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放射線の障害防止に水素が臨床応用できる

PR TIMES / 2021年4月30日 17時45分

MiZ株式会社は、慶應大学およびカルフォルニア大学と共同で、「臨床応用可能な放射線防御剤としての水素分子」と題した総説論文を発表ました。
 放射線は病気の診断やがん治療に使われていますが、放射線障害を防ぐことができません。放射線障害には、DNAなどに対する直接障害と身体の中の水の放射線分解の過程で生じるヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカル(注1)が生体に与える間接障害があります。米国では放射線防御剤としてアミフォスチン(注2)が販売されていますが、有効性に欠け副作用があります。水素は不活性な物質ですが、「放射線障害の主犯格」であるヒドロキシルラジカルのみを消去する特徴があります。そこで、この総説ではこれまでに動物実験や臨床試験で報告された水素の放射線防御効果の解説とそのメカニズムの考察を行い、水素が放射線防御剤としての臨床応用できる展望を示しました。
本論文は、2021年4月27日(欧州時間)にスイスの国際科学誌「インターナショナル・ジャーナル・オフ・モレキュラー・サイエンス」(インパクトファクター: 4.6)のオンライン版で発表されました。




1. 背景とこれまでの課題
放射線は主に病気の診断やがん治療に使われています。中でもがんに対する放射線療法は有効な治療法の一つです。従来の放射線療法は放射線障害を抑えることができませんので、いわゆるピンポイント療法としての強度変調放射線療法(IMRT、注3)が行われています。しかし、IMRTにおいても様々な放射線障害が生じます。生体に及ぼす放射線の有害な影響には直接作用と間接作用に分けることができます。直接作用は放射線のエネルギーがDNAなどへ直接吸収されて生じる障害であり、間接作用は水の放射線分解の過程で生じるヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカルや分子生成物が生体に与える障害です。特に、低線量放射線による障害はこの間接作用が主です。
安全でより効果的な放射線防御剤を臨床現場で使用することは非常に重要です。これまで、多くの物質の放射線防御効果が調べられましたが、臨床現場で使われている放射線防御剤は米国で開発され販売されているアミフォスチンだけです。しかし、この薬は用量に依存した副作用があります。従って、有効性が優れ、副作用のない臨床使用可能な放射線防御剤は無いと言っても過言ではありません。安全性に優れ有効性の高い放射線防御剤が求められています。多くの抗酸化物質に比べて水素はミトコンドリアへの透過性とヒドロキシルラジカルの消去能力に優れた物質ですので、放射線防御剤としての可能性を持っています。

2. 動物およびヒト臨床試験における水素の放射線防御効果
動物モデルにおける水素の放射線防御効果として、認知機能、免疫系、肺、心臓、消化器、造血器、精巣、皮膚、軟骨のそれぞれの障害に対する18報の論文が報告されています。また、放射線照射の過程でがんが発生しますので、放射線照射により生じたマウスの胸腺リンパ腫に対する水素の抑制効果に関する1報の論文も報告されています。
臨床試験における水素の放射線防御効果としては2報の論文が報告されています。がんに対する放射線治療の副作用に及ぼす水素水の効果を調べるため、49人の肝臓がん患者を2群に分け、対照群(25人)には偽水を摂取させ、水素群(24人)には1.2 ppmの水素水を6週間飲用させました。その結果、水素群は偽水群に比べて酸化ストレスに関連した指標の改善を示しました。また、偽水群に比べて水素群は食欲不振、味覚障害などの生活の質(QOL)の有意な改善を示しました。両群における放射線の抗腫瘍効果に差はありませんでした。
私達は23人の末期がん患者を2群に分け対照群(7人)には毎回のIMRTの後で空気を吸入させ、水素群(17人)には5%の水素を吸入させて放射線治療における水素ガスの副作用軽減効果を調べました。その結果、対照群で見られた白血球と血小板の減少が水素群では顕著に改善されました。この臨床研究でも両群における放射線の抗腫瘍効果に差はありませんでした。

