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機械学習でナトリウムイオン電池材料の性能予測から実証まで ~次世代電池開発の高速化、低コスト化の実現に大きく貢献~

PR TIMES / 2024年11月6日 10時0分




【研究の要旨とポイント】

これまでの実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、ナトリウムイオン電池(SIB)用正極材料の組成と電気化学特性を予測しました。

MLの結果に基づき、Na[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2 (MNTF)を合成し、549 Wh/kgという高いエネルギー密度を示すことを実証しました。

本研究で確立した手法により、SIBの材料開発が効率化され、コスト削減につながるとともに、今後の電池開発の進展に寄与することが期待されます。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/121/102047-121-ee4de509c90d5330a2ddf3b2d010dc6d-1921x1080.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究の概要】
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科の駒場 慎一教授、東京理科大学大学院 理学研究科 化学専攻の関根 紗綾氏(2024年度 修士課程2年)、東京理科大学 研究推進機構 総合研究院の保坂 知宙助教(現 チャルマース工科大学 日本学術振興会 海外特別研究員)、名古屋工業大学 工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野の中山 将伸教授らの研究グループは、これまでに蓄積した実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、高エネルギー密度を有するナトリウムイオン電池(SIB)用の遷移金属層状酸化物の材料探索と電気化学特性の予測を行いました。また、MLで得られた結果に基づき、有望な組成であるNa[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2 (MNTF)を合成し、実際の初期放電容量が169 mAh/g、平均放電電圧が3.22 V、エネルギー密度が549 Wh/kgという優れた性能を示すことを実証しました。これらの値がMLによる予測値とほぼ一致していることも確認され、MLモデルの精度が裏付けられました。

再生可能エネルギーの普及に伴い、リチウムイオン電池(LIB)に代わる次世代の蓄電技術として、豊富な資源を活用できるSIBが注目されています。SIBの正極材料であるナトリウム含有遷移金属層状酸化物は、結晶構造や組成によって性能が大きく変わり、特にO3型と呼ばれる構造が優れた性能を示すことが知られています。現在、SIBの性能向上に向けた組成最適化や特性評価に関する研究が広く進められています。本研究グループは、長年にわたり蓄積されてきたSIB用層状酸化物100サンプルのデータベースを構築し、これを基にSIB用正極材料の組成、初期放電容量、平均放電電圧、容量維持率を予測するMLモデルを開発しました。

本研究では、材料中の遷移金属が電気化学特性に与える影響を解明し、MLによって提案された有望な組成であるNa[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2(MNTF)を実際に合成しました。MNTF電極の定電流充放電試験(2.0 ~ 4.2V)により、初期放電容量169 mAh/g、平均放電電圧3.22 V、エネルギー密度549 Wh/kgという結果が得られ、MLの予測値とほぼ一致することが実証されました。一方で、20サイクル後の容量維持率は83.0%と、予測値の92.3%と比較して低い結果が得られました。この容量維持率の低下は、充放電反応中に生じるMNTFの結晶構造の変化や粒子の亀裂が原因であると考えられました。そこで、測定の電圧範囲を調整すると、これらの問題を改善できることがわかりました。今後は、これらの現象を考慮したMLモデルを確立することで、容量維持率の予測精度のさらなる向上が期待されます。本研究で確立した手法は、幅広い候補材料から有望な組成を効率的に特定できるため、SIB電池開発の迅速化と低コスト化に大きく貢献する成果といえます。

本研究成果は、国際学術誌「Journal of Materials Chemistry A」にオープンアクセスで掲載されました(オンライン版:9月5日、Advance Article:11月6日、冊子版:印刷中)
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/121/102047-121-095445cab0cf72165fa39ec926909236-1821x1205.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究の背景】
再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、大型の据置型蓄電池を用いたエネルギー貯蔵の需要が高まっています。リチウムイオン電池(LIB)はエネルギー密度が高いことから、エネルギー貯蔵システムの主流となっています。しかし、原料となるリチウムは地殻中にわずか24 ppmしか存在せず、不均一に分布しているため、資源価格の高騰や供給の安定性の面で課題が残っています。このような背景から、元素の周期表でリチウムの隣にあり,資源が豊富で入手しやすいナトリウムでリチウムを置き換えたナトリウムイオン電池(SIB)がLIBを代替する次世代の電池として注目されています。当研究グループは,2005年よりSIBの研究開発に取り組んでおり、当該研究分野を牽引してきました。

SIBの正極材料として使用されるナトリウム含有遷移金属層状酸化物は、合成条件やナトリウム含有量に応じてO3型やP2型などのさまざまな結晶構造を形成することが知られています。特に、O3型構造はナトリウム含有量が高く、SIBのフルセルにおいて高容量を実現する上で重要です。また、材料組成も電気化学的性能に大きな影響を与えます。遷移金属の種類やその含有比率は容量、サイクル性能、レート能力に関わるため、組成の最適化が重要な研究課題となっています。

