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海に漂うマイクロプラスチックの年齢を推定する手法を開発

PR TIMES / 2023年5月15日 12時45分

海洋中のマイクロプラスチックの行方を探る手がかりに

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「旭化成」)と九州大学は、マイクロプラスチックの年齢(屋外で紫外線を浴びた経過時間)を推定する手法を開発しました。



旭化成 基盤技術研究所と九州大学応用力学研究所 磯辺篤彦教授のグループは、海洋のマイクロプラスチックが生成されるメカニズムに関する共同研究を2019年から行っています。本手法に基づく調査により、海面近くのマイクロプラスチックが1~3年程度で海底に沈降していくことが示唆されました。なお、本研究成果はエルゼビア社発行の国際学術雑誌であるMarine Pollution Bulletin誌にて、先行発表されています。
https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2023.114951

海に流出したプラスチックごみは、紫外線照射などによって劣化し、次第にマイクロプラスチック※1と呼ばれる微細片に破砕されます。その結果、いま世界の海洋表層には、約24兆粒のマイクロプラスチックが浮遊していると言われています[1]。自然には分解しづらいプラスチックであれば、今後、分解するまで数百年以上の長期にわたって漂流を続けるとも予想されます。しかし、マイクロプラスチックが海を漂う本当の期間はこれまで不明でした。
 この研究は、マイクロプラスチックが屋外に出てのち、紫外線を浴びた経過時間(年齢)の推定手法を新たに開発したものです。その結果、北西太平洋や赤道といった外洋の海面近くで採取されたマイクロプラスチックは、年齢が1~3歳の範囲に集中していることが発見されました。一方で、陸近くの日本近海から採取されたものは、0~5歳と年齢にばらつきが見られました。
 旭化成 基盤技術研究所と九州大学 応用力学研究所 磯辺篤彦教授のグループは、プラスチックの特定波長帯での赤外線吸光強度比(カルボニル・インデックス※2)と置かれていた環境の温度、そしてプラスチックが照射された紫外線強度の時間積分値(累積量)の関係式を、現場実験と加速劣化試験を繰り返すことで見出しました。そして、実際の海洋で採取したマイクロプラスチックが受けた紫外線強度の累積量を求め、海域に平均的な紫外線強度から、紫外線を浴びた経過時間(年齢)を割り出しました。
 この研究によって、海には、浮遊するマイクロプラスチックを1~3年程度で海面近くから除去する働きがあることが示唆されます。



【研究の背景と経緯】
海に流出したプラスチックごみは、紫外線照射などによって劣化し、次第にマイクロプラスチック*1と呼ばれる微細片に破砕します。その結果、いま世界の海洋表層には、約24兆粒のマイクロプラスチックが浮遊すると言われています[1]。自然には分解しづらいプラスチックであれば、今後、分解するまで数百年以上の長期にわたって漂流を続けるとも予想されます。しかし、これまで、マイクロプラスチックが海を漂う本当の期間は不明でした。
プラスチックが長期にわたって浮遊を続けるとの予想がある一方で、これまでの多くの研究が、比重が海水よりも軽いポリエチレンやポリプロピレンといった素材のマイクロプラスチックが、海底から見つかったと報告しています[2,3]。この事実は、海には、浮遊するマイクロプラスチックを海底にまで沈降させる働きがあることを示唆します。実際のところ、これまで、浮遊を続けるマイクロプラスチックの表面には、次第に生物膜が付着して比重を増やし沈降する可能性や、あるいは生物の死骸や珪藻類の凝集体に取り込まれて、ともに沈降する可能性が指摘されてきました[4-9]。
浮遊するマイクロプラスチックの、海を漂う期間を知ることは、マイクロプラスチックの行方を知る重要な手がかりとなります。

【研究の内容と成果】
 このたび、旭化成/基盤技術研究所と九州大学/応用力学研究所/磯辺篤彦教授のグループは、プラスチック(ポリエチレン)の特定波長帯での赤外線吸光強度比(カルボニル・インデックス)*2と、置かれていた環境の温度、そしてプラスチックが照射された紫外線強度の時間積分値(累積量)の関係式を、屋外暴露試験*3と加速劣化試験*4を繰り返すことで見出しました。そして、実際の海洋で採取したマイクロプラスチック(ポリエチレン)が受けた紫外線強度の累積量を求め、宮古島で平均的な年間紫外線強度を基準として、紫外線を浴びた経過時間(年齢)を割り出しました。宮古島はマイクロプラスチックの採取位置の中間に位置することより選んだものです。
 その結果、北西太平洋や赤道といった外洋の海面近くで採取されたマイクロプラスチックは、年齢が1~3歳の範囲に集中していることが発見されました。一方で、陸近くの日本近海から採取されたものは、0~5歳と年齢にばらつきが見られました。

