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キラリティスイッチングが可能な二重螺旋構造亜鉛錯体の合成に成功 ~アキラル配位子へのキラル伝達を介したキラル増幅も可能に~

PR TIMES / 2024年8月8日 11時45分



【研究の要旨とポイント】
二重螺旋構造を有する亜鉛(Zn)単核錯体を合成し、使用する溶媒の性質によって螺旋の左右の巻き方向の反転が起こることを明らかにしました。

キラル(※1)部位を有する配位子とキラル部位を持たない配位子からなるヘテロレプティック錯体(※2)が螺旋構造の反転スイッチング能を持つこと、それによりキラリティの伝達や増幅が起こることを見出しました。

本研究をさらに発展させることにより、キラルスイッチング材料や人工超分子システムへの応用につながることが期待されます。



【研究の概要】
東京理科大学大学院 理学研究科化学専攻の松村 虎太朗氏(2024年度 博士後期課程2年)、金城 圭吾氏(2017年度 修士課程修了)、総合化学研究科総合化学専攻の館野 航太郎博士(2017年度 博士後期課程修了)、東京理科大学 理学部第一部化学科の河合 英敏教授らの研究グループは、二重螺旋構造を持ち、使用する溶媒を変化させることにより、螺旋の左右の巻き方向を反転させることができる亜鉛単核錯体(二重螺旋型モノメタロフォルダマー(※3))の合成に成功しました。また、この反転スイッチングについての機構解明を行い、導入されたキラル部位の構造変化が大きく影響していることを突き止めました。さらに、キラル部位を有する配位子(キラルな配位子)とキラル部位を持たない配位子(アキラルな配位子)を混合することで形成されるヘテロレプティック錯体では、二重螺旋を介してアキラルな配位子にも螺旋の巻き方向および、螺旋反転スイッチング特性が伝達され、キラル情報が増幅されることを実証しました。


DNAのような二重螺旋構造では、2つの鎖によって、情報の保持、伝達、転写、増幅などが行われています。このような二重螺旋構造の制御は、生物の基本的な機能の維持や遺伝子情報の正確な伝達、細胞の機能調節につながると同時に、優れた人工分子システムを構築する上で非常に重要です。従来、さまざまな螺旋構造を有する分子が開発されてきましたが、二重螺旋構造、特に、螺旋の向きを反転制御できる二重螺旋分子や超分子の合成例は極めて少ないのが現状です。今回、本研究グループは、使用する溶媒により二重螺旋構造の左右の巻き方向が反転スイッチングする新たな亜鉛単核錯体(二重螺旋型モノメタロフォルダマー)を合成し、その構造と性質について詳しく評価しました。


本研究では、2つの「L」字形構造を持つジベンゾピロロ[1,2-a][1,8]ナフチリジンユニット(以下L字形ユニット)を2,2’-ビピリジンで連結した配位子1a-c(ビピリジン部位の4,4’位の置換基が異なる3種類の配位子、1a; 置換基なし、1b; オクチルオキシ基、1c; (R)-2-メトキシ-2-フェニルエトキシ基)とZn(II)カチオンにより、新たなZn単核錯体(二重螺旋型モノメタロフォルダマー)を合成しました。

[(1a)2Zn][OTf]2の単結晶X線構造解析により、結晶中ではL字形ユニットとビピリジン部分のπ-π相互作用(3.2-3.4A)によって二重螺旋構造を形成していることが判明しました。また、[(1b)2Zn][OTf]2錯体に関して、溶液中での構造を調べたところ、低温では二重螺旋構造、高温では配位子が外側に配向したオープン型を優先して形成していることがわかりました。さらに、キラル部位を持つ[(1c)2Zn][OTf]2の螺旋の巻き方向は、溶媒のルイス塩基性によって制御することができることが明らかにされました。キラル部位のない1bとキラル部位を持つ1cを配位子とするヘテロレプティック二重螺旋錯体[(1b)(1c)Zn][OTf]2では、螺旋の巻き方向が二重螺旋を介してキラル部位のない鎖にも伝わり、キラリティの増幅が起こることもわかりました。

