「かぜ」に抗菌薬は効きません!正しい知識で薬剤耐性菌を増やさない
PR TIMES / 2025年1月30日 18時45分
AMR臨床リファレンスセンターでは、政府で策定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027」に基づき、AMR対策を進めています。AMR対策の基本は抗菌薬(抗生物質)の適正使用と感染対策です。抗菌薬の適正使用とは、抗菌薬が必要な疾患に対して、適切な抗菌薬を、適切な使い方で治療をすることです。
冬場に患者が増えることで知られるかぜは、誰もがかかる感染症です。かぜに対して、医療機関で抗菌薬が処方されることがありますが、実はかぜは抗菌薬では治らない病気であり、いたずらに抗菌薬を飲むことは身体の中に薬剤耐性菌を生む危険があります。
今回、国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターの佐々木秀悟医師が、われわれにとって身近な感染症である「かぜ」を切り口に薬剤耐性(AMR)問題について解説しました。
佐々木 秀悟
国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 医師
2008年慶応義塾大学医学部卒
横浜市立市民病院、がん・感染症センター都立駒込病院、埼玉医科大学病院等で感染症診療に従事リヴァプール熱帯医学大学院にて修士号取得
厚生労働省IDES養成プログラム修了
2024年より現職。抗菌薬の薬剤耐性に関する教育・啓発活動に従事
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本ニュースレターのサマリー
- 「かぜ」とは、「鼻水」 「のど」 「せき」 の三つの症状が同時に同じくらいの程度で存在する感染症のこと
- かぜの原因はウイルス(インフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど) ウイルスに抗菌薬は効かないので、もらわない、自己判断で勝手に飲まない
- 医師と患者の良好なコミュニケーションが、AMRの抑制につながる
薬剤耐性(AMR)とは
薬が効かない薬剤耐性(AMR)が世界中で大きな問題になっています。抗菌薬(抗生物質)は細菌が原因の病気を治療するために医療現場で広く使用されてきました。一方で、抗菌薬が効きにくかったり、効かなかったりする細菌のことを薬剤耐性菌とよびます。そして、薬剤耐性菌が広がってしまう大きな原因の一つとして、抗菌薬の不適切な使用※1が挙げられます。薬剤耐性菌が原因の感染症を発症してしまうと、抗菌薬による治療が難しくなってしまうため、重症化したり、命にかかわるリスクが高まることがあります。日本でも、主な2種類の薬剤耐性菌だけで年間8,000人が亡くなっていると試算されており※2、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことが人類にとって重要な課題となっています。
※1 細菌感染症ではないのに抗菌薬を処方/内服したり、医師に指示されたのみ方を守らなかったりすること
※2 http://AMR.ncgm.go.jp/pdf/20191205_press.pdf
誰でもかかるかぜ
かぜは誰でもかかる感染症ですが、実は医学的にはっきりとした定義があるわけではありません。多くの人が思い浮かべる「かぜ」に近い病気として感冒があります。感冒は、鼻水や鼻づまり、のどの痛み、せきの症状が同じぐらいの程度で存在する病気です。本レターでは感冒をかぜと位置付けて説明します。
鼻水、のど、せきの三つの症状があることがかぜなので、せきはたくさん出るけれど鼻水は出ない、のども痛くない、というものはかぜではなく別の病気かもしれません。たとえば、鼻水や鼻づまりだけだと急性鼻副鼻腔炎という病気の可能性があります。
かぜをひいても、軽症であれば医療機関を受診しないことも多いため、正確な患者の数はわかりません。過去の報告では、普通の生活をしていても成人なら平均で年間2、3回はかぜにかかるとされています。乳幼児は抵抗力が弱いなどの理由で年間5、6回かかるとされ、万人の病気と言えます。
ウイルスによる呼吸器感染症の多くは冬になると患者が増える傾向がありますが、かぜにも同様の傾向がみられます。気温が低く乾燥しているとウイルスが感染を広げやすくなることや、人々が屋内で換気が悪い空間にいる時間が増えることなどが、冬に患者が増える理由として考えられています。
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かぜはウイルスが起こす
かぜの原因は多くがウイルスです。今、流行しているインフルエンザやRSウイルス、ヒトメタニューモウイルスもウイルスです。ウイルスは細菌と違って、自身の力で増殖することができません。人間など他の生物の細胞に入り込み、その機能を利用することで増殖することができます。つまり、ウイルスは細菌とは全く異なる仕組みをもつ病原体であるということです。そのため、細菌感染症に対する薬である抗菌薬を使っても、かぜの治療はできないのです。
しかし、以前はかぜと診断された場合でも、抗菌薬が処方されるケースがかなり多くありました。最近は抗菌薬に関する教育・啓発の効果もあり、「かぜ治療に抗菌薬」というケースは減少傾向にありますが、一般の方を対象とした調査によると、「抗菌薬はかぜに効く」と考えている方は少なくありません※3。
ちなみに、日本で抗菌薬をもらうためには医師の処方せんが必要です。そのため、薬局で市販されている一般用医薬品(OTC)のかぜ薬は抗菌薬ではなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤、抗ヒスタミンのような鼻水を抑える薬など、かぜの症状を緩和する目的のものがほとんどです。
「抗菌薬はかぜに効く」と思いますか?
