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寿司で復活するはずが…「オトナの社交場」から「値段の高いファミレス」になった米TGIフライデーズ破綻のワケ

プレジデントオンライン / 2025年2月12日 17時15分

2019年8月13日、ニューヨークのタイムズスクエア近くにあるTGIフライデーズ - 写真=Sipa USA/時事通信フォト

アメリカのレストランチェーン大手「TGIフライデーズ」が、存続の危機を迎えている。60年前にニューヨークに1号店を構え、男女が集う大人の社交場として人気を集めた。しかし最近では客数が大幅に減少し、窮地に立たされていた。なぜアメリカの国民的レストランチェーンは、破産に追い込まれたのだろうか――。

■ダラス本社を閉鎖、600店舗超から100店舗台への大幅衰退

昨年11月、TGIフライデーズは、日本の民事再生法にあたる米連邦破産法第11条の適用を申請し、ダラスの本社を閉鎖。破産手続きを進めることになった。なお日本国内ではワタミがFC展開しているが、破産は米直営店に限り、国内店舗には影響はない。

経営難の同社は昨年に入ってから、大規模な店舗整理を進めていた。CNNによると昨年1月以降、米国内で相次いで閉店。同年10月末にも50店舗を閉鎖し、店舗数は年初の約270店舗から163店舗にまで減少した。2023年9月には英国事業も破綻に追い込まれ、多数の店舗閉鎖により約1000人の従業員が職を失っている。

ウォールストリート・ジャーナル紙は、同チェーンが2008年頃には全米に600以上の店舗を展開していたと指摘。100店舗台となった現在の落日ぶりが際立つ。

今年1月に入ると、経営再建計画に進展が報じられた。ロイターは、9店舗の売却で手元資金を補うと報じている。ダラス・フォートワース空港内の5店舗などの売却により、計画通りに進めば目前の危機は回避できる形だ。

だが、米業界メディアのレストラン・ニュースによると、来店客数は大幅な減少傾向にある。昨年時点のデータでは前年比39%減と、極めて厳しい状況が続く。

アメリカを代表するレストランチェーンのひとつである同社の破綻は、米外食産業が直面する厳しい経営環境と業界全体の構造的な課題を浮き彫りにした。

■「フライトアテンダントと出会いたい」創業者が1号店を開いた理由

アメリカでも飲食店の破綻は、とくにコロナ前後にはめずらしいことではなくなっている。だが、こうした時期的な要因を抜きにしても、同社の経営は時を経るごとに迷走が目立った。米ウォールストリート・ジャーナル紙は、TGIフライデーズが「壮絶な混乱」に見舞われてきたと指摘する。

はじまりは1965年、ニューヨークの街角だった。創業者のアラン・スティルマン氏は、最初の1店舗をこのアッパーイーストサイドの地に開業。ニューヨークに集まるフライトアテンダントとの出会いの場を設けたいというのが、個人的な欲求だったという。

米CBSニュースの朝の番組「CBSディス・モーニング」に出演したスティルマン氏は、「女性たちと出会いたいからこのビジネスに乗り出した、というのは本当でしょうか?」と尋ねるリポーターに対し、「その通りですね」と答えている。怪訝な顔で質問した女性リポーターだったが、包み隠さないスティルマン氏の返答にこらえきれず、思わず吹き出している。

だが、ビジネスという目では慧眼だった。出会いの場を求めていた独身男性は、スティルマン氏だけではなかったのだ。ニューヨーク中の独身男性たちに受け、「米国発のシングルス・バー(独身客向けバー)」として一時代を築く。

その後、スティルマン氏から経営を引き継いだダン・スコギン氏は、フランチャイズ店の1店舗から頭角を現し、15年間CEOを務めた。ティファニー風のランプや壁の装飾品といった店内デザインや、カクテルシェーカーを空中で操るバーテンダーのパフォーマンスなど、TGIフライデーズの代名詞となる要素を確立した。

タイムズスクエアにあるTGIフライデーズ
タイムズスクエアにあるTGIフライデーズ(写真=Americasroof/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■アメリカ人の思い出の一部になっている

成功まっただ中、古き良き時代のTGIフライデーズは、現在でもアメリカの多くの家庭の思い出の一部に刻まれている。

ニューヨーク・タイムズ紙などにも寄稿する米ライターのジョシュア・シュタイン氏は、米男性誌のエスクァイアに寄稿。ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊のウィローグローブパークモールにあったTGIフライデーズの思い出を、こう描写している。

「私の(よく通った)フライデーズはモールの1階にあり、モール内と外の世界、両方から入れる2つの入口があった。ニキビ面のウェイターたちは、赤いストライプのシャツにサスペンダーという陽気な姿で働いていた。

偽物のティファニーランプがリビングのような温かい光を放ち、チキンフィンガーは黄金の衣に包まれた王様のような一品だった。モッツァレラスティックは、8歳だった私の両腕いっぱいに伸びるほどのチーズの糸を引いた」

母と姉と共に、父の帰りを待ちながら過ごしたフライデーズでの時間。それは、後に父の不倫が発覚し、家族の不和が広がる中で、「幸せが漂う島のような思い出」として心に残されているという。

当時のスタッフらは「フライデーズでは何もかもが楽しい」と語ったという。その言葉通り、父との思い出も含め、すべてが楽しい思い出として記憶に刻まれている――とシュタイン氏は述懐する。

■トム・クルーズに演技指導、店舗の誇りだったパフォーマンス技術

ファミレスの形態で愛されたTGIフライデーズだが、かつてのバー時代と比較するとコンセプトは明らかに失われていった。顧客たちはこうした変化に敏感に反応し、店舗から次第に離れるようになった。店員に要求される技術水準も、次第に変化していったという。

