「介護離職→フリーランス」で年収150万円になった50代男性が「老親が倒れて人生が好転した」というワケ
プレジデントオンライン / 2025年2月11日 10時16分
※本稿は、工藤広伸『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)を一部編集したものです。
■家族が倒れたことで人生が好転した話
前編から続く。
【介護超初心者Kさん(以下、K)】老いた親のことって、実際に困ることが起きないと、なかなか現実味がないというか、行動に移せないというか……。命に直結する地震などの自然災害への備えでさえも面倒で、ついあとまわしになっているのが現状です。
【遠距離介護歴12年・工藤広伸さん(以下、工)】そうですよね。でも、老いた親の問題って、自分の人生に与えるインパクトは相当大きいですよ。場合によっては、引っ越しをしたり、仕事を変えたり、家族関係が悪くなったり……と、しんどい状況がじわじわ続くので、自分の人生をあきらめてしまう人もいます。
【K】頭では、なんとなく理解できます。でも、「自分には、まだ関係ない」「ひょっとしたら逃げられるかも」と思ってしまうんですよね……。
【工】わたしも父のときは、そうでした。父が脳梗塞で倒れたとき、正直なところ「逃げたい」と思いましたから。でも、父が倒れて、人生が「好転」したんです。
【K】えっ⁉ 失礼ですが、転落ではなくて?
【工】はい、好転です。
■介護離職をしてフリーランスになり年収150万円に
【工】わたしは5つの会社で働いた経験があるんですけど、いちばん長く勤めた会社でも、7年ちょっとでした。すぐに飽きちゃうタイプで(笑)。
【K】転職を繰り返していると、あまりいい評価はされないですよね?
【工】そうですね。34歳のときに1回目の介護離職をして、父が脳梗塞から回復する目途が立ったときに就職活動をはじめました。1年強のブランクがありましたが、なんとか正社員として就職できたんです。
![脳のMRI画像](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/7/1200wm/img_17c682d656880c6fd487978b6858aae4153320.jpg)
【K】おお、よかった!
【工】そのタイミングから、真剣に貯金と副業を考えるようになりました。
【K】正社員として就職できたのに、なんでその2つを真剣に?
【工】父のことがあって、いずれ祖母や母にも同じようなことが起こる日が来るかもしれないと、かなりリアルに想像できたからです。すぐに準備しておかないと、大変なことになるな……と。「いずれ」が明日になる可能性もあるわけです。
【K】たしかに……。それで副業はうまくいったんですか?
【工】いえいえ、まったく。当時ブームになっていたブログを、いくつも立ち上げて失敗を繰り返しました。変な情報商材も買ったりして(笑)。それで反省して、会社員としてのキャリアアップを目指しました。
【K】でも、2回目の介護離職が数年後の40歳のときにやってくるわけですよね? 今のところ、好転のきざしがまったく見えないのですが……。
【工】40歳のときに祖母と母のダブル遠距離介護がはじまって、2回目の介護離職をしてフリーランスになりました。ですが、収入は副業でやっていたブログだけで、年収150万円くらいに。妻には言えませんでしたね……。
【K】それは、あせりますね……。パートナーである奥さまが、2回目の介護離職も認めてくれたことがすごいです。
【工】収入は激減しましたが、貯金をとりくずして、家にはちゃんとお金を入れていたので、まぁ、なんとか……(汗)。そんな苦しい時期にはじめたのが、今も続けているブログ「40歳からの遠距離介護」でした。当時、40代男性で遠距離介護の体験を発信している人がほとんどいなかったので、だれかのお役に立てるかもしれないと思って立ち上げました。それまで何度も失敗したブログの経験を糧にして。
【K】それが大成功して、人生が好転したんですね!
【工】いえいえ。ブログは大して読まれず、生活は苦しいままでした。
【K】なかなかうまくいかないところが、生々しい……。
【工】貯金残高がどんどん減っていくのを見るのは、本当にしんどかったですね……。
■「人生の時間割」を自分でつくれる幸福感
【工】それでも、人生が少しずつ好転していくのを実感できるようになったのは、2回目の介護離職をしてから5年くらい経った40代半ばのことです。
【K】なにがあったんですか?
【工】商業出版で本を出したんです。でも、それも自分の企画を出版社に売り込んでくれるエージェントを見つけて応募したくらいで、とにかく必死でした。
【K】本を出せて人生が劇的に変わったわけですね!
【工】いえいえ。本を1冊出したくらいでは、なかなか……。そこから次の本、さらに次の本へとつながっていき、さらに講演の依頼をいただけるようになって、ようやくその収入で家賃を払えるようになって、ギリギリ生活できるレベルになりました。
【K】一気に好転するわけではないんですね……。
【工】そうですね。今も経済的に成功したとはいえません。ただ、人生の主導権をにぎることができて、自分の時間を自由に使えるようになったんです。「人生の時間割」を自分でつくれるようになったというんでしょうか。わたしにとって、それがとても大きなことで、そこでようやく人生が好転したと思えるようになりました。
【K】30代半ばから10年以上も自分の仕事や人生について模索して、もがき続けたってことですか?
