骨代謝における骨形成タンパク質BMP3bの機能を解明
PR TIMES / 2024年11月7日 12時45分
~ 骨再生医療の発展に貢献 ~
公立大学法人 九州歯科大学(キャンパス:福岡県北九州市、学長:粟野 秀慈) 分子情報生化学分野 古株彰一郎教授らの研究グループは、BMP(骨形成タンパク質)3bと呼ばれるタンパク質がその名に反して、骨形成を抑制し、骨量を負に制御していることを見出しました。この発見は、骨再生医療の発展に貢献できる可能性があります。本研究結果は米国東部時間の2024 年10月24 日にELSEVIERが発刊する Bone誌(電子版)に掲載されました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/146534/2/146534-2-2022e93bef80bf10bc80cb427a997cfe-1600x939.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
BMP3b欠損マウスでは骨の量が増加する
[九州歯科大学ウェブサイト] https://www.kyu-dent.ac.jp/
【本研究発表のポイント】
- BMP3bが存在しないマウスでは骨量が多い。
- BMP3bは骨芽細胞分化を抑制する。
- BMP3bはBMP2やBMP4などの「骨を作る」BMPが誘導するBMPシグナルを抑制する。
【九州歯科大学 分子情報生化学分野について】
昭和24年に創設され、平成19年より現在の分野名に変更しました。令和元年にカナダMcGill大学からAddison博士を招き、現在の体制で新たなスタートをきりました。生命の最小単位である細胞が生物としてさまざまな機能を営む「しくみ」の解明に取り組んでいます。
【研究の背景】
BMP(骨形成タンパク質)(※1)は骨を作る因子として発見され、現在では20種類ちかくのBMPが存在することがわかっています。BMP2や4などは、典型的な「骨をつくるBMP」として有名です。一方で、BMP3bは脳、脂肪、骨格筋などで働き、多くの病気に関わることが知られてきましたが、肝心かなめの「骨」における機能がわかっていない状態でした。
【研究の内容と成果】
九州歯科大学 分子情報生化学分野の児玉奈央 大学院生、古株彰一郎 教授を中心としたグループは、長崎大学、東京医科歯科大学(現 東京科学大学)、国立循環器病研究センター、愛媛大学、熊本大学、東京都健康長寿医療センター研究所、中国四川大学との共同研究として、BMP3bの機能を喪失したマウスの骨を解析しました。
BMP3b欠失マウスでは健全なマウスと比べて体格に大きな差はありませんでしたが、BMP3b欠損マウスの骨組織では、骨の量が増加していることが判明しました。通常、骨組織では、骨芽細胞と呼ばれる細胞が骨を作ったり、破骨細胞と呼ばれる細胞が骨を壊したりを絶えず繰り返しています。これを骨リモデリング(※2)と言いますが、このバランスが崩れた時に骨の量に変化が現れます。BMP3bは破骨細胞にほとんど存在しない代わりに、骨芽細胞に多く発現したことから、骨芽細胞の分化におけるBMP3bの機能解析を行いました。BMP3b欠失マウス由来の骨髄の間葉系幹細胞(※3)では、健全マウス由来のものに比べて、骨芽細胞に分化(※4)する力が強いことが分かりました。
そこで、BMP3bが骨芽細胞分化を抑制するメカニズム解明に取り組みました。するとBMP3bは、BMP2やBMP4などの「骨を作る」BMPが誘導するBMPシグナル(※5)を抑えました。さらに、BMP3bは「骨を作る」BMPが、その受容体に結合するのを阻害することが明らかとなりました。
以上より、BMP3bは「骨を作る」BMPが受容体に結合するのを抑制し、BMPシグナルを減弱させることで、間葉系幹細胞から骨芽細胞分化ならびに骨の量を制御している可能性が示されました(図)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/146534/2/146534-2-e0eafbab426411558505fb8b50516020-1600x896.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
<図>
【今後の展開】
超高齢社会の日本では、骨粗しょう症患者の増加が問題となっています。骨粗しょう症は加齢にともない骨量が減少する疾患です。そのため、BMP3bの機能を抑える中和抗体(※6)などは、骨粗しょう症治療薬の画期的な候補となるかもしれません。また、マウス、ラット、ウサギなどのげっ歯類で強力な「骨を作る機能」を示すBMP2は、局所の骨再生を担う因子として、大いに期待されていたにも関わらず、ヒトでは十分な効果が得られていないのが現状です。その理由として、ヒトなどの霊長類ではBMPシグナルの抑制機能が強く働いているためと考えられています。今回の研究で、BMP3bは生理的にBMPシグナルを抑制していることがわかりました。すなわち、BMP2をBMP3bの中和抗体などと組み合わせ、「BMP2の骨を作る機能」を高めてあげることで、新たな骨再生医療へ展開できるのではないかと期待しています。
