HL-LHC実験向けPDアレイの開発、量産体制確立に成功
PR TIMES / 2023年2月15日 17時40分
ヒッグス粒子の精密測定に貢献
世界最大、8インチピクセルアレイディテクタの開発に成功
HL-LHC実験に向け2月27日より本格供給開始
当社は、これまで培ってきた光半導体素子の製造技術を応用し、高輝度大型ハドロン衝突型加速器(以下HL-LHC)実験におけるCMS実験装置に向け、高放射線耐性で高エネルギー物理学用途では世界最大のフォトダイオード(PD)アレイである「8インチピクセルアレイディテクタ」を開発するとともに量産体制を確立しました。
当社は、HL-LHC実験の前身であるLHC実験向けにも光半導体素子を納入し、ヒッグス粒子(※)の発見に貢献しました。HL-LHC実験で求められる高放射線耐性、大面積化に対応した本製品により、ヒッグス粒子の精密測定やダークマターの探索などの新たな研究に貢献できると期待しています。
本製品は、2月27日(月)より本格供給を開始します。
※ ヒッグス粒子:素粒子の一種で万物の質量の起源とされるが、詳しい性質はまだよく分かっていない。
<本製品の特長>
本製品は、ガンマ線や電子などの放射線のエネルギーを測定する、高エネルギー物理学用途では世界最大となる高放射線耐性のPDアレイです。
PDアレイは、放射線が入射すると感度が低下します。高電圧をかけることで感度の低下を抑えることができますが、これは通常、破損の原因となります。初期宇宙の状態を再現するHL-LHC実験において、本製品を透過する放射線の量は1平方センチメートルあたり中性子換算で1.5京個分にも上りますが、このような過酷な放射線環境下においても特性を維持することが求められます。当社は、800Vの高電圧をかけても動作する、高放射線耐性で直径が6インチのウエハから一つだけ作ることができる大面積のPDアレイの試作に成功しましたが、デッドスペースやコストを削減するため、欧州合同原子核研究機構(CERN)からはさらなる大面積化が求められていました。
今回、より面積の大きいウエハを材料として使用するため、直径が8インチのウエハに対応した製造装置を新たに導入するとともに、これまで培ってきた光半導体素子の製造技術を応用し、製造条件を一から見直しウエハ上に形成する膜の厚さや不純物の濃度などの均一性を高めました。この結果、従来と同等の高放射線耐性ながら、PDアレイの面積を約2倍まで大型化することに成功しました。同時に、PDアレイのすべてのチャネルを検査することができる専用の検査装置を新たに立ち上げることで、HL-LHC実験で求められる高放射線耐性、大面積化に対応した本製品の量産体制を確立しました。
本製品は、HL-LHC実験におけるCMS実験装置に向け、2月27日(月)より本格供給を開始します。2025年の夏ごろまでに27,000個を完納することで、ヒッグス粒子の精密測定やダークマターの探索などの新たな研究に貢献できると期待しています。
<開発の背景>
CERNでは現在、ヒッグス粒子の精密測定や未知の物質であるダークマターの探索などに向け、陽子同士の衝突頻度をLHC実験より高めたHL-LHC実験の準備を進めています。衝突頻度を高めることでより多くのデータを得ることができますが、発生する放射線のエネルギーが従来よりも高くなるため、エネルギーを測定するためのPDアレイには高い放射線耐性が要求されます。また、大面積化も求められていたことから、当社は高放射線耐性で大面積のPDアレイの開発に取り組んできました。
<LHC実験における当社の役割>
当社は、CERNによるLHC実験において、粒子の飛跡検出器としてシリコンストリップディテクタ(SSD)を、放射線のエネルギーを測定するカロリーメーターとして光電子増倍管(PMT)とアバランシェフォトダイオード(APD)を開発、納入しました。LHCは全周約27kmと世界最大の加速器で、光速近くまで加速した陽子同士を衝突させることで、ごくまれに生じるヒッグス粒子を検出します。2012年、LHC実験によりヒッグス粒子が初めて発見され、フランソワ・アングレール名誉教授、ピーター・ヒッグス名誉教授がノーベル物理学賞を受賞しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/81184/13/resize/d81184-13-ffbed467b06f627118b1-0.jpg ]
スイス、ジュネーブの郊外の地下約100mに全周27kmにおよぶLHCプロジェクトの加速器がある。この加速器をアップグレードし、HL-LHC実験を行う計画。
[画像2: https://prtimes.jp/i/81184/13/resize/d81184-13-a62cae1877fe9771c006-1.jpg ]
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