想像を超えた景色が広がっていた。明かりがついているのは全体の1割程度しかない。エレベーターホールの電気だけが小さく灯った、真っ暗なマンションまである。これぞゴーストタウンというムードに包まれる。
![夜の西南上城](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_da8d64449e0092a7bd10c5cdc2b478bc555372.jpg)
![梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/1200wm/img_1fb0f38703de939ce36b17bec6dd4c83243290.jpg)
日本でもバブル期にとんでもない辺境に住宅地が作られた。近年は「限界ニュータウン」として紹介されることも多い。誰も住みたがらないような陸の孤島にゴーストタウンを作り、不動産投資の対象にする点では共通しているが、中国ではゴーストタウンが高層化されている点がユニークだ。
まわりにいくらでも空き地があるのに、わざわざ建設費がかさむタワマンにしなくとも良さそうなものだが、ここにも中国ならではの事情がかかわっている。中国政府は食料安全保障の観点から農地の宅地転用を厳しく規制している。
そのため周囲に空き地があっても、住宅地として使用できる場所は限られており、部屋数の多いタワマンを作る必要があるというわけだ。
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ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。
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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)
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