<古株彰一郎 教授コメント>
ファースト・オーサーの児玉奈央さんは本学口腔内科学分野(主任:吉岡教授)から派遣された大学院生です。北九州から愛媛に通ってデータをとりました。
BMP3bをクローニングされた日野先生、Harvard School of Dental Medicine、Rosen研究室の先輩である辻先生、さらに、多くの先生の協力を得て研究を完結させることができました。ありがとうございました。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/146534/2/146534-2-dcce3dfe8f1d8092576e1ff8310c48b9-319x369.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
古株彰一郎教授
【用語の解説】
※1 BMP(骨形成タンパク質):骨組織由来のタンパク質。筋肉に埋めると骨を作ったことからその名がついた。
※2 骨リモデリング:骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が繰り返され、骨組織が再構築される過程。
※3 間葉系幹細胞:骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系の細胞に分化できる幹細胞。
※4 分化:幹細胞や前駆細胞から、ある特定の機能を持つ状態の細胞に変化すること。
※5 BMPシグナル:BMPが細胞膜の受容体に結合し、標的の遺伝子を作動させる信号。
※6 中和抗体:作用するタンパク質の機能を中和する抗体。
【論文題目】
題名:BMP3b regulates bone mass by inhibiting BMP signaling.
著者:Nao Kodama, Takuma Matsubara, Anna Yoshimura, Kenichi Nagano, Jun Hino, Kunikazu Tsuji, Aoi Ikedo, Yuuki Imai, Tatsuki Yaginuma, Quan Yuan, Kazumasa Morikawa, Yusuke Ono, Tomohiko Shirakawa, William N. Addison, Izumi Yoshioka, Shoichiro Kokabu
論文雑誌:Bone誌
DOI:https://doi.org/10.1016/j.bone.2024.117303
【謝辞】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)18K09524、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 22KK0141、令和元年度熊本大学発生医学研究所共同研究拠点旅費支援ならびに愛媛大学プロテオサイエンスセンター共同利用・共同研究拠点の一環で行われました。
【問い合わせ先】
九州歯科大学 分子情報生化学分野
教授 古株 彰一郎 (こかぶ しょういちろう)
E-mail: r14kokabu@fa.kyu-dent.ac.jp
【公立大学法人九州歯科大学について】
九州歯科大学は、全国にある歯学部、歯科大学の中で唯一の公立大学で、歯学科と口腔保健学科からなる「口腔医学の総合大学」です。私たちが考える歯学とは「口の健康」を通して、日々の生活を、幸せを支える医療です。歯学部並びに大学院歯学研究科において、歯学のプロフェッショナルの育成に取り組んでいます。また、併設する附属病院は1914年開設以来、地域に密着した歯科の専門性を持った中核病院として歩み続けています。
<概要>
学校名 九州歯科大学
所在地 福岡県北九州市小倉北区真鶴2丁目6番1号
学 長 粟野 秀慈
設 立 1914年
H P https://www.kyu-dent.ac.jp/
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/146534/2/146534-2-ba77e70b4faa2fd491b580cf86b0ba6c-1401x992.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
九州歯科大学 建物外観
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