子供をつくる約束を相手が破った。慰謝料は取れるか
プレジデントオンライン / 2013年6月25日 14時15分
まず、「子供をつくる約束」についてだが、法的に絶対的な拘束力はない。例えば、契約社会であるアメリカでは、結婚するに際して、財産分与や子育てなどについて契約書を取り交わすことがあるが、日本の場合、仮にこうした契約書を交わしていたとしても、法的にどの程度の効力を持つのかは微妙なところだ。
しかし、子供以前に、正当な理由なしに性交渉を配偶者が拒否していれば、家庭裁判所の「夫婦関係調整事件」を申し立てる動機の1つに挙げられている「性的不調和」に当たる可能性がある。基本的に性交渉は、「夫婦関係の重要な要素」とされており、拒否するということは、離婚が認められるかどうかのきっかけになりうる。
現在、民法770条第1項により認められている離婚原因は次の5つである。
(1)配偶者に不貞な行為があったとき
(2)配偶者から悪意で遺棄されたとき
(3)配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
(4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
(5)その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
性的不調和はこのうち(5)に該当するかどうかが争点になる。たとえ性交渉がなかったとしても、双方ともに性交渉がなくてもよいという合意があれば、「婚姻関係を継続しがたい重要な事由」にはならない。
■離婚原因になりうる「性的不調和」とは
では、性的不調和が離婚原因になるケースには、どのようなものがあるのかを考えてみよう。
まず、夫婦のいずれか一方が、正当な理由がないのに、長期間にわたって性交渉を拒絶し、拒絶された配偶者が精神的苦痛を感じ、それが原因で拒絶された配偶者側が離婚を求めるような場合。これは配偶者に対する協力義務(民法752条)の懈怠(けたい)、心理的・精神的な虐待にあたる可能性があり、抽象的離婚原因になりうるし、慰謝料も請求可能である。
身体的に性交渉が不能で、それに不満を抱いた配偶者が離婚を求めた場合はどうだろう。結婚後、婚姻関係が継続している途中で性交渉ができなくなった場合は、離婚原因になる可能性があるが、慰謝料を請求する原因になるかどうかは疑問だ。ただし、結婚時から性交不能で、その事実を相手に告知せず結婚し、苦痛を感じた配偶者から訴えられた場合は別である。離婚原因になるのはもちろん、事前に告知しなかったということが、慰謝料請求の原因になりうる。
性交渉自体はあるものの、態様や頻度に不満があるという場合も考えられる。頻度については何ともいえないが、態様という点では、例えば一方に異常な性癖があり、それが相手に苦痛を与えた場合などは、離婚原因にもなるし、慰謝料請求原因にもなる可能性がある。ただ、この点については客観的な判断基準が難しく、証明するのが困難であるのも事実だ。
さらに、性交渉の有無にかかわらず、一方の配偶者が不妊症で子供ができず、そのことについてもう一方の配偶者が不満を持つようになったという場合。慰謝料請求の原因になるかどうかは微妙だが、離婚原因に該当する可能性はある。ただし、結婚時から不妊症であることがわかっていたのに、隠して結婚した場合は、2つ目のケースと同様、事前に告知しなかったという事由があるので、慰謝料請求の原因になる可能性がある。
慰謝料額の相場は、通常100万~300万円程度で、事案の特性から500万円とされた例もある。また、財産分与も請求できる。
このように、いわゆる「セックスレス」に関しては慰謝料を請求できる可能性があるが、配偶者の一方が子供をつくりたがらない、ということだけを理由に慰謝料まで請求するのは容易ではない。仮に拒否されたほうが訴訟を起こしたとしても「子供が要らない」と思うような状況を招いたのがどちらの配偶者に責任があるのかといったことにより判断されるだろう。実際、訴訟に発展するようなケースでも、1つに限らず、複数の理由が重なり合って結婚生活が破綻したという場合がほとんどである。したがって、答えは1つには絞りきれず、ケース・バイ・ケースであるとしかいえない。
(弁護士 比留田 薫 構成=鈴木雅光)
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