<KDDI>驚きを、常識に! スマホのプロのオタク戦略【1】
プレジデントオンライン / 2013年5月1日 14時15分
2013年1月29日、東京・増上寺で催された「FULL CONTROL TOKYO」には約1500人が集まった。ステージ上のきゃりーぱみゅぱみゅが手元のスマホを操作すると、東京タワー、会場の照明、観客のスマホが連動して指定した色に変化する。
携帯キャリアは「わが世の春」を謳歌している。最大の要因はスマートフォンの普及だが、それはいつまでも続かない。事業の主導権は徐々にアップルやグーグルに移りつつある。物流に手を広げるドコモ、規模拡大に邁進するソフトバンク。両社に挟まれる「2番手」は、通信サービスの洗練で活路を拓く――。
■「iPhone」以外のV字回復の要因とは
13年1月29日、東京・増上寺。歌手のきゃりーぱみゅぱみゅが手元のスマートフォン(スマホ)を操作すると、東京タワーの照明が赤、青、黄と次々と変わる。音楽と照明とスマホを組み合わせた斬新なパフォーマンス。約1500人の歓声が響き、「驚きを、常識に。」という文字が浮かび上がる――。
「FULL CONTROL TOKYO」と題されたこのイベントは、KDDIが催したもので、テレビCMにもなっている。多額の宣伝費を使って、通話やメールではなく、「スマホで世の中をコントロールする」というメッセージを訴求する。それはKDDIの世界観を伝えるものだ。
「スマホブーム」のなかで、携帯電話各社は好調だ。2012年4~12月期決算では、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社とも増収となった。ただし営業利益では明暗が分かれた。ドコモは販促費の積み増しなどで7021億円と5.6%の減益、一方、ソフトバンクは8期連続の最高益となる6001億円だった。
これに対し、KDDIは3%の増益となる3955億円。規模に勝るドコモはともかく、契約数では業界3位のソフトバンクに営業利益で劣るのは、KDDIがスマホブームに乗り遅れたツケだ。だがそれは裏を返せば、今後の改善の余地が大きいことを示す。
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田中孝司
1957年、大阪府生まれ。81年京都大学大学院工学研究科修了、国際電信電話(現KDDI)入社。85年米スタンフォード大学大学院電子工学専攻修了。2003年ソリューション商品開発本部長、05年ソリューション事業統轄本部長、07年取締役常務、10年6月代表取締役専務、10年12月より現職。
1月28日の決算会見で、KDDIの田中孝司社長は、通期業績見通しの上方修正を発表。就任からの2年強を振り返りながら、「ちょっと底を打ったという感じ。絶好調というところまでいっているというわけではなく、地味にやってきた成果」と話した。
大きな成果の1つが通信料収入の増収だ。通信料収入とは通信料単価と契約件数を掛け合わせたもので、KDDIでは07年7~9月期から下落基調だったが、12年7~9月期からは反転している。背景にあるのは通信単価の下げ止まりと契約件数の急増だ。
なぜV字回復に成功したのか。その原動力としてわかりやすく語られるのは、11年10月のiPhoneの導入だ。それまで国内ではソフトバンクが独占販売していたが、KDDIが急遽参入。これにより、ソフトバンクの独走を止め、ドコモからユーザーを奪った。
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大手3社の契約数の推移
しかし、KDDIにおけるiPhoneの販売比率は、iPhone5など新製品の発売時は6割程度にまで上昇することもあるが、実際は全体の約4割程度とされている。好調の理由はiPhoneだけで説明できるわけではない。
携帯電話会社の実力を図るうえでは様々な指標がある。よく知られているのは「純増数」だが、田中社長は「1番は解約率、2つ目がMNP(番号ポータビリティ制度による他社からの流入)、3つめに純増数と位置づけている」という。
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解約率は業界最低水準に
KDDIの解約率は12年第3四半期で0.58%。ドコモの0.80%、ソフトバンクの1.12%を抑えてトップとなっている。またMNPでは、11年10月から13年3月現在まで17カ月連続で首位を記録している。