本研究成果は、キラル特性の切り替えと高次のキラル構造制御のための設計指針を提供し、新たなキラルスイッチング材料の開発を促進すると期待されます。

本研究成果は、2024年7月19日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240808_8023.html)をご参照ください。

[画像1: https://prtimes.jp/i/102047/95/resize/d102047-95-9f4811681e576309eb13-0.jpg ]

図左上 二重螺旋型モノメタロフォルダマーの左巻き(M)と右巻き(P)の反転スイッチング
図左下(a) 二重螺旋型モノメタロフォルダマーのX線構造 (ORTEP図)
図左下(b) 横から見たX線構造 (配位子間のπ-π相互作用)
図右 二重螺旋型モノメタロフォルダマーの左巻き(青)と右巻き(赤)のイメージ図

【研究の背景】
螺旋構造に折りたたまれた構造をもつフォルダマーは、そのキラル特性や立体構造のスイッチング特性により、刺激応答性のスイッチング分子やキラル材料として注目されています。特に、二重螺旋型のフォルダマーは、一重螺旋よりも安定で強いキラル特性を示し、さらには、キラル情報の伝達や転写など、高次の構造制御を利用した応用も期待されています。キラル情報の制御という観点では、キラル反転システムの開発や低分子を対象としたキラリティ制御のための設計指針の確立が重要です。特に、キラル部位を交換することなく、アキラルな刺激によってキラリティを反転させることは魅力的といえます。一方で、低分子や二重螺旋型のフォルダマーにおいて、螺旋の巻き方向を転換することは非常に困難で、二重螺旋における螺旋の反転スイッチングとキラリティの増幅の両立は達成されていません。

本研究グループは、過去にアルファベットの「L」の形状を有するジベンゾピロロ[1,2-a][1,8]ナフチリジン(L字形ユニット)を含む螺旋フォルダマーが重水素化クロロホルム(CDCl3)中で螺旋状に折り畳まれた構造を形成することを見出しました。これらの成果に基づいて、今回は2,2’-ビピリジンにより2つのL字形ユニットを連結することで、ビピリジン部位の4,4’位の置換基が異なる3種類の配位子1a-1c(1a; 置換基なし、1b; オクチルオキシ基、1c; (R)-2-メトキシ-2-フェニルエトキシ基)を合成しました。そして、それぞれの配位子にトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛[Zn(OTf)2]を添加することで、目的とするZn単核錯体([(1a)2Zn][OTf]2, [(1b)2Zn][OTf]2, [(1c)2Zn][OTf]2, [(1b)(1c)Zn][OTf]2)を合成し、その構造と特性の評価を行いました。

[画像2: https://prtimes.jp/i/102047/95/resize/d102047-95-761321fda44fcc9cd599-1.jpg ]

図 Zn単核錯体(二重螺旋型モノメタロフォルダマー)の合成

【研究結果の詳細】
1. Zn単核錯体(二重螺旋型モノメタロフォルダマー)の構造
はじめに、単結晶X線構造解析により[(1a)2Zn][OTf]2の結晶構造を明らかにしました。その結果、1つのZn(II)カチオンに2つのビピリジンが配位し、錯体全体が二重螺旋構造を形成していることがわかりました。ビピリジン部位は2つのL字形ユニットの間に挟まれており、π-π相互作用によって二重螺旋構造が安定化されていました。また、結晶中では、左巻きの二重螺旋(以下M型)と右巻きの二重螺旋(以下P型)があり、これらが交互に積み重なっていることが判明しました。

次に、1H NMRスペクトルにより、CDCl3中の [(1b)2Zn][OTf]2錯体の構造を調査しました。その結果、溶液中では[(1a)2Zn][OTf]2と同様の二重螺旋配座に加え、オープン型配座(少なくとも1つのL字形ユニットが外向きに配向した状態)の存在が示唆されました。温度可変1H NMRスペクトルにより、これらの2つの配座が平衡状態にあり、低温では、密なπ-π相互作用を形成する二重螺旋構造がエンタルピー的に有利である一方、高温ではL字形ユニットが高い自由度を持つオープン型がエントロピー的に有利であり、温度による構造制御が可能なことがわかりました。


