欧州がインドに調印迫る貿易協定――薬剤の普及流通を阻む恐れ
PR TIMES / 2013年3月14日 17時39分
インドに自由貿易協定の早期調印を迫る圧力が高まっている。しかし、同協定には、インドおよび開発途上各国で暮らす人びとの薬の入手を阻む規定が依然として含まれていると、インドのHIV陽性者団体「デリーHIV陽性ネットワーク(DNP+)」と国境なき医師団(MSF)は訴えている。両団体はインドが欧州連合(EU)の要請を退けるよう求めるとともに、2013年3月13日、デリーに置かれた欧州委員会インド本部前で抗議の声を上げ、当該規定の削除を求めた。
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<途上国の人びとの命綱守れ>
DNP+のルーン・ガンテ氏は次のように述べている。「 EUは薬の普及流通を推進し、途上国の患者の命に配慮しているなどと主張する資格はありません。一方で、インドに知的財産保護に関する厳格な規制を迫っているのですから。この貿易協定におけるEUの要望は、私自身も必要とするHIV治療薬などの比較的安価なジェネリック薬(後発医薬品)の普及拡大を著しく脅かすものです。私たちがここを訪れたのは、協定調印を迫れば抵抗は避けられないことをEUに示し、インドに欧州の圧力に屈しないよう求めるためです」
ここ何ヵ月かの間に進められた交渉で、薬の普及を阻む規定は一部が協定案から削除された。特許期間の延長を目的とした規定などはその一例だ。しかし、知的財産保護と投資に関する規定が大きな懸念事項として残っている。協定調印の期日が4月初旬に迫っている現状では、ことさら深刻だ。
知的財産保護に関する規定は、インドからのジェネリック薬輸出の障壁となる恐れがある。ジェネリック薬は、途上国で暮らす何百万人という人びとの命綱だ。薬の輸送差し止め、押収、破棄を認める保護規定は、多国籍企業による乱用の端緒となるだろう。また、ジェネリック薬製造に用いられる原薬(API)のサプライヤーやMSFのような治療提供者など、第三者をも巻き込みかねない。ジェネリック薬を購入したり、配布したりしただけで、提訴される恐れがあるためだ。
投資に関する規定案により、国内の法令・政策・判決その他の動向が多国籍企業の投資活動を阻害するものと見なされれば、インド政府は非公開の仲裁法廷で多額の賠償訴訟を起こされるかもしれない。具体的には、インド特許管轄局が、薬の普及を促すために特許付与を却下したり、無効化したりした場合などがこれに相当する。
<調印急がず、規程の拒絶を>
知的財産および投資に関する規定を憂慮したと見られる国会常任委員会は、自由貿易協定が薬の普及流通に及ぼす影響を検討することにした。懸念点は、インド側の交渉担当者が譲歩に踏み切り、結論を急ぐあまり、国会による審議と提案の取りまとめを待たず、早まった協定調印をすることだ。そうなれば、後続の貿易協定にとって、拘束力のある先例となるだろう。
「インドは、同協定への調印を急ぐべきではありません。MSFがインド政府に求めることは、協定書への調印ではなく、大勢の命を脅かすことになる規定の拒絶です」インドでのMSF必須医薬品キャンペーン責任者、リーナ・メンガニーはそう話す。
インドは既に国際貿易の法規に従い、HIV、がん、C型肝炎などの新薬の特許承認義務を負っているため、比較的安価な薬剤の製造と流通も困難が増している。
メンガニーは続ける。「ムンバイにおけるMSFの活動では、ラルテグラビルなどのHIV新薬による治療への移行を進める必要が生じていますが、重要なカクテル療法に用いる3種類の薬のうちの1種類だけで、患者1人あたりの費用が年間1775米ドル(約17万円)にもなるのです。インドは、比較的安価なジェネリック薬製造の場ができる限り損なわれないよう力を尽くすべきです。ですから、貿易協定の当該規定を認めるべきではないのです」
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