パーキンソン病のレビー小体形成メカニズムを解明
PR TIMES / 2018年3月3日 2時1分
~オートファジーの破綻がパーキンソン病の原因となる~
順天堂大学大学院医学研究科神経学の佐藤栄人准教授、服部信孝教授らの研究グループは、ドーパミン神経細胞*1特異的にオートファジー*2を欠損させたマウスを作製したところ、孤発性パーキンソン病の病態を忠実に表現するモデルマウスとなることを示しました。さらに、パーキンソン病に特徴的なレビー小体*3の形成メカニズムを明らかにしました。本成果は、今後のパーキンソン病の予防・治療に大きく道を開く可能性を示しました。本研究はnature系列誌の「Scientific Reports」のオンライン版(日本時間:2018年2月12日)で公開されました。
【本研究成果のポイント】
パーキンソン病の病態を忠実に表現するモデルマウスの作製に成功した
オートファジーの破綻によるレビー小体の形成メカニズムを解明した
オートファジー障害をターゲットとしたパーキンソン病の予防・治療戦略の可能性
【背景】
高齢化社会の到来に伴いパーキンソン病の有病率が上昇しています。今後パーキンソン病患者の増加により、予想される社会的損失を軽減させるには、予防法や新規治療法の開発が必須です。現在のパーキンソン病の治療では、病気が進行してからのアプローチが中心になっていますが、効果的な治療のためには発症早期の介入が必要とされています。しかしながら、パーキンソン病の病態を忠実に表現するモデル動物が存在しないために、発症前から発症に至る過程を解析することが難しいなど、パーキンソン病の研究を進められない障壁がありました。
一方、神経変性を伴う多くの疾患では、神経細胞内に封入体*4の形成がみられます。パーキンソン病でも、レビー小体と呼ばれる細胞内封入体が形成されることが病理的な特徴となっていますが、その形成メカニズムは不明でした。これまでの基礎的研究から、タンパク質分解系の異常であるオートファジーの障害がタンパク質の凝集物である封入体を細胞内に形成することが指摘されていました。そこで、私たち研究グループは、レビー小体の形成メカニズムの解明を目的として、ドーパミン神経細胞特異的にオートファジーの機能を欠損させることにより、細胞内封入体形成を伴うパーキンソン病のモデル動物の作製が可能ではないかと考えました。
【内容】
まず、Atg7(オートファジーの誘導に必須な因子)のFloxマウス(遺伝子改変マウス)とドーパミン神経細胞でCreリコンビナーゼ(遺伝子組換えをする酵素)を発現するマウスを掛け合わせることにより、ドーパミン神経細胞特異的にオートファジーの欠損したマウスを作製しました。このマウスは、若齢世代では歩行の障害といった異常はみられませんが、長期に渡り観察したところ、老齢化に伴い肢を踏み外すといった運動障害が出現することを発見しました。この運動障害は、パーキンソン病患者でみられる動作緩慢といった症状に似ていました。
さらに、ドーパミン神経細胞の細胞体や軸索の病理解析を行ったところ、早期からp62 *5タンパク質の凝集が観察されました。それらが凝集体の核となり、遅れて増加してきたSynuclein *6が沈着することで、パーキンソン病に特徴的な封入体であるレビー小体が形成されることを世界で初めて見出しました(図)。なお、運動障害を呈する老齢マウスではパーキンソン病患者と同様に、ドーパミン神経細胞の減少があることがわかりました。
[画像: https://prtimes.jp/i/21495/53/resize/d21495-53-897105-0.jpg ]
私たち研究グループが作製したドーパミン神経細胞特異的にオートファジーを欠損させたマウスは、パーキンソン病類似の病理像と症状を呈することから、パーキンソン病のモデル動物となることを示しました。さらに、本結果は、パーキンソン病の病態メカニズムとして、オートファジーの破綻により、凝集体の形成をきっかけとしてレビー小体が形成されることを明らかにしました。
【今後の展開】
本研究により、パーキンソン病のモデル動物の確立とともに、パーキンソン病の特徴であるレビー小体の形成メカニズムを明らかにすることができました。今後はこのモデルを研究ツールとして、ドーパミン神経細胞の減少を防ぐことを目的に、オートファジーの調節や封入体形成抑制作用を有する薬剤のスクリーニング、バイオマーカーの検討など、臨床応用に向けてパーキンソン病の予防・治療法の開発を進めるとともに、さらなる病態メカニズムの解明をしていきたいと考えています。
【用語解説】
*1 ドーパミン神経細胞: パーキンソン病で選択的に障害される神経細胞。神経伝達物質である ドーパミンの減少により動作緩慢やふるえなどの症状が出現する
*2 オートファジー: 細胞内の不要なタンパク質を分解するための仕組み
*3 レビー小体: パーキンソン病に特徴的に観察される封入体であり病理診断の根拠となる
*4 封入体: 細胞内に観察されるタンパク質の凝集物。その役割はいまだ不明である
*5 p62: オートファジーによって分解される代表的なタンパク質。オートファジーの障害によって神経細胞内に蓄積し凝集体を形成する
*6 Synuclein: パーキンソン病で増加することが知られているタンパク質であり、レビー小体の主な構成成分
論文タイトル:Loss of autophagy in dopaminergic neurons causes Lewy pathology and motor dysfunction in aged mice
日本語訳:ドーパミン神経細胞特異的オートファジー欠損マウスはパーキンソン病類似の運動症状と病理像を呈する
著者: Shigeto Sato, Toshiki Uchihara, Takahiro Fukuda, Sachiko Noda, Hiromi Kondo, Shinji Saiki, Masaaki Komatsu, Yasuo Uchiyama, Keiji Tanaka, Nobutaka Hattori
(佐藤栄人1、内原俊記2、福田隆浩3、野田幸子1、近藤ひろみ2、斉木臣二1、小松雅明4、内山安男1、田中啓二2、服部信孝1 )
著者所属: 1) 順天堂大学、2)東京都医学総合研究所、3) 慈恵会医科大学、4)新潟大学
掲載誌: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-018-21325-w
出願番号:特願2016-208410
発明者:佐藤栄人、野田幸子、服部信孝
発明の名称:パーキンソン病モデル非ヒト動物
出願人:学校法人順天堂
出願日:2016年10月25日
なお、本研究は、東京都医学総合研究所、慈恵会医科大学、新潟大学との共同研究として、文部科学省研究ブランディング事業「脳の機能と構造を視る」、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、文部科学省新学術領域研究領域提案型「オートファジーの集学的研究」、およびJSPS科研費基盤研究(B)JP15H04842、基盤研究(C)JP15K06780による支援を受けて行われました。
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