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ジャニー喜多川氏、松本人志氏、中居正広氏…疑惑含む"性加害"が芸能界蔓延の裏で社会全体では激減の理由

プレジデントオンライン / 2025年2月8日 10時15分

ここ数年、芸能界を中心とした「性加害(被害)」に関するニュースが目立っている。統計データ分析家の本川裕さんは「2000年以降の一般社会における性被害率の調査結果を見ると、芸能界とは異なる実態がわかった」という――。

■芸能界やテレビ界は性に関する社会の状況変化に対応していない?

2023年に表面化した旧ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏による性加害問題、同年末からのお笑いタレント松本人志氏による“性加害疑惑”騒動、そしてフジテレビの企業体質にまで問題が拡大した昨年末からのSMAP元リーダー中居正広氏の性加害疑惑、と芸能界をめぐって被害者の人権を無視した性的事件が相次いでクローズアップされている。

こうした事件の報道に触れて気になるのは、芸能界だけでなく一般の日本社会でも同様の事件が繰り返されているのではないかという点である。また、日本社会は他国と比較して特にこの点に関して「闇」が深いのかという点に関しても気になるところである。こうした点に関するデータが紹介されることが少ないので、ここで、まとめておこう。

犯罪や犯罪被害が増えているのか、減っているのかを把握するためには、①警察に認知された犯罪件数を集計する方法と、②一般国民を対象とした各種アンケート調査により、警察などに認知されていない犯罪の件数(暗数)を含め、どのような犯罪が、実際どのくらい発生しているかという実態を調べる方法(暗数調査)がある。

性犯罪に関しては、①の認知件数で実施のところの増減を調べるのはかなり困難である。

性的自由に対する犯罪である不同意わいせつ罪、それに変わる以前の強制わいせつ罪は、かつては親告罪、すなわち被害者が告訴しないと起訴されない犯罪だった。今では、告訴がなくとも犯罪となるが、それでも被害者の訴えがないとなかなか警察による認知に至らないことは容易に想像される。

そこで、被害者の性的な犯罪に対する意識変化や警察の取り組み姿勢で、認知件数自体がかなり左右される可能性が高い。窃盗や傷害事件などとはかなり状況が異なる。

従って、性犯罪の実際の増減を調べるには、②の暗数調査が適している。また、法制度や警察の制度そのものが異なる各国の比較についても、犯罪統計によるよりも②の暗数調査が適している。

そこで、法務総合研究所では、2000年に各国共通の犯罪内容で被害率を調べる国際犯罪被害実態調査(ICVS:International Crime Victims Survey)に参加して第1回犯罪被害実態(暗数)調査を実施し、それ以後、数年おきに、暗数調査を実施している(最新は第6回2024年)。

この調査の結果から日本における性被害率の推移を図表1に掲げた。

【図表】2019年調査の質問票
(資料)法務省法務総合研究所「研究部報告61」

性的な被害の過去5年被害率は2000年の2.7%から2024年の0.5%まで大きく減少しているのが印象的である。2004年までは女性のみの被害率であり、2008年以降は被害率が女性より低い男性を含む被害率なので、この間の減少は数字ほどではないと考えられるが、同一基準の2008年から2024年にかけても2.0%から0.5%へと4分の1に減少している。

なお、ここでの性的な被害の数字には、犯罪とまではいえないセクシャルハラスメントまで含めている点に注意が必要である(図表2の質問票参照)。セクシャルハラスメントの割合は後段の図表3参照。

社会全体の性被害(裏返せば性加害)は大きく減っていると考えられる。

ここでは掲げていないが、盗みや暴力などの犯罪自体が、実はこの間、全体として減少しており、そうした低犯罪社会へと向かう動きの中で、特に、性的な犯罪やそれに類するような性被害については、その発生も抑えられ、またそれを許さない意識が人々の間で大きく高まってきたと言えよう。

こうした社会全体の大きな変化の中で、芸能界やテレビ界が旧態依然な意識ややり方を引きずっていたことが、一連の性加害事件の顕在化に結びついたと言わざるを得ないだろう。

性に関する古い考え方や慣習が残っている組織や業界はまだほかにも多く存在していると思われ、一般社会とのギャップを埋める努力を払わないまま放置していた場合、そうした組織や業界でも性的な事件が多く起きているのだろうと思われる。ただ、今回は人々の注目度の高い芸能界やテレビ界で発生したので、社会的な問題として大きく取り上げられる結果となっているのだろう。

■国際的に見て日本の性被害が多いのか?

