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フェアリー化合物の短段階合成手法の開発

PR TIMES / 2024年5月15日 18時40分

― ファインバブル技術を活用したグリーンものづくり ―

静岡大学グリーン科学技術研究所の間瀬暢之教授が率いる研究グループは、河岸洋和教授(研究当時、現:特別栄誉教授)らによって同大学で発見されたフェアリー化合物の工業的生産を目指した戦略的グリーンものづくり合成法の開発に成功しました。
                                  
【研究のポイント】
・安価な原料を用いたフェアリー化合物の短段階合成を実現(通算収率47%)。
・独自開発してきたファインバブル技術を活用したワンポット還元・環化反応の導入。
・不安定とされていた中間体の4-ジアゾ-4H-イミダゾール-5-カルボキサミド(DICA)を固体として安定的に単離。
・ヨウ素系触媒を使用した超効率的(反応時間13分)な分子内環化反応の新手法の構築。



[画像1: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-c196c643bfcd75cea2f9-1.png ]

[間瀬研究室サイト]

【研究内容および研究成果】
静岡大学で発見されたフェアリー化合物は、植物の生物的および非生物的ストレス耐性を向上させ、農作物の増収に寄与することが明らかにされています。フェアリー化合物の社会実用化は、持続可能な農業への大きな貢献を期待されています。これまでのフェアリー化合物の合成方法は、多段階の工程と長時間の反応時間を必要とし、また青酸ガスのような高毒性物質の使用が避けられなかったため、実験室スケールでの研究に限られていました。本研究では、短段階でかつ後処理を簡略化するために独自に開発したファインバブル技術を導入して、ワンポットで迅速な水素化と分子間環化によりイミダゾール骨格を形成しました。また、これまで不安定とされてきた中間体DICAの固体単離が可能となり、結晶化による中間体精製が容易になりました。さらに、DICAからフェアリー化合物への変換もヨウ素系試薬を触媒量で使用し、わずか13分で分子内環化が可能になりました。以上のように、入手可能な原料からフェアリー化合物の一種である2-アザヒポキサンチン(AHX)の合成において、合成段階の削減、収率の大幅な向上(通算収率47%)、および合成時間の短縮を実現しました。この新しい合成方法は、高毒性物質を使用しないため、フェアリー化合物の実用化につながることが期待されます。

【今後の展望および社会への還元】
本研究成果は、地球温暖化による食料問題の解決につながる持続可能な農業への貢献だけでなく、新たなバイオファインケミカルズの開発にも繋がる可能性を秘めています。静岡大学は、これらの研究成果を基にした実用化と産業界への技術移転を積極的に行い、グリーンものづくりの推進に寄与することを目指しています。静岡で見つかった化合物を、静岡で構築した合成手法で一緒に世界へ貢献しませんか?
なお、本研究成果は、2024年5月7日に、Royal Society of Chemistryの発行する国際雑誌「Organic & Biomolecular Chemistry」に掲載され、表紙を飾りました。

Fine bubble technology for the green synthesis of fairy chemicals - Organic & Biomolecular Chemistry (RSC Publishing)(論文、オープンアクセス)
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/ob/d4ob00237g
[画像2: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-e7a08b1cb9e728b44892-2.png ]


Front cover - Organic & Biomolecular Chemistry (RSC Publishing)(表紙、フリーダウンロード)
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/ob/d4ob90052a
[画像3: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-bb9dc52d4962d3d95385-3.png ]



【研究者コメント】
静岡大学グリーン科学技術研究所・教授・
間瀬暢之(ませ のぶゆき)
[画像4: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-422bf89ef1edf5d55289-0.jpg ]


この研究を開始したのは2017年です。静岡大学で発見されたフェアリー化合物が新しい植物ホルモンになる可能性があることを知り、工学部に所属している私は、グリーンものづくりに立脚した工業的生産について考えるようになりました。少数精鋭で試行錯誤を繰り返し、独自の技術(ファインバブル有機合成)を組み入れることを絶対条件として、挑戦的、かつ努力を怠らない学生たちと日々奮闘してきました。そして、2年前にインド工科大学ハイデラバード校(IITH)から静岡大学の博士課程に入学したArun君が本研究に取り組み、今回の成果をまとめることができました。工業的に生産可能な手法にはまだ到達していませんが、静岡で見つかった化合物を、静岡で構築した合成手法で世界に貢献することを夢見ています。天然物化学、有機化学、プロセス化学の総合知で世界へ一緒に貢献しませんか?

