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まるで「タイヤをつけたiPhone」だ…トヨタが世界一の半導体会社と提携してつくろうとしているすごいクルマ

プレジデントオンライン / 2025年2月12日 9時15分

筆者撮影

今年1月、世界一の半導体会社NVIDIA(エヌビディア)はトヨタとの提携を発表した。国際技術ジャーナリスト津田建二さんは「トヨタとしては単なる自動運転技術だけではなく、次世代のクルマ作りに欠かせない技術を期待した上の提携だろう」という――。

■トヨタとエヌビディア、それぞれの思惑

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、今年1月に行われたCES 2025の基調講演で、トヨタとの提携を発表した。次世代の自動運転車(AV)を共同開発するという。なぜファブレス半導体のトップ企業エヌビディアはトヨタと提携するのか。

エヌビディアはファブレス半導体メーカーであり、企画開発した半導体をティア1サプライヤーに納入するティア2サプライヤーである。

トヨタとの提携以前にも、高級EV(電気自動車)のルシッドや中国の小米、EVのテスラや自動運転のウェイモ、メルセデス、BYDなどとも共同開発している。エヌビディアとしては、最大の自動車企業のトヨタと提携にこぎつけたことを大いに喜んでいるという。

トヨタ側のメリットはどうだろうか。

エヌビディアはAI用の半導体(GPU:グラフィックスプロセッサ)を開発・設計するだけではなく、それを利用するユーザーに向けAI半導体を搭載した回路ボードやコンピューターそのものも設計し作っている。さらに顧客がAIを短期間で開発できるようにするためさまざまなソフトウエアも提供している。つまりAIのことならなんでも作り込むことのできる会社であり、自らをAI FactoryあるいはAI Foundryと呼んでいる。

テレビのコメンテーターの中には、AIは何でも生み出す魔法のテクノロジーのように発言する人がいるが、AIはひとつのことしかできない。専用のカスタムテクノロジーともいえる。だからこそ、自動運転に必要なAIといっても、さまざまなテクノロジーの組み合わせが必要で、それぞれのAIを作り込まなければならない。

■世界最大の自動車メーカーでも難しい

自動運転を例にとろう。

例えば、AIによる画像認識技術を使って、物体を瞬時に認識する。クルマの前を行く物体を乗用車なのかトラック、自転車、人なのかを区別する。(もちろんエヌビディアはこのAIを開発済みである)

道路を走行するシナリオを作る生成AIも必要だ。走行する道路を覚えている方が人は運転しやすいことと同様、コンピューターも道路状況を前もって学習しておく方が、判断しやすい。道路に白線がきちんと描かれているかどうかなども含め、道路状況を学習させておくと、次の動作を予測しやすい。

自動操縦
写真=iStock.com/Just_Super
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Just_Super

さらに、道路を学習するAIも重要だ。道路状況を見ながらハンドルを右に回すのか左に回すのか、道路を学習しておけば素早く動作できる。

このように自動運転ひとつとっても、さまざまなAIを作り込み、学習させ、それを使って数多の状況を予測してAIを再び作り込む必要がある。

トヨタが1社で必要なAIをたくさん作ることができるだろうか。世界最大の自動車メーカーであるトヨタといえども、それは難しい。むしろエヌビディアのAIを使いこなして自動車に導入する方が手っ取り早い。

このためにエヌビディアと自動運転車を共同開発するのだろう。

■豊田章男会長の未来予測が実現する

しかし、おそらくそれだけではないだろう。

トヨタの豊田章男会長は「これからはSDVの時代になる」と述べている。SDV(Software Defined Vehicle)とは、高性能なコンピューターを導入し、外部のデータセンターと無線で接続し、新しいソフトウエアを、無線を通じて必要な時に更新することができるクルマを指す。

トヨタ自動車会長の豊田章男氏
写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト
2025年1月6日、米国ネバダ州ラスベガスで行われたCES 2025で講演するトヨタ自動車会長の豊田章男氏 - 写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト

この場合の無線をOTA(Over The Air)と呼ぶ。コンピューター技術のハードウエア(半導体チップ)と大量のAIを構築できるソフトウエア能力を持っているエヌビディアは、SDV時代には魅力的な存在となる。

ジェンスン・フアンCEOは、2023年5月末のコンピューテックス台北2023において、世界的なファブレス半導体企業であるメディアテック(本社・台湾)の会長リック・ツァイ氏とSDVについて議論し、その必要性を次のように述べていた。

「クルマというハードウエアは製品化したら最低15年以上信頼性良く品質を保たなければならない。そうするとクルマに搭載した機能は15年間変わらず古臭くなってしまう。そこで、搭載する機能をできるだけソフトウエアで動作させるようにして、古い機能はソフトウエアを更新させるようにすれば、車体は古くても新しい機能を搭載したクルマになる」

