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マラリア第一治療薬の耐性原虫がアフリカに出現していることを発見

PR TIMES / 2018年3月27日 14時1分

~世界のマラリア対策へ貢献・薬剤耐性の危機回避に向けて~

順天堂大学医学部熱帯医学・寄生虫病学講座の池田美恵 博士研究員、橘真一郎 助教、美田敏宏 教授らの研究グループは、Gulu大学(ウガンダ共和国)、大阪大学、愛媛大学、東京大学、産業技術総合研究所との共同研究により、マラリア治療の第一選択薬であるアルテミシニン(*1)に耐性を持つマラリア原虫がアフリカで出現していることを発見しました。さらに、この耐性マラリア原虫は、東南アジアからの移入ではなく、まだ耐性原虫がいないとされるアフリカ地域で独自に出現したことがわかりました。一部の耐性原虫は東南アジア型と比して高い耐性レベルを持っていました。今回の発見は、アフリカを中心とした世界のマラリア対策の方向性に大きな影響を与えるとともに、今後アルテミシニン薬剤耐性マラリアの出現と拡散を広域に監視するのに役立ち、薬剤耐性による危機を回避させる可能性を示唆します。本研究は、米国科学雑誌 Emerging Infectious Diseases電子版(2018年3月20日)に発表されました。



【本研究成果のポイント】


マラリア治療の第一選択薬であるアルテミシニンへの耐性原虫がアフリカで出現していることを発見
アルテミシニン薬剤耐性マラリアの出現と拡散の監視に役立つ
アフリカを中心としたマラリア対策と薬剤耐性による危機を回避させる可能性


【背景】
マラリアは、ハマダラカ(蚊)によって媒介される感染症で年間2億人以上の新規患者と40万人以上の死亡者を出す世界三大感染症のひとつです。アルテミシニンは、その迅速かつ強力な治療効果によって、現在ほぼすべての流行国でマラリアの第一選択薬となっています。アルテミシニン治療の導入は、とりわけ最大のマラリア流行地域であるアフリカで劇的にマラリア死亡者を減少させ、その功績に対してノーベル生理学・医学賞が贈呈されました。しかし、すでに東南アジアの一部(大メコン圏)でアルテミシニン耐性原虫の出現が報告されました。そこでWHOはアルテミシニン耐性封じ込めプランを策定し、薬剤耐性の拡散阻止に向けて努力が続けられてきました。そして現在に至るまで、マラリア患者の9割を抱えるアフリカではアルテミシニン耐性原虫は出現していないとされてきました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/55/resize/d21495-55-747009-0.jpg ]

【内容】
現在、マラリア原虫のアルテミシニン耐性の有無の判定はマラリア患者における治療効果を臨床的に評価することによって行われています。しかし私たち研究グループは、現行の方法ではアフリカにおける薬剤耐性の出現を正確に検出できないと考えてきました。それはアフリカのような高度流行地では、頻回の感染によるマラリアへの強い免疫の獲得など、患者の持つ因子が耐性の診断に強く干渉するからです。そこで研究グループは、患者因子に左右されないアルテミシニン耐性の検出法として、実験室向けであった方法を、マラリア流行現場で実施できるように改良し、2014年から3年間ウガンダ共和国のグル市で定期的な調査を実施しました。具体的な方法は、マラリア患者から得られた感染赤血球を高濃度のアルテミシニンとともに6時間共培養、培養液中の原虫抗原量の測定によってアルテミシニンへの感受性を判定するものです。
その結果、194人のマラリア患者において2%にあたる4人の患者がアルテミシニン耐性原虫に感染していることを発見しました。うち1例は東南アジアに分布している耐性原虫より高い耐性レベルを示していました。さらに、耐性原虫の由来を明らかにするため、得られた原虫の全DNA配列を決定し、様々な地域に分布するマラリア原虫の全DNA配列の比較とともにベイズ法を用いた統計処理による解析を行った結果、今回発見した耐性原虫はいずれも東南アジアから来たものではなく、アフリカで独自に出現、進化していることをつきとめました。なお、これらの耐性原虫には東南アジアのアルテミシニン耐性の原因とされている遺伝子変異が検出されず、このことは耐性メカニズムが異なる可能性を示唆しています。
2017年、赤道ギニアに住んでいた中国人が帰国後にマラリアを発症し、アルテミシニン治療に抵抗性を示したことから、アフリカにアルテミシニン耐性マラリアが出現している可能性が示唆されていましたが、これまでその確証は得られていませんでした。今回の私たち研究グループの発見により、それ以前からすでにアフリカにおいてアルテミシニン耐性マラリアが出現していたことが決定づけられます。

