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血管のオートファジー機能低下が動脈硬化進展や大動脈瘤形成を促進する

PR TIMES / 2018年7月23日 15時1分

~ 血管障害のメカニズム解明による新規予防・治療薬開発の可能性 ~

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の遅野井 雄介助教、三田 智也准教授、綿田 裕孝教授らの研究グループは、血管障害にオートファジー(1)が重要な役割を果たしていることを発見しました。オートファジー不全モデルマウスの解析により、血管平滑筋細胞(2)のオートファジーの機能低下が細胞死や細胞老化を引き起こし、西洋食(3)の摂取による動脈硬化の進展と大動脈瘤の形成を促進することがわかりました。これらの結果は血管平滑筋細胞のオートファジー機能の亢進が血管障害の予防治療の新たな標的となる可能性を示唆します。本研究成果は、科学雑誌「Autophagy 」オンライン版(2018年7月19日付)で公開されました。



【本研究成果のポイント】

オートファジー不全モデルマウスでは西洋食の摂取により血管障害が生じた
血管平滑筋細胞のオートファジー機能低下が動脈硬化の進展と大動脈瘤形成を促進した
オートファジー機能亢進が血管障害予防・治療の新たな標的となる可能性


【背景】
動脈硬化による心筋梗塞・脳梗塞や血管壁の脆弱化によって形成される大動脈瘤といった血管障害は、ヒトの生命予後に関わる疾患です。従って、これらの疾患を予防・治療することは、喫緊の課題です。血管構成細胞の一つである血管平滑筋細胞は、プラーク(4)の安定化や血管壁の構造の安定化にも寄与しています。そのため、血管平滑筋細胞死および老化はプラークの不安定化や血管壁の脆弱化につながり、心筋梗塞・脳梗塞の発症、あるいは、大動脈瘤の形成や破裂を引き起こします。
一方、細胞内の老廃物や異常なタンパク質はオートファジー(細胞の自食作用)によって速やかに分解、再利用され生体の恒常性が維持されています。もしオートファジーが正常に働かなければ、細胞内に異常なタンパク質が蓄積し、細胞毒性により細胞死が増加します。このオートファジー機能の異常が、様々な疾患の発症に関与していることがこれまでわかっており、私たちの研究グループも2型糖尿病の発症に膵β細胞特異的オートファジーが重要な役割を担っていることを報告してきました。今回の研究では、今まで明らかにされてこなかった血管障害と血管平滑筋細胞のオートファジーとの関連性を解明するために、ヒトの動脈硬化巣の血管平滑筋細胞でオートファジーの機能不全が認められることを手掛かりに、その関連性を詳しく調べました。

【内容】
研究グループは、まず、オートファジーに必須な遺伝子の一つであるatg7 を平滑筋細胞で欠損させた平滑筋細胞特異的オートファジー不全マウス(Atg7 欠損マウス)を作製しました。次に、動脈硬化症のモデルマウスとして知られているApoE 欠損マウスを掛け合わせることで血管平滑筋細胞特異的オートファジー不全モデルマウス・ApoE 欠損マウス(KOマウス)を作製しました。
このマウスに西洋食(14週間、1.25%コレステロール)を摂取させると、KOマウスの死亡率が著明に増加しました。死亡例の中には、胸部大動脈瘤が破裂していたことが死因と考えられるマウスもいました。KOマウスの大動脈を観察すると、腹部大動脈周囲には慢性炎症が生じており、動脈硬化巣が増加していました。この動脈硬化巣では、壊死性コア(5)の拡大や薄い線維性被膜の形成など不安定プラークの特徴を示す所見が認められました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/68/resize/d21495-68-140235-0.jpg ]

興味深いことに、KOマウスの病理像はヒトの動脈硬化巣と極めて類似していました。また、動脈硬化巣では細胞死(アポトーシス)(6)が増加しており、動脈硬化巣の拡大やプラークの不安定化に関与していると考えられました。
一方で、血管壁では細胞死に伴う中膜平滑筋細胞数の減少、中膜弾性線維の破壊や動脈瘤様に拡張している部位など血管壁の脆弱性に関連する所見が確認されました。さらに詳細な検討から、血管平滑筋細胞のオートファジー機能が低下すると細胞死が増加することや、p53経路(細胞周期に関わる)が活性化され、細胞老化(7)が促進されることがわかりました。これに続いて、炎症性マクロファージが血管壁に集積し、血管壁構造の破壊を引き起こしていることが判明しました。
以上の結果から、血管平滑筋細胞におけるオートファジー機能不全は、細胞死や細胞老化を介して、血管障害である動脈硬化の進展や大動脈瘤の形成を促進することがわかりました。