【研究概要】
静岡大学グリーン科学技術研究所の間瀬暢之教授が率いる研究グループは、河岸洋和教授(研究当時、現:特別栄誉教授)らによって同大学で発見されたフェアリー化合物の工業的生産を目指した戦略的グリーンものづくり合成法の開発に成功しました。


【研究のポイント】
・安価な原料を用いたフェアリー化合物の短段階合成を実現(通算収率47%)。
・独自開発してきたファインバブル技術を活用したワンポット還元・環化反応の導入。
・不安定とされていた中間体の4-ジアゾ-4H-イミダゾール-5-カルボキサミド(DICA)を固体として安定的に単離。
・ヨウ素系触媒を使用した超効率的(反応時間13分)な分子内環化反応の新手法の構築。

【研究背景】
「菌輪」とは、芝が環状に繁茂したりキノコが発生する現象です。英語では"Fairy ring"と呼ばれ、その起源は1675年にさかのぼります。西洋では、「妖精が輪をなし、その上で踊る」という言い伝えがあります。この現象についての科学的な研究は、1884年の『Nature』誌にて初めて報告されました。その後の研究で、土壌中の菌糸がタンパク質を分解し、硝酸などの窒素源を生成することが植物の成長を促進し、菌輪の形成に寄与することが有力な説となりました。一方、静岡大学の河岸教授らは、「菌が特異的な植物生長調節物質を産生し、それが菌輪形成の要因である」という新たな仮説のもと研究を進めました。その結果、菌輪を形成する菌が植物の成長を調節する化合物を産生していることが2010年に明らかにされました。さらに、河岸教授らによって単離されたこれらの化合物がプリン代謝由来であり、植物内に内生していることも後の研究で確認されました。
この植物の生長を調節する化合物群は『Nature』誌に取り上げられ、その後「フェアリー化合物(Fairy Chemicals; FCs)」と広く呼ばれるようになりました。フェアリー化合物には、植物の生長を促進する2-アザヒポキサンチン(AHX)、2-アザ-8-オキソヒポキサンチン(AOH)や、逆に植物の生長を抑制するイミダゾール-4-カルボキサミド(ICA)が含まれています。これらの化合物は、分類学的な分類とは無関係に植物の成長を調節する機能を持ち、農場での栽培実験では収量の増加が確認されているため、食糧問題を解決する手段の一つとして実用化が期待されています(図1)。
[画像5: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-ee1d707dc19b3c6b614e-4.png ]

図1.菌輪とフェアリー化合物

 通常、基礎研究で発見された有用な化合物は開発研究を経て工業生産へ移行します。基礎研究段階では、化合物の物性や生理活性を評価するために、一般にミリグラムからグラムスケールの合成が必要です。その後、各プロセスで必要とされる合成のスケールは異なります。特に、開発初期段階でのグラムからキログラムへのスケールアップ、すなわちラボスケールからベンチスケールへの移行は、生産コストの削減や開発期間の短縮に寄与します。しかし、これまでのフェアリー化合物の合成は、複数の工程や長時間の反応時間を要し、また青酸ガスのような猛毒を使用するプロセスが必要となるため、実験室スケールに限定されています(図2)。したがって、実用化に向けた効率的な生産手法の確立が強く求められています。
[画像6: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-adc33803120c1000e624-5.png ]

