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生活習慣病の発症機序に迫る新たな代謝制御メカニズムを解明

PR TIMES / 2018年5月17日 21時1分

~ 細胞外環境が制御する代謝臓器としての骨格筋 ~

 順天堂大学大学院医学研究科老化・疾患生体制御学の山下由莉特任助手、平澤恵理教授、神経学の服部信孝教授らの研究グループは、細胞外マトリックス(ECM)*1分子の一つであるパールカン(perlecan)*2が、生活習慣病の発症に関わることを明らかにしました。パールカンを欠損させたマウスの骨格筋では、有酸素運動に特徴的な赤筋*3化がみられました。さらに、同マウスでは全身の糖や脂質の代謝が活性化し、肥満や脂肪肝などの生活習慣病が発症しにくいことがわかりました。本成果は、エネルギー代謝という、複雑な要因が絡み合う生体反応が、細胞外環境を構築する一分子によって制御されていることを初めて示すものです。本研究によって骨格筋を基軸とする臓器間の制御機構や、生活習慣病の発症について新たな解釈が可能になるだけでなく、細胞外環境を調節することによって、生活習慣病の予防や治療につながる可能性を示しました。本研究成果はnature系列誌の「Scientific Reports」のオンライン版(日本時間:2018年5月17日)で公開されました。



本研究成果のポイント


本研究成果のポイントlパールカンを欠損させた骨格筋は、有酸素運動に特徴的な赤筋化がみられる
パールカンの欠損により、内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、脂質異常症が抑制される
パールカンは全身の糖・脂質代謝を制御する鍵となる分子であることから、生活習慣病の治療開発のターゲットになりうる

背景
 心疾患・脳血管疾患・糖尿病といった、生活習慣に起因する疾患は、「生活習慣病」あるいは「メタボリック・シンドローム」と呼ばれ、2008年の世界人口の死因の約60%を占めると報告されており、2030年にはこれによる死亡者数は約1.5倍増加すると予想されています。生活習慣病の発症および病態には脂肪組織と骨格筋が深く関与していることが知られています。しかしながら、食事や運動といった外的刺激に対する身体の応答は、多数の因子が複雑に絡み合って成立しており、個体全体を対象とした生活習慣病の病態解明や治療法の開発を目指す研究は困難でした。細胞外マトリックスは、さまざまな細胞の足場として組織の形態維持や機能調節に関わっており、その主要構成成分であるパールカンは、細胞内への脂質の取り込みに関与しています。私たちの研究グループは、これまでの研究でパールカンが成長因子や細胞表面の受容体と結合することで骨格筋の肥大に関与することを明らかにしてきました。すなわち、パールカンが代謝臓器の機能を制御することによって、生活習慣病の発症に深く関与している可能性が高いことが考えられます。そこで本研究では、生活習慣病の発症メカニズムを解明することを目的とし、パールカンを欠損させたマウスを用いて、脂肪組織や骨格筋の機能変化およびエネルギー代謝の変化について調べました。

内容
 パールカン完全欠損マウスは軟骨分化異常により周産期致死となることから、本研究では軟骨にパールカンを強制発現させ、致死性を回避したコンディショナルノックアウトマウス(以下 パールカン欠損マウスと表記)を用いました。このマウスの軟骨以外の組織ではパールカンは検出されません。
 最初に、パールカン欠損マウスと野生型マウスで、通常食または高脂肪食を与えた際の体重変化率と脂質蓄積量について比較しました。パールカン欠損マウスでは食事の種類に関わらず内臓脂肪組織の重量および脂肪細胞の大きさが低下し、肥満が抑制されることがわかりました。また、高脂肪食を与えた場合、パールカン欠損マウスでは高コレステロール血症や脂肪肝の形成が抑制され、インスリン抵抗性*4も改善されることがわかりました。両群間で摂食量や脂質合成量に違いは見られなかったことから、パールカン欠損マウスではエネルギー消費が亢進している可能性が考えられました。
 次に、両マウス間で全身の酸素消費を比較したところ、パールカン欠損マウスでは酸素消費量が著明に増加しており、脂肪酸の分解(β酸化)亢進によるエネルギー消費量の増大が示唆されました。そこで、β酸化を活発に行う骨格筋の代謝の変化に着目したところ、パールカン欠損マウスの骨格筋では、好気的代謝に優れる筋線維の割合とミトコンドリア量の増加を認め、骨格筋の赤筋化が全身の酸素消費量増加をもたらしていると考えました(図1)。加えて、同骨格筋では、運動時に発現が誘導され、エネルギー代謝や熱消費を促進するPGC1α*5の発現の上昇を認めました。つまり、パールカンは、運動効果を制御することで骨格筋の赤筋化を抑制し、全身の脂質代謝を負に制御していると考えられます。
 以上から、 ECMの成分であるパールカンが、運動および食事などの外的刺激に応じた脂肪組織と骨格筋の動的変化を制御し、個体の全身性代謝制御を調整していることを明らかにしました。

