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敗血症の進行を抑えることに成功

PR TIMES / 2017年6月30日 14時50分

~ CD300f の機能阻害薬による敗血症治療への可能性 ~

順天堂大学大学院医学研究科・アトピー疾患研究センターの伊沢久未 助教、北浦次郎 先任准教授らの研究グループは、マウスにおいて免疫細胞の受容体CD300f*1を標的とした敗血症の治療法を開発しました。マウスの敗血症性腹膜炎モデルにおいて、敗血症進行への分子メカニズムを明らかにし、CD300fとそのリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)である脂質セラミドの結合を阻害する薬剤の投与により、マウスの致死率を劇的に改善させることに成功しました。この成果は今後の敗血症の治療に大きく道を開く可能性を示しました。本研究は英科学雑誌Scientific Reports電子版に6月27日付けで発表されました。



【本研究成果のポイント】

CD300f の機能を阻害する薬剤は敗血症性腹膜炎の致死率を劇的に改善
CD300f とセラミドの結合は大腸菌によるマスト細胞*2と好中球*3の活性化を抑制
CD300f を標的とする免疫賦活化薬による敗血症治療の可能性


【背景】
現代医療において院内感染による敗血症の治療と対策は急務となっています。特に多剤耐性菌の蔓延に伴い、従来の抗菌薬とは異なる画期的な敗血症治療法の開発が望まれています。私たち研究グループは、アレルギーや炎症性疾患の病態メカニズムを明らかにすることを目的に、免疫を担うマスト細胞に発現する受容体CD300fと脂質セラミドの結合作用について調べてきました。その結果、CD300fはマスト細胞の活性化にブレーキをかけてアレルギー反応を抑えることを明らかにしました。このCD300fは炎症を抑えるという、生体にとって重要な機能をもつ一方、細菌感染の場合には免疫応答においてどのような役割を担うかは不明でした。そこで、マウスの敗血症性腹膜炎モデルを用い、腸内細菌による腹腔内感染が敗血症へ進展する際のCD300fの役割を詳細に調べました。

【内容】
まず、マウスの盲腸を結紮(糸で結んで固定すること)して穿孔(穴をあけること)し、細菌感染による敗血症性腹膜炎を誘導したところ、CD300fが欠損したマウスでは驚くことに致死率が極めて低いことを発見しました(図1a)。このとき、CD300f欠損マウスの腹腔には多量の好中球遊走因子とともに大量の好中球の集積が認められ、血液や腹腔内では大腸菌の増殖が抑えられていました(図1b)。そこで、マスト細胞が欠損したマウスの解析と免疫細胞の移入実験を行ったところ、マスト細胞および好中球のCD300fが欠損すると敗血症の進展が抑えられることがわかりました。さらに、試験管内の実験から、大腸菌に反応してマスト細胞や好中球が放出する好中球遊走因子は、セラミドとCD300fの結合によって抑えられることを突き止めました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/27/resize/d21495-27-825517-1.jpg ]


次に、腹膜炎誘導時にセラミドとCD300fの結合を阻害する薬剤(抗セラミド抗体やCD300f-Fc融合タンパクなど)を投与したところ、野生型マウスにおいても腹腔内における好中球遊走因子と遊走好中球が著しく増加し、敗血症による致死率の劇的な改善に成功しました(図2)。さらに、腹膜炎がある程度進行した後に薬剤を投与しても治療効果が認められることもわかりました。その一方で、腹膜炎誘導後の腹腔内にはセラミド量の増加があり、これはCD300fの抑制機能を強め、敗血症を悪化させると考えられました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/27/resize/d21495-27-987655-0.jpg ]


以上の結果から、薬剤によりCD300fの抑制機能を特異的にブロックすることで敗血症の治療が可能となることを示しました(図3)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/27/resize/d21495-27-669707-5.jpg ]

【今後の展開】
ヒトCD300fの機能を抑えるヒト型CD300f抗体や低分子化合物を薬剤にできれば、自然免疫を賦活化することにより、細菌感染症から敗血症への進展を抑える新たな治療法を確立できると期待しています。この薬剤は抗菌薬とは全く異なる機序で作用するので、抗菌薬との併用も可能であると考えられます。また、感染巣が不明な感染初期の患者や敗血症が進行した免疫抑制状態の患者にも有効な可能性があります。本研究成果を基に、画期的な敗血症治療薬の開発が進むことが期待されます。

【用語解説】
*1 CD300f:免疫細胞には受容体が存在する。その中にペア型免疫受容体と呼ばれる一群がある。ペア型免疫受容体の特徴は、細胞外のアミノ酸構造が類似することと、細胞を活性化する受容体(活性化型)と細胞の活性化を抑える受容体(抑制型)が対を形成していることである。CD300はペア型免疫受容体ファミリーの一つであり、CD300fは抑制型受容体である。CD300fは脂質セラミドと結合してマスト細胞*2の活性化にブレーキをかけて非感染性の炎症を抑える作用がある。

*2 マスト細胞:肥満細胞とも呼ばれる。活性化すると、さまざまな化学伝達物質を放出して、アレギー反応などの炎症を惹起する。

*3 好中球:侵入してきた細菌を貪食して殺菌することによって感染防御を担う。

【原著論文】
雑誌名:Scientific Reports (https://www.nature.com/srep/)
タイトル:Disrupting ceramide-CD300f interaction prevents septic peritonitis by stimulating neutrophil recruitment
雑誌名:セラミドとCD300fの結合を阻害すると好中球集積が促進されて敗血症性腹膜炎の進展が抑えられる
筆者名:Kumi Izawa, Akie Maehara, Masamichi Isobe, Yuka Yasuda, Makoto Urai, Yasutaka Hoshino, Keigo Ueno, Toshihiro Matsukawa, Mariko Takahashi, Ayako Kaitani, Emiko Shiba, Ayako Takamori, Shino Uchida, Koichiro Uchida, Keiko Maeda, Nobuhiro Nakano, Yoshinori Yamanishi, Toshihiko Oki, David Voehringer, Axel Roers, Susumu Nakae, Junko Ishikawa, Yuki Kinjo, Toshiaki Shimizu, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Toshio Kitamura & Jiro Kitaura
DOI: 10.1038/s41598-017-04647-z

なお、本研究はJSPS科学研究費補助金 基盤研究(B)JP23390257等の研究助成のもと、国立感染研究所、花王株式会社、フリードリヒ・アレクサンダー大学、 ドレスデン工科大学、東京大学医科学研究所と共同で行いました。

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