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<三菱重工業>日立と事業統合、火力発電で世界に戦いを挑む【2】

プレジデントオンライン / 2013年6月28日 15時15分

三菱重工業 常務執行役員航空宇宙事業本部長 鯨井洋一

幻に終わった「日立製作所と三菱重工の全面統合」。その1年4カ月後に突然発表されたのが、両社“部分統合”だ。なぜ、部分統合が実現したか? その伏線は13年前にあった。

■航空機事業は、大きく伸びるチャンスがある

広島製作所における「777」の製造を軌道に乗せてホッとした鯨井洋一だったが、昨年7月に、大宮英明社長(現・会長)からこういわれた。

「広島(製作所)の(飛行機の)経験を生かして、メイコウの面倒を見てほしい」

先ほどの、鯨井が“青天の霹靂”といった場面だ。メイコウといえば、大宮が、30年以上、全身全霊を捧げた“航空機製造の聖地”だ。大宮は、鯨井が「777」でえた知見、経験が大宮が推し進めようとする改革のベクトルと一致すると考えた。鯨井も、大宮、宮永改革の“申し子”として将来を期待されている。

同じく改革の申し子であり、後継者として大宮から社長に指名された宮永は、11年に社長室長に就任、大宮の片腕として「大宮改革」の制度設計を担当した。

三菱重工業は、6つの事業本部を4つのドメイン(「エネルギー・環境」「機械・設備システム」「交通・輸送」「防衛・宇宙」)に集約させ、それぞれが1兆円の売り上げを目指す。三菱重工業と日立製作所における「火力発電システム事業の統合」効果などを含め、17年度以降、「5兆円企業」を視野に入れる考えだ。

鯨井が託された航空機事業は、4ドメインの1つで「交通・輸送」の核となる事業である。宮永も、こうエールを送る。

「航空機事業は、これから大きく伸びるチャンスがある。現時点で330機の受注がある、三菱リージョナルジェット(MRJ)は、成功させないといけないし、ボーイングのティア-1(1次下請け)の事業も、大いに期待が持てる」

大宮から人事を告げられた鯨井だが、辞令直後に、「787」「MRJ」プロジェクトを成功させるため、あえて“航空機畑でない”メンバー10数名を集めて、チームを編成している。社長室、資金、経理、資材など様々な分野から構成された精鋭部隊である。約3カ月間にわたり、全員が顔をつき合わせ、民間航空機が現在置かれている状況や問題点の洗い出しを、“ゼロベースから”徹底して行った。

そして、航空事業の“方向性”が出された。(1)生産現場の混乱を避けるために、生産システムの改善が必要である。(2)サプライチェーンの改善が急務である。(3)生産現場において設備能力の限界がきているため、生産現場をメイコウ一極集中から自立分散型に変えていく(例えば一部を広島製作所、一部をカナダやベトナムの工場へと移管するなど)。こうして、それぞれの部門が、自主独立し、生産能力の向上を目指すことを確認しあったのだった。

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ボーイング787ドリームライナーの片翼部分の前で写真撮影をする関係者たち。

世界中の注目を集めるボーイング787ドリームライナー(以下、「787」)。同機の巨大な複合材「主翼」を組み立てることができるのは、世界で三菱重工業だけだ。「787」は、三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の3社で、機体の35%を担当する“準国産航空機”と呼ばれるが、特に、複合材「主翼」は、高度な技術が必要とされている。

「787」は、就航直後に発生したバッテリーシステムのトラブルにより、最近まで就航が禁止されていた。しかしながら、すでに800機余りの受注を受けているが、トラブル後も、キャンセルは入っていないという。複合材「主翼」の生産は、現在の月産5機から、将来は月産7~8機へ生産効率を上げる計画である。

宮永と鯨井が何としても成功させると力を込める「MRJ」プロジェクト。「787」のような長距離用の大型旅客機と異なり、「MRJ」は近距離用の小型旅客機である。14年に本格的な就航を目指すMRJだが、急成長を遂げる小型旅客機市場に参入を試みている。

鯨井は「777」で得た知見、経験をMRJプロジェクトに反映したいと考えている。同様に、長崎における大型客船の建造(前号で紹介)にも、三菱重工業が受注した台湾新幹線でえた知見、経験が反映されている。「MRJ」にも、台湾新幹線の知見、経験を反映させるため、台湾新幹線で腕を振るった山口武生を、(MRJを製作する三菱航空機の)常務として迎え入れている。三菱重工業が関わった中東初となる都市鉄道ドバイメトロの技術者も、「MRJ」に投入するなど、「MRJ」には、三菱重工業が「陸・海・空」でえたノウハウが「総結集」されている。

日本初の民間航空機「MRJ」に対する期待は大きい。

昨年6月を過ぎた頃、当時の大宮から宮永は、こう聞かれている。

「日立(製作所)との火力発電事業統合の件、どう思う」

宮永は、躊躇することなく、答えた。

「私はやったほうがいいと思います」

宮永は、先述の通り、製鉄機械の分野で「三菱日立製鉄機械」の合弁会社立ち上げを成功に導いた。

「三菱重工業と日立製作所が一緒になって、うまくいくのか」

という周辺の雑音も聞こえてきたが、信念を通して、合弁会社を収益企業へと育て上げた宮永からすれば、「火力発電システム事業」の分野でも、同じやり方ができれば、うまくいく自信があった。ある程度の事業規模がないと、世界の競合と戦えないことは、明らかだ。

