スペースデータの兵頭龍樹博士、土星の環に関する定説を覆すメカニズムを解明
PR TIMES / 2024年12月17日 10時45分
土星の環は若くない!太陽系の年齢に匹敵する可能性
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株式会社スペースデータ(本社:東京都港区、代表取締役社長:佐藤航陽、以下スペースデータ)は、当社の最高科学責任者(Chief Science Officer, CSO)である兵頭龍樹 博士(パリ大学および東京科学大学を兼任)が、東京科学大学の玄田英典 博士らと協力し、土星の環に関する定説を覆すメカニズムを解明したことをお知らせします。これにより土星の環の誕生は、これまでの定説よりも遥かに昔である可能性が明らかになりました。
本研究は世界的に評価され、2024年12月16日付で、科学分野の世界トップクラスの学術誌である「Nature Geoscience」に掲載されています。
本研究では、理論とシミュレーションを用いて、従来考えられていた仮説の間違いを示し、土星の環が宇宙塵によって極めて汚れにくいことを世界で初めて解明しました。この成果は、土星の環の年齢が若い(最大4億歳)とされていた従来の結論を覆し、太陽系の年齢(約46億歳)と同程度になりうることを示すものです。
背景
宇宙空間には常に、水の氷をあまり含まない岩石質の塵(※1)が飛散しています。この塵が、土星の環が誕生してから環に降り積もることで、時間とともに土星の環には水の氷以外の物質が蓄積されると考えられてきました。さらに、NASA-ESAのカッシーニ探査機(※2)による観測によって、土星の環の95%以上が水の氷で構成されていることが明らかになりました。つまり、土星の環は塵で汚れておらず、土星の環が100%水の氷で生まれたとしても、環の年齢は最大で約4億年と近年の研究で報告されています。これは、家の床に埃が時間とともに積もるのと同じで、埃の量からどの程度の時間が経ったかが見積もれるという理屈です。
一方、太陽系の形成と進化の理論研究では、土星の環が形成されるような大イベントは、46億年前など太陽系の初期段階に起こる可能性が非常に高いのです。つまり、これまでの理論と観測の間には大きなギャップがありました。
参考情報として、2024年12月現在、Google 検索で土星の環の年齢を調べると「1億~4億歳」と回答されます。このように、土星の環は比較的若いというのが、これまでの定説として認識されています。
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Googleでの検索結果(2024年12月現在)
本研究の成果
本研究では、塵が土星の環に降り積もらないメカニズムが解明されました。これにより、土星の環が太陽系と同等の、約46億年の歴史を持つ可能性が示唆されました。この結果は、「人は見かけによらぬもの」という諺(ことわざ)と同様に、惑星の環がその外見からは年齢を容易に判断できないことを示すもので、土星の環の起源と進化に対する理解に大きな影響を与えるものです。
シミュレーションの詳細
本研究では、次の3種類のシミュレーションを行い、宇宙塵と土星の環の関係を包括的に解明しました(下記の図を参照):
塵と土星の環の粒子の衝突シミュレーション
宇宙塵と土星の環の粒子が衝突するプロセスをシミュレーションした結果、これらの衝突は非常に高速で発生し、そのエネルギーによって塵が完全に蒸発してしまうことが明らかになりました。
蒸発した塵の進化シミュレーション
蒸発した塵が形成する蒸発雲の膨張と凝縮を解くシミュレーションを実施しました。この結果、蒸発した塵はナノメートルサイズの凝縮物として再形成され、土星の磁気圏内で帯電することがわかりました。
ナノメートルサイズの帯電凝縮物の土星磁気圏内での軌道進化シミュレーション
帯電した凝縮物の軌道進化を土星の磁気圏を考慮したシミュレーションで調べました。その結果、帯電した凝縮物は土星の磁気圏との相互作用によって、土星圏の外に吹き飛ばされたり、土星に引き込まれたりして、土星の環にほとんど残らないことが明らかになりました。
これらのシミュレーションの結果は、簡易的に表現すると「土星の環は、外部の塵によって極めて汚れにくい」ということを示しました。その結果、惑星の環の年齢に関する新たな理解を提供するものとなりました。
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宇宙塵と土星の環の関係
他の天体への応用
本研究の成果は土星の環だけにとどまらず、宇宙塵が高速衝突する水星、天王星の環、木星や土星の氷衛星にも応用できます。「人は見かけによらぬもの」の諺と同様に、これにより、これまでの見かけに基づいた年齢推定の限界を再認識する必要性が浮き彫りになりました。
今後の展望