【参考図1】日本近海(上)と北西太平洋や赤道(下)の海洋表層から採取されたマイクロプラスチックの年齢分布
[画像1: https://prtimes.jp/i/79452/84/resize/d79452-84-26f4b60d50343a84b396-0.jpg ]

日本近海で採取したマイクロプラスチック片(n=32)と、北西太平洋や赤道で採取したもの (n=24)の年齢頻度分布を示す。日本近海の年齢は0~5歳と幅があるが、北西太平洋や赤道といった外洋に浮遊するマイクロプラスチックの年齢は、ほとんどが1~3歳の範囲に限られた。観測位置の詳細は次ページの参考図2を参照のこと。

【考察】
 1~3歳の若いマイクロプラスチックしか見つからなかった事実から、海には浮遊マイクロプラスチックを、3年以内に海の表層から取り除く働きがあることがうかがえます。また、海岸に漂着する機会の多い陸近くに海で年齢が延びる(0~5歳)事実は、この取り除く機能が海岸に漂着した時点で失われることを示唆します。これらは、先に述べたような、海の生物がマイクロプラスチックを沈降させる可能性と整合します。マイクロプラスチックの年齢推定は、上述の通り、海でのマイクロプラスチックの行方を知る上で重要な示唆を与えます。海でのマイクロプラスチックの浮遊濃度を予測するには、数年で海面近くから消えるという前提に立つことが必要でしょう。

【今後の展開】
旭化成と九州大学は、それぞれの知見を活かして今後も連携しながら、マイクロプラスチック生成メカニズムの解明により、海洋プラスチック問題の解決に寄与することを目指します。

【参考図2】マイクロプラスチックの採取位置
[画像2: https://prtimes.jp/i/79452/84/resize/d79452-84-d7a8a01a31997d546a20-1.png ]

図1の日本近海は図2の1~11に相当し、外洋(北西太平洋と赤道)は、12~17である。AとBは、屋外暴露試験を行った宮古島と富士市の位置を示している。

【用語解説】
※1マイクロプラスチック:劣化と破砕を繰り返してサイズが5mm以下となったプラスチックごみ。破砕と劣化で形成されたマイクロプラスチックを二次マイクロプラスチック、洗顔剤など製品に含有され環境にもれたマイクロプラスチックを一次マイクロプラスチックと呼ぶこともあるが、実環境で見つかる大半は二次マイクロプラスチックである。

※2カルボニル・インデックス:ポリエチレンの劣化に伴い生成する化合物(カルボニル)に特徴的な赤外線吸収の強度比。ポリエチレンの劣化が進行するにつれてカルボニル・インデックスは大きくなる。

※3屋外暴露試験:プラスチックを実環境中で劣化させるため、屋外試験場にプラスチックを長期間設置し、その変化を追跡する試験。

※4加速劣化試験:屋外暴露より過酷な条件(高温・強い紫外線強度)の装置内にプラスチックを設置し、より短期間で劣化させる試験。

【引用文献】
[1] Isobe, A. et al., 2021. A multilevel dataset of microplastic abundance in the world’s upper ocean and the Laurentian Great Lakes, Microplastics Nanoplastics, 1, 16.
[2] Brandon, J. et al., 2019. Multidecadal increase in plastic particles in coastal ocean sediments, Sci. Adv., 5, eaax0587.
[3] Hinata, H. et al., 2023. A 75-year history of microplastic fragment accumulation rates in a semi-enclosed hypoxic basin, Sci. Total Environ., 854, 158751.
[4] Long, M. et al., 2015. Interactions between microplastics and phytoplankton aggregates: Impact on their respective fates, Mar. Chem., 175, 39-46.
[5] Kaiser, D. et al., 2017. Effects of biofouling on the sinking behavior of microplastics, Environ. Res. Lett., 12, 124003.
[6] Kajita, K. et al., 2017. From the surface to the seafloor: How giant larvaceans transport microplastics into the deep sea, Sci. Adv., 3, e1700715.
[7] Michels, J. et al., 2018. Rapid aggregation of biofilm-covered microplastics with marine biogenic particles, Proc. R. Soc. B, 285, 20181203.
[8] Porter, A. et al., 2018. Role of Marine Snows in Microplastic Fate and Bioavailability, Environ. Sci. Technol., 52, 7111-7119.
[9] Zhao, S. et al., 2018. Field-Based Evidence for Microplastic in Marine Aggregates and Mussels: Implications for Trophic Transfer, Environ. Sci. Technol., 52, 11038-11048.

【論文情報】
掲載誌:Marine Pollution Bulletin
タイトル:Estimation of the age of polyethylene microplastics collected from oceans: Application to the western North Pacific Ocean
著者名:Rie Okubo, Aguru Yamamoto, Akihiro Kurima, Terumi Sakabe, Youichiroh Ide, Atsuhiko Isobe
DOI:10.1016/j.marpolbul.2023.114951

本研究はJSPS科研費 (JP21H05058)の一部助成を受けて行われたものです。

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