これがSDVの本質である。

■これまでのクルマとは根本的に違う

SDV時代となると、クルマは走るデータセンターのようになるので、搭載するコンピューターを基本から見直さなければならなくなる。

というのは、現行のクルマにはすでにコンピューターがECU(電子制御ユニット)という形で入り込んできているからだ。現在、ECUの数は高級車で80~100個、大衆車でも20~40個使われるようになった。ECUの頭脳としてマイコン(マイクロコントローラ)が使われている。

マイコンはソフトウエアで制御できるため安価であり、車体の安全性だけではなく、パワーウィンドウやワイパー、ウィンカーなど簡単な所にも使われている。それゆえ、「あれもECUでやろう、これもECUでやろう」と、今のクルマには至るところで継ぎはぎだらけのECUが搭載されている。

というわけで、SDV時代を見据えて、車内のコンピューターを根本的に見直す必要があるのだ。

現在提案されているコンピューターのコンセプトは2つある。ひとつは、近い機能を一緒にまとめる「ドメインアーキテクチャ」と、もうひとつは場所的に近くにある機能をまとめる「ゾーンアーキテクチャ」である。

どちらも多数のECUをひとつにまとめて、ECUや配線の数を減らし車体を軽くしようという流れである。

自動運転車両
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■iPhoneにタイヤをつけたような

ドメインアーキテクチャは、カーラジオやカーナビゲーションシステムといったインフォテインメントシステムに使うECUをいくつかまとめる方式である。

ただし機能が似ているからと言っても、必ずしもECU同士が近くにあるわけではない。接続するための配線を減らすことはできない。

ゾーンアーキテクチャは、たとえ機能が全く異なっていても近くにあるECU同士をまとめてしまおうという方式だ。欧州ではゾーンアーキテクチャが主流になりつつあり、クルマが配線の塊になってしまうことを避けている。

いずれの方式もECUをまとめて1チップにする以上、高性能なプロセッサであるSoC(複数の機能をひとつのチップにまとめた集積回路)が必要となる。

大量のコンピューターをひとつにまとめたデータセンターのように、ハイパーバイザーと呼ばれるソフトウエアで機能を切り替える仮想化技術がカーコンピューターにも入ってくることになる。こういったSoCにはマルチコア技術を取り込み、仮想化されたコンピューターやコンテナがひとつの機能を実行する。

さらに仮想化されたコンピューターをひとつにまとめる中央コンピューターも必要となり、さらにその上にゲートウェイコンピューターが加わる。

このゲートウェイは、外からの通信を受け、その情報を中央コンピューターに渡すため、しっかりしたセキュリティが必要となる。

■エヌビディアはSDV開発にうってつけ

このセキュリティ回路は、あらかじめ認証されたデータしか受け取らないため、簡単には攻撃できないようにしている。万一攻撃されても、ゾーンコントローラが仮想化された各機能を受け持つコンテナに入るときも認証が必要となり、二重のカギで守られている。それでも破られた場合に備えて、データを暗号化しておき、簡単には解けないようにしている。

このような将来のコンピューターシステムは、誰と共同開発すべきだろうか。実はエヌビディアは、CES講演の中で新型プロセッサNvidia Drive AGX Thorを発表している。これは次世代車両における中央コンピューターとしての役割を担うにはうってつけなのだ。

このチップにはCPUとGPUが集積されており、AI機能が盛り込まれている。次世代のSDVを担うコンピューターという位置づけとなる。トヨタがエヌビディアと提携したのは、最終的にはSDVで使われるさまざまなソフトウエアやAIをエヌビディアに期待したからだろう。トヨタが自社だけでSDVに関わる多様な種類のソフトウエアやAIを開発するならとてつもない時間がかかる。

■ガールフレンドのように対話してくれる

トヨタにとって、エヌビディアは次世代の自動車に必要な新しいシステム、新しいチップを開発してくれるパートナーとしてありがたい存在になる可能性は高い。

ではどんなクルマができるのだろうか。

例えば、将来のクルマは単なる自動運転だけではなく、ドライブを楽しむために、AIエージェントがドライバーに「500メートル先にコーヒーショップがあるけど寄っていきますか?」と聞いてくるようになる可能性は十分ある。一人で運転していても、まるでガールフレンドのように対話してくれるようなクルマができる時代はそう遠くない。

クアルコム(米の通信技術関連会社)のCEOであるクリスチアーノ・アモン氏は、将来のクルマは(カントリーロックバンドの)イーグルズの「Life in the fast lane」の歌のようにクルマと対話するだろう、と語っている。

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津田 建二(つだ・けんじ)
国際技術ジャーナリスト、News & Chips 編集長
東京工業大学理学部応用物理学科卒業後、日本電気に入社。半導体デバイスの開発等に従事する。その後、日経マグロウヒル(現 日経BP)に入社、「日経エレクトロニクス」「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」等の編集記者、副編集長、シニアエディターを経て、アジア部長、国際部長などを歴任。海外のビジネス誌の編集記者、日本版創刊や編集長を経て現在に至る。著書に『知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな』『欧州ファブレス半導体産業の真実』(以上、日刊工業新聞社)がある。

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(国際技術ジャーナリスト、News & Chips 編集長 津田 建二)

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