3. 水素による放射線防御効果のメカニズム
水の放射線分解により生成されたヒドロキシルラジカルががん細胞を死滅させるのが放射線治療のメカニズムです。水素は直接的にヒドロキシルラジカルを消去しますが、もし水素ヒドロキシルラジカルだけを消去すると仮定すると放射線の効果が減弱される可能性があります。しかし、前章に記載しました2つの臨床研究では水素は放射線の効果を減弱させませんでした。そこで、我々は水素の放射線防御効果の間接的なメカニズムも考察しました。放射線を照射した細胞モデルまたは動物モデル実験において、水素は抗酸化作用だけでなく抗炎症作用、抗細胞致死作用および遺伝子発現の制御作用を示しました。抗酸化作用は抗炎症作用、抗細胞致死作用および遺伝子発現の制御に密接な関係があります。水素が細胞内応答を介して遺伝子の発現を制御して間接的に抗酸化作用を示す可能性もあります。また、同様に遺伝子の発現を制御して、水素が抗炎症作用および抗細胞致死作用を示す可能性もあります(図1)。水素の放射線防御効果における直接的な作用であるヒドロキシルラジカルの消去は十分に説明できますが、間接的な効果については不明な点が多く、水素の細胞内応答を含めた今後の更なる研究が必要です。
[画像: https://prtimes.jp/i/47753/13/resize/d47753-13-126964-0.png ]


4. 将来展望と結論
水素はがん、敗血症、心臓血管疾患、脳および神経疾患、糖尿病およびメタボリックシンドロームなどの多岐に渡る疾患に予防的および治療的効果を示します。また、多くの臨床試験から水素による副作用は認められていません。水素の放射線防御剤としての観点から考えると、水素は放射線を照射した細胞および動物モデルで優れた放射線防御効果を示し、さらに水素は放射線治療を受けた肝臓がん患者のQOLの改善やIMRTを受けた末期がん患者の造血器障害を軽減しました。ヒドロキシルラジカル消去剤としてアミフォスチンが米国で臨床使用され、同じヒドロキシルラジカル消去剤であるエダラボン(注4)の放射線防御剤としての可能性も基礎研究で検討されていますが、水素に比べると有効性や安全性に欠けます。これらのことより、水素は臨床応用が可能で理想的な放射線防御剤の可能性がありますので、今後の臨床応用が期待されます。

論文

英文タイトル:Molecular Hydrogen as a Potential Clinically Applicable Radioprotective Agent
タイトル和訳:臨床応用可能な放射線防御剤としての水素分子
著者名:平野 伸一1、市川 祐介1、佐藤 文平1、山本 暖2、武藤 佳恭3、佐藤 文武1
所属:1 MiZ株式会社、2 カルフォルニア大学・バークレー校、3 慶應義塾大学・環境情報学部
掲載誌:International Journal of Molecular Science, 2021, 22, 4566.
URL: https://www.mdpi.com/1422-0067/22/9/4566

[用語解説]
(注 1)フリーラジカル:一般に電子は2個で対をなしている状態で原子軌道あるいは分子軌道に安定に収容されています。しかし、フリーラジカルは軌道に1つの電子(不対電子)しかなく、きわめて反応性が高い原子・分子団です。フリーラジカルは体の細胞膜や組織を構成する脂質やたんぱく質を攻撃するため、様々な病気や老化の原因になっています。
(注 2)アミフォスチン:米国で開発されFDAの承認を受けて販売されている唯一の放射線防御剤です。放射線照射時に発生するヒドロキシルラジカルを消去するメカニズムがありますが、用量に依存した低血圧、嘔気、嘔吐などの副作用があります。
(注 3)強度変調放射線療法(IMRT):従来の放射線照射法では放射線障害を抑えることが困難でした。 IMRTは、コンピュータ制御により腫瘍のみに放射線を「ピンポイント」で集中して照射できる照射技術です。
(注 4)エダラボン:急性脳梗塞の治療薬として我が国で開発され販売されている薬剤ですが、有効性に欠け副作用があります。ヒドロキシルラジカルを消去するメカニズムがあります。

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