新たな口腔粘膜炎治療薬として有望な茶カテキン含有ゲル剤を開発 ~使い勝手の良い口腔粘膜炎治療薬の開発に向けて~
PR TIMES / 2025年1月22日 11時15分
【研究の要旨とポイント】
口腔粘膜炎(口内炎)は患者のQOLに深く関わる症状であるにも関わらず、既存の治療薬には使い勝手の面で様々な課題があり、簡便かつ快適に使用できる製剤の開発が待たれています。
茶カテキンとキシログルカンからなる粘接付着性フィルムを開発し、その物理化学特性を評価した結果、口腔粘膜炎治療用製剤として求められる特性を有していることを確認しました。
使い勝手の良さと効果を両立した口腔粘膜炎治療薬の開発につながる重要な成果です。
【研究の概要】
東京理科大学 薬学部 薬学科の花輪 剛久教授、廣瀬香織助教、日塔理恵子氏(2022年度 薬学科卒業)、横田渉太朗氏(薬学科6年生)、河野弥生講師(研究当時、現名古屋市立大学 大学院薬学研究科教授)、MP五協フード&ケミカル株式会社の鈴木夢生氏、田渕彰博士、大和谷和彦博士の研究チームは、口腔粘膜炎を不快感なく治療できる製剤への応用を見据えた、茶カテキンを含有するゲル剤の開発に成功しました。
口腔粘膜炎は、化学療法や放射線療法の副作用によって引き起こされる口腔粘膜の炎症性病変です。なかでも、アフタ性口腔粘膜炎は再発を繰り返すことが多く、強い痛みを伴います。そのため、摂食障害や睡眠障害の原因となるなど患者のQOLに直結することから、がん治療を滞りなく進める上で口腔粘膜炎の管理は大きな課題の一つです。
口腔粘膜炎の治療には、軟膏、フィルム、洗口液、貼付剤などの外用薬が主に使用されています。しかし、使い勝手の良さと効果の両立は難しいのが現状です。
そこで本研究チームは簡便かつ快適に使用できる口腔粘膜炎用製剤の開発を目指し、茶カテキンとキシログルカンからなる粘接着性フィルムを開発し、そのゲル化挙動およびゲルとフィルムの物理化学的性質を調べました。さまざまな物性試験の結果から、本研究で開発したキシロゲルは口腔粘膜付着性フィルム製剤として応用可能であることが示唆されました。
本研究成果は、2024年12月20日に国際学術誌「ACS Omega」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
口腔粘膜炎の治療には、軟膏、フィルム、洗口液、貼付剤などの外用薬が主に使用されていますが、製剤を一旦口に含み、含嗽後に吐出する、製剤を適用するために口腔内に指を挿入しなければならないなど、使い勝手の面で課題があり、患者が簡便かつ快適に使用できる製剤の開発が待たれています。
キシログルカンはタマリンドの種子由来の水溶性ポリマーで、日本、台湾、韓国、中国、米国などにおいて、厳しい安全性審査を通過し、食品の増粘剤、安定剤、ゲル化剤として広く使用されています。
一方、緑茶から抽出されるカテキンの誘導体であるエピガロカテキンガレート(EGCG)は、抗酸化作用、抗腫瘍作用、抗菌作用、バイオフィルム抑制作用が報告されており、現在、口腔粘膜炎治療への応用が検討されています。そのため、EGCGのこうした効用とキシログルカンのゲル化特性を組み合わせることで、口腔粘膜炎の新たな治療薬として応用できる可能性があります。しかし、EGCGとキシログルカンからなるゲルは食品添加物としての使用例はありますが、製剤に応用された例はまだありません。
本研究では、口腔粘膜炎の予防と治癒に有用な製剤の開発を目的として、EGCG75%および>40%からなる粘接着性フィルムを調製しました。さらに、EGCGだけでなく、日本ではさまざまなカテキンを含む茶葉抽出物が安価に入手可能あることを踏まえ、こうした茶葉抽出物をキシログルカンからなるゲル製剤(キシロ/TEゲルフィルム)を開発し、臨床応用を見据え、ゲル化挙動および物理化学的性質を調べました。
【研究結果の詳細】
キシロ/TEゲルフィルムの外観はわずかに褐色で、茶葉抽出物の含量が高くなるにつれて透明度が低下し、平面構造を維持したまま、透明度の高い褐色のフィルム状物質になることが確認されました(図)。
これらのキシロ/TEゲルフィルムについて、アフタ性口内炎への応用を視野に、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier transform infrared spectrometer, FTIR)解析、ゾル-ゲル転移温度、水分の脱離挙動、破断強度試験、吸水挙動、接着性、そしてゲルフィルムからのEGCGの溶解速度について解析を行いました。その結果、キシログルカンとカテキンの量を変えることで、EGCGのゲル強度、接着性、吸水性、溶解速度を調節できることが示唆されました。すなわち、キシロ/TEゲルフィルムは高い強度を示し、吸水性も高いことからハイドロゲルフィルムと同様の特性を得ることができ、さらに、接着試験では、キシロ/TEゲルフィルムは市販フィルムと同等の接着力をもつことが示されました。これらの結果は、キシロ/TEゲルフィルムがアフタ性口内炎を不快感なく治療できる製剤として求められる物理化学的特性を有していることを示唆しています。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/140/102047-140-9dde0c1a0e8079055fa701d1b304bf99-1385x780.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図. キシロ/TEゲルフィルムの外観(上)。わずかに褐色で、TE含量が高くなるにつれて透明度が低下した。EGCGがキシログルカンの直鎖間に挿入されたため、EGCGのベンゼン環がキシロ/TEゲルフィルムで観察されなかった(下)。また、キシロ/TEゲルフィルムのハイドロゲル膜は、水分の脱離後もキセロゲル膜と同じ構造を保持していることが示唆された。
本研究を主導した花輪教授は「茶葉の成分である茶カテキンを口腔粘膜炎の予防‧治療薬に応用しようという発想は、これまでになかったものです。さらに、食品添加物として安全性が確立しているキシログルカンを用いて、茶カテキンをゲル化して服用性・使用性の向上を図っていることから、製剤としての実現性が高いと期待されます。がん化学療法や放射線療法により生じる口腔粘膜炎を植物由来成分であるカテキンで予防・治癒できれば、がん治療の効率化、ひいては患者のQOL向上につながるでしょう。口腔内の清潔を維持するためのサプリメン トへの応用も期待できます」と、本研究の意義を語っています。研究チームは今後、キシロ/TEゲルフィルムをさらに改良して製剤の物性を改良するとともに、細胞実験などを通じて口内炎治療薬としての安全性と有効性を評価する予定です。
本研究は、公益財団法人 一般用医薬品セルフメディケーション振興財団の助成を受けて実施したものです。
【論文情報】
雑誌名:ACS Omega
論文タイトル:Preparing and Characterizing of Xyloglucan Films Containing Tea Extract for Oral Mucositis
著者:Kaoru Hirose, Rieko Nitto, Shohtaro Yokota, Yayoi Kawano, Kazuhiko Yamatoya, Akira Tabuchi, Yumeo Suzuki, and Takehisa Hanawa
DOI:10.1021/acsomega.4c06410
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