【今後の展開】
現在のグローバルなマラリア対策は、アフリカにはまだアルテミシニン耐性マラリアが出現していない前提で進められています。しかし、今回の結果は、様々な地域における耐性マラリアの発生状況や変化を継続的に監視する際に、アフリカにおけるアルテミシニン耐性マラリアの拡散について、より詳細に把握する必要があることを意味しています。私たち研究グループは、すでに今回使用した耐性診断法よりさらに簡便な方法の開発を行っています。具体的には、アフリカのアルテミシニン耐性患者から得られた血液から実験室で研究に使えるマラリア原虫株を樹立しています。アフリカ起源のアルテミシニン耐性株の樹立によって、東南アジアとは異なる耐性メカニズムの解明、関与する遺伝子およびその変異を同定できます。アフリカに分布するアルテミシニン耐性の遺伝子マーカーを同定することによって、薬剤耐性マラリアの出現と拡散を広域に監視することが容易になり、アフリカにおける耐性マラリアによる薬剤耐性の拡大の危機回避と世界におけるマラリア対策に大きな貢献ができると考えています 。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/55/resize/d21495-55-693526-1.jpg ]

【用語解説】
*1 アルテミシニン:1970年代に中国で開発された抗マラリア薬。現在最も有効な抗マラリア薬としてマラリア治療の第一選択薬となっているが、東南アジアの一部地域でアルテミシニン耐性のマラリア原虫が出現して問題となっている。

【原著論文】
本研究は、米国科学雑誌Emerging Infectious Diseases電子版(2018年3月20日)に発表されました。
英文タイトル: Artemisinin-Resistant Plasmodium falciparum with High Survival Rates, Uganda, 2014–2016
日本語訳: アルテミシニンに高い生存性を示す耐性熱帯熱マラリア原虫、ウガンダ2014~2016年
著者:池田美恵1), 金子恵1), 橘真一郎1), Betty Balikagala2), 櫻井-八代美樹3), 八代聖基4), 高橋延之3),山内祐人1), 関原誠1), 橋本宗明1), Osbert T. Katuro5), Alex Olia6), Paul S. Obwoya7),Mary A. Auma7), Denis A. Anywar6), Emmanuel I6). Odongo-Aginya6), Joseph Okello-Onen6),平井誠1), 大橋順8), Nirianne M.Q9). Palacpac9), 片岡正俊4), 坪井孝文2), 木村英作9), 堀井俊宏9),美田敏宏1)
著者所属:1)順天堂大学、2)愛媛大学、3)東京女子医科大学、4)産業技術総合研究所、5) Med Biotech Laboratories, Kampala, Uganda、6) Gulu University, Gulu, Uganda、7) St. Mary’s Hospital Lacor, Gulu, Uganda、8)東京大学、9)大阪大学
DOI: 10.3201/eid2404.170141

本研究は、Gulu大学(ウガンダ共和国)、大阪大学、愛媛大学、東京大学、産業技術総合研究所との共同研究として、また、科学研究費助成事業(基盤研究(B)海外学術調査JP26305015 )「マラリア原虫アルテミシニン耐性遺伝マーカーの開発:フィールドゲノミクスによる解析」(研究代表者 美田敏宏)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療機器開発推進研究事業「細胞チップを応用した超高感度マラリア診断装置の開発」(研究代表者 美田敏宏)、などの助成を受け実施されました。

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