本研究は、土星の環の進化や他の惑星系における環の形成過程を再考するための新たな基盤を提供します。土星の環は太陽系の中でも圧倒的に巨大な構造物です。このような巨大構造物が形成される一大イベントは、太陽系全体に影響を与える可能性が大いにあります。つまり土星の環の形成時期と形成メカニズムを正しく理解することは、太陽系の形成を深く理解することに繋がり、さらにそれは地球がいつどのように生命を育む惑星になったのかという問題を解決するきっかけになると考えられます。
※1 カッシーニ探査機の計測などから、土星周囲に漂う塵(micrometeroids)はミクロンサイズであり、その成分は有機物と岩石が混合したものであることが示唆されている。
※2 カッシーニ探査機は、1997年に打ち上げられ、2004年から2017年まで土星周囲で運用されたアメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の共同ミッションである。土星の大気、磁気圏、衛星、環などを詳細に観測し、さまざまな科学的発見を達成した。
兵頭龍樹について
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/80352/34/80352-34-b554a9d80c37c5a8638647f363b2d6e4-1000x1274.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
大阪府和泉市生まれ。パリ大学および神戸大学で博士(理学)を取得。NASA、ESA、JAXAの世界主要宇宙機関の惑星探査計画に従事。専門は、惑星科学・宇宙物理学。パリ大学と東京科学大学(旧・東京工業大学)を兼任。AI・VRスタートアップ「Galaxies」経営・技術顧問。NatureやScienceなどの最高権威の科学出版社にて多数の論文を発表。日本惑星科学会「最優秀研究者」、JAXA「国際トップヤングフェロー」、S-Booster2023「最優秀賞およびNEDO賞」などを受賞。好きなものはコーヒーとサッカー。
スペースデータが開発する太陽系デジタルツイン
スペースデータでは、兵頭博士の指揮の下、JAXAと連携し、宇宙ステーションなどの宇宙環境をデジタル空間に再現する「宇宙デジタルツイン」の開発を進めています。「太陽系デジタルツイン」は、地球から太陽系全体にわたるさまざまな物理現象をデジタル空間上で再現することを目指しています。
「太陽系デジタルツイン」は、NASAやJAXAなどの宇宙機関による惑星探査ミッションで取得されたデータを活用し、太陽系の正確な姿をデジタル上に構築します。このデジタルツイン技術は、宇宙探査や宇宙資源の探査、惑星の気象研究、さらにはプラネタリーディフェンス(小惑星衝突から地球を守る技術)など、さまざまな分野における新たなイノベーションを促進します。
スペースデータは「新しい宇宙を作る」というビジョンのもと、コンピューター上に宇宙全体を再現することを目指して、さまざまな研究開発を進めてきました。兵頭氏の参画によって、地球や低軌道だけでなく、太陽系やさらにその外側に広がる広大な宇宙全体をコンピューター上で再現する未来への重要な一歩になると期待しています。
スペースデータについて
スペースデータは「宇宙」と「デジタル」の融合を目指した研究開発を行うスタートアップです。人工衛星・宇宙ステーション・月面探査といった宇宙分野の技術と、AI・3DCG・デジタルツインといったデジタル分野の技術の融合を目指す研究を進めています。「新しい宇宙を作る」をビジョンに掲げて、革新技術の発明・特許化・実用化を行っています。
法人概要
社名 :株式会社スペースデータ
代表 :佐藤 航陽
所在地:東京都港区虎ノ門 1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15階
資本金:15億1300万円
目的 :宇宙開発に関わる投資と研究
URL :https://spacedata.jp
スペースデータに関するお問い合わせ
下記のお問い合わせフォームからご連絡ください。
https://spacedata.jp/contact
本研究に関する取材のお問い合わせ
氏名:兵頭龍樹
所属:スペースデータ、パリ大学(IPGP)、東京科学大学、ギャラクシーズ
連絡先:hyodo@elsi.jp
論文の詳細
タイトル:Pollution resistance of Saturn’s ring particles during micrometeoroid impact
著者:Ryuki Hyodo, Hidenori Genda & Gustavo Madeira
出版社:Nature Geoscience
DOI:10.1038/s41561-024-01598-9
URL:https://www.nature.com/articles/s41561-024-01598-9
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