本研究グループは、これまでに数多くのO3型構造を有するナトリウム層状酸化物を合成してきました。また、Na5/6[Mn1/6Ni1/3Ti1/3Fe1/6]O2が正極においてエネルギー密度と容量維持率のバランスに優れた性能を示すことを見出しました。これらの知見を踏まえて、本研究では過去に蓄積された実験データでトレーニングした機械学習(ML)モデルを用いた手法を開発し、より優れた電池性能を示す材料組成の探索と特性評価を行いました。

【研究結果の詳細】
1. 機械学習による有望組成の探索
過去11年間に駒場研究室で評価された68種類(100サンプル)のO3型NaMeO2組成のNa半電池の実験結果のデータベースを使用しました。多目的最適化により、正極のエネルギー密度が535 ~ 563 Wh/kg、容量維持率が92.3 ~ 93.7 %の範囲に分布する205の有望な組成が提案されました。エネルギー密度が高い組成は主にNiの含有率が高く、容量維持率が高い組成は主にMnの含有率が高い傾向にあることがわかりました。次に、正極のエネルギー密度が最も高いと予測されたNa[Mn0.3413Ni0.4488Ti0.1648Fe0.04512]O2 (MNTF)を実験対象とし、提案された組成に従って材料を合成し、その電気化学的特性を評価しました。

2. 有望組成材料の合成と性能評価
シンクロトロンXRD(SXRD, *1)、ICP-AES(*2)、SEM(*3)を用いて、合成したMNTFの組成や構造の評価を行いました。SXRDパターン解析により、合成したMNTFがO3型構造であることが確認され、ICP-AESにより、実際の組成がNa[Mn0.355Ni0.442Ti0.148Fe0.046]O2であることが明らかになりました。さらに、SEM画像からMNTFの粒子サイズが直径0.3 ~ 1µmの範囲であることが確認されました。

合成したMNTF電極に対して、2.0 ~ 4.2Vの範囲で定電流充放電試験を実施しました。MNTFの初期放電容量は169 mAh/g、平均放電電圧は3.22 Vで、予測値の172 mAh/g、3.28 Vとほぼ一致することがわかりました。また、正極のエネルギー密度は549 Wh/kgと非常に高い値を示しました。一方で、20サイクル後の容量維持率は83.0%であり、予測値の92.3%と比べて低い結果が得られました。この容量維持率の低下は、充放電反応中のMNTFの結晶構造変化や粒子の亀裂に起因すると考えられます。そのため、構造変化が起こらない2.0 ~ 4.1Vの範囲で追加の充放電試験を行った結果、初期放電容量は146 mAh/g、正極のエネルギー密度は449 Wh/kg、20サイクル後の容量維持率は89.1%となり、相変化を伴う場合と比較して6%以上の容量維持率の向上が見られました。

本研究を主導した保坂助教は、「研究室に蓄積されている過去の実験データと情報科学を組み合わせることで、従来とは異なる新たな知見が得られることを期待して研究を進めてきました。そして今回、実験データベースの機械学習が電池材料の特性予測に有効であることが実証できました。これらの手法を応用することで、実験数の抑制、材料開発の高速化、低コスト化にまた一歩近づくことができます。将来的には、SIBの電極材料の高性能化により、高容量かつ長寿命な電池が安価に入手できるようになることが期待されます。今後、他の材料系への応用も視野に入れて、さらなる研究を推進していきたいと考えております」と、コメントしています。

※本研究は、文部科学省におけるデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(DxMT)の再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM, JPMXP1122712807)、科学技術振興機構(JST)における戦略的創造研究推進事業(CREST, JPMJCR21O6)、先端国際共同研究推進事業(ASPIRE, JPMJAP2313)、革新的GX技術創出事業(GteX, JPMJGX23S4)の助成を受けて実施したものです。また、本研究におけるシンクロトロン光によるX線回折実験は大型放射光施設(SPring-8)の放射光利用研究基盤センター(JASRI)の承認の下、BL02B2で行われました。

【用語】
*1 シンクロトロンXRD(SXRD): シンクロトロン光を用いた粉末X線回折法。高輝度かつ高エネルギーのX線を用いることで、通常のX線回折では難しい詳細な結晶構造の解析や微小なサンプルの高精度な構造解析が可能。

*2 ICP-AES: 誘導結合プラズマ発光分光分析法。試料をプラズマに導入したときに得られる各元素固有の発光を検出し、定性分析や定量分析を行う方法。

*3 SEM: 走査電子顕微鏡。真空中で電子線を試料表面に当てることで、試料表面を高倍率で観察する方法。

【論文情報】
雑誌名:Journal of Materials Chemistry A
論文タイトル:Na[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2 predicted via machine learning for high energy Na-ion batteries
著者:Saaya Sekine, Tomooki Hosaka, Hayato Maejima, Ryoichi Tatara, Masanobu Nakayama and Shinichi Komaba
DOI:10.1039/D4TA04809A

※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20241106_7384.html)をご参照ください。

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