ジョゼフ・フーリエ大学名誉教授、クリナテック研究センター理事長アリム・ルイ・ベナビッド博士が受賞!第42回『本田賞 授与式・記念講演』事後レポート
PR TIMES / 2021年12月1日 16時45分
世界で最初に脳深部刺激療法(DBS)をパーキンソン病などによる不随意運動に対する治療に応用し多くの人のQuality of Life向上に貢献
公益財団法人 本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:石田寛人)は、2021年11月17日(水)に、第42回「本田賞 授与式」を開催し、ジョゼフ・フーリエ大学名誉教授、クリナテック研究センター理事長のアリム・ルイ・ベナビッド博士(以下、ベナビッド博士)に本賞を授与いたしました。42回目となる本授与式は、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、昨年に引き続き日本とフランスをつなぎオンラインにて開催し、世界各国に配信しました。
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主催者挨拶では、本田財団理事長 石田寛人が「第42回目の受賞者として、ベナビッド博士をお迎えできましたことはこの上ない喜びであり、心から歓迎申し上げます。ベナビッド博士は、世界で最初に脳深部刺激療法(DBS)を進行性のパーキンソン病※1による振戦などの自分の意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまう不随意運動に対する治療に応用し、実用化に成功されました。臨床での有効性が認められたことで世界各地に普及し現在までに15万人以上が手術を受けています。べナビット博士の成果は、まさしく本田賞の精神に沿った偉大な業績であり、今回の贈賞に至りました。」と称賛を述べました。
その後、本田賞選考委員会副委員長 内田裕久は「選考過程で重視したのは、どのようなチャレンジをして、その結果が業績として世界の人々の実生活にまで、いかに寄与しているかという点です。ベナビッド博士は、世界で最初にDBSを進行性パーキンソン病などによる不随意運動の治療に応用し、その実用化に成功しました。従来は、パーキンソン病の治療で最適とされている薬物治療をしても無意識の異常動作を抑制できない場合は、凝固術と呼ばれる脳の組織を焼く手術が一般的でした。DBSでは、脳に取り込んだ電極を後に取り除くことができるだけでなく、電流の強度を微調整して病の進行度合いに応じた治療を行うことができます。DBSはパーキンソン病だけでなく、ジストニア※2などの治療にも用いられており、歩けなかった人が自立できるようになるなど、多くの人のQuality of Life向上に貢献しています。この画期的な治療法の先駆的な研究と実用化により多くの人のQuality of Life向上に貢献し人々の生活を豊かにするという考え方は本田賞にふさわしい成果であると認め、今回の授賞に至りました。」と、説明しました。
賞状とメダルの授与が行われるとベナビッド博士は「ありがとうございます。今回の受賞は私だけではなく、神経外科医の皆様やこの治療法を開発するのに参加してくださったすべての方に与えられたものだと思っています。本田賞を受賞し大変嬉しく、光栄に思っております。感謝申し上げるとともに、今後もさらに患者の皆様に貢献してまいりたいと思います。」と、フランスから喜びの声を寄せました。
その後、フランス大使館CEA Tech日本事務所 代表 エヴリーヌ・エチュベエール様、東京女子医科大学 脳神経外科 臨床教授平孝臣様、本田技研工業(株)取締役会長 神子柴寿昭様による来賓祝辞をいただき、最後にベナビッド博士による記念講演が行われました。参加者より時間内に収まらないほどの沢山のコメントや質問を頂き、大変盛況な中、閉会の運びとなりました。
※1 パーキンソン病:脳の大脳皮質から全身の筋肉に運動の指令を伝える神経伝達物質(ドーパミン)が脳で十分
に作られず、運動の調整機能がうまくはたらかなるなる疾患。何年もかけてゆっくりと進行し、安静時振戦
(安静時に起こる手 足の細かな震え)、アキネジア(動作が遅い、少ない、小さい)、筋固縮(腕や足を動
かそうとすると、関節に抵抗が生じる)、姿勢反射障害(重心がぐらついたときに、姿勢を立て直せない)等
体の動きに障害があらわれる
※2 ジストニア: 筋肉の緊張の異常によってさまざまな不随意運動や肢位、姿勢の異常が生じる状態
ベナビッド博士 記念講演
本田賞受賞を記念して、ベナビッド博士による記念講演「Can Physics and Serendipity benefit to Clinical Neurosciences?(物理学とセレンディピティは臨床神経科学に利益をもたらすことができるか?)」が行われました。ベナビッド博士が約30年取り組んできたパーキンソン病の治療法の研究について、特にDBSの実用に至った経緯を中心に講演いただきました。