【工】そうですね。「考えざるをえない状況に追いこまれた」と言ったほうが正しいかもしれません。まさか2回も介護離職するとは思いもしなかったし、もともと文章を書く仕事をしていたわけでもありません。いろいろな偶然が積み重なって、今につながっている感じですね。
【K】くどひろさんは、今の状況に満足しているんですよね?
【工】はい。いつかは独立して勤め人を辞めたいという、ざっくりとした思いはずっとありましたから。でも、それが家族が倒れたことがきっかけで実現できるとは、夢にも思っていませんでした。まぁ、しんどい時期も長かったですが。
【K】なるほど。まさに、くどひろさんは、老いた親への不安を着火剤として使って、新しい仕事や人生を開拓していったわけですね。
【工】開拓なんてかっこよく言ってくださってうれしいですが、現実は本当に泥臭くもがきましたね。
■老いた親の問題の衝撃は自然災害以上⁉
【工】わたしのように、老いた親に関連して予期せぬことが起こって、自分が変わらざるをえない状況に追いこまれる事態は、Kさんにも突然起こる可能性があります。
【K】たしかに、今、わたしの両親は元気ですが、今後はわかりませんもんね……。
【工】そうですね。ここであらためて、老いた親の問題が人生に与えるインパクトについて考えてみましょう。イメージしやすいように、①自然災害、②部署異動、③老いた親の問題の3つを比較してみますね。
【K】わかりました。
【工】この3つの出来事のインパクトを、それぞれ「距離」と「深さ」であらわしてみてください。「距離」というのは、自分との関係性が近いかどうかです。「深さ」というのは、その出来事の深刻さの度合いです。
【K】そうですね……、①自然災害は、いつかは起こる可能性が高いと思いますが、今はリアルには想像しにくいです。距離としては遠い気がします。でも、現実に起こったとしたら、かなり深刻だとは思います。
【工】「遠くて、深い」ですね。②部署異動は、どうですか?
【K】距離は、そこそこ近いですね。ちょっと上の先輩が、この前、異動になっていたので他人事じゃないです。希望していない部署だと、深さも出てくるでしょうね。
【工】「そこそこ近くて、そこそこ深い」ですね。最後の③老いた親の問題は?
【K】うーん……。さっきは「実際に困ることが起きないと、なかなか現実味がない」なんて言いましたが、くどひろさんのお話を聞くと、いつかは確実に直面することになるとわかってきたので、距離はめちゃくちゃ近いですよね……。
【工】深さはどうですか?
【K】かなり深いような気がします。わたしには弟がいるんですが、わたしも弟も実家から遠くに住んでいて、それぞれの家族もあるので、くどひろさんみたいに突然親になにかが起こると、大混乱になると思います。
【工】老いた親の問題は、「かなり近くて、かなり深い」問題で、わたしたちの人生に大きなインパクトを与えると考えておいたほうがいいんです。
【K】自分の認識の甘さを痛感しています……。
![工藤広伸『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/a/1200wm/img_9a3a168d3a38cbf988ce0926ac557a9f205308.jpg)
【工】今、そのことに気づけたKさんはチャンスですよ。危機感を持てると、これからの自分の仕事や人生について本気で考えるきっかけになりますから。
【K】老いた親のことって100パーセントネガティブなことだと思っていましたが、くどひろさんのお話を聞いて、そうでもないのかもしれないと、ちょっとだけ考えはじめている自分がいます。
【工】うれしいですね! 親の老いについて考えることは、Kさんのこれからの人生に必ず役立つと、わたしは確信しています。先送りしても、いずれ向き合わないといけないタイミングは必ずやってきますから、それなら少しポジティブに、そして、ご両親が元気なうちに考えられたらベストですね。
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介護作家・ブロガー
1972年、岩手県盛岡市生まれ。2012年、40歳のときに認知症の祖母と母のダブル遠距離介護がはじまり、介護離職。その後、介護ブログを立ち上げ独立。新聞やWebメディアなどでの執筆活動を中心に、大手企業や全国の自治体で講演活動をしながら、現在も介護と仕事の両立を続けている。途中、悪性リンパ腫の父も介護し、看取る。独自の介護の工夫やノウハウが、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」など、多数のメディアで紹介される。『親が認知症⁉ 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など著書多数。 ブログ「40歳からの遠距離介護」/音声配信Voicy「ちょっと気になる? 介護のラジオ」
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(介護作家・ブロガー 工藤 広伸)
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