琉球大学・中央大学・沖縄工業高等専門学校 AIで新型コロナウイルス感染症に関連する遺伝子群を特定
PR TIMES / 2021年8月30日 16時45分
~バイオインフォマティクスでコロナに打ち勝つ基礎づくり~
研究成果に関する論文が公開
~ 8月30日よりオンラインにて~
独立行政法人国立高等専門学校機構 沖縄工業高等専門学校(沖縄県名護市、校長:伊原博隆) 生物資源工学科 教授 池松真也が、琉球大学工学部 宮田龍太助教、中央大学理工学部 田口善弘らのチームで取り組んだ本研究成果は、藤澤孝太氏の琉球大学大学院理工学研究科博士前期課程の修士論文テーマとしてNature Research社の学術雑誌「Scientific Reports」掲載されました。
発表概要
琉球大学工学部宮田龍太助教、中央大学理工学部田口善弘教授、沖縄工業高専門学校生物資源工学科池松真也教授らの共同チームが、COVID-19(新型コロナウイルス)に関連する遺伝子群約6万個の候補の中から123個をAI技術を用いて特定しました。さらに、これら123個の遺伝子の発現を上流で制御する因子をバイオインフォマティクス(注1)の知識を活用し特定しました。今年の3月に大学院理工学研究科博士前期課程を修了した藤澤孝太氏の修士論文テーマであった本研究成果は、Nature Research社から刊行された国際誌「Scientific Reports」のオンライン版に8月30日に掲載されました。
特定した転写因子(注2)には防御システムの要であるNF-κB(図1のNFKB1とRELA)が含まれており、さらにそれらの活性がヒストン修飾(注3)で抑制されていることが解析結果から示唆され、新型コロナウイルス感染症によりヒトの免疫系機能が低下するメカニズムの一端を明らかにしました。この中で、池松教授は、このNF-κBの絞り込みとヒストン修飾と遺伝子発現抑制の関連の意味づけにおいて貢献しました。
いま世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルス感染症の全容を解明し、効果的な治療法を確立するには、臨床試験だけでなく本論文のようなゲノムデータ解析をはじめとした多様な病態解析で知見を積み重ねる必要があり、今後チームは重症化や変異株に関連する遺伝子を探索していく予定です。
[画像1: https://prtimes.jp/i/75419/51/resize/d75419-51-b76eba0ab3cecfa2bbce-0.png ]
発表内容
池松教授(沖縄高専)の貢献
バイオインフォマティクスで作業のゴールに到達するためには、コンピューターやAIを用いて遺伝子群を特定する作業とその特定された中から、その遺伝子の役割を理解し、COVID-19ウイルスによる症状が発症する際のヒトで起こる症状などから各遺伝子を関連づける作業の2つが重要になります。
池松教授は、今回の解析作業の後者を担当し、AIが選び出したNF-κBの絞り込みとヒストン修飾と遺伝子発現抑制の関連の意味づけにおいて貢献しました。
NF-κBは転写因子と言って、タンパク質の設計図であるDNAをRNAに写し取る働きをするタンパク質です。
このNF-κBの働きが盛んになり、細胞の核の中で指示を出し始めると様々なタンパク質が作り出されることに
なります。
生体内での防御機能を担当しているNF-κBはいくつかのユニットが集まり1つの形になっていますが、RELAはそのユニットの1つであり、私達がCOVID-19ウイルスに感染すると、このRELAが“ヒストン修飾”という妨害を受け、1つのユニットが欠けることでNF-κB全体が十分に作用することができなくなってCOVID-19ウイルスの増殖を抑える役割のタンパク質群の出番が邪魔され、免疫機能の低下につながっているのではないかという推測につなげました。
池松教授は、沖縄県の委託事業である「健康・医療産業における情報技術活用促進事業」を長年にわたり運営し、県内や県外から沖縄に進出した企業の研究員や大学院生などにバイオインフォマティクスの普及を行っています。その活動から藤澤氏のような人材や高等専門学校生のバイオインフォマティクス技術者の卵が育っています。