質疑応答では、実際にDBSによってパーキンソン病を克服し人生を楽しんでいる家族を持つ東京女子医科大学脳神経外科 堀澤士朗医師から感謝と受賞の祝辞を受けるとともに「どうすれば世界的な医療格差を解決することができると考えているか。また科学技術の進歩が医療格差の解決になると思うか」という質問を受けました。これに対しベナビッド博士は、「ご家族の助けになれたということを嬉しく思います。そして医療格差については、車が開発されしだいに人々に普及していったことと同じように、治療には費用がかかってしまいますが、その治療が人々にとって本当に必要なものであれば、世界的な取り組みの中で格差を縮め世界中の様々な人が使えるようになるのではないかと思っている」と語りました。
また最近では近赤外線放射を活用した治療法の研究を行っており、パーキンソン病、またその他の神経閉栓疾患についても応用される研究であると期待されています。最後に、今年79歳を迎えたベナビッド博士は「読書や絵を書くことも大好きなので、今後は家族とも素敵な時間を過ごすなど、残りの人生をさらに楽しみたいと思っています」と今後の人生についてもお話しいただきました。
『脳深部刺激療法(DBS)』とは
脳深部刺激療法(DBS)とはDeep Brain Stimulationの略。脳の視床下核周辺に電極を、胸部に刺激装置をそれぞれ埋め込み、両方をリードでつないで高周波電流により刺激し、運動機能の回復や震えを抑制して病気による症状を軽減させ、日常生活の動作を改善する外科的手法です。
ベナビッド博士は1980年代から、凝固術が脳の目標部位を熱で破壊すると元に戻せない不可逆的なものであることから、より安全で効果的な手術療法を模索していました。凝固術では、熱で破壊する脳の場所を特定し、破壊した際の効果を予測するために電気刺激が用いられていました。ベナビッド博士は施術箇所の周囲に電極を配置し、周辺領域を生理学的な周波数である20~50Hzで刺激しながら患者の動作を観察したところ、およそ130Hz程度の高周波による電気刺激が振戦を止めていることに気づきました。その後、1Hz、5Hz、10Hzといった非常に低い周波数から100Hz程度を検証したところ130Hzの高周波が組織を破壊せず従来の治療と同様の効果を示す最適な周波数であることが明らかになりました。
電極を視床下核に配置し、調整可能な高周波刺激を与えると定位脳手術※3と同じ改善効果が得られることを発見したベナビッド博士は、重度のパーキンソン病患者に1987年に世界初の視床刺激療法を、1997年には世界初の視床下核刺激療法を実施しました。振戦と筋硬直が緩和され、5年後も経過が良好であることが発表されると、DBSは世界のパーキンソン病治療における主流の治療法として定着しました。
DBSはパーキンソン病だけでなく、ジストニアによる歩行障害が改善するといった優れた効果も報告されています。また、ドイツではうつ病治療に、アメリカではアルツハイマー治療に、それぞれDBSが用いられています。このように、薬物治療だけでは症状の改善が見られない状況において、DBSは脳の神経回路を正常な状態に戻すために活用され、多くの人のQuality of Lifeの向上に貢献してきました。
※3 定位脳手術: 脳の中の特定の構造物をターゲットとして、そこへ電極を留置して治療を行う方法
『アリム・ルイ・ベナビッド博士』プロフィール
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アリム・ルイ・ベナビッド博士
ジョゼフ・フーリエ大学名誉教授
CEAグルノーブル、クリナテック・エドモンドJサフラ生物医学研究センター理事長
<学歴・研修歴>
医学学位(グルノーブル大学)
1970年 修士論文
1972年 脳神経経外科医
1978年 教授(実験医学)
1984年 教授(生物物理学)
1989年~2007年 脳神経外科部門長
科学学位(グルノーブル大学)
1973年 科学修士1978年 博士論文(物理学)
本田賞とは
本田賞は、科学技術分野における日本初の国際賞であり、人間環境と自然環境を調和させるエコテクノロジーの観点から、次世代の牽引役を果たしうる新たな知見をもたらした個人またはグループの努力を評価し、毎年1件その業績を讃える国際褒賞です。
本田賞の特徴は、いわゆる新発見や新発明といった狭義の意味での科学的、技術的成果にとどまらず、エコテクノロジーに関わる新たな可能性を見出し、応用し、共用していくまでの全過程を視野に、そこに関わる広範な学術分野を対象としているところにあります。
自らの研究に心血を注ぎ、新たな価値を生み出した科学技術のトップランナーを支援する事が、やがてその叡智を、私達が直面する課題解決に役立てていくための第一歩となります。この観点から、当財団では今後も幅広い視野のもと、さまざまな分野の業績にスポットを当てていきたいと考えています。
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