日立製作所との火力発電事業統合の舞台となるのが、三菱重工業の利益の80%を稼ぎだす「屋台骨」の原動機事業本部である。事業統合により、両社を合わせた火力発電事業の売り上げ規模は、1兆円の大台に乗る。

■各ドメインで、1兆円程度の売り上げ

三菱重工業 常務執行役員原動機事業本部長 
和仁正文

火力発電システム事業のトップである和仁正文常務執行役員原動機事業本部長は、今回の日立製作所との統合について、

「様々な補完関係が生まれ、事業規模の拡大につながる」

と期待を寄せる。だが、三菱重工業、日立製作所の火力発電事業を統合しても、米国のGE、ドイツのシーメンスの事業規模に及ばない。

和仁は、三菱重工業に入社してから、長い間、プレゼンや見積もり、仕様など、客のニーズと擦り合わせを行う「技術営業」のような仕事に(長崎造船所には23年間在籍)、国内外で携わってきた。

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ガスタービンのシェア

和仁は、GE、特にシーメンスに対抗する術をずっと考えてきた。和仁には、小型から大型までフルラインアップのガスタービンを揃えるシーメンスが、「厚く、高い壁」と感じる時期もあったという。戦後しばらくの間、占領軍(GHQ)により航空ジェットエンジンの開発が許されず、戦前からの技術的、人的な継承ができなかった。そのため、厳しい環境下で、海外展開を余儀なくされた原動機事業が、海外展開に乗り出したとき、すでに欧米市場は、GEとシーメンスに席巻されていた。三菱重工業が得意とし、世界の経済を牽引するアジア市場においてもGE、シーメンスが強力なライバルである構図に変わりない。

兵庫県高砂市にある高砂製作所をガスタービンの主力工場とする三菱重工業は、今やGE、シーメンスに次ぐ「第3勢力」に成長した。しかし、三菱重工業のガスタービンは、大型中心のため、商談が中小型のときは、苦戦した。そこで、昨年12月、中小型ガスタービンを、ラインアップに加えるために、EPC(設計、調達、建設)も手がけるPWPS(プラット&ホイットニー・パワーシステムズ)の買収に合意した。今回の事業統合で、日立製作所の中小型のガスタービンも加わり、フルラインアップが完成する。

原動機の本拠地である高砂製作所で、20メートル超のガスタービンの加工現場を見学した。ガスタービンの組み立ては、100分の1ミリ単位の誤差も許されない“精緻なアナログ技術”の集積である。

高砂事業所で組み立てられる「ガスタービン」。タービンの羽根1枚で100万円以上する。

この工場内で国内の電力会社だけでなく、海外、特にアジア諸国から送られてきた部品の修理も行われている。ガスタービンに貼られたラベルの国名を見れば、三菱重工業のアジア市場における存在の強さが窺える。GE、シーメンスのガスタービン事業が、メンテナンスで事業収益の大半を稼ぐように、三菱重工業も今後は、“メンテナンス”事業を収益の柱にする戦略を掲げている。

ガスタービンの例にみられるように、宮永は、三菱重工業をかつての低収益事業の集合体から、GE、シーメンスと比肩できるような“収益力”の高い事業モデルを含んだ形に変化させようとしている。それぞれの事業が自立して、一定以上の売り上げと利益を上げ続けなければ、会社は存続できないと考える。宮永は三菱重工業の未来をこのようにみている。

「各ドメインで、1兆円程度の売り上げがなければ、グローバルな競争上で、規模のメリットを追求できない」

兵庫県高砂市にあるガスタービンの“聖地”高砂事業所。

宮永は、各分野で、1兆円規模に事業を成長させることができれば、たとえトップを取れなくても、上位3社以内に入れるとみている。日立製作所と1兆円規模となる火力事業の統合を成立させたのもこの理由からだ。統合効果で、14年度、売上高4兆円も視野に入る。しかしながら、17年度以降の売上高5兆円となると話は別で、「MRJ」「787」を確実に成功させたうえで、インフラ事業、M&Aなどの大型投資などが不可欠だ。宮永に求められる課題は、30年以上続く“3兆円企業”からの脱却である。

「常に客に対して可能性を提示し、客のニーズをこちら側からつくり出すような営業が展開できれば、必ず勝算はある」

宮永が、三菱日立で学んだように、よい部分を引き出し、可能性を伸ばすことで、必ず受注は増えていく。

大宮が5年前から格闘し続けた、三菱重工業の新たな姿、新たな挑戦への道筋。その道を、迷うことなく歩んでいくのが、宮永の役割だ。宮永に、三菱のスリーダイヤの未来が託されている。

(文中敬称略)

(ジャーナリスト 児玉 博 的野弘路=撮影)

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