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次世代高性能光センサーの新たな原理を提案

PR TIMES / 2020年2月6日 12時35分

― 半導体ナノ結晶で大きな光電流増幅効果を実現 ―

【ポイント】
 ・半導体ナノ結晶を用い、溶液プロセスによって理想的な光薄膜トランジスタを作製
 ・光照射による同トランジスタの巨大な電流増幅を実現
 ・半導体ナノ材料の活用による高性能光センサー実現の新たな可能性を示す



概要

 一般財団法人電力中央研究所(理事長:松浦昌則、本部:東京都千代田区)材料科学研究所の清水直主任研究員、小野新平上席研究員らの研究グループは、早稲田大学とFluxim AG(フラックシム社、本社:スイス)のグループと共同で、二重構造を持つ半導体ナノ結晶※1を用いて作製した電界効果トランジスタ※2が従来を上回る大きな光電流増幅効果があることを確認しました。
 電界効果トランジスタは、身の回りの様々な電子回路やデバイスで用いられる基本的な素子ですが、環境の変化や光照射などの外部刺激によって流れる電流値が変わるため、様々なセンサーとしても利用することが可能です。
 研究グループは、電界効果トランジスタの光応答性の向上に、ナノ材料やナノ構造の利用が有力な方法と考え、直径10ナノメートルレベルと非常に小さい粒子であるナノ結晶を用い、溶液プロセス※3で様々な厚みを持つ薄膜トランジスタを作製し、紫外線照射による電流値の変化を測定しました。その結果、数層レベルの薄膜では電流が10万倍に増大することを明らかにしました。この電流値の増幅は、これまでに知られているどの材料を用いた電界効果トランジスタよりも大きく、ナノ材料をベースとした複合材料が、光センサーとしての高いポテンシャルを有することを示すものです。
 本研究成果は、2020年1月29日付でドイツの電子材料研究に関する論文誌Advanced Electronic Materialsに掲載されました。

1.背景
 高い感度を有する光センサーは次世代の情報通信、制御に必須の電子素子であり、近年、新しい半導体ナノ材料を用いた電界効果トランジスタの光応答に関する基礎研究が世界中で活発になされています。トランジスタに光が照射されると、構成する半導体材料の中で動き回ることができる電子の数が増え、未照射時に比べて流れる電流が大きくなります。この電流値の違いを観測することで、光を検出するセンサーとして用いることができます。
 今回の研究対象であるナノ結晶は、直径が5から20ナノメートル程度の半導体ナノ粒子であり、物理、化学、生物の基礎研究から工学、医療分野での応用研究まで、多機能材料として多くの研究者によって精力的に研究されています。例えば光センサーの分野では、iPhone11のカメラへナノ結晶を活用したセンサーの搭載が検討されるなど、その高いポテンシャルが非常に注目を集めています。

2.研究手法・成果の特長
 本研究では、半導体ナノ結晶の一種、CdSe/CdS※5を対象としました。CdSe/CdSは、カドミウム(Cd)とセレン(Se)のコアとカドミウムと硫黄(S)のシェルの二重構造を有するナノ結晶で(図1(A))、それぞれのサイズ(コア部分の直径やシェルの厚み)を変えることで物理的・化学的な性質を変化させることができます。シェルを含めた厚みが10ナノメートル程度の高純度なCdSe/CdSナノ結晶のコロイド溶液を用いた溶液プロセスにより、薄膜の厚さが20ナノメートル程度に均一のトランジスタを作製しました(図1(B))。


[画像1: https://prtimes.jp/i/47120/5/resize/d47120-5-217916-0.png ]

 次に、作製したトランジスタに紫外線を照射した場合と未照射の場合の電流値の違いを調べました。その結果、未照射の場合にはほとんど電流が流れずトランジスタとしての動作を示さないにも関わらず、照射時にはゲート電圧の印加とともに電流が増大することを確認しました(図2(A))。さらに、光照射前後の電流比に対する膜厚依存性やゲート電圧依存性を調べた結果、膜厚が100ナノメートル程度を下回る時に最も増強され、最大で10万倍程度に達することがわかりました(図2(B))。これは、これまでに電界効果トランジスタ構造で検討された光センサーの中では、最も高い感度となる可能性があります。

[画像2: https://prtimes.jp/i/47120/5/resize/d47120-5-349985-1.png ]

3.本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究により、ナノ材料をベースとした複合材料が、光センサーとしての高いポテンシャルを有することを示しました。本研究は高性能光センサーの新たな原理を提案するものであり、すぐに実デバイスに直結するものではありませんが、将来におけるより高感度の光センサーの開発に繋がるものです。ナノ結晶は、サイズ、材料、そして化学的な修飾により、性質を自在にコントロールすることが可能です。また、本研究で用いた溶液プロセスによるデバイスの作製は、安価でフレキシブルな電子素子を作製する事が可能です。現在、ナノ材料のもつ様々な機能性が世界中で注目され、研究が進められており、ナノ材料を活用した多機能な光センサーが生み出される可能性もあります。

<用語説明>
※1 半導体ナノ結晶:
 直径が5~20ナノメートル程度の微小な半導体粒子。半導体材料のサイズをナノスケールまで小さくしていくと、その中の電子の運動が強く制約を受けることにより、バルク結晶では観測されない様々な特徴が現れる。特に、コアとシェルに異なる材料を用いた場合、コア部分に効果的に電子を閉じ込めることが可能となる。
※2 電界効果トランジスタ:
 トランジスタの一種。ゲート電圧の印加により、トランジスタを構成する半導体材料(チャネル)表面に生じる電界によって電子の密度を変化させる。これにより、半導体材料を流れる電流値を制御することができる。
※3 溶液プロセス:
 機能性材料を溶媒に溶かし、その溶液を基板に塗布することで薄膜材料やデバイスを作製するプロセス。従来の真空プロセスと比べ、比較的簡単な装置・技術で大面積かつ低コストな素子作製が可能となる。
※4 CdSe/CdS:
 半導体ナノ結晶の一種。図1に模式的に示すように、コアと呼ばれる内側の粒子を、シェルと呼ばれる層で覆った構造を持つ。コアとシェルの材料の物理的な性質が異なり、それぞれの厚みを変えることで、光に対する応答を制御することが可能となる。

<論文タイトルと著者>
論文タイトル:Giant photo-induced current enhancement in a core-shell type quantum dot thin film
著者:Sunao Shimizu, Keiichiro Matsuki, Kazumoto Miwa, Daniele Braga, Shimpei Ono
掲載誌:Advanced Electronic Materials, 1901069 (2020).

なお、本研究は、本研究はJSPS科研費 JP17H02928, JP17K19060, JPH01052の助成を受けたものです。

以  上

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