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早期乳児の腸管内ビフィズス菌定着に分娩直前の抗菌薬投与が影響を及ぼす

PR TIMES / 2018年8月21日 14時1分

~抗菌薬使用により乳児腸管内のビフィズス菌の割合が低下~

順天堂大学大学院医学研究科マイクロバイオーム研究講座の井本成昭助手、渡邉心准教授、救急災害医学研究室の橋口尚幸教授らの研究グループは、 アサヒグループホールディングス株式会社コアテクノロジー研究所、岩手県立磐井病院小児科・新生児科との共同研究により、日本人の早期乳児期(*1)における腸管内ビフィズス菌占有率が、分娩直前の母体への抗菌薬投与により低下することを明らかにしました。本結果は、小児のアレルギー疾患など様々な疾患の発症に関係しているとされる、乳児の腸管内へのビフィズス菌の定着が分娩直前の抗菌薬投与によって阻害されている可能性があることを初めて示したもので、その影響は従来から指摘されてきた帝王切開によるビフィズス菌の定着への影響よりも大きいことがわかりました。本成果は、今まで不明であった乳児の腸内細菌叢(腸内フローラ*2)へのビフィズス菌の定着過程の一端を明らかにしたもので、ヒトの腸管免疫の形成に強い示唆を与えます。本研究は、Nature系列の英科学雑誌「Journal of Perinatology」の電子版(2018年7月24日付)に公開されました。



【本研究成果のポイント】


分娩直前の母体への抗菌薬投与が早期乳児腸内細菌叢に及ぼす影響を示した初の研究である。
抗菌薬投与群で乳児の腸内細菌叢に占めるビフィズス菌の割合が低下していた。
乳児腸管内へのビフィズス菌の定着は分娩様式(帝王切開か自然分娩か)の違いよりも、分娩直前の抗菌薬投与により大きな影響を受けていた。


【背景】
ヒトの腸管内には100~1000兆個もの細菌が定着しており、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。近年の技術的な進歩によって、腸内細菌叢を網羅的に解析することが可能となり 、細菌叢とヒトの健康との密接な関わりについて様々なことがわかってきています。例えば、ヒトの腸内細菌叢の乱れが、アレルギー疾患、肥満、がん、うつ病などの精神疾患など、あらゆる種類の病気の発症と関連している可能性が国内外の多くの研究で明らかになってきています。
とりわけ乳児においては、生後6ヶ月間における腸内菌種の割合(占有率)の変化や腸管内への定着が、アレルギーなどの疾患発症に将来的に影響を及ぼす可能性が示唆されています。特に、早期乳児の腸管内で最も優勢とされているビフィズス菌の腸管への定着は、様々なアレルギー性疾患の発症に関与していることが報告されており、ビフィズス菌が少ない乳児では、その後の人生においてアレルギーの発症率が高くなる可能性が指摘されています。このビフィズス菌の占有率や腸管への定着には、分娩様式(自然分娩、帝王切開)、栄養(母乳、ミルク)などが影響すると考えられていますが、その要因はわかっていません。
一方、分娩時には母子両方の感染予防のため母体の血管中に、抗菌薬が投与されることがありますが、抗菌薬投与が乳児の腸内細菌叢に与える影響についての報告はほとんどありませんでした。
そこで今回の研究では、帝王切開時も含めた分娩直前の血中抗菌薬投与が、早期乳児の腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを検証しました。特に抗菌薬投与の有無と、分娩様式のどちらがより影響しているかに注目して調べました。

【内容】
2016年の1月から10月までの10ヶ月間、岩手県立磐井病院の1ヶ月時健診を受診した、健常な日本人乳児33名の糞便を集めました。33名のうち、19名(帝王切開9名、前期破水6名、B群溶連菌陽性母体4名)は分娩直前の母体に点滴による抗菌薬の投与が行われ、14名は抗菌薬の投与はありませんでした。各乳児における細菌叢を構成する菌の多様性(種類の違い、菌数の違い)や、各菌種の占有率について、次世代シーケンサー(*3)を用いて調べました。
その結果、ビフィズス菌の占有率は、母体血中への抗菌薬投与が行われた群において、有意に低下していました。一方、抗菌薬投与群内における帝王切開児と自然分娩児の比較では有意差がなく、分娩様式とビフィズス菌の占有率との間に関連はみられませんでした。さらに自然分娩の場合でも、抗菌薬投与群では有意にビフィズス菌が低下することが確認されました (図1) 。
[画像: https://prtimes.jp/i/21495/69/resize/d21495-69-275477-0.jpg ]