池松教授は、日本バイオインフォマティクス学会の沖縄地域部会長も務めています。
社会的意義・今後の予定
一連の解析で、新型コロナウイルス感染症によりヒトの免疫系機能が低下するメカニズムの一端を解明できました。
しかし、今回特定できた123個の遺伝子群に単なる相関関係に留まらずCOVID-19発症の「因果」と呼べるものが含まれているかどうか、更なる検証を重ねる必要があります。
課題は山積みですが、COVID-19の効果的な治療法を確立するには臨床試験のみならず、バイオインフォマティクスをはじめとした多様な病態解析で知見を積み重ねていくことが重要だと著者一同は考えております。
今回使用したデータは全て National Center for Biotechnology Information (NCBI) のGene Exression Omnibuns (GEO) から取得しました。但し、そのデータセット量は充分ではなく、今後、日本人に関するCOVID-19の発症、重症化の大規模データをAIによる解析にかけ、可能であれば、標準種と例えばデルタ株のような株ごとの比較にまで発展させていきたいと考えています。また、現在沖縄高専が中核拠点として進行中のGEAR5.0 防災・減災・防疫プロジェクト(GEAR5.0:未来技術の社会実装教育の高度化)に融合し、学生目線のアイデアを導入することで、新しい治療法の提案や新薬の開発に貢献できるのではないかと考えています。
<用語解説>
(注1)バイオインフォマティクス:生命科学と情報科学の融合分野のひとつで、DNAやRNA、タンパク質をはじめとする生命がもつ情報をコンピュータで分析することで、生命現象を解き明かすことを目的としている。
(注2)転写因子:DNAに特異的に結合するタンパク質で、ある特定の遺伝子の転写(DNAの情報をRNAに写しとる過程)レベルを増減させる機能をもつ。
(注3)ヒストン修飾:細胞の核に存在するタンパク質であるヒストンはアセチル化やメチル化など様々な化学的な修飾を受けており、それが遺伝子発現制御に関与していると考えられている。
<論文情報>
論文タイトル
PCA-based unsupervised feature extraction for gene expression analysis of COVID-19 patients
(COVID-19患者の遺伝子発現量解析へのPCAに基づいた教師なし学習による変数選択法の適用)
論文リンク先
https://www.nature.com/articles/s41598-021-95698-w#article-info
沖縄工業高等専門学校について
[画像2: https://prtimes.jp/i/75419/51/resize/d75419-51-e6732c5d4cb086c27778-1.jpg ]
沖縄工業高等専門学校は、全国51校の国立高等専門学校の中で最も新しい高専として、沖縄県、関係市町村及び産業界からの強い要請を受けて平成14年10月に開学。
高章の由来となった「やんばる(沖縄本島北部)の深き緑」、「青き豊かな海」、「沖縄の青い空」に表現される名護の豊かな自然は、素晴らしい教育環境を育み、口頭教育機関に相応しい、未来志向型の教育プログラムを提供している。
本校には、機械システム工学科、情報通信システム工学科、メディア情報工学科、生物資源工学科の本科4学科と1専攻科があり、地域が求める実践的技術者の養成から我が国の未来を支える高度技術・研究者を育成しており、経済産業界からも高い評価を得ている。
【学校概要】
会社名:独立行政法人国立高等専門学校機構 沖縄工業高等専門学校
所在地:沖縄県名護市字辺野古905番地
代表者:伊原 博隆
設立:2002年10月1日
URL:http://www.okinawa-ct.ac.jp/
事業内容:高等専門学校・高等教育機関
【本リリースに関する報道お問い合わせ先】
独立行政法人国立高等専門学校機構
沖縄工業高等専門学校
総務課総務係
TEL:0980-55-4003
e-mail:ssoumu@okinawa-ct.ac.jp
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