図2.フェアリー化合物の合成例

 当研究室では、これまでに有機合成を高効率化し、生産性を向上させることに主眼を置き、ファインバブル(FB)、マイクロ波、反応条件の最適化、機械学習、デスクトッププラント化などの合成手法の開発に取り組んできました(図3)。本研究では、短段階でかつ後処理を簡略化するために独自に開発したファインバブル技術を導入して、フェアリー化合物の効率的な合成手法の開発を目的としました。なお、ファインバブルは直径100 µm以下の気泡の総称であり、通常の気泡と比較して優れた気体溶解性を示します。
[画像7: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-48107d43d29dc4810e18-6.png ]

図3.独自技術による反応の理解からグリーンものづくりへ

【研究の成果】
合成戦略として、短段階でかつ後処理を簡略化することを念頭に置き、わずか4段階でフェアリー化合物を合成する計画をしました(図4)。市販の2-シアノアセトアミド(1)を出発材料として使用しました。オキシム(2)は、亜硝酸ナトリウムと酢酸を用いて86%の収率で合成されました。重要中間体の一つである5-アミノ-1H-イミダゾール-4-カルボキサミド(AICA、3)は、環境に優しい反応剤である水素をファインバブル化し、触媒としてPt/C、カップリングパートナーとしてホルムアミジン酢酸を用いたワンポット還元・環化反応により得られました。4つの異なるファインバブル技術を探求し、大気圧下でのマルチスタッキングエレメント(MSE)FB発生法で最高収率63%が達成されました。なお、サイズが大きいバブルは触媒の活性部位を覆い、触媒活性を低下させます。得られたAICAをジアゾ化して、室温で安定な固体の中間体DICA(4)を生成しました。その後の分子内環化の最適化を行った結果、超原子価ヨウ素(PhI(OAc)2)が触媒として効果的であり、わずか0.5 mol%で水中での分子内環化が15分以内に進行し、目的のフェアリー化合物(AHX、5)が94%の収率で得られました。
[画像8: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-6b6df3762be42fa94644-7.png ]

図4.フェアリー化合物の合成

【今後の展望と波及効果】
本研究成果は、持続可能な農業への貢献だけでなく、新たなバイオ化合物の開発にも繋がる可能性を秘めています。静岡大学は、これらの研究成果を基にした実用化と産業界への技術移転を積極的に行い、グリーンものづくりの推進に寄与することを目指しています。静岡で見つかった化合物を、静岡で構築した合成手法で世界に貢献することを夢見ています。天然物化学、有機化学、プロセス化学の総合知で世界へ一緒に貢献しませんか?
[画像9: https://prtimes.jp/i/96787/37/resize/d96787-37-3fd3a8962e05c01bfd70-8.jpg ]


【論文情報】
掲載誌名:
Organic & Biomolecular Chemistry
論文タイトル:
Fine bubble technology for the green synthesis of fairy chemicals
著者:
Arun Kumar Manna, Mizuki Doi, Keiya Matsuo, Hiroto Sakurai, Ch.Subrahmanyam, Kohei Sato, Tetsuo Narumi and Nobuyuki Mase
DOI: https://doi.org/10.1039/D4OB00237G


【研究助成】
科学研究費 基盤研究(B)
「ファインバブルによるグリーンものづくり:原理原則の解明から合成プロセス開発まで(21H01974)」


科学研究費 学術変革領域研究(A)
「グリーンものづくりに向けた合成手法の機械学習最適化と化学反応の理解(22H05353)」

【用語説明】
フェアリー化合物(Fairy Chemicals, FCs)
静岡大学の河岸洋和教授が発見した新しいタイプの化合物の総称であり、植物の生育に関与することが明らかになっている。


ファインバブル(Fine Bubble, FB)
ファインバブルは、直径が100マイクロメートル(μm)以下の気泡を指します。さらにサイズにより「マイクロバブル(1から100 μm)」と「ウルトラファインバブル(1 μm未満)」の二種類があります。

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