シュタイン氏はエスクァイア誌への寄稿で、かつてTGIフライデーズはカクテル文化に大きな影響を与え、バーテンダーは何百ものレシピを暗記し、正確な注ぎ方とスピード、そしてボトル投げなどの各種パフォーマンス技術である「フレア」も習得する必要があったと述べる。バーテンダーたちは大会を目指し、ライバルと競い合うようにして腕を磨いた。

1988年のトム・クルーズ主演のロマンティック・コメディ映画『カクテル』を通じ、この「フレア」は広く知られることになる。一部のシーンは実際にTGIフライデーズの店舗内で撮影され、大会で選抜された店員がトム・クルーズに演技指導を施した。

しかし、オトナの社交場として愛されたTGIフライデーズは、1980年代後半に入るとファミリー向けのダイニングへとマーケティング戦略をシフト。さらに2016年頃にはファミレスとしての効率性を重視するようになり、運営方針も「stripped-down concept(簡素化されたコンセプト)」を基調とした内容に変化した。

これにより、脈々と受け継がれてきたフレアの伝統も消失。TGIフライデーズはアメリカ初の独身向けバー、あるいはオトナの社交場としての特性を失い、よくあるファミレスとしての立ち位置に自ら甘んじることとなった。

バー
写真=iStock.com/Motortion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

■独創的なバーを捨て、自らレッドオーシャンに飛び込んだ

中庸なファミレスを目指した経営戦略は、今となっては誤りだったと言わざるを得ないだろう。米アトランティック誌は、米国の中価格帯レストラン業界は一様に苦境にさらされ、大規模な再編が進んでいると指摘する。

シーフードチェーンの米レッドロブスターは昨年5月に破産申請を行っており、米デニーズは10月に150店舗の閉鎖を発表した。結果として、こうしたレッドオーシャンでの顧客争いにTGIフライデーズは巻き込まれた。

業界調査会社テクノミックの分析では、インフレ調整後のカジュアルダイニングチェーンの売上高は、10年前と比べて約9%減少する見込みだ。レストラン全体の支出は過去10年で4.5%増加したものの、その成長は主に、安価に楽しめるファストフードやファストカジュアルチェーンによるものだという。TGIフライデーズのような中価格帯以上のファミレスは、むしろ敬遠されている。

コーネル大学の食品・飲料管理教授のアレックス・サスキンド氏は、アトランティックに対し、「消費者は節約しようと、(バーガー店のようにカウンターでフードを受け取る)安価な非テーブルサービス店を選んだうえで、節約で生まれた余剰資金はより価値のある高級な外食体験に投じる傾向がある」と指摘する。

賃金上昇が急速なインフレに追いついていないアメリカにおいて、自炊よりもはるかに割高でありながら、高級店ほどの格別な体験を得られない中価格帯のファミレスチェーンからは、自ずと足が遠ざかっている実態がある。

さらに米ワシントン・ポスト紙は、ファミレスへとシフトしておきながらアルコール中心のメニュー構成となっているなど、TGIフライデーズの戦略のちぐはぐさを指摘。価格帯はステーキと2つのサイドメニューで24.19ドル(約3810円)と現地としては比較的手頃だが、顧客の支持を取り戻せていない状況が続くと指摘している。

■寿司メニューが象徴する迷走ぶり

かつて同社は若年層の取り込みをねらい、寿司メニューの展開に取り組んだ。北米ではサーモンやチーズなど洋風の食材を取り込んだ寿司がバーで振る舞われることもあり、アルコールとの相性は決して悪くない。だが、唐突に提供が始まった寿司は、今となっては同社の迷走の象徴のひとつだ。

レストラン・ビジネス・オンラインによると、TGIフライデーズは2023年、独創的な巻き寿司の提供を開始した。カリカリに焼いた酢飯の上に生魚をのせたオリジナルの寿司料理などを、看板メニューのチキンウイングと並ぶレギュラーメニューに加えている。

業界メディアのレストラン・ニュースは、オフピーク時間帯を活用し、店舗キッチンをダークキッチンとして活用する取り組みには一定の評価を与えている。しかし、「コアメニューに合わない(寿司という)ジャンルを新たに追加するのは、まったく別の話だ」とも述べ、突如登場した寿司メニューに疑問の視線を投げかける。こうした一貫性のないメニュー戦略も、長年の顧客が離れる要因となったようだ。

米フォーチュン誌が、「寿司、パブ料理、チーズバーガーという一見ミスマッチな組み合わせは当初は成功を収めた」ものの、「スパイシーツナロールや弁当箱も、結局は同チェーンを救うことはできなかった」と述べるように、新たな看板メニューとして定着しないまま経営破綻に至った。

TGIフライデーズ
写真=iStock.com/BreatheFitness
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BreatheFitness

■大人の社交場から値段の高いファミレスに…

オトナの出会いの場としてニューヨークの街角に産声を上げたTGIフライデーズは、一時は全米に600店舗を展開する栄華を誇るも、ブランド方針の迷走で転落。カクテルやパフォーマンスの技術に優れたバーテンダーたちはいつしかカウンターから姿を消し、値段だけ立派なファミレスとして敬遠される現在の姿に至る。

多くのアメリカが家族で連れ立った思い出の場所は、次の時代の親子が再び訪れる場所として、存在を繋ぐことができるか。姿を変えながら60年続いた一大チェーンは、正念場を迎えている。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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