小泉進次郎になぜ人気が集まるか
プレジデントオンライン / 2013年5月30日 9時45分
先日、G1サミットという、若手経営者の集まりに参加してお話しさせていただいたとき、印象深いことがあった。
新進気鋭の政治家として注目されている小泉進次郎さんがいらしていて、親しくお話しさせていただいた。やはり、将来の「首相」の器だと確信したのだが、その際に気づかされたことがある。
人を惹きつける人、人望のある人とはどういう人か?
それは、「自分の言葉」を持っている人だと思う。世の中ですでに手垢のついた言葉ではなく、自分の人生の中でつかんだ、元手のかかった、いわば「体重」の乗った言葉を発することができるか。
これは、簡単なことのようで、実際には難しい。自分の言葉で語ることができる人が少ないからこそ、そのような人はこの世の中で「希少価値」を持つ。だから、人気が出る。
小泉進次郎さんがG1サミットにいらしたのは、ちょうど、元横綱の大鵬さんが亡くなって国民栄誉賞を受けられると決まった頃だった。そのことをとらえ、小泉さんは、大鵬さんの素晴らしさを称えたうえで、このようなことをおっしゃったのである。
「大鵬さんの国民栄誉賞は素晴らしいが、一方で、国民栄誉賞というものは、社会の片隅で、誰にも知られずがんばっている、無名の方に差し上げてこそ本当に意味があるのではないでしょうか。
もうすでに誰もが知っている偉大な方に、改めて差し上げるよりも、無名の方に差し上げたほうが、私は、賞の意義があるように思う。
昔の子どもたちは、巨人、大鵬、卵焼きが好きだと言われました。もし、大鵬さんに国民栄誉賞を差し上げるならば、巨人や卵焼きにも国民栄誉賞を差し上げなければおかしい」
肝心なのは、小泉進次郎さんは、大鵬さんが偉大な存在であることを褒め称えたうえで、本当は、国は、社会の片隅でがんばっている無名の方にこそ感謝すべきだという「本論」を述べているということ。
「卵焼きにも国民栄誉賞を」というユーモアあふれるトークに、会場は爆笑し、そして温かい気持ちに包まれた。
このような話こそが、元手のかかった、「自分の言葉を持つ」ということ。一方、世間には、マスメディアで報じられている、あるいはすでに誰かが言ったような言葉を、そのまま受け売りしている人があまりにも多い。
小泉進次郎さんが、未来の首相候補と目されているように、自分の言葉を持つ人は、それなりの評価を受けるし、社会の中でもそれなりの地位を得る。
石原慎太郎さんが、その政治的立場に賛否両論があっても、長らく都知事に選ばれるほどの人気を保っていたのも、結局、石原さんが自分の言葉を持っていらした、ということに尽きると私は考える。
では、自分の言葉を持つにはどうすればよいか。何よりも、自分の感覚に耳を傾け、それを信じることである。今回取り上げた小泉進次郎さんの発言の裏にあったのは、国民栄誉賞というもののあり方や、その報道のされ方に対する「違和感」のようなものだろう。
「違和感」を、独善的に主張するのではなく、小泉さんのようにユーモアと愛を持って表現する。そんなことができる人は、「自分の言葉」を持つという理想に、一歩近づいている。
「自分の言葉」を持つということは、つまりは自分も他人もよく見えているということ。そこから、「独創」も「共創」も広がっていく。
(脳科学者 茂木 健一郎 写真=PANA)
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