【今後の展開】
今回、私たちの研究結果から、血管障害において血管平滑筋細胞のオートファジー機能低下が関与する新たなメカニズム(図2)が明らかになりました。動脈硬化や大動脈瘤など血管障害に対する予防や治療は、近年、格段に進歩していますが、それらを完全に抑制するには至っておりません。本研究の発見は、血管平滑筋細胞のオートファジーをターゲットとした血管障害の新規予防・治療薬の開発に繋がる可能性があります。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/68/resize/d21495-68-680959-1.jpg ]


【用語解説】
(1)オートファジー
酵母から哺乳類にかけ生体に広く保存されているタンパク分解機構の一つ。細胞内の不要な内容物をライソゾーム(タンパク分解酵素を多数有している)で分解し、再利用する。2016年に大隅良典先生がオートファジー研究によりノーベル賞を受賞したことでも有名。

(2)血管平滑筋細胞
一般的に血管は内膜、中膜、外膜の三層構造で構成されており、中膜に存在しているのが血管平滑筋細胞である。生理的には、血管壁構造の維持やその収縮によって血圧の上昇などに関与する。

(3)西洋食
動物性油脂を主体とした高脂肪、高カロリー、高コレステロール等の総称。動物実験において、肥満や動脈硬化モデル実験の際に、実験動物の餌として使用する。なお、実験用の餌であり、一般的な人の食する西洋料理を指すものではない。

(4)プラーク
生活習慣病などを基礎として血管内皮障害が生じ、脂質沈着と血液中から浸潤したマクロファージがそれらを貪食することで形成される粥状動脈硬化巣のこと。

(5)壊死性コア
粥状動脈硬化巣内にある、酸化脂質や細胞死(平滑筋細胞や炎症細胞等のアポトーシスによる)に至った細胞,などで形成されている。

(6)細胞死(アポトーシス)
2つある細胞死の1つで、プログラムされた細胞死として知られている。アポトーシスに至った細胞はマクロファージなどの貪食細胞に貪食されるが、過剰なアポトーシスは細胞の破壊や炎症を来す。

(7)細胞老化
細胞老化を規定する因子はテロメアが有名であるが、酸化ストレスやDNA損傷でもp53経路が活性化され細胞老化に至る。

【論文】
本研究成果は科学雑誌「Autophagy」オンライン版(2018年7月19日付)で公開されました。
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15548627.2018.1501132
論文タイトル:
Defective autophagy in vascular smooth muscle cells enhances cell death and atherosclerosis
日本語訳:
血管平滑筋細胞のオートファジー機能不全は細胞死や動脈硬化を促進する

筆者:
Yusuke Osonoi1,3, Tomoya Mita1,2,3, Kosuke Azuma1, Kenichi Nakajima1, Atsushi Masuyama1, Hiromasa Goto1, Yuya Nishida1, Takeshi Miyatsuka1,2, Yoshio Fujitani1,4, Masato Koike5, Masako Mitsumata6, and Hirotaka Watada 1,2,3
筆者(日本語表記):
遅野井 雄介1,3、三田 智也1,2,3、東 浩介1、中島 健一1、増山 敦1、後藤 広昌1、西田 友哉1、宮塚 健1,2,3 、藤谷 与士夫1,4、小池 正人5、三俣 昌子6、綿田 裕孝1,2,3
所属:
1)順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
2)順天堂大学院医学研究科寄付講座(先進糖尿病治療学講座)
3)順天堂大学大学院医学研究科寄付講座(糖尿病治療標的探索医学講座)
4)群馬大学生体調節研究所分子糖代謝制御分野
5)順天堂大学大学院医学研究科神経機能構造学
6)日本大学医学部内科学系循環器内科学

掲載誌: Autophagy
DOI: 10.1080/15548627.2018.1501132

なお本研究は、日本大学との共同研究として、文部科学省JSPS科研費課題番号JP16H01205、 JP 26293220、JP16K01833、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)『恒常性維持機構オートファジーに着目した栄養素過剰摂取に起因する疾患の原因解明と治療法確立』(JP18gm0610005)、アステラス製薬、アストロゼネカ株式会社、バイエル薬品株式会社、第一三共株式会社、大日本住友製薬、田辺三菱製薬株式会社、MSD株式会社、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社、武田薬品工業株式会社、順天堂大学プロジェクト研究費、MSD生命科学財団、鈴木謙三医科学応用財団、日本応用酵素協会、武田科学振興財団、財団法人三越厚生事業団からの研究助成を受けて行われました。

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