エボラなどへの緊急体制と、新薬の研究開発に向けた強い指導力を――G7サミット
PR TIMES / 2015年6月5日 9時32分
エボラ出血熱によって国際社会の対応の不備が明らかになったが、国際的な保健医療体制はいまだに疾病の大流行に対する備えがない――ドイツ・エルマウで6月7日~8日に開かれるG7サミットで国境なき医師団(MSF)は、流行性疾患と国際的な公衆衛生の危機への緊急対応体制を整備すべきであると強く呼びかける。さらに、エボラ流行で示された顧みられない病気の新薬開発に向けた資金援助や、既存の高価な医薬品を途上国の患者が入手できるようにする必要性といった課題を解決するためにも、G7首脳の強い指導力を求めていく。
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世界的な緊急事態に対応できない医療体制
今回のエボラ対策で世界が直面したのは、早期に警報を出さなかったこと、監視体制の不備、国際対応の遅れ、リーダーシップの不在、治療薬とワクチンの欠如という失策だった。しかしこれらはエボラに限って起きたことではなく、MSFはほかの多くの緊急事態で今も直面している。
MSFインターナショナル会長、ジョアンヌ・リュー医師は「世界的な病気の流行が明日起きたとしても、充分な財源をもって、うまく調整がなされた国際的対応はできないということになります。現行の国際保健医療体制が持つ巨大な空白に目を向け、具体的な対策に乗り出すことがG7首脳には求められています。さもなければ今後も数千人の命が次の大流行で失われかねません」と指摘する。
現在の国際的な保健医療・援助体制は開発途上国に対して、長期開発目標を達成することに関しては手厚い報酬を与えるが、疾患の流行宣言を出すことに対するインセンティブは用意していない。そのことで、通商・観光への打撃を恐れる国が流行性疾患の認知を素早く行うことを遅らせている。状況を前進させるには、公式に流行を認知する国に対してインセンティブを与え、単独では対処できない国の保健省に、富裕国が人員と資源を投入することが必要だ。
MSFドイツの事務局長フロリアン・ヴェストファルは「国際保健医療体制にリーダーシップの空白が生じているのは明らかです。スイス・ジュネーブで先週開かれた世界保健機関(WHO)年次総会では、国連加盟国が中核的な資金確保を表明できず、迅速で効果的な対応をどう実現していくかについて明確な合意に至らない中で、WHOの改革を求める声は消えました。G7首脳がより強い指導力を発揮して公衆衛生上の危機を優先し、将来起こり得る病気の流行が手に負えなくなる事態を防止してくれることを望んでいます」と話す。
新薬の研究開発が急務
2015年のG7議長国であるドイツは、公衆衛生分野の議題として、エボラ、顧みられない病気、薬剤耐性菌の3つを掲げた。これらの疾病分野における医薬品と治療ツールの不足は、研究開発体制の不備を反映している。必要なツールは手が届かないほど高価であるか、開発されていない。
しかしこれら3つの議題が掲げられたものの、G7サミットでは研究開発体制の整備については取り上げない予定。MSFドイツで必須医薬品キャンペーン渉外担当を務めるフィリップ・フリッシュは「エボラ、顧みられない病気、薬剤耐性菌といった分野における研究開発不足は大きな問題です。数百万人の人が、製薬業界にとって魅力的な市場ではないという理由で、有効な治療薬もワクチンもない病気を患っています。G7首脳は『まだ有効な治療法はない医療ニーズ』分野における研究開発を優先する必要があります」と話す。
新薬、ワクチン、診断ツールの開発が急務となっている顧みられない病気の1つとして、薬剤耐性結核が挙げられる。MSFは世界中で毎年数万人を治療しており、2年に及ぶ抗生物質を使った治療法を用いている。この治療法は、吐き気、精神障害、難聴といった重い副作用を伴う一方、2人に1人しか治癒されない。またいくつかの結核菌は既存の薬が効かず、実質的に治療不能なものもある。
さらに、ワクチンと治療薬が存在はしても、手の届かないほど高価であるという問題もある。法外な高値のついたC型肝炎の新薬はその好例で、その他の新しいワクチン同様、いわゆる「中所得国」は費用を負担できない。ドイツは今年ベルリンで開かれた新しいワクチン分野への増資を宣言する重要な会議でリーダーシップを発揮したが、法外な高値がついたワクチン価格を引き下げるための施策はほとんど行っていない。
フリッシュは「富裕国・先進国はすぐに行動を起こし、市場で後回しにされている製薬分野の研究開発に取り組むことが求められています。G7を含めた国際社会が研究開発分野で行動を起していないために、薬は開発されていないかあまりに高価に設定されており、避けられたはずの死が起きています。利益より人びとの命を優先する研究開発が必要なのです」と訴える。
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