次に、国際的に見て日本の性被害は多いのか少ないのかデータを調べてみよう。

法務省の犯罪被害実態(暗数)調査は国際犯罪被害実態調査に参加して行われているので、本来、国際比較が可能であるはずだが、国際比較データが明らかになっているのは古い年次の調査結果だけである。

図表3には、2005年とかなり古い国際比較だが、国際犯罪被害実態調査による性被害率を各国比較したデータを掲げた。どんな性的被害かを含めて結果を掲げている。

【図表】少ない日本の性的被害、ただし犯罪被害率ではそう変わらない

日本の性被害率はデータの得られる国の中で低い水準である。日本とポルトガルは女性のみの値であるので、他国と同様に男女計で集計すればもっと低くなる。

日本の特徴の1つは、内容的に、レイプ(強姦)被害は少なく、強制わいせつ・痴漢が多い点である。また、セクハラなど不快な行為も当時はまだセクハラに対する認識が高まっていなかったためか、日本の値は低い。

性犯罪被害率の高い国で目立っているのは、レイプ被害も多少高い傾向があるが、むしろ目立つのはセクハラなど不快な行為の被害率の高さである。つまり、女性にとって愉快でない男性の性的なからかいや嫌がらせ(ハラスメント)に対して女性が黙っていないことが性犯罪被害率の高さに結びついている側面が大きいといえよう。

不快な行為(セクハラなど)を除いて見ると、日本と他国の性被害率の違いは、それを含む値ほど大きな差はないと言えよう。しかし、それを考慮に入れても日本の性被害が多いとは言えない。

この国際比較の年次以降、日本の被害率は上で見た通り、大きく低下してきているので、国際比較上も相対的に性的被害が少ないという地位は不変と想像される。

性被害は男性より女性のほうが被害者となる率が高い点からもうかがえる通り(注)、女性の人権をないがしろにしている点に特徴がある。

(注)例えば、犯罪被害実態(暗数)調査の2019年調査によると、男女計の性被害の被害率は1.0%だったが、男性が0.3%であるに対して女性は1.7%と格段に高かった。

女性の人権をないがしろにしているもう1つの事象はDVである。DVには精神的なもの、肉体的な暴力によるもの、性的なものをすべて含んでいる。

OECDの報告書(Society at a Glance 2024)では、2018年の時点で、過去12カ月に親しいパートナー(夫、または事実上の配偶者)から身体的暴力、性的暴力のいずれか、あるいは両方を経験した各国の比率を掲載している。主要先進国(G7諸国)について、このDV経験率を高い順に並べると以下の通りである。

1位 米国 4.2%
2位 英国 3.6%
3位 フランス 3.5%
4位 日本 3.0%
4位 ドイツ 3.0%
6位 イタリア 2.2%
7位 カナダ 1.7%

日本のランキングはOECD38カ国中23位、G7諸国中4位とやや低いほうに分類される。日本はDVがそう少なくもないが、それほど多い国とも言えない。

以上のように、性被害、あるいはDVという観点から海外諸国との比較で日本の女性の人権侵害の程度を測ってみると、そう悪い状況とは言えないという結論となる。

■「体感治安」上、日本人女性の不安はけっこう高い

それでは、日本の女性は日々安心して暮らせているのだろうか。本稿の最後に、そうとも言えない側面があるというデータを紹介しよう。

図表4には、体感治安の男女差(ジェンダーギャップ)を示した。

【図表】男性とくらべ女性が夜道で不安を感じる日本

「体感治安」の指標としては、意識調査における「住んでいる地域で夜ひとりで歩くのが安全と感じるか」の割合が参照される。図では、「安全でない」と感じる割合を掲げている。

OECD平均では男性は17%が安全でないと感じているが、女性は31%がそう感じている。図に掲げたいずれの国でも女性の不安のほうが男性より大きい。図ではジェンダーギャップを「男女差を女性の割合で割った値」で示しているが、OECD平均では45%である。

OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も悪いのはチリであり、コロンビア、メキシコ、コスタリカなどのラテンアメリカ諸国がそれに続いている。

他方、OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も良いのは、ノルウェーであり、ルクセンブルク、スイスがこれに続いている。

日本の女性にとっての体感治安は27.5%であり、OECD諸国の中では中位水準にある。

日本の体感治安は、女性が27.5%、男性が11.5%であり、体感治安に関するジェンダーギャップは58.2%である。OECD平均のジェンダーギャップは45.0%なので、日本のほうがジェンダーギャップが大きい、すなわち女性が安心できない国となっている。

主要先進国(G7諸国)をジェンダーギャップの大きい順に掲げると、

1位 カナダ
2位 日本
3位 米国
4位 ドイツ
5位 イタリア
6位 フランス
7位 英国

という順になっており、主要先進国の中では日本の体感治安に関するジェンダーギャップは大きいと言わざるを得ない。

性被害やDVに関する客観指標は、上に示したように、日本は国際的にはそう悪くない状況にある。しかし、だから女性が安心して暮らせているかというと、ここで紹介した体感治安のデータにもあらわれている通り、必ずしも、良好な状況とはいえないのである。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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