【摂南大学】世界のトマト栽培の安定化に期待
PR TIMES / 2024年7月19日 11時0分
トマトの免疫システムを回避する病原菌の変異メカニズムを解明
ニュージーランドMassey大学のCarl H. Mesarich講師、Silvia de la Rosa博士、オランダWageningen大学のChristiaan R. Schol博士、Matthieu H.A.J. Joosten准教授、Yuling Bai教授、摂南大学(学長:久保康之)農学部農業生産学科の飯田祐一郎准教授と農学専攻博士後期課程1年生の前田和弥大学院生らの研究グループは、世界中のトマト栽培で大きな問題となっているトマト葉かび病において、病原菌が自ら複数の遺伝子を変異させることで、トマトの持つ免疫システムを巧みに回避するシステムが存在することを発見しました。
葉かび病菌に対する免疫システムを制御する抵抗性遺伝子Cf-9BとCf-9Cが導入されたトマト品種は世界中で利用されていますが、近年はこれら品種において葉かび病が発病し、日本でも2003年にCf-9B/Cf-9C抵抗性を打破する葉かび病菌が発見されています。今回の研究成果から世界各地で同じ変異メカニズムが同時期に生じていたことが明らかとなりました。この発見は、Cf-9B/Cf-9C抵抗性を持つ商業トマトにおいて本病害に対する防除効果が限定的であることを示しており、今後、より安定的な免疫システムを持つトマト品種の開発に向けた重要な一歩となります。
本件のポイント
●トマトに導入された抵抗性遺伝子Cf-9B/Cf-9Cが制御する免疫システムを回避する、トマト葉かび病菌のAvr9B/Avr9C遺伝子を同定
●病原菌は自身のAvr9B/Avr9C遺伝子を連続的に変異させることで植物の免疫システムを無効化したことを解明
●トマト葉かび病菌は化学農薬が効かない「耐性菌」が増えており、本研究で植物の免疫システムをも回避することが明らかとなったため、新たな防除戦略が求められる
[画像: https://prtimes.jp/i/140284/42/resize/d140284-42-9b78873421f093389a28-0.png ]
トマト葉かび病菌は、トマトのビニールハウスやガラス温室などの施設内での栽培で発病が多い病原菌であり、世界中で問題となっています。研究グループは長年、本病原菌がトマトの免疫システムを回避する変異メカニズムを、共同研究により解析してきました。抵抗性遺伝子Cf-9BとCf-9Cが導入されたトマト品種は世界中で栽培されているものの、各地でトマト葉かび病菌の発生が報告されていました。今回の研究では、トマト葉かび病菌のゲノム情報の比較から、Cf-9B抵抗性を誘導するエフェクター遺伝子Avr9Bを同定し、これまでに同定されていたCf-9C抵抗性とAvr9Cとともに解析しました。その結果、欧州、日本、ニュージーランド、中国、タンザニアなど、世界中のトマト葉かび病菌において、同じ回避メカニズムが同時期に生じていたことが証明されました。
近年、ヒトの病気に対する医薬において抗生物質の効かない耐性菌のまん延が問題となっていますが、農業における農薬においても、化学農薬の効かない耐性菌が発達しており、病気の防除が難しくなっています。また、新たな化学農薬の開発は数百億円にのぼる莫大な開発コストとおよそ10年の開発期間が必要とされ、新たな耐性菌の出現によりすぐに使い物にならなくなるリスクも抱えています。対応策として、耐性菌の発生を防ぐために、異なる作用機作の複数の化学農薬をローテーションで使用したり、生物農薬や、耐病性の高いトマト品種を栽培しています。トマト葉かび病菌は化学農薬に耐性を示す「耐性菌」の発達が問題となっており、抵抗性品種に依存した防除戦略が取られてきましたが、本研究から病原菌は植物の免疫をも回避することが分かり、新たな防除戦略が求められます。
本研究の成果は、2024年6月24日に国際学術誌「New Phytologis(オンライン版)」に論文が掲載されました。本研究は日本学術振興会・科研費・基盤B(20H02993・飯田)の支援を受けて行われました。
URL: http://doi.org/10.1111/nph.19925
論文情報
論文名:Sequential breakdown of the Cf-9 leaf mould resistance locus in tomato by Fulvia fulva
(トマト葉かび病菌Fulvia fulvaによるトマトのCf-9抵抗性遺伝子座の連続的な崩壊)
著者名:de la Rosa S., Schol C.R., Ramos Peregrina A., Winter D.J., Hilgers A.M., Maeda K., Iida Y., Tarallo M., Jia R., Beenen H.G., Rocafort M., de Wit P.J.G.M., Bowen J.K., Bradshaw R.E., Joosten M.H.A.J., Bai Y., Mesarich C.H.
掲載誌:New Phytologist
DOI:10.1111/nph.19925
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