2. 二重螺旋構造における右巻きと左巻きのスイッチング
キラル部位をもつ1cからなる二重螺旋型モノメタロフォルダマー[(1c)2Zn][OTf]2の螺旋の巻き方向を1H NMRスペクトルやCDスペクトル(※4)を用いて詳しく調査しました。

その結果、溶媒に依存して螺旋の巻き方向が変化していることがわかりました。具体的には、CDCl3ではM型 : P型 = 39 : 21(オープン型40%)で差は小さいものの、アセトン-d6ではM型 : P型 = 15 : 61(オープン型24%)でP型が優勢であり、トルエン-d8ではM型 : P型 = ~ 71 : 0(オープン型29%)でM型が優勢となることがわかりました。さらに検討を進めたところ、M型は非極性溶媒(ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテルなど)で、P型はルイス塩基溶媒(アセトン、ジメチルスルホキシドなど)で優先的に形成されることが明らかとなりました。


3.キラル増幅に関する検討
二重螺旋型モノメタロフォルダマーにおけるキラル伝達と増幅特性を評価するため、キラル部位のない1bとキラル部位を有する1cからなるヘテロレプティック錯体[(1b)(1c)Zn][OTf]2における螺旋の巻き方向を調査しました。その結果、[(1b)2Zn][OTf]2のみではコットン効果(※5)は観察されませんでしたが、配位子1cの添加によりヘテロレプティック錯体[(1b)(1c)Zn][OTf]2が形成され、アセトンではP型が優勢、トルエンではM型が優勢となることがわかりました。これらの結果は、二重螺旋を介することでキラル部位による螺旋反転特性がキラル部位のない鎖にも伝達されるとともに、キラリティが増幅されていることを意味しています。

実際に本研究グループは、1当量の1cに過剰量の1bを加えて、Zn(II)と錯形成することで、1cのみで錯形成したときと比較して、キラリティが増幅されることを実証しています。

[画像3: https://prtimes.jp/i/102047/95/resize/d102047-95-51d587d025125a0aa1ea-2.jpg ]

図 ヘテロレプティック錯体[(1b)(1c)Zn][OTf]2

本研究を実施した松村氏は、「動的特性・キラリティ・協同性といった螺旋構造が持つ特異な性質を利用した高度なキラル情報の制御・伝達システムの開発を行いたいと考え、本研究に取り組みました。本研究成果は、小さな刺激を多様なキラル物性として出力する新しいキラルスイッチング材料への応用の可能性があります。また、優れたキラル物性を伝達・増幅することで、自然界に見られるような脱ラセミ化、情報伝達や複製・増幅につながる人工超分子システムの開発につながることが期待されます」と、コメントしています。


※ 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP20K05478, JP24K08385, JP16J08668)、科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING, JPMJSP2151)の助成を受けて実施したものです。


【用語】
※1 キラル: 対象物がその鏡像と異なる立体構造を持ち、ピッタリと重ね合わせることができない性質をキラリティという。このような性質を示す化合物をキラルという。逆に対象物がその鏡像とピッタリ重ね合わせることができる化合物はアキラルという。


※2 ヘテロレプティック錯体: 複数の異なる配位子によって形成された錯体。単一の配位子から形成された錯体をホモレプティック錯体という。


※3 二重螺旋型モノメタロフォルダマー: 二重螺旋構造を有する単核の金属錯体型のフォルダマー。フォルダマーとは、特定の条件下でシート構造や螺旋構造などへ立体的に折りたたまれる人工分子のことを指す。


※4 CDスペクトル(円二色性スペクトル): 試料に右円偏光と左円偏光を照射したときの吸収差を測定することで立体構造に関する情報を得る方法。旋光性を有するキラル物質の評価に度々使用される。


※5 コットン効果: 特定の物質が左旋光と右旋光を異なる波長で異なる程度で吸収する性質を指す。


【論文情報】
雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:M/P Helicity Switching and Chiral Amplification in Double-Helical Monometallofoldamers
著者:Kotaro Matsumura, Keigo Kinjo, Kotaro Tateno, Kosuke Ono, Yoshitaka Tsuchido, and Hidetoshi Kawai
DOI:10.1021/jacs.4c06560
URL:https://doi.org/10.1021/jacs.4c06560


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