月間の純増数では、ソフトバンクが圧倒的に強いが、同社はフォトフレームや子供用の「みまもりケータイ」など、通信料収入がほとんど見込めない端末をばらまくことによって、契約者数を稼いでいる。田中社長は「まだ、(他社のように)そこまで踏み込んではいない」として、新規の獲得よりも、他社からの流入と自社の維持に注力している。
■家族4人なら2年で14万円割引
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MNPの利用状況推移
他社からの流入という点で絶大な効果が出ているのが12年2月にスタートさせた「auスマートバリュー」だ。これはKDDIのスマホ回線と提携するケーブルテレビなどの固定インターネット回線を組み合わせることで、スマホ1回線当たり月額1480円を値引きするというものだ。家族4人がKDDIのスマホにすれば、月額5920円、2年間で14万2080円の割引が受けられる。
固定回線とのセット契約を条件にすることで、これまであった「家族割」よりもわかりやすくなっている。家族を丸ごと囲い込むことを狙った販売施策だ。
またスマートバリューの割引を受けるには、固定インターネット回線の契約が高速なプランである必要がある。さらに、音声電話回線もケーブルテレビのサービスを利用しなくてはならない。つまり、スマホの通信料金は下がるが、ケーブルテレビ会社への支払いは増える可能性が高い。このため提携先である全国のケーブルテレビ会社も、KDDIの拡販を真剣に手伝ってくれるのだ。
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auスマートバリューとは
スマートバリューの契約者は12年12月末現在で285万件。約166万世帯での契約がある。KDDIの新規契約の実に33%がスマートバリューを利用しているという。
スマホ回線と固定回線を組み合わせて売るというやり方は、ドコモにはできない。「NTT法」で一体営業が禁止されているからだ。スマートバリューはこの弱みを突く施策だ。
KDDIはかねてからケーブルテレビとの協業を画策していた。06年にはジャパンケーブルネット(JCN)の筆頭株主となっている。さらに業界1位のジュピターテレコム(JCOM)も手中に収めようとしたが、筆頭株主の住友商事との交渉が難航。約3年を経て、12年10月に両社が50%ずつ出資してJCOMとJCNを経営統合するという形で結論が出た。13年秋には市場シェアの過半を占めるメディアが生まれる。
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KDDIの歩み
目指すところは、通信と放送の垣根を取り外すことだ。KDDIが現在、JCNで展開している「Smart TV Box」は、ケーブルテレビの受像器でありながら、基本ソフトにスマホと同じ「アンドロイド」が採用されている。このためスマホやタブレットで提供されているアプリや音楽、映像をテレビでも利用することができる。さらにHDDを追加するとテレビ放送を録画することもできる。つまり録画したテレビ放送と有料配信されるコンテンツを、同じ画面で楽しむことができるのだ。
テレビの分野ではアップルやグーグルも様々な取り組みを進めている。特に通信と放送を融合させた「スマートテレビ」は、市場拡大を起こすテーマとして熱い注目を集めている。KDDIの取り組みもその流れに位置づけられるが、なぜテレビそのものではなく、ケーブルテレビなのか。
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専務・新規事業統括本部長
高橋 誠
1961年生まれ。84年京セラに入社し、第二電電企画(現KDDI)に転籍。2003年コンテンツ本部長、07年常務、10年グループ戦略統括本部長、11年より現職。
ケーブルテレビ事業を手がける高橋誠専務は「ケーブルテレビ会社はお客さんにとても近い」と話す。
「ケーブルテレビを自宅に敷くことになると、工事担当者が家に来て、リビングで作業をします。そのあと機器の使い方を説明する。ここが強みなんです。実際、30%のユーザーがタブレットも併用しています。担当者が『こうすれば通信販売ができますよ』と利用シーンを丁寧に説明できれば、誰でも簡単に使えます。提携する通販会社からは『1人当たりの売り上げがいい』といわれています」
スマートテレビやスマートフォン、タブレットの使い方を自宅でレクチャーする。こういう売り方は、アップルやグーグルにも真似できない。
(スマートフォン、携帯電話ジャーナリスト 石川 温 小倉和徳(田中社長、高橋専務)=撮影)
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