今後の展開
 生体の恒常性は一種類の機能性臓器に依存しているわけではなく、骨格筋、脂肪組織、肝臓などの代謝関連臓器の相互作用によって維持されています。肥満および生活習慣病といった代謝異常の発症および病態を解明する上では、個体レベルでの代謝調節機構の解明が重要な課題です。本研究により、細胞外マトリックスのパールカンが、骨格筋および脂肪組織の両方に働きかけることによって脂質代謝を全身的に制御していることが明らかになりました。パールカンは個体の発生および分化に必須の分子である一方、過剰な栄養によりもたらされる生活習慣病には負の効果をもたらすことから、その働きを調節することで生活習慣病の予防や治療が可能であると考えられます。今後は、臓器連関の詳細な分子メカニズムを明らかにすることで、ECMをハブとした各種臓器間の代謝ネットワークの全体像を明らかにするとともに、肥満および生活習慣病の病態解明や予防・治療法の開発に繋げていきたいと考えています。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/61/resize/d21495-61-956512-0.jpg ]
用語解説

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/61/resize/d21495-61-830385-1.jpg ]

*1 細胞外マトリックス(ECM): 細胞外の間質に存在する微小構造で、細胞の足場となるほか、細胞そのものの構造や機能を調節することが報告されています。パールカンを主要構成成分とするECMは、個々の脂肪細胞・骨格筋細胞を取り囲み、脂質取り込みや筋の発達および分化を制御しています(上図参照)。

*2 パールカン: ヘパラン硫酸鎖プロテオグリカンでECMの主要構成成分です。その他の細胞外マトリックスと結合して基底膜を構成する他、成長因子や細胞膜受容体とも結合して細胞内シグナルを修飾制御する多機能分子として知られています。中でもパールカンは、軟骨分化、神経筋接合部形成に必須であり、同遺伝子の異常は筋骨格系疾患の発症原因です(Arikawa-Hirasawa et al Nature Genetics 1999,&2000,Nature Neuroscience 2001) 。また、パールカンは脂質とも結合することから、近年動脈硬化の発症にも関与することが報告されています。

*3  赤筋: 筋肉は収縮速度と代謝的特徴により、赤筋(遅筋)・白筋(速筋)の大きく2つに分けられます。収縮速度が遅く、多くの酸素を消費(好気的代謝)して持久力に優れるものを赤筋、嫌気的代謝を行い瞬発的な運動に優れるものを白筋とよびます。赤筋はミトンドリアを多く含むことから、白筋に比べ脂質を燃料として消費することが可能です。

*4 インスリン抵抗性: インスリンは、細胞内にグルコースを取り込み、血糖値を下げるホルモンです。このホルモンが効きにくいことをインスリン抵抗性と呼びます。内臓脂肪の肥大化により出現し糖尿病の原因になることが知られています。

*5 PGC1α : Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alphaの略で、核内受容体のPPARγに結合する転写活性化因子です。運動時に発現上昇し、ミトコンドリアの生合成を促すことから、白色脂肪細胞の褐色化や骨格筋の赤筋化を誘導することが報告されています。

論文
本研究成果は英国科学雑誌nature系列誌の「Scientific Reports」(www.nature.com/articles/s41598-018-25635-x)で2018年5月17日に公開されました。
英文タイトル:
Perlecan, a heparan sulfate proteoglycan, regulates systemic metabolism with dynamic changes in adipose tissue and skeletal muscle
日本語訳: パールカンは脂肪組織と骨格筋の動的変化に関与し生体内の代謝を制御する
著者: Yuri Yamashita, Satoshi Nakada, Toshinori Yoshihara, Takeshi Nara, Norihiko Furuya, Takashi Miida, Nobutaka Hattori, and Eri Arikawa-Hirasawa
著者(日本語表記): 山下由莉, 中田智史, 吉原利典, 奈良武司, 古屋徳彦, 三井田孝, 服部信孝, 平澤恵理
所属(日本語表記): 順天堂大学
掲載誌: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-018-25635-x

本研究は、JSPS科学研究費JP15K09326 、国立医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業研究費17ek0109230s0101、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費29-4などの助成を受け実施されました。また、筆頭著者の山下由莉は、文部科学省「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成」事業(A)医学・医療の高度化の基礎を担う基礎研究医の養成」に選定された「基礎研究医養成のための順天堂型教育改革」基礎研究医養成プログラムの登録生として活動しました。

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