多剤耐性結核:国際保健医療団体が協力し日本製の新薬用いた臨床試験に着手
PR TIMES / 2017年3月8日 19時31分
国境なき医師団(MSF)、パートナーズ・イン・ヘルス(Partners in Health:PIH)ほか世界の主要医療団体が、薬剤に耐性があるため治療の難しい結核の治療に革新をもたらそうと、大掛かりな臨床試験に着手した。日米の製薬会社によって50余年ぶりに開発された2種の結核新薬が用いられ、MSFが担当する最初の患者の治療が3月からジョージア(グルジア)で始まった。
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最も死亡者の多い感染症
今回の臨床試験は、薬剤耐性型の結核(DR-TB)について、より効果的で期間の短い治療の普及と、その加速・拡大を目指す「エンド・ティービー(endTB)」プロジェクトの一環として行われる。endTBは、国際医薬品購入ファシリティ(UNITAID)が出資、4ヵ年で6000万米ドル(約68億3500円)が投入された事業で、MSF、PIHと、Interactive Research and Development(IRD)が、3大陸15ヵ国で活動している。
結核は今やHIVを抜いて最も死亡者の多い感染症となり、2016年は世界全体で180万人の命を奪った。そして現在、問題を悪化させているのが、複数の主要な抗菌薬に抵抗力がある結核菌だ。こうした型の結核は“多剤耐性結核(MDR-TB)”と呼ばれ、さらに深刻なものは“超多剤耐性結核(XDR-TB)”と呼ばれる。DR-TBへの世界の対応は進んでおらず、年間の新規症例数は世界保健機関(WHO)の控えめな見積もりでも50万件を上回る。
翼のあるエボラ
DR-TBは通常の結核菌と同様に感染するが、治療ははるかに難しく、多くの国で深刻な公衆衛生問題となっている。MDR-TBとXDR-TBは、こんにちの医学的治療による治癒率がエボラ出血熱とおおよそ同水準で、空気を介して人・人感染するため、ときに“翼のあるエボラ”とも称される。
MDR-TBの治療期間は最大2年と長い上、成功率はわずか50%と効果は低く、ときに深刻な精神病や回復の望めない聴覚障害などの重い副作用を引き起こす。治療期間中、患者は何ヵ月にもわたり痛い注射に耐え、1万4000錠にも上る薬を服用しなければならない。また、治療の費用、難しさ、期間のため、治療の実践が進まない高まん延国も多い。
日本製新薬などに期待
こうした問題に取り組むため、今回の臨床試験(第3相)では、約50年ぶりに開発された結核薬である大塚製薬のデラマニドと米ヤンセンファーマ社のベダキリンを用い、9ヵ月と大幅に短縮された治療期間で、注射薬を使わず、負担の少ない治療を模索する(この2つの新薬はクロファジミン、リネゾリド、フルオロキノロン、ピラジナミドなどの経口薬とともに、試験的な新しい治療で併用される見込み)。
現在、効果的な治療を望めるMDR-TB患者は世界全体で10%ほどに過ぎず、デラマニドとベダキリンの利用が望めるのは2%にも満たない。今回の臨床試験には、資源に乏しいまん延国で従来よりも簡易で効果の高い治療の一環としてこれら新薬を使う根拠を多く示すことが期待されている。これら新薬処方の成果が裏付けられ、その実用化への後押しがあれば、成功率の高い治療を受けられる可能性は劇的に広がるだろう。
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臨床試験は6ヵ国750人が対象
今回の臨床試験には、ジョージア、カザフスタン、キルギス、レソト、ペルー、南アフリカ共和国の6ヵ国750人が被験者となる。各国はいずれも相当の結核被害を抱え、endTB参加団体がMDR-TB治療活動を支援している。
MSFも実施するこの臨床試験は、ハーバード大学医学大学院、MSFの疫学研究機関エピセンター、ベルギーのアントワープ熱帯医学研究所(ITM)の専門的知見を活用。試験スタッフと、各国の保健省および国家結核対策プログラム、WHO、倫理審査委員会との連携も緊密にとっている。
MSF結核作業部会リーダーであり、endTB臨床試験共同責任研究者を務めるフランシス・ヴァレーヌ医師は次のように述べている。
「MDR-TB患者は多くの場合、病気と同じくらい服用する薬にも不安を抱いています。薬の副作用は生きる活力だけでなく、聴力や視力まで奪う恐れがあり、2年もの間、苦しい生活が待っているからです。デラマニドとベダキリンについては、服用期間が長く副作用の重い標準的なMDR-TB治療薬に追加した際、非常に有望な効果が確認されているものの、その効果の最大化の方法はまだわずかにしか把握できていません。研究を進めなければ、問題の表面をなぞるだけにとどまり、患者の苦しみは続くでしょう」
endTBについて
expand new drug markets for TB(結核新薬の市場拡大)の頭文字をとったendTBの目的は、50年ぶりに開発された新薬デラマニドとベダキリンによる、従来よりも短期間で、毒性が少なく、効果的なMDR-TB治療の開発。15ヵ国を対象に、PIH、MSF、IRD、また、出資機関としてUNITAIDが連携している。臨床試験には、エピセンター、ハーバード大学医学大学院、ITMも協力している。
MSFと結核について
MSFは国際医療・人道援助団体。30年以上前から結核と闘い続け、現在は世界のNGOの中でも最大級の結核治療提供者となっている。インド、中央アフリカ共和国、南アフリカ、ウズベキスタンなど24ヵ国で結核およびDR-TB患者の治療に携わる。また、新しい処方の確立のため、12ヵ国で保健省や他団体と連携し、新薬を用いる治療コースと、今回のendTBのそれを含む 2件の臨床試験を運営中。次世代の結核治療の開発を目指す、新しい研究活動「3Pプロジェクト」の創設メンバーでもある。
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