“2014年問題”目前で造船大手の再編待ったなし
プレジデントオンライン / 2013年5月23日 10時45分
川崎重工業と三井造船による経営統合交渉が取り沙汰されるなど、国内造船大手をめぐる再編の動きがにわかに慌ただしさを増してきた。新建造船受注が急激に細り、来年には国内で造る新造船がほぼなくなる「2014年問題」が目前に迫っていることがその大きな背景になっている。造船大手の再編としては、すでにJFEホールディングスとIHIが系列造船子会社の経営統合に踏み切り、新会社「ジャパンマリンユナイテッド(JMU)」が今年1月に発足して間もない。これに追随するように浮上した川重と三井造船の経営統合構想は、「2014年問題」に背中を押され、造船大手が事業存続を懸けた本格的なサバイバル戦に突入したことを意味している。
4月下旬に明らかになった川重と三井造船の経営統合構想は、本体同士が対象となる点で、造船事業子会社の統合にとどまったJFE、IHIのケースとは次元が異なる。造船・重機業界においてそれぞれ売上高規模で第2位、5位にある両社の経営統合が実現すれば、連結売上高は単純合算で約2兆円に迫り、最大手の三菱重工業に次ぐ巨大企業が生まれる。交渉入りの事実について、川重、三井造船はともに表向きは打ち消している。しかし、主要取引銀行との協議は継続しているともされ、その行方に注目が集まる。
事実、川重は4月25日に発表した中期経営計画で、M&A(企業の合併・買収)を軸にした世界的な事業展開を成長戦略に位置づけた。その場で長谷川聡社長は、三井造船との経営統合も「選択肢として排除しているわけではない」と含みを持たせた。三井造船も、翌26日の決算発表記者会見で、川合学常務が「M&Aについてあらゆる可能性を拒むものではない」との見解を示したほどだった。
ただ、現実問題として、造船から航空宇宙、鉄道車両など多くの事業を展開する川重に対し、三井造船は売上高の5割強を占める造船事業への依存度が高く、経営統合による相乗効果が引き出せるかは疑問も残る。一方で、建造量で三井造船は川重を上回り、双方に経営統合への慎重論が根強いともされ、経営統合構想が先行き不透明である点は否めない。
しかし、三井造船は造船市況悪化から国内造船所の減損処理に踏み切ったのにともない、13年3月期に82億円の最終損失と11年ぶりの赤字計上。川重にしても、14年3月期の船舶・海洋部門の営業損益は収支トントンを見通すなど、共に造船事業の抜本的見直しは不可避だ。
■市場で続く供給過剰円安効果引き出せず
両社に限らず、コスト面で劣勢に立たされる中国勢、韓国勢との競合、さらに「2014年問題」が象徴する縮む一方の需要を前に事業縮小も含めた抜本的な事業構造見直しは、国内造船業界全体に共通した問題だ。実際、造船・重機4位の住友重機械工業は今年3月末の受注残が2隻にすぎず、造船事業存続に向け、生産人員の大幅削減という縮小均衡で凌ぐ。13年3月期には、横須賀造船所(神奈川県横須賀市)の土地、生産設備の減損処理により、164億円の特別損失を計上し、最終利益を1月予想の130億円から55億円に下方修正した。
三菱重工も安泰とは言えず、100年超の歴史がある神戸造船所(神戸市)で商船建造を打ち切るなど国内での建造能力の削減に動いた。同社は一方で、造船専業最大手の今治造船(愛媛県今治市)と液化天然ガス(LNG)運搬船の設計・販売で今年4月に新会社を設立したほか、やはり専業の伯方造船(愛媛県今治市)と小型コンテナ船の共同開発で提携するなど、韓国との競争力がある専業大手との提携を矢継ぎ早に打ち出した。さらに、インドや中国の造船企業に技術供与し、海外事業展開に乗り出すなど、造船事業のてこ入れに躍起だ。川重も、中国やブラジルの企業への出資などを通じ、国内造船大手で先行してきた海外事業を加速し、生き残りを目指す。
しかし、08年秋の「リーマン・ショック」以降の世界的な造船需要の縮小に加え、韓国勢、中国勢が建造能力を大幅に増やしてきた結果、世界の造船市場は供給過剰が続き、国内造船大手の生き残りは容易でない。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」による円安効果で、中韓勢とのコスト競争は和らぐとはいえ、パイの拡大が見越せない中で円安効果も引き出せないのも現実だ。かつて日本のお家芸として世界市場を席巻し、2度の「造船不況」を乗り切った造船大手にとっては、「2014年問題」は事業存続を懸けた最大の危機。川重、三井造船両社に限らず、生き残りを懸けた業界再編は待ったなしの局面を迎えている。
(PANA=写真)
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