また、腸内細菌のβ多様性(*4)の比較において、抗菌薬投与の有無での比較では明らかな差を認めていましたが、分娩様式の違い(帝王切開か自然分娩か)の比較では限定的な差異にとどまっていました。
つまり、分娩様式の違い(帝王切開か自然分娩かどうか)よりも、分娩直前に抗菌薬を投与されたかどうかが、出生から早期の乳児腸管へのビフィズス菌の定着により大きな影響を及ぼしている結果が得られました。

【今後の展開】
本研究では、早期乳児期における腸内細菌叢への菌の定着、特に乳児で優位であるビフィズス菌の定着に、母体への分娩直前の抗菌薬投与が強く影響を及ぼしていることを明らかにしました。ビフィズス菌は乳児のその後の腸管免疫の発達との関連性が指摘されており、生後6か月間の腸内細菌叢の変化もまた、アレルギーなどの疾患の発症に関連している可能性が示唆されていることから、今後は本研究で明らかになったビフィズス菌の定着の違いや腸内細菌叢の多様性の違いにどれだけの臨床的な意義があるかどうかを明らかにしていくことが重要と考えます。
ただし、分娩直前の抗菌薬投与は、安全な分娩のためには必要不可欠のものであり、その有用性は明らかです。本研究の結果は、分娩直前に抗菌薬を投与された母親から産まれた乳児に対し、ビフィズス菌の定着を促すために何らかの介入(プロバイオティクスの使用など)を検討する必要性も示唆しています。
したがって、より多くの乳児を対象として、数年間の追跡調査を行うことで、本研究で明らかになったビフィズス菌の占有率の違いや、腸内細菌叢の多様性の違いが、アレルギー疾患などの発症にどれだけ影響を及ぼすかを調べ、その上で、将来的に乳児に対してプロバイオティクスなどの投与の介入試験を行う必要性を検討するべく、現在、本研究の結果に基づいた新たな研究を行っております。

【用語解説】
*1  早期乳児期:生後生まれて間もない時期の乳児を意味しています。一般的には生後3か月程度までを指します。本研究では1か月乳児健診を受診する月齢(生後1か月)を早期乳児と定義しています。
*2  腸内フローラ:ヒトの腸管には1000種類以上の細菌が密に生息しており、その数は100兆個とも1000兆個とも言われ、ヒトの体の全細胞数よりも多いことがわかっています。その様子を花畑(フローラ)に例え、「腸内フローラ」と呼ばれています。その無数の細菌群が宿主との共生の中で相互に影響を及ぼし合い、我々の体の健康維持に深く関係していると考えられており、近年、大きく注目されています。
*3 次世代シーケンサー:2000年代に開発された、遺伝子の配列を高速で読み取ることができる装置です。これによって、それまで培養で時間をかけて調べていた腸内細菌を、網羅的に、より短時間に解析することが可能になりました。この技術的な進歩によって、腸内フローラの研究がさらに盛んになりました。
*4 β多様性:異なる個体間の腸内細菌叢の類似の程度を表します。つまり、「β多様性に差が見られた」とは、「比較している腸内細菌叢は類似性が低い」ということを意味しています。

原著論文
本研究は、Nature Publishing Groupの電子版雑誌「Journal of Perinatology」(https://www.nature.com/jp/ )で2018年7月24日に公開されました。
論文タイトル:
Maternal antimicrobial use at delivery has a stronger impact than mode of delivery on bifidobacterial colonization in infants: a pilot study
日本語訳:母親への分娩時の抗菌薬投与は、乳児のビフィズス菌定着において分娩様式よりも強い影響を及ぼす
著者:Naruaki Imoto(1), Hiroto Morita(2), Fumitaka Amanuma(3), Hidekazu Maruyama(3),Shin Watanabe(1), Naoyuki Hashiguchi(1)
著者(日本語表記):井本成昭、森田寛人、天沼史孝、丸山秀和、渡邉心、橋口尚幸
所属:(1)順天堂大学、(2)アサヒグループホールディングス株式会社コアテクノロジー研究所、(3)岩手県立磐井病院
DOI:10.1038/s41372-018-0172-1

なお、本研究は順天堂大学とアサヒグループホールディングス株式会社コアテクノロジー研究所および岩手県立磐井病院小児科・新生児科との共同研究として実施されました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。

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