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抗菌薬はかぜに効く」と誤解している人が39%、
「わからない」と回答した人を合わせると
74%が正しい知識をもっていません。
抗菌薬意識調査レポート2024を参照、作成https://AMR.ncgm.go.jp/pdf/20241004_report.pdf
かぜの治療は休むこと
医師が患者をかぜと診断したときは、「症状を緩和する薬」を処方します。のどが痛い人には鎮痛剤、せきがひどい人にはせき止めといった具合です。症状が辛いときにそれを抑えることで患者の苦痛を和らげ、しっかりと体を休めるようにすることが目的です。
しかし、薬によって症状を緩和し、体を楽にすることはできますが、かぜが早く治るわけではありません。症状が持続する期間には個人差があるものの、軽快するまで1、2週間ぐらいかかると言われており、その間「しっかり休んで自身の免疫で治るのを待つ」ことがかぜの治療です。
かぜをきっかけとしてAMRを防ぐ
これまで、かぜに対する抗菌薬の処方は頻繁に行われてきました。かぜの原因の多くはウイルスだということを認識していたとしても、 多くの医師は 「もしかしたら細菌が原因かも」 「重症化を防げるかも」 「念のため」などの理由で、抗菌薬を処方していたように思います。以前は、薬剤耐性菌の問題があまり認識されていなかったこともあるでしょう。
「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づいた教育・啓発が推進されたことにより、最近はかぜに抗菌薬が処方される機会は減ってきています。AMR臨床リファレンスセンターでも、個々の患者に対して適切な処方を行うための手引きの配布や、抗菌薬の適正使用に関するセミナーの開催などを通じて、医療従事者に対してAMRに関する教育・研修の推進を行っています。
しかし、患者の中にはかぜに対して抗菌薬の処方を希望する方もいます。そのような場合、不要と考えつつも、患者の希望を優先して抗菌薬を処方する医師もいます。その結果、患者にとってメリットがないばかりか、薬剤耐性菌出現のリスクも含めたデメリットを増やしてしまうことになります。
医師は、かぜなど抗菌薬が不要な疾患への処方を控え、患者とコミュニケーションをしっかり取り、不必要な時に抗菌薬を服用するデメリットを丁寧に説明していく必要があります。薬の専門家である薬剤師との協力も重要です。患者側も、医師や薬剤師の説明をしっかりと聞き、かぜや抗菌薬に関する正しい知識を身につけることが求められます。
かぜという身近な病気を通じてAMRを認識し、医療従事者も一般の方も、それぞれが積極的にAMR対策に取り組んでいくことで、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことが可能になります。
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私たちにできるAMR対策
- 抗菌薬を正しく使う
-かぜに抗菌薬は効きません。医療機関でかぜと診断されたときに、抗菌薬を希望することはやめましょう。
-抗菌薬を処方されたら、医師の指示を守り、適切に飲みましょう。途中で症状が良くなっても、量や回数を減らしたりせず、最後まで飲み切りましょう。
-抗菌薬をとっておいたり、人にあげたり、もらったりするのはやめましょう。
- 感染対策
-手洗い手洗いは感染対策の基本です。外から帰ったとき、トイレの後、食事前などはしっかり手洗いをしましょう。
-せきエチケットせきやくしゃみが出るときは、マスクをして飛沫が飛ばないようにしましょう。マスクが無い時は、ハンカチや袖の内側などで鼻と口を覆いましょう。
-ワクチンワクチンで防げる病気があります。必要なワクチンを適切な時期に打ちましょう。
- 感染症を広げない
-感染症による症状 (のどの痛み、せき、鼻水、発熱など) がある時は、外出を控えてゆっくり休みましょう。
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